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絶版機種の「X-2」が、英国文化のCafe Racer(カフェレーサー)と融合したら、こんなスタイルに進化した件 ジェットスキー(水上バイク)

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ジェットスキーの新しい文化の波・Cafe Racer(カフェレーサー)

Kawasaki X-2 DEVIL Version

世界で1台きり、自分だけのジェットスキーは欲しくありませんか?

世界でたった1台きりの自分だけのジェットスキー。
そこに、最新機種のフラッグシップは相応しくない。理由は、誰であれ、お金を出せば買えてしまうからだ。

そういう話なら、古いビンテージモデルがいい。製造中止になって久しいパーツがたくさん組み込まれているカワサキの650 X-2なんて、それにピッタリなモデルだと思う。「テーマ」のあるカスタムなら、尚、カッコ良い。

古い機種だと、何となく名前の知られたアフターパーツをやみくもに装着しているマシンを良く見かける。しかし、テーマがはっきりと決まっていて、それに合わせた改造をしているほうが、「この人、分かってる」と、ツウなジェット乗りを唸らせることができるし、乗っていても楽しいはずだ。

JS 550全盛期の1990年代初頭、当時のナンバーワンアフターパーツメーカー「PJS」のモディファイ艇を、そのまま大切に所有している人は今でもいる。そして、その輝きは愛好家にとって永遠に色あせることはない。そういうこだわりも素敵だと思う。

英国文化を受け継いだカスタム

この記事は、1986年にカワサキから発売された「JF 650 X-2」を、1960年代にイギリスで流行した「Cafe Racer(カフェレーサー)」風にカスタムしたものである。

1960年代、英国ロンドンのエースカフェ(下写真左上)に集まっていた「ロッカーズ」と呼ばれる、改造オートバイに乗った若者たちがいた。
彼らは、店のジュークボックスにコインを入れて、曲が始まると同時に自慢の改造バイクでスタートし、曲が終わるまでにカフェに戻ってくるという公道レースを楽しんでいた。そういった若者を「カフェレーサー」と呼び、次第にそれがオートバイの改造スタイルを指すようになっていった。その文化は、現代にも連綿と受け継がれている。

この650 X-2には、リーゼントに革ジャンの似合う、「ロックンロール」を想起させる雰囲気が、ふんだんに盛り込まれている。野暮ったくならない絶妙の匙加減が、製作者である村尾“DEVIL”高明氏のセンスの良さである。

1960年代にロンドンのエースカフェ(写真左上)に集った、ロッカーズと呼ばれる黒の革ジャンに革パン姿の若者たち(写真右上)。彼らと改造オートバイは、イギリスの「文化」である。

「カフェレーサー」って何?

よく車やオートバイの雑誌で「カフェレーサー流儀」「カフェレーサー風」といった特集が組まれている。皆さんも、「カフェレーサー」という言葉は聞いたことがあるだろう。

しかし、何となく理解していても、はっきりとは分からないという人も多いはず。かくいう私も、正確には知らなかった。最初に、カフェレーサーの意味や定義を少し説明しようと思う。

形は変わっても「カフェレーサー」という思想は、現在も生き続けている

「カフェレーサー」とは、本来、特定のオートバイを指す言葉ではなく、オートバイの改造思想や手法のことである。1950~60年代、イギリスのロンドンにあった「エースカフェ」に集まったロッカーズたちが、自分のオートバイを自慢するため、「速く、格好良く」という趣旨で改造したことに始まる。

1938年、イギリス・ロンドン北部に、「エースカフェ」というカフェがオープンした。国内で唯一、24時間営業ということもあり、次第にイギリス中の若者が自慢のオートバイでこのカフェに乗り付けるようになっていったのだ。

1950年代後半~60年代になると、ロックンロールに影響を受けた「ロッカーズ」と呼ばれるバイク乗りが、毎夜、エースカフェに集結するようになる。

レザージャケットに身を包み、髪をグリースで固めた彼らは、店のジュークボックスにコインを入れ、曲が始まると一斉にバイクでスタートする。そして、曲が終わるまでにカフェに戻ってくるという猛スピード公道レース「ジュークボックス・ラン」に明け暮れたという。

