今回は、片野丈一郎選手の「ライバルとなるライダー」を紹介する。彼が世界のトップに立つために、倒さなければならない「トップ4」が彼らだ。
しかし、片野選手が「ライバル」と思っていても、当のトップライダーたちは、片野選手の名前すら知らないだろう。全員が、とんでもなく高レベルのライダーで、世界的スーパースターなのだ。むしろ、コンストラクターである藤江功一氏のほうが知られているだろう。
現時点では、ここで挙げたライバル全員が参戦するかは分かっていない。しかし、もし出場してきたら強烈に速いのは間違いない。
ここ数年、ワールドファイナルで盛り上がっているクラスがある。それは「スポーツGPクラス」と「ランナバウト ストッククラス」だ。マシン性能の差が出にくく、お金があまりかからないというのが特徴である。
今、「スーパースター」と呼ばれるライダーがこぞって参戦し、注目を集めているクラスである。
第1の壁は、「ダスティン・ファージング」だ。2018年のワールドファイナルでも、スポーツGPクラスのタイトルを獲得している。タチが悪いことに、マシンが遅くても追い上げて勝てるのだ。昨年も、ホールショットは1度もなく、後ろから追い抜いての勝利だった。ライディングスキルは、他を圧倒している。
日本のスポーツクラスの第一人者といえば、紅矢俊栄氏だ。2003年のワールドファイナルで世界第2位になっている。紅矢氏曰く、「当時、ともに戦っていたなかに、ダスティン・ファージング選手や、ニコラス・リウス選手がいた。ファージング選手は、そのころから“ブッ飛んだ”走りで、自分とはモノが違う」と、心底、思わされたと語る。
マシンは、BULLETT Racing製カーボンハルで、時速も110km/h近く出ていた。ちなみに、2019年の現在、1,500ccエンジンで最高速が110km/hくらいなので、相当、高いレベルで争っていたといえる。
今と違って、当時は水面状況や風による悪天候で、レースが中止されることはなかった。必然的に、ラフウォーターでの戦いが多くなる。水面状況が悪ければ、マシンではなく、ライダースキルの高さが、如実に順位に反映されるのだ。
話を戻そう。第2の壁は、「クリスティン・ダリ」だ。2018年のワールドファイナルでは、第1ヒートが13位と出遅れたが、第2ヒートではファージング選手を抑えてトップフィニッシュ。総合でも5位に入賞している。
また、同年、タイ国で行われたキングスカップでは、チャンピオンを獲得。とにかくライディングが上手いライダーで、派手さはないが堅実な走りをする。スポーツクラスのエキスパートといえるだろう。
プロスポーツGPクラスは、10月にアメリカで行われる「ワールドファイナル」と、12月にタイで行われる「キングスカップ」がメインレースとなる。
ここからは、2018年12月に行われたキングスカップを振り返りながら、世界タイトルを狙う「ライバル」選手を紹介する。
キングスカップで優勝したのは、クリスティン・ダリ選手。ダリ選手は、第1ヒート1位、第2ヒート1位、第3ヒート3位、第4ヒートが1位と、盤石の走りを見せた。優勝艇は1,200cc、2ストローク3気筒エンジン搭載のマシン。
第3の壁は、「クリス・マックルゲージ」である。言わずと知れたジェットスポーツ界のスーパースターだ。
キングスカップでは、本誌でもおなじみの中田正樹氏が製作した、カワサキ1,500ccエンジンを搭載したシードゥ HXで参戦。スタートで前に出られず、5位くらいから追い上げる展開となったが、マックルゲージ選手らしい戦闘的な走りで順位を上げていく姿に観客は大いに沸いた。
第1ヒートは2位、第2ヒートは2位、第3ヒートは1位と、最終の第4ヒートを前に、ポイントリーダーのダリ選手に2ポイント差にまで詰め寄った。迎えた第4ヒート。トップを走るダリを猛追していた4周目に、トラブルによりマシンがストップ。オーディエンスの目の前で、怒り狂いながらマシンを殴り、蹴りを入れる姿は何ともいえないものがあった。
最後の壁は、「スパック・セッツーラ」である。中田正樹氏(ちゅーた先生)に聞くと、「非常に実力のある選手」だという。2014年からキングスカップのプロスポーツGPクラスで、常にトップ3に入っている。プロアマランナバウトクラスでも、トップクラスの成績を残している。いうなれば、抜群のライディングセンスを持つライダーである。現在、タイのナショナルツアーでは、ポイントリーダーである。
HXに関しては、「マックルゲージ選手より、ライディングが上かもしれない」と中田氏が言うほどの高評価だ。中田氏の話を聞く限り、片野選手が世界に挑む最大の壁になるのは、このセッツーラ選手かもしれない。
「ライバルが、誰もいないクラスで勝っても仕方がない」と、片野選手は言う。しかし、ライバル(?)、高い壁(?)が、あまりにも強すぎるのでは……と、編集部は思った。
だが、高い壁に挑めるのが「若者の特権」である。「身の程知らず」「世間知らず」上等だ。ガンガン無謀な挑戦を行い、我々をアッと驚かせてほしいものである。
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