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中堅・プロライダー物語 レースの始まりは「社員のバックレ」から 千木良 真之が語るジェット人生 ジェットスキー(水上バイク)

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40歳からの遅咲きのレーサー。きっかけは『なりゆき』

今回の特集は、プロレーサーの千木良真之選手である。千木良選手は、水上バイク(以下、ジェット)のレーサーの中では、ひと際体格が良くで、非常に目立つ存在である。
レース中も一歩も引かない強気な走りで、「いつか、派手なクラッシュをしてしまうのでは?」と、ハラハラさせられることもある。

千木良選手は、普段はジェットともレースとも無縁の会社の社長。ある意味、『なりゆき』でレースの世界に飛び込んだ、異色の経歴の持ち主である。

千木良プロの話を聞きたかった理由は、トップライダーの話は何度も聞いてきた。下位のライダーの話は、勝ってから聞きたい。
今後、可能性があって、今、結果が出ていないライダーが、何を考え、どのようにモチベーションを維持しながら戦っているのかが知りたかった。

レースで勝つのは、たった1人きり。しかも、高額の費用を要するランナバウトクラスだ。たった1年だけだったら何とかなるが、5年サイクルで考えないとトップは狙えない。
1年間だけでも資金的に大変なのに、何年も、お金・体力・努力を費やしている意味みたいなものを、中堅ライダーの千木良プロに教えてほしかったのだ。

一見、ガラが悪い人かも? と思うかもしれないが、話をすると、人懐っこい笑顔と、非常に思いやりに溢れた、優しい人柄に引き込まれる。
取材当日、2艇積みのトレーラーを牽いて、白いパンツでマリーナに現れた千木良プロに、今まで聞きたくても聞けなかったことをいろいろと聞いてみた。


取材当日。ベンツのゲレンデワーゲンのAMGに、レース艇と練習用のX-2を積んで、白いパンツでマリーナに現れた千木良プロ。こんな、真っ黒に日焼けした、ガタイのいい人のクルマが真後ろを走っていたら、それだけで「あおり運転」と言われてしまいそうだ。

「トップライダーでも下位でもない。だからこそ、聞きたい本音」千木良真之プロ 特別インタビュー

周囲の反対を押し切って30歳で独立

WJS レースのことを伺う前に、千木良プロご自身について聞かせていただきたいのですが、いつからジェットに乗っているのですか?
千木良 独立する前のサラリーマン時代、鉄筋屋の社長に「ジェットに乗らせてあげるよ」って、勝浦に行ったのが最初です。俺、独立する前は準大手のゼネコンにいたんですよ。
そこで初めてジェットに乗って、「これは面白いな」って。でも、買うにしてもお金がかかるし、乗るのにもガソリン代とか高速代がかかる。「こりゃ、サラリーマンじゃ無理だな」って、そっからですよね。
そのころ、仕事をやめて独立したんです。でも、独立は、まわりにすごい反対されました。普通のサラリーマンで、そこそこの年収もあって、退職金も結構な額が出るような会社だったから。

WJS  失礼ですが、千木良プロは、今、おいくつですか?

千木良 昭和47年(1972年)生まれで、今年48歳です。

WJS 独立して、仕事は何をされたのですか?

千木良 最初、タワークレーンのオペレーターを派遣する会社を30歳か31歳で立ち上げて、今は運送業がメインです。クレーンはあまりないですよ。

WJS 独立することで不安はなかったのですか?

千木良 全然余裕でしょ。全く不安がなかった。俺の比較対象は、鉄筋屋の親方、現場に職人さんの社長など、まわりにいっぱいいるわけじゃないですか。「俺と彼らの何が違うの?」って。「あの人にできて、何で俺にできない。そんなわけない」みたいな感覚ですよね。

いくらまわりに反対されても大丈夫だと思っていた。「あの人たちにできて、何で俺にできないわけない」。自分を信じていた。

レースの世界に入ったキッカケは、若い社員のバックレから

WJS 千木良プロが、レースを始めたきっかけはなんだったのですか?
千木良 もともと、ウチの会社の若い子が「レースに出たい」っていうのが始まり。プロライダーの金子広雅選手を知っていて、金子プロに「若い子を利根大堰に行かせるから、練習でブイをまわらせてやってくれないか」って頼んだのがきっかけです。

