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S-1スラローム・スキークラス最強チャンピオン 365日考え続けた「どうやったら速くブイを回れるのか」 金子 聡選手インタビュー【動画】 ジェットスキー(水上バイク)

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「スラローム」という「沼」にハマると、抜け出せなくなる

たった1度のミスで、コンマ数秒変わる世界。それが「S-1 スラローム競技」

2016年~2019年のS-1スラローム大会・スキークラス4連覇を達成し、名実ともに国内のトップスラローマーとして君臨するのが、今回紹介する金子 聡選手である。

「S-1スラローム大会」とは、ヤマハが主催するスラロームのタイムアタック競技会のことである。使われるマシンは、ほとんど改造を認めないストッククラス。そのため、マシンパワーに頼ることなく、ライダーのライディングスキルのみが勝敗を分ける。

金子選手は現在38歳。スラローム競技を始めたのは2012年、30歳のときだ。影響を受けた選手は、2017年にスラロームの世界チャンピオンになった関 泰光選手という。

【関連記事】 わずか20秒を競うためにアメリカへ スラロームの魅力に取り付かれた男・関 泰光選手インタビュー

S-1大会に出場し始めた2013年から2年間は、全くタイムが縮まらない日々が続いた金子選手。365日、寝ても覚めても、暇さえあればS-1のことを考え、コンマ数秒のタイムを短縮するためにできることを全てやってきたという。「S-1スラローム」に魅入られた、「スラロームへの思い」を語っていただいた。

写真右が金子 聡選手。左が、長年、金子選手を支え、共に戦ってきた麻知子さん。今年1月に入籍するそうだ。


スラローム競技で日本最速と呼ばれる存在になった・金子 聡選手インタビュー

マシンが変わらないのなら、自分の“何か”を変えなければタイムは縮まらない

WJS 金子選手は、2016年~2019年の4年間、S-1スラローム全国大会で4連覇を成し遂げた、スキークラス最速のS-1ライダーです。スキークラスでは、敵なしの走りをされてますよね。
金子 はい。スーパージェットは自信がありますが、実は、ランナバウトにも自信がありますよ。

WJS スラローム競技に対して、特別な才能か何かを持っていると感じることはありますか?
金子 チャンピオンを獲得した今でこそ自信は持っていますが、才能うんぬんは感じたことがありません。でもスラロームを始めたころは、「どうしてタイムが上らないんだろう」と、本当に苦しかった時期があります。そんな思い出ばかりです。

WJS 楽に勝ってこられたわけではないのですね?
金子 全く違います。S-1(スラローム)を始めたのが2012年。頑張ってがむしゃらに練習して、普通にブイをまわれるようになるのに1年くらいかかりました。それから2年間、いくら練習しても全くタイムが縮まらない状態が続きました。

WJS 練習をすれば、しただけ速くなるのではないのですか?
金子 そうではないんです。自分では一生懸命頑張っているのですが、きちんとブイを走れるようになってからタイムが上らない。でもそれは、ある意味、当然だったんです。

WJS どういうことですか?
金子 いくら練習しても、マシンそのもののスピードは変わりません。当然、自分が最速だと考える乗り方で乗ります。マシンの速度も乗り方も同じなら、タイムが縮まらないのは当たり前です。だから、抜本的に自分の“何か”を変えなければ、いくら練習しても何も変わらない。そのときの自分の最速タイムは、表彰台など全く関係ない、鳴かず飛ばずの記録でした。


S-1に出場し始めて3年経ったころ、いくら練習しても全くタイムが縮まらない状態に陥りました。それで、自分の考え、自分の走りを、1度、全部捨てることにしました。


何をやっても変わらないなら、「自分を捨てて、最強と言われていた“関さん”になろう」と決めた

WJS 抜本的に、自分の“何か”を変える必要があったことは理解できます。一体、何を、どう変えられたのですか?
金子 自分の考えを全部捨てることにしました。徹底的に最速の選手を真似て、その選手になりきる。自分と違って結果は出ているので、マシン作り方、乗り方の全てを同じにすれば、そのタイムが手に入るはずだと考えたのです。

