「ジャン ＝ ブルーノ・パストレロ（Jean-Bruno Pastorello、以下 パストレロ）」という選手を知っているだろうか。彼は、世界で 行われている 耐久レースで、「 絶対王者 」として 君臨している。
彼は、カワサキの オフィシャル ライダーである。
さらに、プロの ジェットレーサーであり起業家、自身のチーム「 チーム・パストレロ・コンペティション 」の 監督でもある。
パストレロ選手は、1989年にジェットを始めて、1995年から 競技会に出始めている。 レース歴「 29年 」の 大ベテラン レーサーだ。
本誌は、彼が 大変な“努力家”で あり、これを読めば 彼が なぜ これほど強いのか、その理由も分かるだろう。
耐久レースの絶対王者、ジャン ＝ ブルーノ・パストレロ選手。
今回「 WGP#1 ASIAN CHAMPIONSHIPS 2024 」に 出場するため来日していた パストレロ選手は、トレーニングのため、約7.5ｋｍの離れたオフィシャルホテルのある「 りんくう タウン 」から、毎日、レース会場の二色の浜海浜緑地公園まで 走っていたのだ。
今大会、約200名の選手が参加しているが、パストレロ選手以外、こんなトレーニングをしている選手を見たことがない。
現在52歳で、レース歴 29年の 大ベテランだが、誰よりも真摯にレースに向き合い、本気で勝利を 欲している選手なのだ。
誰よりも“低い”姿勢で スタートの合図を待つ。
合図と同時に走り出す。隣の選手よりも 明らかに先攻している。
他の選手が ようやくジェットに乗ったころ、パストレロ選手は すでに走り出している。耐久レースにおいて、スタートダッシュの アドバンテージは 計り知れない。
上記の写真は、今大会のスタート・シーンだ。
写真手前のパストレロ選手は、誰よりも 低い姿勢で 身構えている。
マシンに飛び乗り、「 テザーコードを差し込んで、セルを回す 」という行為が、神業的に速い。
他の選手は、まだエンジンが かかっていないときに、彼だけが 走り出している。
常々、パストレロ選手の「 スタートの“速さ” 」に 驚かされている。
ル・マン式スタートなので、陸上から“走って”ジェットに飛び乗り、エンジンをかけて スタートするのだが、その速さが 尋常ではない。
私は、「 絶対に、“毎日”スタートの 練習だけを やっている 」と、確信しているほどである。
今回、パストレロ選手に 直接インタビューをし、その“ 秘密 ”を聞いてみた。
「 チーム・パストレロ・コンペティション 」。
WJS パストレロ選手の 活躍を、いつもレース会場で見ています。だけど あなたのことは よく知りません。最初に、あなたのことを 教えて下さい。
パストレロ 名前は「 ジャン＝ブルーノ・パストレロ 」。1972年10月9日生まれ。フランス・トゥールーズ出身で、現在52歳です。
WJS 「 チーム・パストレロ・コンペティション 」とは、どういったものですか？
パストレロ フランス・カワサキ の オフィシャル チームです。
1995年に設立した ジェットスキーチームで、「 コマーシャル ブランド 」 でも あります。
私たちのチームは、ウォーター スポーツ・メカニック 界 では、最高峰の 経歴を持っています。
WJS 具体的な 活動内容を、教えてください。
パストレロ カワサキ と コラボレーションし、世界中の 競技用パーツ や ジェットスキーを製作しています。
さらに、若いライダーの育成にも 力を入れています。
日本の チーム・Kawasakiも、GP1クラスに私たちのマシンが走りますよ。
カワサキも認める ジェットスキーを製作する マシンビルダーでもある。
WJS 私が一番聞きたいことは、耐久レースで ほぼ 「 勝率100％ 」という あなたの“強さ”です。
特に “スタートでの速さ”は “神業”で、他の誰にも 真似できません。普段から、スタートの練習を しているのですか？
パストレロ ハハハ（笑）。経験、スピード......。
スタートだけではなく、あらゆる努力を続けています。
WJS 耐久レースで見せる、“速さ”の秘密は どこにありますか？
パストレロ 毎日のトレーニング。ランニング、サイクリング、アスレチックなどだね。
WJS いつも カワサキのマシンに 乗っていますが、他のメーカーのマシンに乗っても、 “勝てる”と思いますか？
パストレロ 勝てます！ 物理的に 全く問題ありません。
マシンの開発には、長年の経験と努力があるからね。
WJS 今後、他メーカーのジェットに乗ることはあるのですか？
パストレロ 今は、他のマシンに 乗ることができないんだ。なぜなら、私はカワサキのオフィシャルライダーだからね。
WJS 他メーカーのジェットのことを、どう思いますか？
パストレロ 排気量から考えても、他メーカーは“速い”に 決まってます。
ヤマハの マシンは 1,900cc、シードゥは 1,630cc。とても速いね。
WJS あなたのマシンは、速いですよね？
パストレロ 私のマシンが“トップレベル”でいるために、メカニックが “多大な努力”を してくれている。
実は、私のマシンは、操縦が非常に難しいんだよ。
WJS マシン パワーは、どれくらいですか？