WJS それが何年くらい前ですか?
千木良 10年くらいかなぁ。

WJS 最初は、ご自分はレースに出ず、桜井プロのスポンサーとしてレース会場に来ていましたよね。 どういう経緯で桜井直樹プロのスポンサーをすることになったのですか?
千木良 さっき言った、「レースをやる」って言ってた若い子を、桜井さんに「面倒見てくれないか」って頼んでいたんです。そいつが、開幕戦前にバックレちゃった。それで、「申し訳ない。その代わり、俺が桜井さんのサポートする」って、そこからですね。

WJS きっかけは、逃げた社員のお詫びだったのですか。
千木良 はい。そのころ、桜井さんが所属していたAMCっていうチームがなくなったので、俺の「TEAM CROWS(チーム・クローズ)」っていうチームに入ってもらったんです。 ジェット界で、桜井さんは有名人じゃないですか。「桜井さんは、今年はどこのチームなんだ?」、「千木良? CROWS?」「千木良って誰なんだ?」って、まわりは絶対に思う。 俺のせいで桜井さんに恥をかかせたくないっていうのがあったから、金は惜しみなく、出しまくりましたよね。

WJS 覚えています。完全なフルサポート態勢でしたよね。
千木良 桜井さんは、「これ欲しい。あれ欲しい」って言わない人なんですよ。俺はジェットの世界のことは分かんないし、まわりの人の話を見たり聞いたりしながら、「これ付けたほうがいいんじゃない? これは?」って桜井さんにパーツとか渡すと、「いや、いいです」、「いいんだ付けろ」って。マシンも「速いの、速いの」って求めて。
最初は800SX-Rだったのかな。そのとき、今﨑さん[※編集部注:今崎真幸氏(マリンメカニック)。世界的なマシンコンストラクター]が、1年くらいレースに出てなかった年だったんです。翌年、今﨑さんが出てくるようになったので、「今﨑さん、やってください」って。 今﨑さんは4ストが得意なので、「それじゃあハイドロだ」って、4stスタンドアップのハイドロスペースを買って。俺からドンドンやっていきましたよね。


WJS ちなみに、フルサポートをしたとき、1年間でどのくらい費用はかかったのですか?
千木良 細かいのまでいったらキリがないけど、1年目で700、800万円使ってるんじゃないかな、多分。
俺はレースに出るわけじゃないんで、俺のクルマで一緒に行って、ホテル代も。 練習するガソリンも、運送屋なんでカード渡して「それで勝手にガソリン入れて」って。 そういうのを入れたら、なんだかんだでそれくらいいってると思いますよ。 海外のレースも行ってたし。 とにかく、「この人に恥をかかせちゃいけない」っていうのがありました。


WJS 桜井プロのサポートは、何年やったのですか?
千木良 3、4年はやったのかな。

WJS そのころは、まだ千木良プロ自身はレースにでていなかったのですか?
千木良 出てなかったですね。それで、桜井さんのサポートをして、3、4年目くらいで自分もレースに出るようになりました。

WJS 桜井プロのサポートをやめたのはどうしてですか?
千木良 最後の年は、桜井さんのプライベートのほうでもいろいろあって、大阪の最終戦で「サポートを終わりにするよ」って。

WJS お話を伺っていると、レースにものすごくお金を使ってますね。
千木良 使ってますね。 変な話、ジェットってお金かかるじゃないですか。 お金作らなきゃダメじゃないですか。 仕事を頑張るしかないから、会社の売り上げが自ずと上がってくるんですよ。俺、何かがないと頑張れないんで。
WJS ジェットがあるから、仕事も頑張れるのですね。

