取材に出かけた日の霞ヶ浦の最高気温は6℃、最低気温は3℃、水温は約5℃と、冬らしく寒い日であった。
この日、近日、当ウェブサイトで公開予定の「S-1(スラローム)物語」の撮影で、スラローム競技の世界チャンピオン・関 泰光選手と、スキークラスの日本チャンピオン・金子 聡選手に取材をさせていただいた。
「スラローム」という競技を簡単に説明すると、世界統一規格の「スラロームコース」を使って、最速タイムを競うもの。専用の治具を使うことにより、世界中のどこでも同じコースが作れる。アメリカで行われているワールドファイナルでも、正式な種目となっている。
今回、私もS-1スラロームのコースを体験するため、真冬の霞ヶ浦で金子選手の愛艇・スーパージェットでブイを走らせてもらった。
一度、ヘルメットを被らずに転んだ瞬間、いきなり頭部全体と顔面を、何枚もの「濡れたタオル」で思いっきり殴られたような感覚に陥った。一瞬でフラフラになり、心が折れた。
体は、自慢の高機能ドライスーツのおかげで何ともないが、足と顔は逃げようがない。首から上が凍傷だ!
もう、デッキに上がって走り出す気力も消え失せ、そのままジェットに引きずられて、岸までたどり着いたのだった……。極寒の霞ヶ浦をナメていた。
クローズドのレースコースを走るときは、コースも広いし、直線で休んだりしながら、ある程度、自分のペースで走れる。
ところがS-1スラロームは、1回20秒の戦いなのだ。ひとつブイをまわったと思ったら、もう次のブイのことを考えないといけない。楽しいけれど、よく転ぶ。今日は、1年のなかで最も泳ぎたくない水温だった。
霞ヶ浦には、「大山スロープ」という、水辺のレジャーを楽しむため、皆で使えるコンクリートスロープがある。
ジェットの上下架ができる場所が手前と奥の2カ所にあり、今回は、「奥」のスロープからジェットを降ろしての取材であった。
撮影をしていると、「手前」のスロープでブイを張って練習をしているライダーが何人か、挨拶に来てくれた。そのなかの1人が羽生さんだった。
スタンドアップで沖の方から現れて、我々の前で上陸。見ると、首元からビニールチューブを垂らしている。
「そのチューブ、何ですか?」と尋ねると、「ハハハ、あんまり寒いんで、ぬくぬくキットの配線を1本増やして、体に通るようにしちゃった!」と、笑った。
「ぬくぬくキット」とは、「エンジンを冷やし終わって、お湯になった冷却水を手に掛ける装置」のことだ。一年中ジェットスキーに乗りたい先人たちが開発した、超便利アイテムなである。
ぬくぬくキットは、大抵の場合、両手の甲に温水がかかるようにチューブが引かれている。ちなみに、私の愛艇SX-Rは、両手だけでなく、足にもお湯ができる仕組みとなっている。
羽生さんは、さらにチューブを増設。首筋からドライスーツに突っ込んで、体にお湯が流れるように考えたのだ! 源泉かけ流し湯のように、体にジェットの冷却水をかけ続けて温まろうというのである。
首からホースを出している羽生さんの姿を見た瞬間、彼を心底、尊敬した。そしてワイルドな羽生さんを「男前」だと思った。
「それ、温かいの?」と、スラロームチャンピオンの金子選手が聞いた。
「ダメだね。今、ジェットに乗ったばかりでエンジンが温まってないから水が冷たい」と、羽生さん。
私は思い出した。ぬくぬくキットのお湯は、エンジンが温まってくるにつれて、手にかかるお湯の温度が上がってくるのだ。本当にエンジンが温まると、手の甲にお湯をかけたとき、グローブをしていないと耐えられないぐらい熱くなる。それが真冬の気温と、ジェットに乗る水しぶきで冷やされ、ちょうどいい温度になる。
羽生さんの体に通されたホースの先端は、ちょうど股間のあたりに来ている。このまま走り続けたら、大事な場所に熱湯が直撃するのは間違いない……。やっぱり羽生さんは「男前」だ。
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