パストレロ 私のカワサキは、通常の 1,500ccではなく、改良を積み重ねて 完成した1,700ccです。
大変なのは、この スペシャルなマシンを、シーズンを通して 常に 完璧なる状態で、維持・管理しなければならないことです。
WJS ありがとうございます。
今後も、あなたの素晴らしい 活躍をレース会場で見られることを楽しみにしています。
パストレロ ありがとう。
世界最強の耐久レーサー。
1. パストレロ選手のスタートは とんでもなく速い。他の選手が走り出す前に スタート！ アドバンテージを稼ぎ、ホールトゥフィニッシュで 勝利を飾る。
2. パストレロ選手の、スタートダッシュは、神の領域だ。本誌は 彼が “スタート”で トップではないレースを 見たことがない！
3. 真っ先に ジェットに飛び乗る！
4. テザーコードを “差して” セルを回す早さは、まるでルパン三世の 次元 大介。「 早撃ち0.3秒 」 絶対に、毎日 練習していると思っている！
5. 一人だけ “余裕”の スタート！
6. 他の選手は、エンジンをかけている真っ最中。
2019年～2024年
WGP#1 WORLD CUP・PRO-AM ENDURANCE OPEN
2019年
World Final, Endurance Runabout Open (Lake Havasu,USA)
2017年
Thai Airways International JET SKI WORLD CUP, Pro-Am Endurance
Endurance World Championships, Open Class (Martinique & Morocco)
Blowsion World Final, Endurance Runabout Open (Lake Havasu,USA)
2015年、2016年
Russky Offshore （Russia）
2013年
Russky Offshore （Russia）
2011年
Euro Africa Jet
2010年
Rally Jet, Karujet (Guadeloupe)
2009年
Jet Raid, Brazil - UIM, Offshore, Cavalaire
2007年
Jet Raid（Peru）
2005年
Super Cross, Lake Havasu (USA)
2016年
Endurance, Solenzara (Corsica)
2011年
Rally Jet
2014年～2016年
French Championship, Endurance
2012年
Tour of Corsica
上記以外でも、アメリカ・ハバスで行われるマーク・ハーン 300マイル 耐久レースで7回 優勝、2022年 トリプルクラウン 獲得 など、その戦績は枚挙にいとまがない。
世界の主要な耐久レースは、ほとんど 勝利している。
世界最強の耐久レーサー。
2019年のワールドファイナル、World Final, Endurance Runabout Openクラス。
これは、2019年のワールドファイナルの写真だ。
いつものように、パストレロ選手が 真っ先に飛び出した。
「ホールトゥフィニッシュで勝つ」と、誰もが思ったはずだ。
ところが今大会、パストレロ選手が “抜かれる”という出来事が起こった。
圧倒的な速さで スタートを切ったパストレロ選手だが、4周目のホームストレートで、生駒 淳 選手にあっさりと抜かれたのだ。
全員を 周回遅れにできるほどの実力を持った パストレロ選手が、観客席の目の前で 抜かされたのは 衝撃だった。
パストレロ選手（写真右）と生駒選手（左）。
1. トップを走るパストレロ選手。
2. 生駒選手が パストレロ選手を 追い抜いた！
3. 独走する生駒選手。
4. 無念！ 生駒選手、マシントラブルで エンジン停止。
WJS パストレロ選手を抜いた、初めての日本人ですよね。
しかし、勝利の直前で エンジンストップしてしまいました。あのマシンは、ご自分の GPマシンですか？
生駒 いや、あれはGPマシンではなく、耐久レース用に作り上げたヤマハの ターボチャージャー 装着艇です。
WJS 最高速度は、どのくらいですか ？
生駒 135 km/ h ～ 137 km/ h くらいだと思います。
アクセル全開だと パストレロ選手より、少し速いのですが、少し緩めると、同じくらいの 速さでした。
WJS 何度も言いますが、パストレロ選手が 抜かされたのを初めて見ました。
生駒 俺もです。
クソ！ なぜか分かりませんが、1分間だけエンジンがかからなかったんです。
あれがなかったら、自分が世界チャンピオンになれていたかもしれない。そう思うと、悔しいです！
「次こそは！」と、リベンジに燃える生駒選手。
日本人ライダーで 3回 パストレロ選手と戦った。梅原 雄一選手。この写真は、昨年12月のJet Ski World Cupの耐久レースで走る 梅原 雄一選手だ。
彼は、過去に3度 パストレロ選手と戦い、敗れている。
梅原選手に パストレロ選手の“強さの理由”を聞いてみた。
WJS 梅原選手は、何度も パストレロ選手と戦ってますが、あれほど速い理由は、何だと思いますか ?