俺、何かがないと頑張れないんで。

人生は、順風満帆なときばかりとは限らない

WJS 桜井プロのあとは、誰かサポートをしたのですか?
千木良 その年の12月、タイで行われたキングスカップは、秀(倉橋秀幸プロ)にハイドロを乗せたんですよ。

WJS 最終戦が9月で、12月にキングスカップだと、時間もないし、ほとんど練習できないですよね?
千木良 しかも、11月にはマシンを送らなきゃ行けない。 秀がハイドロに乗ったのは、1カ月ちょっとかな。それでキングスカップのとき、「今﨑さんと一緒に、速い船を作ってるんだから、絶対にホールショット取って帰ってこいよ」って言ったんです。「そこからダダ下がりしてもいい。1回でもホールショット取ったら、来年、秀をサポートする」って約束したら、4ヒートあるうちの1回、ホールショットを取って帰ってきたんです。そこから秀のサポートを、ちょっとだけやりました。

WJS それ以降は、選手のサポートはしていないのですか?
千木良 ここ2年くらいやってないですね。

WJS ご自分がレースに出るようになったからサポートをやめたのですか?
千木良 いや、離婚して、半年くらいレースにも出ていなかったんですよ。俺が子供を引き取ったんで、ケガもできない。「もう、ジェットは無理かも」ってやめるつもりで、クルマも全部売っぱらったんだけど、でもジェットだけは手放せなくて。
そうこうしているうちに再婚して、嫁が「やればいいじゃん」って言ってくれて「やっていいの?」みたいな感じで、またレースに出るようになりました。


WJS イメージとしては、千木良プロはお金もあって、人生、順風満帆のように見えるのですが、そうでもないのですね?
千木良 そう思われてるか分かんないけど、そんなに持ってないですよ。 あとは、見栄っ張りと派手っていうのがあるから、端からはそう見られますよね。 格好つけちゃいますよね(笑)。

人生、波乱万丈です。

「慣らし運転」から、練習3回でレースデビュー

WJS いつから、ご自分がレースに出ようと思ったのですか?
千木良 ジェームス・ブッシェルが出た当時です。

WJS 2011年か2012年ごろですね?
千木良 はい。キングスカップにサポートで行ったとき、ブッシェルを初めて見たんです。彼がコーナーに入るとき水しぶきが立って、しぶきがなくなったらもう違うところにいる。「あのライダー、すげぇっすね」って。「あれだったら乗ってみたい」って言ったら「じゃあ、来年出ちゃいますか」みたいな感じで出ることになったんです。

WJS 桜井プロのサポートをしていたのなら、スキークラスに出るのかと思うのですが、千木良プロはランナバウトですよね?
千木良 それには理由があって、あのとき、タケさん(竹野下正治プロ)が、レースに出なかった年だった。そうしたら桜井さんが「タケさんが出ないし、俺、話題づくりでランナに出てみるよ」って言うから「じゃあ、いいよ。俺、ランナ買う」って、桜井さんに乗せるつもりでRXP-Xを買ったんです。

WJS もともとは、桜井プロが乗るためのマシンだったのですね? それでどうして千木良プロが出ることになったのですか?
千木良 新艇だから慣らしをしなきゃいけなくて、「じゃあ、俺、慣らしやってる」って、ずっと乗ってたら、結構面白かったんです。「カワサキのULTRAは乗りづらいけど、RXP-Xなら怖くなくて握れる」って言ってたら、「じゃあ、千木良、出ちゃえよ」って、利根の皆も盛り上がっちゃって。それが開幕戦の1カ月くらい前。だからデビュー戦は、利根大堰で3回練習しただけ。それが2013年です。

WJS 新艇の慣らしと3回の練習で、いきなりレースデビューですか?
千木良 そのとき、もうエントリーが締め切りだったんですけど、桜井さんが「俺が言うから」って(笑)。

「じゃあ、千木良、出ちゃえよ」って、デビュー戦は、利根大堰で3回練習しただけです。

初めて出たレースで、初優勝!?