アウトローな魅力と、「スピード」というロマンを追い求める「カフェカルチャー」は、次第に、世界中のバイク乗りたちの共感を得るようになっていった。

「カフェレーサー」という言葉には、「エースカフェに集ったバイク」と、「ロッカーズ」自体を表す2つの意味がある。その後、ロッカーズの好むバイクの形を「カフェレーサー」と呼ぶようになっていった。

例えばHONDAの車を専門にチューニングする「無限」からも、「HONDA CB1100用カフェレーサーカスタムパーツ」が販売されていたし、アメリカンバイクの王道、ハーレーダビッドソン社からも、カフェレーサー仕様のオートバイが販売されている。

その時代ごとに、有力な企業や個人が自分なりの解釈で「カフェレーサー」というカルチャーを進化・発展させてきたのだ。

革ジャン姿で、自慢の改造バイクに乗るロッカーズ。

ジェットスキーを「カフェレーサー」に

今回、ジェットスポーツ界における国内フリーライドの第一人者、村尾“DEVIL”高明氏が、ジェットスキーに「カフェレーサー」というエッセンスを盛り込んで製作したのが、この「650 X-2」である。

1986年製カワサキ JF 650 X-2

1986年にカワサキから発売された、ジェットスキー初のタンデム(2人乗り)モデル「650 X-2」。
全長が2,225mmと、当時のシングルモデルのJS 550より8.5cm長いだけなのに、合法的に2人乗りできるモデルだった。

短い船体でバランスを取るのが非常に難しく、荒れた水面での乗り込みには、ある程度のスキルが要求された。スタンドアップのJS 550と比べて、ハンドルが固定されている分、腰の負担が軽減されるので、体力的には少し楽というメリットもある。
主にバイク乗りと、スタンドアップは少しキツイと感じていた人たちが、こぞって650 X-2を購入し爆発的にヒットした。現在でも、狂信的なファンが多い名機中の名機である。

ジェットスキー初の2人乗り「650 X-2」。カフェレーサー風にカスタマイズされている。

オリジナル カワサキ「JF 650 X-2」Specification

全長 2,225 mm
全幅 690 mm
全高 900 mm
エンジン 水冷2ストローク2気筒
最大馬力 52㎰/6,000rpm
排気量 635㎤
乾燥重量 125 kg
定員 2名

短い船体でバランスを取るのが難しく、荒れた水面での乗り込みにはスキルが必要であった。当時、「カワイイ女の子と2人乗りをすると、バランスを崩してなかなか陸に戻ってこないのに、そうでない女の子だとすぐに戻ってくる」という強者ライダーが多かったそうだ。

未使用の当時のレーシングシート。こんなにキレイなシートは、なかなか見つからない。

BELL BELL MOTOⅢの復刻版ヘルメット。オリジナルは、1975年に史上初のオフロード用フルフェイスヘルメットとして販売された(村尾高明氏所有)オー、モーレツ!。

フロントのカバーを外すと、ガソリンとオイルの注入口が現れる。

1986年製の650 X2は、2ストロークなのにガソリンとオイルの注入口が別。何と分離給油方式だったのだ。

オーナーで、マシン製作者のDEVIL村尾氏のサイン。

オリジナルの650ccエンジン。ヘッドとチャンバーがPJS製。

ゼッケンナンバーのペイントは、ワザとかすれた感じで描かれており、カフェレーサーの雰囲気を出している。細部まで手を抜かないこだわり。

特別なマシンは、オーナーしか乗れない特権だ。

650X-2製作者の村尾“DEVIL”高明氏。

村尾“DEVIL”高明氏に聞く「650 X-2」に、「カフェレーサー」スタイルを取り入れた理由

1番大事なのは「X-2」のフォルムを壊さないこと。「外観の素敵さ」を損なわないことです

WJS この650 X-2は、とても素敵です。どうして、このデザインにしようと思ったのですか?
村尾 最初から、X-2を「カフェレーサー」風に作ろうと決めていました。もともとカフェレーサーは、オンロードのレースです。それから波及した、オフロードでやる「スクランブラースタイル」っていうのがあって、僕はそこから多くの影響を受けたっていうのがありますね。

WJS この650X-2は、シートも独特の形ですね。
村尾 そうですね。カワサキ純正は、もっと低くてペタッとしていますよね。このシートにもこだわりがあって、これは当時のレーサーたちが使っていたアフターパーツメーカーのものなんです。

