『格下の意地』「 Out a Time Sports 」#6 　少数精鋭の「X-2」クラス　伝説の名機でスラローム＆タイムアタック　（水上バイク）

「X-2」クラス

「X-2」は、1986年にカワサキから発売されたジェットスキー初のタンデム（2人乗り）である。

全長が2,225mmと、当時のシングルモデルの「J S 550 」より 8.5cm長いだけなのに、合法的に“2人乗り” ができるという画期的なモデルだった。

短い船体で、バランスを取るのが非常に難しく、荒れた水面での乗り込みには、スキルが必要だった。

現在でも、狂信的なファンが多いジェット界の名機中の名機である。

1995年に販売終了してから 28年経った今でも、幅広い年齢層に愛されている。

「X-2」乗りには「この機種じゃなきゃダメ！」という思い入れの強いユーザーが多い。

普通の「２人乗り」でも難しいのに、ウイリーまで決める「X-2」職人（写真上）。

同じカラーリング（通称：シーゼットグリーン）で、ズラリと並んだX-2は、名門レーシング・チーム「sea Z racing」（写真下）。

【 X-2の洗礼「乗り込むだけで、ひと苦労なマシン」があった！】より

『「格下」と思われていた男の意地誰よりも"最速"だった谷合洋選手』

1年越しのリベンジを果たした谷合洋選手。

「X-2」クラス・優勝は谷合洋選手

ライバルたちを抑え込み、最速タイムを叩き出したベテランライダー！

「X-2」クラスのエントリーは 6名だが、このクラスに出場するのは「腕に自信のある」ベテランの猛者ばかりだ。

自分のライディングスキルに絶対の自信を持ち、過去にもレースで名前を残してきた「超」負けず嫌いな男たち。彼らによる「プライド」を懸けた熱い戦いとなった。

MOTO 1で最速タイムを叩き出したのは「谷合洋選手」である。彼の走りは異色だった。
他のライバルたちは、できるだけスピードを殺さないように、「コース上に別の道」が見えるかのような、滑らかなラインを走り抜けていった。

しかし、谷合選手だけは、ブイに対して一直線に突っ込んで行き、最短ルートで鋭角に曲がっていく。

1人だけ違う走りに、目を奪われた。
最終ブイを走り抜けた瞬間に、「彼が最速だ！」と確信できる見事な走りだった。

谷合洋選手・“必勝のコース取り”

谷合洋選手は、ブイに対して最短距離で突っ込んで行き、鋭角に曲がっていく。

芳賀さんには「絶対に負けたくなかった！」

谷合洋選手・優勝インタビュー

WJS　見事なタイムでした。優勝おめでとうございます。

谷合　ありがとうございます。

WJS　このX-2クラスは、全員「超」が付くほどの負けず嫌いばかりです。谷合選手は、昨年「 5位」でしたが、今年は見事に優勝。1年間、かなり練習をしたのではないですか？

谷合　この１年間、どうやったら芳賀さんに勝てるか、ずっと考えていました。一年を費やして、狙っていました。優勝できて本当に嬉しいです。走行ラインもマシンの仕上がり具合も、思い通りです。

「思い通りのレースだった」と語る谷合選手。

『「X-2」クラスでは、誰にも負けない。負ける気がしない』という芳賀さんのひと言で、闘争心に火がつきました

WJS　「１年を費やした」と言われましたが、この大会にかなり思い入れがありますね？

谷合　昨年の Out a Time 終了後、優勝した芳賀さんが、『この「X-2」クラスでは、誰にも負けない。負ける気がしない』って言ったんです。本人は忘れていると思いますが、僕も一緒に参戦した大畑選手も、その言葉は忘れていません。

WJS　そのひと言が、谷合選手を奮起させる原動力になったのですね。かなり練習をしたのですか？

谷合　練習というよりも、「研究と確認作業」です。

WJS　確認作業とは？

谷合　例えば、練習のとき、ずっと芳賀さんの後ろを走るんです。後ろを付いて行きながら、「あっ、このコーナーは僕の方が速い。次のコーナーも僕の方が速い」って頭で確認していく。全部、僕の方が速かった。

WJS　それはすごい執念です。でも、他の選手から警戒されないのですか？

谷合　去年、大会に出たときの僕のマシンは 750cc でした。練習は、そのエンジンで走っていました。芳賀さんのマシンは 800cc なので、僕のは明らかに遅い。そのおかげで、みんな、僕のことはノーマークでした。750ccで後ろを走りながら、『排気量をイコールにすれば「僕の方が速い」』って思っていました。

WJS　今大会も遅いマシンだったのですか？

谷合　大会直前に、エンジンを 800cc に積み替えました。当然、足回りも完璧に仕上げてきました。

WJS　まさに「１年をかけた綿密なリベンジ」ですね。

谷合　そうです。計画通りです。

MOTO 1直後の谷合選手（写真左）と、大畑雄一選手。前回大会終了後、谷合選手と大畑選手は芳賀選手へのリベンジを心に誓ったのだ。

1周だけのレースだから、息を止めて走りました。「やるときは、ヤル男」って証明できて嬉しい！

WJS　谷合選手の走りは、他の選手とは走行ラインが違い、ブイに対して最短距離を走っていました。

谷合　他の人たちのようにラインを出して走るよりも、僕のように最短で走るほうがタイムが速い。でも、本当を言うと、コーナーで何カ所かミスっています（笑）。

WJS　他の選手は、どういうラインで走るのですか？

谷合　芳賀さんや橋本さんのようなレーサーは、アクセルを開けっぱなしのラインを走りたがるんです。

WJS　今回は、谷合選手の作戦勝ちですね。

谷合　でも、僕のラインは、正直、キツい。今回みたいに１周だけだったら息を止めて集中できるけど、周回が増えれば無理です。これで何周も走れない。それと、きちんと、このラインで走れるように、スポンソンなんかも改良して、足まわりを仕上げています。

WJS　時間をかけて、万全の態勢で望んだ会心の勝利なのですね。

谷合　僕のことを"格下"に見てた人に、「やるときは、ヤル男」って証明できて嬉しいです。

WJS　全員が“ガチで勝ちに来ている”クラスで、キッチリと結果を出せるのは素晴らしいです。谷合選手のことは、以前から知っていますが、「笑顔がチャラいライダー」というイメージでしたが、お話を聞くと「話す内容と行動」が、とても 男らしい人だと思います。

谷合　ありがとうございます。本当に、芳賀さんに勝てたことが嬉しいです。