WJS それはいつの大会ですか?
千木良 大阪の二色の浜であった開幕戦です。

WJS 結果は、どうだでしたか?
千木良 予選かグリッド決めのとき、案の定、飛んでビリになって、決勝は大外からスタート。そのときすごい強風と荒波で、本当なら周回数が6周か8周あったところが4周に減って。そのときに、全員抜いて勝っちゃったんですよ。 そこから面白くなって、ずっと行ってるって感じですよね。

WJS そこで勝ったことで、本格的にレースを始めたのですね?
千木良 そうですね。それと、レースに出る前から桜井さんが、「今日から千木良が出るから」ってまわりに言うんで……。「何? 出るんだって!?」って皆から言われて、それもプレッシャーで。 「俺、負けるわけにいかない」ってなって、それが「負けたくない」になって、今もずっと練習してます。

WJS かなりの負けず嫌いですよね。普段の練習は、利根大堰ですか?
千木良 はい。週に1回、日曜日に利根でずーっと乗ってます。

WJS 利根大堰というと、砂盃 肇プロや桜井プロと一緒に練習しているのですか?
千木良 そうですね。砂盃さんと桜井さんはスタンドアップでバトルしてますけど、俺はやっぱ下手なんで、そこまでいかないんですよ。利根の人っていうのは、冬はランナに乗らないから、俺らはX-2で練習しています。

自他ともに認める「ものすごい負けず嫌い」。

俺が煙草をやめた理由

WJS レースデビューした2013年にB級ランナバウトストッククラスで優勝。翌2014年にA級に上がり、2015年にA級チャンピオンを獲得。 2016年からプロクラスと、かなり順調に昇格していますよね。
千木良 B級は1年で昇格したんですけど、A級の1年目、普通に走っていたらプロに上がれたのに、最終戦の大阪で、チューニングエリアでマシンがぶっ壊れちゃってスタートラインに並べなかった。 結局、ポイントが足りなくて、A級だけ2年やりました。

WJS レースを始めて、4年目でプロに上がって、何が一番変わりましたか?
千木良 なにが一番違うって、マシンも違うけど、砂盃さんに煙草をやめさせられた(笑)。

WJS どういうことですか?
千木良 当時、唯一、俺がエルフ(EMJ:TOTAL社製エルフブランド製品のPWC業界販売総括)の小野さんから、オイルのサポートをもらっていたんです。プロに上がって、砂盃さんと一緒にゴルフに行ったとき、俺が煙草を吸ってたら「千木良、お前、プロになって、サポートしてもらっているんだろう。お前も今まで桜井さんにサポートしていたんだから分かるだろう。されどオイルかもしれない。 でも、お金じゃない。その人に対して、煙草を吸いながら『俺、頑張ってます』って言ったところで、小野さんはどう思うの?」って砂盃さんに言われて、それですぐに煙草をやめました。

WJS プロとしての心得ですね。 砂盃プロと千木良プロでは、どっちが年齢が上なのですか?
千木良 砂盃さんのほうが2つ3つ上です。

現状はシードゥエンジンで問題はない。どこまでやれるか試してみたいんです。

ヤマハエンジンではなく、シードゥエンジンで戦うにはワケがある

WJS マシンについて伺いたいのですが、千木良プロのマシンはシードゥエンジンですよね。でも、同じチームの砂盃プロはヤマハのエンジンです。どうして千木良プロはヤマハのエンジンにしないのですか?
千木良 正直、自分が思いっ切り走れるような足まわり、操安になっていない。ちゃんと乗りやすい足まわりの状態にして、砂盃さんや生駒(淳)さんと、どれくらいの差が出るのかっていうのを試したいっていうのが、今の気持ちです。

WJS それなら、なおさら砂盃プロと同じヤマハエンジンのほうがいいのでは?
千木良 正直、ヤマハのほうが乗りやすいです。でも、ヤマハのエンジンにすることで、バンパー交換とかその他もろもろ、レース会場で、結構、手間暇がかかるんです。ワンヒート走ったら交換とかね。
昼休みでも、今﨑さんを始め、皆、作業をやってるなか、俺がヤマハのエンジンを積んだら、俺に付くヤツがいない。それをやっちゃうとチームが上手くまわらないし、自分もイライラすることになる。ヤマハのエンジンを積むことに意味がないっていうのが現状ですよね。


WJS シードゥエンジンとは、そんなに違うのですか?
千木良 「ヤマハが速くて、俺が乗れない」って今﨑さんは言うけど、トップスピードが速いから怖いっていうのはないんですよ。足まわりを自分の乗りやすいように出来れば、そこはそんなに心配していない。ガーコ(砂盃マシンの愛称)も乗ったことありますけど、怖くはない。下のパワーは、俺はシードゥ艇のほうが強いと思っています。