梅原 すべてです。マシンも 他の選手とは 圧倒的に違うレベルで、良く 仕上がっています。
彼自身、毎日トレーニングをして、努力を続けているので、他の選手より「 乗れている 」と 思います。
WJS 一緒に走るだけで、そんなことまで分かるのですか？
梅原 彼の フォームを 見て下さい。
パストレロ選手は レース中に 座っていません。
[
これは、下半身を サスペンションのように使い、常にスコープゲートに 水を噛ませて、ジェットの推進力を低下させないようにする 高等テクニック です。
ポテンシャルの高いマシンに乗っている 彼に、こんな走りをされると、付け入る隙が ますますなくなります。
パストレロ選手は 、レース中にシートに座っていない。これにより、ジェットの推進力を殺さない走りができる。
WJS 梅原選手は、「 YAMAHA FX 」で 戦っていたのに今大会では「 Kawasaki ULTRA 」に 乗り換えていました。
ULTRAの方が 良いのですか？
梅原 「 エンジンが かかる スピード 」だけは カワサキが最高です。
走波性や 快適性なら 「 YAMAHA FX 」です。
WJS パストレロ選手も、排気量の大きな 他メーカーのマシンを 気にしていました。
梅原選手は、「 エンジンが かかる スピード 」が理由で、快適性を捨てて、ULTRAに乗り換えたのですか？
梅原 走波性や快適性は、自分が頑張れば 何とかなります。
でも、エンジンがかかるスピードだけは、自分では どうすることもできませんからね。
梅原 雄一 選手は、プロスキークラスに参戦していた元プロライダー。現在は「 プロショップ U.M.E. 」を経営しており、若いライダーの指導に尽力している。 マシンの改造にも造詣が深い。
WJS エンジンがかかるスピードは それほど 重要なのですか？
梅原 すごく 重要です。
国内でも、 給油が必要な「 2時間 耐久レース 」の ような長丁場のレースでは、巻き返しが 可能です。
でも、国際レースは 「 わずか 35分間 」で終わりです。
WJS 「 ULTRA 」 は「 YAMAHA FX 」に比べて どれくらい、スタートが 速いのですか？
梅原 2秒 ～ 3秒 です。
WJS たった それだけですか？
梅原 何度も言いますが 「 35分間 」のレースで、スタートは超大事。
セルボタンを 押して、ギュルギュルっていう時間が 永遠に感じます。
WJS エンジンが早くかかるような 改善策はないのですか？
梅原 ないです。
あれば、乗り換えていません。
WJS なぜ、カワサキだけが“早い”のですか？
梅原 カワサキのコンピューターが 最も“シンプル”だからです。
ヤマハやシードゥは、時間が掛かる。
特にシードゥは厄介です。スポーツモードに設定したいので、余計に時間が かかります。
その場合、モーテック（ 社外コンピューター ）に入れ替えて最初からスポーツモードに設定しています。
それをやると、とたんに 改造費が跳ね上がり 壊れる可能性も高まります。
WJS いくら速くても、壊れたら意味がありませんからね。
梅原 だから、耐久レースでは 皆が ノーマルベースのマシンで 戦う。
「 マシンが 速くて 壊れない 」は レースの鉄則ですが耐久レースでは、特に重要なんです。
WJS “どのメーカーが有利かの答え”は、ULTRAで正解ですね。
梅原 35分のような 短い時間の 耐久レースでは、正解。そう考えて「 乗り換え 」ました。
WJS ちなみに、改造内容と最高速を 教えてください。
梅原 基本的にノーマルベースで、リミッターの解除と吸気系とインペラのセッテイングだけです。
それだけでも 最高速は、128km/hになります。
今回のレースでも、充分に戦えるという手応えは掴めました。
WJS それだと壊れませんね。
「 YAMAHA FX 」でも そんな最高速が 出せますか？
梅原 ULTRAとほとんど変わらないです。
僕はもともと、ULTRAで ランナバウトのレースを始めました。
試行錯誤を繰り返して、ノーマルベースで長時間乗っても疲れない「 YAMAHA FX 」に決めたのですが、スタートの問題で「 ULTRA 」に戻りました。
WJS パストレロ選手のジェットは、「 排気量 1,700cc の スペシャルマシン 」と 言ってましたが、それでも戦えますか？
梅原 戦えます。
「 勝てるのか 」と聞かれれば、即答は出来ませんが 戦えます。
彼のマシンはスペシャルですが、最高速の違いは5km/hくらいです。
僕の戦い方は ノーマルベース。
「 マシンを 壊さない 」 が重要なんです。
それを、自分のお客さんに 教えなければならない。
マシンが壊れたら、その瞬間にレースは終わりなんです。
パストレロ選手も マシンを壊さない範囲での 改造をしていると思います。
マシンが速いかもしれませんが、僕はパストレロ選手自身が 速いと思っています。
梅原選手がULTRAを選ぶのは、「スタートが早い」ことも理由のひとつという。
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