土曜日に行われたRound 1の第2ヒートと、日曜日のRound 2の第1ヒートは、荒れた水面コンディションとなった。水面が荒れるとマシンの差がなくなり、ライディングスキルが勝敗のカギを握る。ライダーの実力で勝負が決まる、ある意味で非常に残酷なレースとなる。
Round 1は、ベテランの桜井直樹選手が制した。
桜井選手は、「今季からマリンメカニックの小西洋一氏にエンジンを作っていただき、すごく速くなりました」と話す通り、第1ヒートは1位でゴール。
水面が荒れた第2ヒート。桜井選手は、ライディングスキルは誰もが認める実力者だ。レース中盤から、ミスさえしなければ1位でゴールできるシチュエーションを作り上げ、そのままノーミスで走り切って開幕戦を勝利で飾った。
このレースでギャラリーを魅了したのは、倉橋秀幸選手の走りだ。水面が荒れた第2ヒートで、桜井選手に対し、怒涛の追い上げを見せて総合2位となった。その走りは、まるで芸術作品を見せてもらったような感動を与えてくれた。
翌日、日曜日のRound 2。水面が荒れた第1ヒートは。小原聡将選手がトップでゴール。彼は、「プロフォース」というブランドのマシンに乗っている。プロフォースは平水面でポテンシャルを発揮するマシンで、ラフウォーターでは不利だと言われている。
しかし、小原選手ほどの実力があれば、マシン特性はあまり関係ないようだ。ラフウォーターのなか、目の覚めるような走りを見せ、「さすが、トシ!」という声が会場中から聞こえた。
2位には、船体の小さい「コマンダー GP1」というマシンに乗る山本陽平選手が入った。実力のある選手が乗り込んで練習すれば、小さなマシンは不利だという定説は覆せるという良い見本となった。
第2ヒートは、桜井選手が1位、小原選手が2位、3位に山本選手、倉橋選手の順でゴールした。結果、安定した成績を残した小原選手が第2戦の勝者となった。
今回のこのクラスは、役者が揃った、見応えのあるレースとなった。
水面が荒れると「何かが起こる気配」がある。「手に汗握る」シーンが、随所で繰り広げられた。
順位 | ライダー名(チーム名) |
---|---|
1位 | 桜井直樹(#1 pound 1) |
2位 | 倉橋秀幸(Team Wave Fighter) |
3位 | 小原聡将(Bee Tec with SKU46H) |
4位 | 海老原祥吾(Bee Tec with SKU46H) |
5位 | 竹田憲二(TEAM L & B) |
※上位5位まで掲載
R-1表彰式。
順位 | ライダー名(チーム名) |
---|---|
1位 | 小原聡将(Bee Tec with SKU46H) |
2位 | 桜井直樹(#1 pound 1) |
3位 | 山本陽平(Team YRF) |
4位 | 倉橋秀幸(Team Wave Fighter) |
5位 | 斉藤貴彦(UNLIMITED Racing) |
※上位5位まで掲載
R-2表彰式。
このクラスは、「砂盃 肇の走り」に尽きる。国内プロランナバウトクラスの絶対王者らしい、ミラクルな走りを見せてくれた。
彼の偉業をクルマで例えるなら、市販のスポーツカーで、F1マシンを抜くような話である。
Round 1で2位となった生駒 淳選手も速いのだが、砂盃選手のライディングスキルの前に為す術もないという苦しい戦いであった。
再度書くが、水面が荒れるとマシンの差がなくなり、純粋にライダーの腕だけが勝敗のカギを握る。ある意味、ライダーにとっては非常に残酷な結果となる。
大会初日のRound 1の第2ヒート、2日目のRound 2の第1ヒートは水面が荒れた。荒れた水面では、砂盃選手が圧倒的に強い。両ヒートとも1位でゴールしている。
これが、どれだけすごいことかといえば、生駒選手のマシンは、世界タイトルホルダーでもある、フランスのジャン・バチスト・ボッティ選手と同じ仕様だ。対する砂盃選手は、先月、タイで行われた「JET SKI WORLD CUP」で世界チャンピオンに輝いたマシン「ガーコ3」ではなく、2021年モデルのRXP-X 300純正ノーマルだった。タイからの輸送が間に合わず、ノーマル艇で参戦するしかなかったという。
かろうじて、ECUの書き換えとインペラーのセッティングは行ったが、納艇後に慣らし運転をするのに1カ月程度しか時間がなく、「ストック艇というには、あまりにも未完成です」と、砂盃選手は話してくれた。
聞けば、生駒選手と砂盃選手のマシンの最高速の差は20km/h以上あるという。その証拠に、平水面となったRound 2の第2ヒートでは、1位の生駒選手と2位の砂盃選手では、コース半周分もの差が開いて生駒選手の余裕の勝利であった。
フラットウォーターでは生駒選手が圧倒的に速いが、水面が荒れたレースでは、砂盃選手が前を走る生駒選手を追い抜いて勝っている。水面が最も荒れた土曜日のRound 1の第2ヒートでは、逆にコース半周分くらいの差をつけて、砂盃選手が勝利する結果となったのだ。