WJS 納得できる足まわりができたら速いヤマハに乗りたいけど、そうじゃないなら、今はシードゥのほうが乗りやすいということですか?
千木良 そうそう。シードゥならメンテナンスは、今崎さんが付いてなくてもレースでは行けちゃうんで。ヤマハはどうしても、バンパーのゴムの部分をワンレース、ツーレースくらいで換えないといけない。あの状況のレース会場で、エンジンを前にずらして、バンパー交換って、それもやってらんない。

WJS それなら、今のマシンには満足しているのですね?
千木良 正直、ハンドルの位置が窮屈だから、本当はもっと後ろに行きたいんですよ。もともと作ったハンドル位置より、結構、前に行ってるんで。
砂盃さんもよく言うんだけど、胸に大きなボールを抱えているようなイメージで乗りたい。シートを改良して後ろに下げて、もっと後ろでゆったりしたいんですけどね。


ハンドルの位置が窮屈だから、本当はシートを改良して後ろに下げて、もっと後ろでゆったりしたいんです。

レースが「3周」だったら、3回に1回は「砂盃 肇」に勝つ自信があります

WJS 今、プロ4年目。チームメイトには国内では敵なしの「砂盃 肇」というライダーがいますよね。やはり砂盃プロを意識しますか?
千木良 変な話、レースが「3周」で、よーいドンってやったら、3回に1回は勝つ自信がありますよ、俺。


WJS というと、千木良プロの弱点は体力なのですか?
千木良 うん、そう。

WJS レース艇と言うのは、かなり体力を使うのですね。

千木良 純正ハルでも軽量ハルでもそうですけど、遅い船で8周したって疲れない。三上さんでも生駒さんでも、今年、ダブルエントリーしていましがた、あれ、疲れてないと思いますよ。

WJS それだけ、速いマシンというのは、体の負担が大きいのですね?
千木良 速い船はキツイっすね。下の強さにもよるんでしょうけど、純正のハルとか、トップスピードが120km/h台、130km/h前半までなら、プロライダーならそんなには疲れないと思いますよ。

純正のハルや、トップスピードが130km/h前半までのマシンなら、プロライダーならそんなには疲れない。

マリンメカニックのマシンでなければ、『そこそこの位置』にすら行けない

WJS マシンパワーに対して、それを生かし切れるアクセルワークができていないと仰いますが、それを克服するために何かしていることはありますか?
千木良 今年、砂盃さんや三上さんにいろいろ教えてもらって、とりあえず、7、8割まではできるようになったかなと思って、今シーズンを迎えたんです。でも、9月の大阪の大会で燃料タンクの下の発泡スチロールの壁が取れちゃって、タンクが動いちゃった。それで、またバランスがズレちゃいました。

WJS せっかく作ったバランスがダメになったのですか?
千木良 そう。レース会場でドタバタしながらやって、最終戦の蒲郡大会でも直したつもりで行ったんだけど、また同じようにタンクが動いちゃって……。
発泡体は新品に替えたし、ゴムがちょっと緩んでいるのか、原因がちょっと分かんない。
あとは、シートが取れちゃった。

WJS トラブル続きで、万全の走りができないのは悔しいですね。
千木良 悔しいのも悔しいけど、それを「悔しい」ってイライラしているのも格好悪いじゃないですか。「ああ、俺はまだ、そこまでの運しかないんだな」って。今﨑さんを始め、マシン造りに関わってくれた人は、いろいろやってくれているんで、誰に怒る話でもない。結局、自分ですから。怒っているのを端から見たら、格好良くはないですよね。

WJS たまに、レース会場でメカニックに怒っているレーサーを見ることがありますが、ちょっといたたまれない気持ちになりますよね。
千木良 そういうのを見ていて「格好良くないな」っていうのは自分のなかでもある。格好付けしいだからね、俺。レースで勝つのって、運とか、まわりの環境とか、そういうのが一致しないと勝てないですから。

