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リー・ストーンが見せた、世界初のダブルバレルロール(写真上)


リー・ストーンが世界を魅了し、タイトルを獲得した日

ワールドファイナルの第1ラウンドで、イギリスのリー・ストーンが、世界初の完璧なダブルバレルロールを行った。数年前から、「いつか、誰かがやるだろう」と言われ続けながら、これまで誰も成功しなかった幻の大技だ。このトリックを完全メイクするまでに、「ケガ」という肉体的な犠牲と、どれだけ多くのマシンを壊し、経済的な犠牲を払ってきたのか考えると、彼に心からの敬意と称賛を送りたい。

昨年は、ダブルバックフリップで観客を魅了し、今年は完璧なダブルバレルロールを決めた。誰もやったことがない、前人未到の領域に踏み込み、その技を成功させて勝つ。まるで、漫画の主人公である。子供でも大人でも、スポーツをしている人間なら、誰しも1度は夢を見るストーリーだ。

野球でいえば、9回裏ツーアウト満塁からの逆転サヨナラホームラン。サッカーなら、アディショナルタイムでの逆転ゴール。夢は見るが、実現することは滅多にない。それができる人が、真のスーパースターだと思う。

2018年10月6日、アリゾナ州・レイクハバスで、リー・ストーンが再び奇跡の技を見せつけ、「真のスーパースター」の座を揺るぎないものにした。世界中のオーディエンスが、歴史の証人となった日である。

Pro Freestyle Result

1位 Lee Stone(UK)

2位 Christopher Anyzeski(USA)

3位 Taiji Tamamoto(Japan)

4位 Mark Gomez(USA)

フリースタイラーなら1度は夢見る、前人未到のビッグトリック

毎年、フリースタイルの進化に驚かされ続けている。これは、マシンの急激な発達と、選手の努力の賜物といえるだろう。参加している選手だけが楽しむためではなく、「最も、観客や審査員を楽しませた選手」が勝者となる。これも、フリースタイルの本質から考えれば、当然のことだろう。やって来るのは目の肥えたオーディエンスばかりだ。しかも、彼らの目当てはフリースタイルではなくレースである。そこで、大喝采を浴びる演技をするのは、並大抵のことではない。

フリースタイラーにとって、レイクハバスこそが「世界ナンバーワンと称えられるのに、最もふさわしい場所」なのだ。選手たちは、この大会に照準を絞り、とてつもない努力を重ねてやって来る。

2018年のフリースタイルクラスは、過酷な環境のなかでの戦いとなった。本来、全3ヒートのはずが、突然の豪雨と落雷のため、第2ヒートのナイトショーが、直前になって中止となったため、2ヒートで競われることになった。

第1ヒート。水面は比較的荒れていたが、イギリスのリー・ストーンが世界初の完璧なダブルバレルロールを成功させ、このヒートでトップに立った。日本期待の山本汰司は、練習であれだけ完成度の高いダブルバックフリップを決めていたのに、水面の影響か、本番では着水が決まらず、惜しくも3位。2位には、昨年のチャンピオン、マーク・ゴメスが入った。

第2ヒートが中止となり、翌日の第3ヒートで勝負が決まる。この日の水面は、オーシャンサイドの大会かと思うほど波が立っていた。砂漠の天気は、目まぐるしく変わる。短時間で風がやみ、青空が戻って水面が穏やかになることも珍しくはない。しかし、このヒートは最後まで荒れ続けた。選手によっては、強烈に荒れていたり、少しマシという程度の違いだけで、「荒れた水面での演技」という意味においては、全員がイコール条件であった。

第3ヒートの結果は、1位リー、3位山本、4位ゴメスの順。これにより、2017年の雪辱を果たし、2年ぶりにリー・ストーンが王座を奪還した。演技の傾向としては、リーと山本、BUN FREESTYLEチームのメンバーだけが「ダブル技」にチャレンジし、それ以外の選手は、今までの技の難度をさらに上げて、進化させてきた。逆にいえば、リーとBUN FREESTYLE製のマシン以外、ダブル技ができるだけのパワーがないのかもしれない。それでも、世界タイトルを獲るために、既存のトリックをさらに磨いてきたのだろう。ゴメスの演技も良かったが、今回は、素直にリーがスゴかった。

主要3選手、それぞれの「第3ヒート」

山本汰司の第3ヒート

「1番しかいらない」と、リーを倒す気持ちしかない山本。ダブル技を行うための、完璧な踏み切りができる水面ではなかったが、荒れた水面を強引に攻めた。ダブルバックフリップを2度行い、2度とも水面に突き刺さってしまった。


練習では完璧だった、ダブルバックフリップ(写真上)


マーク・ゴメスの第3ヒート

ゴメスの失速は、誰もが思う大番狂わせであった。この水面では、ウェーブライドの世界チャンピオンである彼が、最も有利だと疑わなかったからだ。しかし、結果は総合4位に終わる。彼も山本同様に、水面状況には関係なく、自分の練習してきた演技をしようとしたのだ。 確かに、第1ヒートのゴメスの演技は素晴らしかったし、技のひとつひとつが、昨年よりもあきらかに進化していた。ダブル技をやらない分、トリックが大きく、見ごたえのあるものになっていた。もし彼が、この荒れた水面に合わせた演技をしていたら、もっと上位になっていただろう。今まで平水で練習してきた演技を、荒れた水面でも強引に行おうとして玉砕したのだ。 大会後、ゴメスに聞いた。「あなたのマシンに、もう少しパワーがあれば、できるトリックは変わりますか?」と。返ってきた答えは、「皆、必死で開発している。もう少しで、ダブルも見せるから待っててね」だった。ウェーブだけでなく、フリースタオルでも王者になるため、日々、大変な努力を重ねているのだと感じた。



リー・ストーンの第3ヒート

この水面状況に合わせた、完璧なマシンガンエアリアル。見とれているうちに、気が付いたら2分間の演技が終わっていた。我に返って、一瞬遅れて拍手をしながら、「ダブルバックフリップも、ダブルバレルロールも、このヒートでは見せなかった」ことに気が付いた。

しかし、オーディエンスは、私と同じように大喝采。誰一人として、ダブル技をやらなかったことに対して非難する人はいなかったのだ。 ファーストトリックから、驚きっぱなしの2分間。見ている側の予想を、良い意味で裏切る演技は、当然、さらなる興奮を呼ぶ。この強烈なインパクトを持ったショータイムを見ると、思い通りの演技ができなかった選手たちまでも、特殊効果の役割を果たしているのでは、と、感じた。 ハレの舞台で、自分の思い通りの演技ができる人間を「スーパースター」と呼ぶのだろう。

 

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