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  3. 20歳の夏 【第5回】HXに対するこだわり

第5回 「良いレースマシンを造るために」

前回は、父親である片野宣之氏が、自らのレース人生から一歩退き、息子・丈一郎選手のサポートにまわって、世界を目指すという話をしました。

「モータースポーツ」というくらいですから、ジェットスキーのレースはマシンも非常に重要となります。彼らが戦う「プロスポーツGPクラス」は、現在、絶版となっている古いマシンで戦うクラスです。具体的には、「ヤマハ MJ-TZ」、「カワサキJS 650X-2」、「SEA-DOO HX」の3機種です。いずれも2000年代前半に活躍した機種で、今でも根強いファンが数多くいます。

「プロスポーツGPクラス」では、その古い船体に、4ストロークだと1,600ccまで、2ストロークだと1,200cc まで、過給機(ターボもしくはスーパーチャージャー)を付けた4ストロークエンジンは1100CC未満の、最新のエンジンが搭載できます。中古の船体が、オークションでタダ同然で取引されているのも魅力のひとつです。

HXに並々ならぬ情熱を傾ける片野宣之氏は、強烈なこだわりを持ってマシン開発を行っています。今回は、その話をさせていただきます。

写真左:片野丈一郎選手、中央:父・宣之氏。

「カワサキ1,500ccエンジン」と「スパークターボエンジン」の違い

WJS 現在、カワサキ1,500ccエンジンとスパークターボエンジンの2台あると聞いたのですが、どう違うのですが?
片野(父) カワサキ1,500ccエンジンのマシンは、できたばかりです。スピードも申し分なく、ある程度、思い通りには仕上がっていると思います。スパークターボエンジンに関しては、どうしても、ターボラグという問題に悩まされています。
WJS それなら、カワサキ1,500ccエンジンのほうが、メインのレース艇になるのですね?
片野(父) でも、初戦のベルギー戦は7月初旬の開催なので、カワサキ1,500ccエンジンは間に合わなかった。なので、スパークターボエンジンのマシンを2台送っています。

WJS 昨年、丈一郎選手のスパークターボエンジンのHXに乗せていただいたのですが、乗りにくかった印象があります。
片野(父) ははは(笑)。あのときは過給圧が低かったからね。スパークターボエンジンは、過給圧を上げてトップスピードを伸ばしてあげたほうが乗りやすいんですよ。昔は過給圧が1.5くらいで走れていましたけど、今はレギュレーションで0.6に下げられてしまいました。
WJS 0.6だと、ダメなのですか?
片野(父) トップスピードは、何とか戦えるくらいにはなるのですが、コーナーで、一瞬、エンジンパワーが途切れる。「あれ?」っと思ったときに、強烈に加速します。だから、体力的な負担がものすごくあります。
WJS 過給圧が1.5掛けられたときは、ターボラグというハンデを吹き飛ばす「トップスピード」というアドバンテージが持てたのに、今は、キツイだけのマシンになっているのですね?
片野(父) そうですね。そうはいっても、アメリカ(ワールドファイナル)も、タイ(キングスカップ)も、1,500cc搭載マシンで戦えます。何とか、ベルギー戦で、2位に入ってくれればと思っています。
WJS マシンの製作は、基本的には藤江功一氏がコンストラクターで、細かな足まわりなどのセッティングを、丈一郎選手と宣之さんが行っているのですか?
片野(父) はい。ジョーもテストライダーはできるんです。でも、スパークターボ艇とカワサキ1,500ccエンジンの2台を、ジョー1人でテストするより、僕がサブライダーとして乗って、結果を吸い上げていったほうが決まるのが早いんですよ。


エンジンによって、使う船体自体が違うのだ

WJS カワサキ1,500ccエンジンで行くと決めたのはいつですか?
片野(父) レギュレーションがはっきりと決まったのが今年の3月です。もし、カワサキ4サイクル1,500ccエンジンがダメなら、2サイクルエンジンで違う船体で造りました。
WJS 「重いエンジンなら、この船体」、「軽いエンジンなら、この船体」と、エンジンごとに載せる船体が違うということですか? ということは、出来上がったときの乗り味まで分かるということですか?
片野(父) はい。当然です。長い間、僕はHXでレースをしてきました。だから、720cc、800cc、951cc、スパークターボエンジンというふうに、エンジン重量とパワーが増したときの挙動を全て経験してきました。なので、今回の1,500ccも、ある程度、予測できます。

WJS 宣之さんは、日本を代表するHXのマニアだとウワサに聞いているのですが、本当ですか?
片野(父) 本当かもしれません。皆さんは、あまり知らないかもしれませんが、このHXほど、個体差のあるハルはありません。良いハルに恵まれれば、ライダーは非常に助かります。だから、日本を代表する歴代のHXライダーのマシンは、ほどんど買い占めていますね。例えば、〇×年のチャンピオンが引退すると聞くと、何とかツテを頼って買い取れるようにもっていきます。
WJS なんでも鑑定団みたいですね。
片野(父) 埃まみれではありますが、今も、お宝がガレージに眠っていますよ。

WJS ちなみに、2ストローク用と4ストローク用のハルの違いは何ですか?
片野(父) 今回、使用した船体は、比較的マイルドな形状です。2ストロークエンジンを搭載するなら、2003年に世界第2位になった紅矢俊栄選手の船体を使うつもりでした。
WJS それはなぜですか?
片野(父) 紅矢選手の船体は、波切り性能が非常に高いので、重いエンジンだと、逆に波に振り回されてしまいます。
WJS 同じHXでも、そんなにハルに違いがあるのですか?
片野(父) おおアリです。船体だけは、優れたものでないとどうしようもありません。今、1,500ccエンジンを搭載しているハルは、中島正晴選手のものです。中島選手は紅矢選手と同じ大阪勢で、大阪のチームのハルは、どれもハズレがありません。
WJS 本当に、鑑定士みたいですね。
片野(父) 「良いハル」というのは、乗ってみたら誰でも分かると思います。逆に、「悪いハル」は、「こんなものか」と思うらしくて、乗っても分からないんです。だからこそ、ハルにこだわらないと話にならない。
WJS 先ほど名前が出た、紅矢選手も中島選手も良く知っていますが、宣之さんが自分のマシンを所有していることは、彼らは全く知らないと思いますよ。
片野(父) だから、入手するのにいろんなツテを通じて大変なんです。
WJS 同じクラスで戦っているのだから、直接、その人から買わないのですか?
片野(父) 直接、買えた人もいるのですが、先に買い占めてしまう人もいて、その人から買うこともあります。とにかく、いいHXは買います。

(第6回 「今年のレースの展望」へ続く)

 

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