「8月9日(金)~12(月)まで、韓国で行われたレースに参戦してきました」と、マシンコンストラクターの藤江功一氏から連絡が入りました。そこでレース後に、藤江氏、片野丈一郎選手の両名に、「意外と知らない韓国のジェットスキーレース」について話を聞きました。
ベルギーのレースに参戦中に、片野丈一郎選手の父・宣之氏から、「ジョーが韓国のレースに出場するから、一緒に行ってね」と言われました。今年、2回目の韓国でのレースです。1度目は、3月に行ったのですが、韓国のアクアバイク協会の招待でした。最初は、「KING」ことスキークラスの竹野下正治プロを呼びたかったみたいですが、竹野下プロの予定が合わず、ジョー(丈一郎)に声がかかったのです。そのときは、レンタルボートで走って、結局、4位だったのかな……?
今回、日本からは2人の選手が招待されています。ジョーと、もう1人、奥 拳太選手が呼ばれました。「それなら一緒に行こう」と関西国際空港で待ち合わせをしていたところ、朝5時に「車で事故した」と、奥選手から連絡が入りました。ぶつかったときの衝撃で、車のドアが開かず、出られなくなったそうで、さらに、腕を5針も縫う事故だったということです。仕方がないので、我々だけで韓国入りしました。行く前から、いろいろあった韓国戦です。
宣之氏が韓国に詳しく、通訳の人ともすごく仲が良い。その人とソウルに行って、レース会場入りしました。レース会場がある場所は、日本が植民地時代に作った町で、道路も縦・横がはっきり整備されていました。さらに、この町自体が「親日」でした。
今、韓国は「反日」と騒がれているけれど、そのなかで来韓している僕たち日本人は、逆に、大変大事にされました。テレビでも放映されていますが、韓国では「日本人は悪くない。悪いのは安倍政権だ」というスローガンが掲げられています。
江南(カンナム)のホテルに泊まったのですが、ユニクロや無印良品の店舗には、以前より、人が少なかった気がしました。やっぱり政治の影響がでているなとは感じました。江南(カンナム)は、日本でいえば渋谷や六本木といったところでしょうか。
レース会場入り。練習走行でコースを走って覚えます。前回、マシンを借りたオーナーが多忙で、「日曜しか行けない」ということ。この日は、本番艇ではなくノーマルのヤマハGP1800を貸してもらって、楽しく練習して終わりました。
レース本番。朝から、マシンを水に降ろしたり、本戦の準備をしていると、急にポリス(韓国の警察)がやって来て、「今、水の上に浮かべているジェット以外は、水に降ろしてはいけない」と、言われました。
ちょうど、台風が接近しているため風が吹き、水面に白波が立ち始めました。関係者全員で、「どうする?」という話になりました。レース艇を水に降ろせないので、レースはできません。結局、全員がイコールコンディションで競える、「同じマシンで、コースを1周するタイムトライアル」で順位を決めることになりました。
今回の招待選手の中で、タイ人の「ダナー」という選手がいました。彼は、ワールドファイナルのノービスクラスで優勝したこともあります。以前からダナー選手のことは知っていて、前に、僕が作ったスパークターボに頼まれて乗せたことがあります。結構、アクセルを開けて走れていました。まあ、速いライダーです。
ダナー選手が、タイムアタックのトップバッターです。結果は、彼が優勝したのですが、1番最初に、1番良いタイムで走りました。記録は、確か1分24秒台でした。トップが必死で走って1周1分24秒ですから、結構、コースは長いですよ。
ジョーが、4番手くらいで出走しました。結果、ダナー選手より、0.4秒遅く、ジョーが2位です。だけど、ダナー選手が走ったときより水面状況は悪かったのに、それほど差が開かなかったので、良かったと思います。最近、ジョーの成長を感じています。良く練習している成果が出てきています。本当に、今後が楽しみです。
WJS 藤江さんから、「韓国のレースに行った」という話を伺ったのですが?
片野 はい。今年の3月にも呼んでいただいて、今回が2回目です。今まで、2回連続で招待されることはなかったと聞きましたので、嬉しかったです。
WJS テレビやニュースで見ると、今、韓国では、反日が叫ばれていますが、何か特別なことはありましたか?
片野 はい。強烈に印象に残ったことは、メディアではこれだけ反日が騒がれているのに、韓国ではみんなが優しく接してくれました。レース関係者だけではなく、普通に、街のどんなお店に入って、「日本人だ」と言ってもよくしてもらいました。
WJS 片野選手は、私服だとK-POPの歌手のようですから、韓国人の若者と間違えられたりしませんか?
片野 髪の毛を金髪にしているせいか、困るくらい韓国人と間違えられました。例えば、コーヒーを頼むのも片言の英語で喋るんですけど、なぜか、相手の返事は、全部、韓国語なんです。もしかしたら、嫌がらせかな、反日かな? と思うこともあったのですが、マジで僕を韓国人だと思っていることが分かるんです。余計に困ります。最後に日本人だと分かると、本気で笑ってるんです。それが、3回くらい続きましたね。
WJS 今回、台風の影響で、レース自体は中止になったと聞いたのですが?
片野 レースは中止になりましたが、僕はしたかったですね。
WJS 海外で、借り物のマシンでレースに参戦するのは、いろいろと大変なことがあるのではないですか?
片野 父の友人が尽力してくれました。3月に行ったときも良いマシンが借りられました。今回も、その人のお陰で良いマシンに乗れるはずでしたので残念です。だから、レースがしたかったです。
WJS それで、タイムトライアルになったのですよね?
片野 タイムトライアルの結果は2位でした。悔しいです。全員が、同じノーマルのヤマハGP1800で走るので、イコール条件です。
WJS 片野選手が走った時は、トップのダナー選手よりも、水面状態が悪かったと、藤江さんから聞きました。
片野 僕が言うと言い訳になるので……。実は、僕、海外のレースは過去4位が最高成績でした。だから、まあ良いかな。神様が、「ハバスまで調子に乗るなって言っているのでは」くらいに考えてます。
WJS 韓国と日本では、レースはどのような違いがあるのですか?
片野 今回、台風の影響で風がドンドン強くなってきて、「これは、レースは無理かな」って思い始めたころ、アクアバイクの人は「やりたい」、別の韓国の人は「中止」っていう意見で、最後は、選手で話し合って決めました。タイムアタックに決まったときも、韓国人ライダーの半数は辞退したんです。「乗ったことのないマシンになんて乗れない」というようなことを言っていたんですが、それには驚きました。
WJS まだ、ジェットスポーツの発展途上ということですか?
片野 スキークラスのライダーを見ていても、水面が荒れてくるとコーナーで座って曲がっている場面をよく見ました。
WJS 日本のレースではありえない光景ですね。今回、滞在中に韓国のキッズライダーから、メールが来たそうですね?
片野 13歳のライダーで「テアン君」という少年が、土曜日のプララン(練習走行)の後に、メールで「自分にライディングを教えて欲しい」っていう長い文章が届いたんです。だから、日曜日のタイムアタック直前と、タイムアタックが終わってから、ずっとテアン君にライディングを教えていました。自分は若いですが、もっと若いテアン君には、なぜかマジで教えたくなりました。
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