水上バイクは、単に乗って遊ぶだけではない。乗り手のルールとマナーが伴えば、非常に有益な乗り物でもある。その証拠に、2011年の東日本大震災、2018年の西日本豪雨の際には、心ある水上バイクユーザーの「水上バイクによる救助活動」により、多くの人命が救われている。
全国の消防署では、水難救助のために水上バイクを採用しているところも数多くある。より緊急性の高い事故や、船でのアクセスが難しい場所では、機動性に勝る水上バイクが出動する。
水難救助において、「水上からの情報は、極めて重要なもの」だ。潮の流れや波の具合といった詳細な状況は、実際に現場に行って、水の上からでないと把握できない。そのために、スピードが出せ、機動力のある水上バイクは、関係機関から重用視されている。
水難救助の現場に、水上バイクは「なくてはならないもの」に、なりつつある。
また、スポーツの分野では、水上バイクの機動力を生かして、サーフィンやセーリング競技の大会で、レスキュー艇として使われている。現在、水上バイクはマリンスポーツのレスキューに欠かせない存在である。
ビッグウェーブの本場・ハワイでは、ライフセーバーが水上バイクを駆使し、レスキュー活動を行っている。世界各地で行われるサーフィンの大会でも、レスキューに水上バイクを使うのは当たり前だ。
日本でも、海のイベントやコンテスト、夏の海水浴場監視業務などに、水上バイクが導入されるケースも多い。
国内で、水上バイクでのレスキュー活動を行っている団体として、「シーバード ジャパン」や「ウォーターリスクマネージメント」「K38 Japan」などがある。
これらの団体が協力して、今年7月~8月上旬に行われた国際的なセーリング大会で、水上バイクが監視艇として活躍した。
「シーバード ジャパン」とは、『水上バイクを用いた社会貢献を目指す諸団体に、水上オートバイを提供・配備すること』と、それらの広報活動を目的に、2013年にスタートした団体である。
山村氏が使うレスキュー艇は、「シードゥ SAR」という救助艇に特化した水上バイクで、シーバードから提供されている。この「SAR」で、夏の国際的なセーリング大会でも、ボランティアで警備を行っていた。
イベント時の水上バイクの役目は、レース水域に関係ない船が進入しないよう、ゾーンディフェンスをすること。会場となった江の島海域は、週末にはプレジャーボートやヨット、レジャーの水上バイクが数多く出港している。そのため、レースが開催される海面を走る船に対し、「迂回を呼び掛ける」。
山村氏もシーバード ジャパンの一員として、朝早くから「SAR」に乗ってパトロールし、大会がスムーズに運営されるために尽力していた。
少し話は脱線するが、「SAR」は、2015年にBRPから発売された、レスキュー用に開発された水上バイクである。360度、どの角度からでも救助ができる。両サイドには、バナナボートのようなフロートを装備。左右のフロートがトランサムのように後方に飛び出し、水上バイク本体とポンプを保護している。
フロントバンパーの強度も、通常より格段に上がっている。フロートは、アンダーハルの延長上にV字形状で装着されているので、低速時や停止時には浮き桟橋になるし、高速走行時にはアンダーハルの役目をこなしてくれる、超スグレモノなのだ。
SARの特筆すべき点は、「水上バイクに不慣れな人が乗っても、救助艇として武器となる」こと。このSARは、左右のフロートのお陰で、自力でひっくり返すことができないほど安定性が高い。
このマシンに、山村氏のような熟練の水上バイク乗りが操船すれば、まさに「鬼に金棒」だ。
20年以上前から、官民一体となり、「水上バイクで海の啓蒙活動」を行っている。今年の夏は、国際的なセーリング大会で、警備のボランティアを行っていた山村氏だが、普段は、地元・広島県竹原市の海を守る活動も行っている。山村氏は、20年以上も前から、海上保安庁と協力して「瀬戸内合同パトロール」という「海の安全の啓蒙運動」を行っているのだ。
「瀬戸内合同パトロール」は、編集部も何度か同行取材をさせていただいている。このイベントは、有志の水上バイクユーザーがボランティアで集まり、竹原市の沿岸海域で釣りをしている船や、水上バイクを楽しむユーザーに啓蒙のパンフレットを配布し、ライフジャケットの着用や、ルールとマナーを呼び掛けるものである。
