第2回は、片野丈一郎選手のレース艇についてである。彼が乗るマシンは、シードゥHXをベースとした、エンジンスペックが違う2台だ。1台は、カワサキ1,500㏄エンジンが搭載されたもの、もう1台はスパークの排気量900ccエンジンにターボチャージャーを装着したものだ。
この2艇を造っているのが、コンストラクターの藤江功一氏。両艇とも、海外でのレースを想定して造られた「世界戦略マシン」である。今回、藤江氏に、このマシンについて話を聞くことができた。
WJS スパークの排気量900ccエンジンにターボチャージャーを装着されたHXと、カワサキ1,500㏄エンジン搭載艇では、何が違うのですか?
藤江 本来はスパーク・ターボエンジンのHXだけで戦うつもりでした。しかし、レギュレーションの変更で、ブーストの規制がかかるようになったのです。最初にジョー(片野選手)に乗らせたブースト圧は1.5です。最高速は時速120㎞を優に超えていました。馬力も250馬力以上です。
WJS モンスターパワーですね。ちなみに、規制後のブースト圧はどれくらいなのですか?
藤江 0.6です。
WJS 数値的には、どれくらい変わるのですか?
藤江 最高速が110㎞/h弱です。馬力も200馬力弱かな。ターボ艇のときは、マフラーが割れたんですけど、規制後の0.6に変わってからは1度も割れないです。でも、レースごとに外して、クラックなどの確認が必要です。
WJS カワサキ1,500㏄エンジンを搭載したマシンはいかがですか?
藤江 僕は長い間、このカワサキ1,500㏄エンジンと格闘してきました。このエンジンには非常に自信があります。
WJS 片野選手も、このエンジンを気に入っているようですが、具体的に何が良いのですか?
藤江 戦闘力としては、最高速は110㎞/hくらいですが、加速が非常に良いんです。トップスピードまでの到達時間が速い。あとは、壊れないことです。
WJS 私の理解不足で申し訳ないのですが、1,500㏄エンジンは、誰が組んでもあまりポテンシャルは変わらないのではないのですか?
藤江 その解釈自体が間違いです。正確には、「1,500㏄エンジンを速くしようとすると、必ず壊れる」。速くできるし、実際、速くなる。でも、負荷がかかる部分は、絶対に補強する必要があります。
WJS 「必ず壊れる」というのは、どういうことですか?
藤江 カワサキの1,500ccエンジンは長い歴史があるので、キチンとしたデータが出ています。点火時期や、燃料噴射量の数値が、どの数値のときに最高のパフォーマンスを発揮するのか分かっているのです。ECUのプログラムを変更してMAXの数値に変更するのですが、その数値で壊れないエンジンを造らなければ速くならないということです。
WJS 以前、藤江さんのファクトリーで、このエンジンがバラバラに分解されているのを見たことがありますが、ネジだけでも100本以上ありましたよね。
藤江 だから、造る人間によって、このエンジンのポテンシャルは大きく変わると思います。数値化できるぐらいのデータがなければ、「壊れない」とは言いにくい。僕も、金額にして何千万円分もこのエンジンを壊してきたから言えることです。
水に浮かべると、前後左右、どちらにも傾かない。非常に船体バランスが良い。
最後に片野選手に質問をしてみた。
WJS カワサキ1,500ccエンジン搭載艇と、スパーク・ターボ搭載艇では、どちらが好きですか?
片野 今は1,500ccのほうです。速いのに、全く壊れる気配がない。いくらでも、思う存分練習ができます。
WJS スパーク・ターボ搭載艇は、何か問題があったのですか?
片野 昨年のキングスカップで、世界の強豪ライダーと戦うとき、スタートで2スト勢に先行され、8番手くらいから追い上げる展開が多かった。だから、スタートでもっと前に行きたいんです。それと、キングスカップが終わってから、「もう1台、HXが必要」ってなった。そのとき、2スト艇が良いという人も大勢いました。実際、あのレースで勝ったのも2ストに乗るクリスティン・ダリでしたから。でも、藤江さんは「今からの時代は、4ストの1,500ccだ」と、ずっと言っていました。それで作ってもらったのが、この1,500ccエンジンのマシンです。
WJS このマシンに乗っている片野選手は、とても嬉しそうですね。
片野 よいマシンが来れば、気分も上がります。今年、海外で、ベルギーと、アメリカと、タイで戦う予定です。7月のベルギー戦では、輸送が間に合わなかったのでスパーク・ターボで戦うことになりますが、頑張ってきます。
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