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ジェットスキーに最も愛された男 生きる伝説「ジェフ・ジェイコブス」物語

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アリゾナの荒野で「伝説の走り」を見た

KING竹野下も憧れた「誰とも違うライディング」

このPJSのカラーリングが施されたカワサキJS550で走っているライダーが誰だか、お分かりになるでしょうか? そう、伝説のスタンドアッパー、ジェフ・ジェイコブスその人です。本誌で、最後に彼の走行シーンが載ったのは、17年前の2002年10月号。彼の引退インタビューでした。

「ジェフ・ジェイコブス」という名前は、新しいジェットユーザーの方は知らないかもしれません。彼は、ジェットスポーツの歴史において、最も偉大な「伝説的ライダー」で、「スーパースター」なのです。ジェフのライディングに魅せられた人は数知れず。皆、彼に憧れ、彼に少しでも近づくために練習しました。

日本が世界に誇る最強レーサー「KING」こと竹野下正治プロも、その1人。擦り切れるほど、毎日、ジェフのビデオを見て研究していたそうです。

ジェフの、力みのない、独特のしなやかなライディングは、世界中のジェトスキーヤーの憧れでした。

2018年10月。今、私の目の前で、ジェットスポーツの伝説・ジェフが走っています。彼のあまりの美しいライディング姿は、ビーチにいた全ての人々を魅了したのです。

ジェフ・ジェイコブスに会った日

2018年10月、アリゾナ州レイクハバスのビーチに人が集まっていました。人の輪の真ん中に、古いスタンドアップが置かれ、不思議な輝きを放っていたのです。

その中心に、フリースタイルの神様、リック・ロイの姿がありました。目が合うと、彼は嬉しそうに手招きして、私を呼びました。そこにあったのは、1992年製PJS550モディファイマシンです。

「すごいモノを見せるよ」と、紅潮した顔でその550のエンジンフードを開けてくれました。目の前に現れたのは、当時のままのエンジンルームです。

自慢げに笑いながら、私を見つめるリック・ロイ。ふいに、誰かがロイに駆け寄って、固い握手を交わしたのです。その人物こそ、このPJS550モディファイマシンで、世界の頂点に立った伝説のライダー、「ジェフ・ジェイコブス」その人でした。

興味津々でエンジンを覗き込んでいるのは、2018年ワールドファイナル プロスキーチャンピオン、クエンティン・ボッシュ選手である。

写真右下は、フリースタイルの神様、リック・ロイ。

「ジェフ・ジェイコブス」の偉業

1973年に、世界初のジェットスキー「JS400」が発売され、ここから我が業界の歴史が始まりました。ジェットスポーツ46年の歴史の中で、「歴史」に残るレーサーは何人もいます。しかし、「伝説」になったレーサーは、そう多くはいません。

古ければ伝説になれるわけではないのです。あえて、「伝説」になりうるレーサーの定義を挙げるとすれば、「その存在が、どれくらい多くの人々に影響を与えたか」。そして、「時代さえも変えうるパワーを持っていたかどうか」。そういう基準で考えたとき、一番最初に名前を挙げなければならないのは、ジャマーこと、「ジェフ・ジェイコブス」を置いて他にはいないのです。

IJSBA(ワールドファイナルなどを主宰するアメリカの団体)での通算勝利数は135勝(2002年引退)。この数字は、例えば年間全8戦レースがあったとして、16年半以上も無敗のまま勝ち続けて、やっと到達できる数字です。ただの1度も負けることのない、「驚異的な強さのチャンピオン」。ジェフの記録は、そういう記録なのです。まだ「ジェットスキー」だった時代、それほど彼は強かった。


「伝説」の軌跡

ジェフが、初めて世界チャンピオンになったのは、彼が16歳のとき。当時、ミスタージェットスキーと呼ばれていた「ラリー・リッペンクローガー」や、「デビッド・ゴードン」といった強豪を退け、無名の少年がタイトルを獲得するとは、誰も想像しませんでした。しかし、それは現実となり、新しいチャンピオンが誕生したのです。彼の伝説はここから始まりました。

ジェフの伝説たるゆえんは、その走りにあります。他のライダーのように、全身の力を振り絞ってフルスロットルで走るのではなく、淡々と、軽々と走り続けました。新しいライディングスタイルを、天性の勘と才能で身に付けたという点で、ジェフの走りは、今なお、語り草となっています。

そして、その伝説が、本当に「伝説」になってしまったのは、「ジェットスキー」が、「ジェットスポーツ」に変わる過程で、レースに使われる乗り物自体が変わったから。彼の大切な翼「550モディファイ」が、両肩から無残にもぎ取られ、その後、誰もその伝説の走りを目にすることができなくなったのです。

復活は劇的なものでした。20世紀最後の年、2000年のワールドファイナルで、奇跡的なカムバックを果たしたジェフは、通算9度目の世界チャンピオンと同時に、「20世紀最後のタイトル」を獲得したのです。

ジェットスポーツが誕生してからの46年間を振り返ると、つくづく20世紀は「彼の時代」だったと、改めて思い知らされるのです。

1992年に、ジェフが優勝したマシン。2018年のレイクハバスで、再び彼がこのマシンに乗る。

ジェフが550に乗ると、なぜか体の一部に見える。

この日、ビーチにいた全ての人が、彼のライディングに魅せられた。

そんなオーディエンスを見向きもせず、水を得た魚のように、26年ぶりの550を楽しむ。

昔と変わらぬライディングフォーム。ヘルメットとゴーグルなしのライディング姿は珍しい。

見ているだけで胸が熱くなった。ジェットスキーは、これほどまでに美しい。

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