世間的に水上バイクは「取り締まられる側」としての印象が強いかもしれないが、実際には、マナーのいい、良識的なユーザーも各地にたくさんいる。このパトロールも、自ら進んで参加してきた有志の水上バイクユーザーによって支えられている。
特に、山村氏がマリーナを構える瀬戸内エリアは、マリンレジャーを楽しめる多彩な環境に恵まれている。多くの島々に囲まれた水域のいたるところで、休日を楽しむ人たちが船やボート、水上バイクで集まってくる。
島には上陸できる大小さまざまな砂浜があり、海からしか行けない無人島の、雰囲気のいいビーチもたくさんある。どの場所も、「何としても守りたいすばらしい環境」ばかりだ。
パトロールは、そういった場所に集まる人たちに安全を呼びかけながら、「啓蒙パンフレット」を配っていく。必要があれば、具体的にマナーなどの指導をするプログラムも用意されている。
海上保安庁の巡視船と一緒に行動するので、大きな船が入れない浅い水域では、水上バイクが活躍する。大きな巡視船と小回りの利く水上バイクの組み合わせは、こういったパトロールには最適のコンビネーションを発揮する。
海上保安庁と合同でパトロールを始めてから、竹原市沿岸海域で遊ぶ水上バイクユーザーのほぼ100%が、ライフジャケットを着用するようになり、確実に成果が上がっているという。
パトロールを始めた当初は、“水上バイク”というだけで好意的には見られないこともあったが、年を追うごとに活動が認知され、今では「ごくろうさん」、「今年もやってるんだね」と、ねぎらいの、声を掛けられることも多くなってきた。参加した水上バイクオーナーたちが、自分自身でパンフレットを配ることで、本当の意味での啓蒙活動になっているという。このような活動を通じて、「地域の安全やマナーを守る」ことが、“他人事”ではなくなっていくのだ。
山村氏は「こういう活動を継続して行っていくことが、瀬戸内海で遊ばせてもらっている“私たちの役目”だと思っています」と語る。
こういう活動を続けていくことで、「一般の人が持つ水上バイクに対するネガティブなイメージ」を変えていきたいと考えている。何より、水上バイクユーザー自身が「海で遊ばせてもらっている」と、意識を変えることを願っているのだ。
山村氏は、2018年まで、毎年9月に行われていた水上バイクの耐久レース「アイランズカップ竹原」の実行委員長を務めている。(※2019年は竹原市海域で起きた事故のため、2020年はコロナ禍のため中止となっている)。
このイベントは、全国的にも非常に珍しい「行政が主体となって行う水上バイクイベント」である。
「多島美の“美しい瀬戸内の景色”を、多くの水上バイクユーザーに楽しんでほしい」という思いから計画されたもので、他では見ない、「4時間」という長丁場であることも特徴だ。
また、このイベント終了後に、毎回、呉海上保安部による水難救助訓練が組み込まれている。ヘリコプターと巡視艇を使った救助訓練は、普段見ることがない光景で、それが間近で見られる貴重な機会である。
水難事故は、文字通り「1分1秒が生死を分ける」。免許があれば誰でも、水難現場までは行けるが、そこで安全かつ効率的に救助活動を行うスキルは、実践的な訓練を通じて学ぶしかないのだ。
水上バイクは、非常に「二面性」のある乗り物である。あるときは「海の暴走族」で「ならず者」。世間から「なくなってしまえばいい」とまで言われることも多々ある。
そしてあるときは、「正義の味方」として、何百人の命を救う。悪の部分も、善の部分も、全部、水上バイクに乗る「人間」が行っている。
近年、マスコミには“悪の部分”だけが取り上げられる。それだけに、こういった「善の活動」を一般に周知させていくことが重要なのである。
「毎年、地道に活動してきたことが認められているのか、地元の漁師さんや漁港の方々も水上バイクに対して悪い印象は持っていない」と山村氏はいう。地域の人々から、マナーを守って遊ぶ『海の仲間』だと思ってもらえるのは非常に嬉しいことです」と続けた。
これが、瀬戸内合同パトロールの成果である。これが全国的に広がれば、水上バイクのイメージも変わる。
こういった、「ニュースにもならない地道な活動」が、水上バイクのイメージを“良い方向”に変えていくのだろう。
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