WJS 誰になろうとしたのですか?
金子 関 泰光選手です。2015年のスキークラス最速選手は、世界チャンピオンにもなった関選手でした。関さんとは練習するゲレンデが同じで、良く話もしていましたし、いろいろと教えてもらっていました。
スラロームを始めて3年目の自分は、いくら練習してもタイムが上がらない。「このままでは、これ以上速くなれない。だったら、一度、全部自分の走りを捨てよう」「自分を捨てて、“関さん”になろう」と決めたんです。

WJS それまで練習してきた「自分」を捨てるのは、大変だったのではないですか?
金子 辛いなんてもんじゃないです。たった3年間ですが、それまでも一生懸命がむしゃらに練習してきましたからね。それこそ「普通にジェットに乗れなくなるかも」っていう恐怖しかなかったし、そんな自分がみじめでした。でも、前に進むには「関さんになる」という方法しか、努力するべき方向が分からなかった。思い浮かばなかったんです。



1人でゲレンデに来て、真冬の海にブイを張って、日が暮れるまで1日中、小さなコースを走っています。知らない人が見たら、「あの人、まだいる。何をやっているんだろう」と思われていたんでしょうね。


驚いたのは、関さんのマシンは「全然速くなかった」こと

WJS 「関選手」になるために、具体的に何をしたのですか?
金子 関さんを徹底的に分析しました。マシンもライディングも、何もかもです。彼女に手伝ってもらって動画を撮ってもらい、コース取り、コーナーの進入角度、ライディングフォーム、マシンなど、何から何まで、とにかく全部関さんの真似をするために徹底的に分析したんです。

WJS それで、タイムは上がりましたか?
金子 最終的には上がりました。でも、最初はタイムどころではなかったです。

WJS 何から真似を始めたのですか?
金子 まず、マシンからです。関さんは、なんでもオープンに教えてくれました。驚いたのは、関さんのマシンは、「全然速くなかった」こと。むしろ、他のS-1ライダーよりも遅いくらいです。

WJS でも、関選手はスキークラスのチャンピオンですよね。遅いマシンでは勝てないのでは?
金子 関さんのマシンを真似る途中でいろいろと分かって来たのは、「速さ」よりも「乗りやすさ」に重点をおいていたことです。もちろん、遅いはずはないと思うのですが、安定性に優れているので、遅く感じるんです。



それまで培ってきた自分のライディングの全てを捨てても、本人になりたかった関選手(写真左)。とても大切なS-1仲間で、優しい先輩だという。


アクセル全開が「最速」だと信じていたのが、間違いだと理解しました

WJS 関選手と金子選手は、何が違ったのですか?
金子 ブイを曲がるときって、普通は減速しますよね。曲がるわけですから、水の抵抗も増します。それがブレーキとなります。でも、関さんはコーナリングの最中でも、常に「前に、前に」進みます。常に水を捉えているので、船が水から離れない。インペラーが常に水を捕まえている。これが関さんの最大の武器であることに気が付きました。

WJS 関選手は、コーナーでブレーキングしていないのですか?
金子 「ブレーキング」という表現が正しければ、していません。クルマで例えると、スピンする手前、ギリギリで耐えながら、コーナーを曲がっている感じです。

WJS 関選手は、自分と比べて明らかに「前に行く」走りをしていたのですね?
金子 もちろんそれだけではないのですが、それが分かったのは大きな収穫でした。関さんのように走らせるためには、常にジェットが水を噛んでなければいけない。
それが分かったときは、愕然としました。それまで、アクセル全開が最速だと信じていたのに、それが間違いだと理解しました。

WJS アクセルを握るほど速いのではないのですか?
金子 状況にもよりますが、アクセル全開だと、コーナリング中に一瞬抜けたりする。抜けるというか、インペラーが噛まずに空回りのような状態になる瞬間があることに気が付いたんです。ブイが流れてコースが広くなったりすれば別ですが、通常のコースであればアクセル全開は無理なんです。