レースで勝つためには、「運とか、まわりの環境とか、そういうのが一致しないと勝てない」と言う。

あっちのターボはデカイらしい

WJS 足まわりは、大分、理想通りになってきたのですか?
千木良 大分良くなってきました。あと、もうちょい。来年は、いけるんじゃないですか。

WJS 同じマリンメカニック製のマシンでも、砂盃プロと中野崇寛プロでは、全然乗り味が違いました。砂盃プロのマシンはとても乗りやすかったのですが、中野プロのマシンはピーキーすぎて、私にはしんどかったです。同じマリンメカニックのマシンでも、マシンごとにかなり違うのですね?
千木良 俺は、中野さんのマシンは乗ったこともないし、中も見たことないから分からないけど、本人は乗りやすいんでしょうね。

WJS 中野プロも、「去年は全然乗れなかった。足まわりもやったし、自分も乗り慣れた。2年かけて自分の乗りやすいようになった」と言っていました。
千木良 今、国内のシードゥ艇のなかでは、中野さんのが一番速いんじゃないですかね。

WJS 千木良艇と同じではないのですか?
千木良 違います。あっちのほうが、ターボがデカイらしいです。レースで、中野さんがインで俺がアウトだったとき、1ブイに行くまでに、向こうのほうが伸びていく。速いんですよ。
帰ってきて今﨑さんに「何で中野さんのほうが速いの?」って聞いたら、「ターボが、向こうのほうがデカイ」って。インタークーラーも違う。あの人のはインタークーラー300用で、デカイらしいんです。エンジンも研磨したり、いろいろしてるって。俺のは260のまま。ああ、そうなんだって。


足まわりは、大分、良くなってきた。

多分この先、今﨑さん以外の誰かに代わることはない

WJS いろいろと話を伺っていると、今﨑さんが造るマシンを一番評価しているのは、千木良プロのような気がします。「俺が戦うのに、今﨑さんという存在が必要だ」という気持ちがすごく伝わってきます。
千木良 日本でやるんだったら、今﨑さんの船じゃないとそこそこの位置に行けない。それは、当然、思ってます。
レースチームはTEAM CROWS(クローズ)から始まって、今、マリンメカニックにいますけど、多分この先、今﨑さん以外の誰かに代わることはないですね。そのときは多分、レースをやめるときだと思う。そうじゃなきゃ、いないですよ。

マリンメカニック以外のマシンになるときは、レースをやめるときだと思う。

自分がどこに行きたいのか、それが分かるまではレースを続けると思う

WJS 千木良プロは、自分の走りに足りないものがあるとしたら、何だと思いますか?
千木良 プロに上がってからは、自分ではアクセルを握れてないです。誰が悪いとかじゃなくてね。多分、まだ自分自身が納得してないから、レースをやってるんです。 これで、操安のいい、納得する走りができたのに表彰台にも上れなかったら、多分やめます。 まだ今は、納得できる走りができないからやっている。

WJS でも、納得できる走りができるようになったら、もっと上に行きたいと思うかもしれませんね?
千木良 それはそれで、また違う景色が見えてくると思う。砂盃さんも、世界を獲って変わった。それまで国内だったのに、今は「世界」に目が向いている。だから、俺も考えが変わるのかもしれない。ただ、俺も歳だからね。

WJS でも、年齢は砂盃プロの方が上ですよね。
千木良 砂盃さんみたいに、若いときからジェットをやってんのと、俺みたいに40歳から始めてるのじゃ、ちょっと意味合いが違うよね。

WJS でも先ほど、自分の中で「何が人よりも劣っているのか?」と、常に考えていると仰っていましたよね。「砂盃プロにできるなら、俺にもできる。足まわりや操安ができたときの景色を見てみたい」とは思わないのですか?
千木良 そうですね。でもそうなったとき、砂盃さんに勝てるのか、競れるのかっていったら、今の段階では無理です。それはもう分かってる。だけど、そこの領域に行ったら、俺自身が「頑張って、体力付けて、勝負してみよう」ってなるのか、「いやー、もう無理だろうな」って思うのかが、ちょっと今のところは分かんないです。それを知りたいから、続けているのかもしれません。

自分自身が納得してないから、レースをやっているのだと思う。

ヘルメットペイントと、マシンのカラーリングを手掛けたヒロキックスデザイン、佐々木宏樹氏と。

 

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