WJS このシートにしたことで、レトロなバイクレーサーの匂いがプンプンします。今回、村尾さんが「カフェレーサー」風に仕上げたと聞いて、少し調べたのですが、厳密にはカフェレーサーに「定義」や「決まりごと」がありませんでした。ストライプのラインや丸いゼッケンプレート、チェッカーフラッグがモチーフに使われていることが多いのですが、それすら決まりごとではないのですよね?
村尾 もともと、1960年代のバイクレーサーから派生したものだから、厳密には、車にも「カフェレーサー」の定義なんてないんですよ。

WJS 確かに、ビートルズが革ジャンにリーゼントで決めているころ、カフェレーサースタイルとか、カフェレーサーファッションといって雑誌に紹介されています。
村尾 カフェレーサーの解釈は自由です。企業や個人がそれぞれに持っているカフェレーサーのイメージが、色々な製品として世の中に出ているということです。僕なりの解釈がこのX-2なんです。

WJS 今回、なぜ650X-2をベースにしたのですか?
村尾 自分のなかで、X-2が1番カフェレーサーに適した機種だと思ったからです。

WJS カラーリングとシート以外はオリジナルなのですか?
村尾 できるだけ当時のものを使うようにしているので、エンジンはオリジナルですが、ヘッドとチャンバーがPJS製になっています。あと電気をヤマハ製に変えています。

WJS どうして電気はヤマハ製にしたのですか?
村尾 パーツが手に入りやすいし、セッティングが楽だからですね。

WJS やはり、絶版モデルを走らせるのは大変なのですか?
村尾 そうですね。でも僕は、エンジンに対するこだわりはあまりないから、このエンジンが壊れたら、スーパージェットで使われている、ヤマハのエンジンに変えようかなって思ってます。現行モデルだから壊れないし、パーツが手に入らないといった心配もないですからね。

WJS 古い純正エンジンより、外観の雰囲気のほうが大事だということですか?
村尾 1番大事なのはX-2のフォルムを壊さないこと。外観の素敵さを損なわないことです。そして、乗っても楽しいというコトです。格好良くは大切な要素でもあるんですが、デリケートですぐに壊れるようなエンジンではダメです。だけど、隣にあるだけでも絵になるジェットって良いでしょう。座ってコーヒーを飲んで絵になるみたいな……。大人のマシン。それが「カフェレーサー」なんです。

WJS お話を伺っていると、横浜のほうで流行っているビンテージカーのアメ車文化と似ているような気がします。
外観は当時のままで、エンジンは現代のもの。壊れないパーツでパワーアップして、エアコンやオーディオも今のものを使う。素敵さは昔のままで、快適さは最新。このX-2も、そんな感じですか?
村尾 そうです。飾りじゃダメなんです。あくまで「乗って」も楽しい、「見て」も楽しい、「飾っても」楽しいっていうのが大切なんです。

カフェレーサー風に仕上げられた「650 X-2」は、どの角度から見ても美しい。

この素敵なX-2に、私が乗らなかった理由

追記:マシンの持つ歴史に圧倒された日

余談だが、この日、私はこの1986年製カワサキ650 X-2には乗らなかった。村尾氏は「乗ってください」と言ってくれたし、私自身も喉から手が出るほど650ccエンジンのジェットに乗ってみたかったが、最後まで乗らずにいた。

理由は、「エンジンルームを見てしまった」から。
ピカピカに磨き込まれた、純正のエンジン。今から31年前に造られたこの2ストロークエンジンを見た瞬間、「やめておこう」と思ってしまったのだ。

丹精込めて造られたX-2に乗っていいのは、このコンディションを維持し続けた人間か、正式なオーナーだけだ。
乗っているとき、万が一、壊れでもしたら……。「持ち主が乗れって言ったから」と言い訳をするには、少しばかり年を取りすぎた自分がいた。

いずれエンジンをレストアし、部品調達の心配がなくなったら、そのときは真っ先に乗らせてもらうことを約束して、今回は辞退したのだ。しかし、乗るのを我慢するのは、私にとって苦渋の選択でもあった……。
ジェットにも、「ビンテージ」の文化が確実に始まっているのだ。

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