WJS スラローム競技の場合、「抜ける」ことが大きな「タイムロス」になるのですね。
金子 それだけで、「0.6秒」のタイムロスになります。どれだけ頑張っても、「抜ける、立て直す、もと通りに水を捉える」の作業に、「0.6秒」必要です。アクセルを全開にすることがダメなのではなく、「常に水を捉えられる繊細なアクセルワーク」が必要だということです。

WJS クルマで言うところのスピンするギリギリ手前で走りきるということですか?
金子 そのとおりです。究極を言えば、「このスピード領域で進入すれば、スピンするか、強烈なブレーキング作業を行わないと曲がれない」という現実があります。スピンするギリギリ手前の領域で走りきれれば最速のタイムです。だから、マシンも人間も「ギリギリ」を少しでも上げられるように改良するのがスラローム最速だと気が付きました。



関選手のコーナリングの特徴は、常に「前に、前に」進むこと。ジェットが水から離れないように走らせる、卓越した技術だ。


関選手を完璧に分析して、さらに自分のいい部分を取り入れた。だから、今は誰にも負ける気はしません

WJS 関選手の走りを徹底的に分解して解析していく過程で、さまざまな気付きがあったんですね?
金子 はい。それまでの3年間は、ただ闇雲に走っているだけでした。分析をしていくうちに、「なぜ、関選手が速いのか」がだんだん理解できた。「他の選手に比べて、マシンも遅いと感じるのになぜ?」という疑問から、「1人だけコーナーで前に進んでいる」ということを見つけたのです。

WJS 素朴な疑問ですが、関選手を全く真似たら、タイムも関選手と同じになるのではないですか?
金子 最初は、どんどんタイムも良くなってきたのですが、途中で気が付いたんです。関さんと自分では、体の大きさも体重も違う。関さんを真似ることはできても、関さんにはなれない。
それからは、「関さんじゃない自分」が、関さんの持つ「常に前に進む」というテクニックを、どうやって具現化していくかを考えるようになりました。

WJS そこから、金子選手独自の走りへ変わっていくのですね?
金子 はい。関さんは片足が悪いので、右足の踏ん張りが人より弱い。そのため、非常に乗りやすく安定したマシンに仕上げていたのです。でも自分は、関さんよりも踏ん張りが効くので、乗りやすさや安定という部分を犠牲にしても、より水を捉えられるマシンに仕上げました。



「関選手にはなれない」ことを理解してから、マシンの作り方を変えた。乗りやすさや安定という部分を犠牲にして、水を捉えられるマシンに仕上げた。


お風呂のなかで湯船に浸かりながら、手で水面をバシバシ叩いてみたんです。そこで気が付きました

WJS 関選手ほど乗りやすくはないけれど、同じくらい「前に進む」方法を考えたということですか?
金子 その通りです。具体的に言うと、ある一定のエンジン回転領域においてだけ、すごく前に進むマシンです。最初から最後まで精密機器のようにアクセルに反応するマシンなどはできません。だから、最初の初速は捨てる。最高速もそれほど求めない。スラロームで最も求められる回転領域で走り続ければ、最速タイムが出せるマシンにしました。

WJS S-1競技は、スタートブイを通過した時点でタイム計測が始まります。ゼロスタートのスピードはいらないと考えたわけですね?
金子 そうです。だから、他の選手に自分のマシンを乗せたら、アクセルを握っても前に進む反応が鈍いと不評でした。しかし、上手い選手は、そのパワーバンドを見つけることに長けているので、「これは楽しい」と言ってくれますし、実際に良いタイムを出します。乗り手を選ぶマシンです。

WJS マシンの作り方で関選手に勝てたのですか?
金子 それでも、関選手のコーナリングスピードには敵いませんでした。だからとにかく考えました。ずっと考えているうちに、あるときお風呂のなかで湯船に浸かりながら、手で水面をバシバシ叩いてみたんです。当然、反動がありますよね。手のひらで瞬間的に水を下に押してみると、反動で跳ね上がる。「あれ? これって使えるんじゃない? コーナリング時に、ジェットを傾けて水を押しているな」って。それを利用しようと思い付いたんです。