どのヒートでも、スタートダッシュは生駒選手が圧倒的に速い。強烈な加速で、ドンドン後続艇を引き離していく。1周目では、2位に500mほどの差を付ける独走である。
それを追う砂盃選手は、最後まで諦めない走りで、トップの生駒選手との差を詰めていくのだ。
撮影をしている取材班の隣にいたレーサーが、この日の砂盃選手の走りを分析し、解説してくれた。彼曰く「水面が荒れても、砂盃選手だけがブレーキングしない」という。他の選手は、波を飛んで着水した瞬間に、フロント部分から大きな波飛沫が上がる。
その瞬間、急ブレーキがかったように減速するのだ。あれでは両腕に強烈なGがかかり、かなり体力を消耗するはずだと教えてくれた。
それが、砂盃選手だけは、波の中でも減速しない。特に、沖から岸に向かってくるコースで、前を走る生駒選手との差が急激に詰まるのだ。
Round 2の第1ヒートでは、最終ラップで生駒選手を捉えたが、さらに水面が荒れていた土曜日のRound 1の第2ヒートでは、レース中盤で生駒選手を抜いた。というよりも、生駒選手が“抜かれていた”ようにも感じられた。
波をものともせずガンガン追い上げてくる砂盃選手に対して、両腕に波の衝撃を受け続けていた生駒選手が、ポジションを譲るようなレース展開にも見えた。
いずれにせよ、砂盃選手の粘りのある走りと、ラフウォーターでの卓越したライディングスキルは見事であった。
WJS 今回、砂盃プロの速さを改めて見せていただきました。なぜ、ほとんどノーマル艇のようなマシンで生駒プロの速いマシンに勝てるのですか?
砂盃 水面が荒れたからです。平水面だったら、2ヒートともやられていました。
WJS スタートでは生駒プロが先行し、砂盃プロは追いかける展開でした。それでも、レース中盤では追い付いて抜いたのはすごかったです。
砂盃 ラフウォーターでは、ライディングスキルがものを言います。立ち乗りでも、上位に来るのは桜井(直樹)さんや、倉橋(秀幸)選手といった、ライディングの上手い選手ですよね。残酷だけど、ランナバウトも同じです。技術がいるんです。
WJS 多分、あの日、あの会場にいた人全員、「砂盃 肇」になりたいと思ったはずです。
砂盃 ありがとうございます。
WJS 波が出たとき、沖合からビーチに向かう場面で、生駒プロとの距離が急激に縮まりました。というよりも、他の選手も含めて砂盃プロだけがスピードが落ちないのはなぜですか?
砂盃 あの区間は「追い波」になっていました。「追い波」でアクセルを握り続けると、掘れた波に突き刺さり、強烈なブレーキングになって体力を奪われます。ですから、みんなアクセルを開けていないはず。俺は波に刺さらないので、追い抜くチャンスなんです。
WJS なぜ、砂盃プロだけが波に刺さらないのですか?
砂盃 波の掘れてる部分は通らないから。その場所は、飛び越えてしまう。俺だけではなく、上手いライダーはみんなやっていますよ。分かりやすいのが、立ち乗りの桜井さんや、倉橋選手。彼らも刺さりません。飛び越えていますから。
WJS 飛び越えるといっても、どうするのですか?
砂盃 「追い波」の中間部分から、次の追い波の中間部分を狙って飛びます。ピョンピョンって感じですが、減速する場所は全くありません。だからストックマシンでも、最速のモデファイマシンに勝てるのです。
WJS 砂盃プロは、「波のあるレースでは速さはいらない。遅いマシンでも、技術で勝てる」と日ごろから仰っています。特に今回のレースは、非力なストック艇だったので、その意味が良く分かりました。
砂盃 「遅いマシンでも、技術で勝てる」です。でも、もし今日このレースに、もう1人俺がいて、「ガーコ3」で出場していたら、ノーマル艇の俺を周回遅れにしていますよ。速くて手足のように扱える。それがレーシングマシンですから。
順位 | ライダー名(チーム名) |
---|---|
1位 | 砂盃 肇(マリンメカニック) |
2位 | 生駒 淳(#1 pound 1) |
3位 | 田村眞沙充(SMD Racing) |
4位 | 落合英友(Bell Factory) |
5位 | 藤岡達己(Precious Racing) |
※上位5位まで掲載
R-1表彰式。
順位 | ライダー名(チーム名) |
---|---|
1位 | 生駒 淳(#1 pound 1) |
2位 | 砂盃 肇(マリンメカニック) |
3位 | 田村眞沙充(SMD Racing) |
4位 | 千木良真之(マリンメカニック) |
5位 | 森川博司選手(TEAM WEST) |
※上位5位まで掲載
R-2表彰式。
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