WJS それは、どういうことですか?
金子 常に水を噛ませながら、押し切った反動も使って前に進ませる。その反動を使って次のコーナリングのきっかけにするということです。

WJS 神業のような走りですね。金子選手以外も、S-1ライダーでそういう走りをやっている人はいるのですか?
金子 関さんは、やっています。他の選手でも、調子の良い選手は無意識でやっていたりしますが、意図的にやっている選手は関さんくらいですね。

WJS 金子選手のスラロームを見ていると、一定のリズムでコーナーを走って、まるで踊っているように見えるときがあります。
金子 それです。「グーッ」てコーナーに入って出口で水を押すので、「ビュッ」っと伸びるんです。コーナーでは「グーッ、ビュッ」というリズムを意識してやっています。それが「踊っているように見える」と言われることがよくありますね。

WJS その領域まで自分を高め、2016年の全国大会で、ついに関選手に勝ちましたね。
金子 はい。僅差でしたが、「これで自分が日本一だ!」と思いました。それで、翌2017年は、火が付いた関さんとバチバチにやり合うんだろうなと思っていたら、関さんがS-1を引退されてしまった。今までは関さんの後ろを追いかけていましたが、これからは自分が引っ張って行く立場なんだなって……。



「関さんになるしかない」と努力を重ねて、2016年のS-1全国大会で、関選手に競り勝って日本一に! 努力が報われた瞬間だ。


「関さんになるしかない」と努力していた年が、一番、辛かった

WJS まとめると、2012年にスラロームの練習を始めて、2013年からS-1の大会に出場しました。ものすごい努力があって、2016年~2019年まで、4年連続スキークラスのチャンピオンを獲得。今、日本最速のS-1スラローマーになったわけですね。
金子 ありがとうございます。本当に、2015年ごろの「関さんになるしかない」と努力していた年が一番、辛かったですね。自分のスタイルを全部壊していくわけですから、「乗れなくなるかも」って思いました。

WJS 今、もしS-1が復活して、関選手と戦うことがあったら、勝てると思いますか?
金子 日本最強の関さんを徹底的に分析して、自分にない部分を全て取り入れた。それにプラスして、自分の良い部分を取り入れたわけですから、今は誰にも負ける気はありません。
ただ、2019年を最後にヤマハのS-1そのものが終了してしまったので、去年(2020年)は何をしていいか分からなくて……。それまでは、365日、スラロームのことを考えて生活していたわけですから。完全な「燃え尽き症候群」になっていました。

WJS 最後にお聞きしたいのですが、金子選手が思う「最も上手いS-1ライダー」はどなたですか?
金子 北澤勝也選手です。ライディング技術に関して、彼の右に出るものはいないと思います。

WJS そこは、関選手ではないのですか?
金子 関さんともよく話していましたが、北澤さんが、自分たちのように、あの素晴らしいライディング技術を活かせるマシンを作り上げてきたら、多分、勝てないだろうって。S-1競技はレギュレーションで改造できる範囲がとても狭いです。だからこそ、その狭い範囲でギリギリまでやれることをしないとタイムは出ません。仮の話ですが、北澤さんがそういうマシンを造ってきたら、私の尻に火が付きますね。



「最も上手いS-1ライダー」といわれた北澤勝也選手。走行中、頭の位置が変わらないのがすごいと言う。北澤選手のライディングの一番の脅威は、荒れた水面でも、平水面のように走る技術。彼の走りを見て、「フラットな水面」だと思って走ったら、実は荒れていたというのは良くあったそうだ。
全国大会の会場は、比較的フラットな水面が多かったが、これが荒れた海で開催されていたら、S-1の歴史は違っていたかもしれない。


左が写真左が、スーパージェットモンスター北澤勝也選手。右が4年連続チャンピオン・金子聡選手。

取材当日、金子選手がスラロームブイを走ってくれた。(動画撮影/麻知子さん)

S-1スラロームにハマると抜け出せなくなる。365日「どうやったら速くブイを回れるのか」を考え続けた。それは今でも変わらない。


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