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「コロナ渦の中、なぜ戦う!」アメリカで行われた「水上バイクのレース」ワールドファイナル参戦記・チーム・ベルファクトリー片野丈一郎、未来への挑戦 水上バイク(ジェットスキー)

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2021 WORLD FINALS  Participation history  Team Bell Factory Challenge


片野丈一郎選手と「チーム・ベルファクトリー」の挑戦

これは、今年(2021年)10月、アメリカのレイクハバスで行われた、水上バイクの世界大会「ワールドファイナル」に参戦した、選手と「チーム・ベルファクトリー(以下、ベルファクトリー)」の挑戦の記録である。「いつかレースでアメリカに行ってみたい」と思っている方、参考になりますよ!

渡米前の9月中旬。日本にて。

2019年、世界中のレーサーが欲したタイトル「トリプル・クラウン」を獲得した片野丈一郎選手

ベルファクトリーは、片野丈一郎選手の所属チームである。片野選手は2019年に「Jet ski World Series 2019」のPro Sport GPクラスで、世界チャンピオンの証「THE TRIPLE CROWN(トリプル・クラウン)」に輝いている。

トリプル・クラウンとは、2019年に新設されたもので、7月のベルギー大会、10月のアメリカ大会、そして12月のタイで行われた3つの大会を総合したもの。この3つの大会を「JETSKI WORLD Series 2019」と呼び、総合チャンピオンは「世界チャンピオン」の名誉と、高額の賞金を手にすることができる。
片野選手は、そのタイトルの「初代チャンピオン」となった。

2020年はコロナ禍でヨーロッパとアメリカの大会が中止となり、タイで行われた「JETSKI WORLD CUP」と「JETSKI WORLD Series」が併催という一発勝負となった。この大会では、世界第2位と惜しくも連覇を逃した。
その雪辱を晴らすべく、アメリカ・レイクハバスで行われる「ワールドファイナル」に出場する片野選手とチーム・ベルファクトリー(チーム監督であり彼の実父・宣之氏、そしてコンストラクターの藤江功一氏)。

今回、「Pro Sports GPクラス」に参戦する片野選手が、どのようなスケジュールで戦ってきたのか、参戦の様子をレポートしてもらった。

「新しいハバスの名所・発見!」「PWC monument」

2020年、レイクハバス市に建造された「PWC monument」の前で記念撮影。この記念碑は、Pro Watercraft社とPWC愛好家のグループが協力して造ったものである。

レイクハバスは、1980年代初頭から世界選手権の開催地となっており、世界中のレーサーを迎えている。現在、レイクハバスが「世界のPWCの首都」としての地位を確固たるものにするため、PWCモニュメントの敷地内に、ベンチ、PWCの歴史を紹介するタイムラインウォーク、貢献者のプレートなどを追加していく計画が進んでいるという。

片野丈一郎選手とチーム・ベルファクトリー「ワールドファイナル参戦記」

日本出発からレース当日までのスケジュール

    • 「10月3日」 日本発→同日・ロスアンゼルス着

苦楽を共にするチーム・ベルファクトリーのメンバー。


    • 「10月4日」 レンタカーにジェットを積み込み、アリゾナ州レイクハバスへ移動。到着後、レース会場でライダースミーティングに参加

ロサンゼルス出発。国内よりトレーラーとレース艇2台を送っているので、それをピックアップする。

車で6時間走り、レイクハバスのレース会場着。

インスペクションエリアへ行き、マシンをチェック。


    • 「10月5日」 ライダーは、マシンの現状を確認するため、昼からテストラン。チーム監督は、レース会場にてエントリー手続き。夜、コンストラクター・藤江氏がエンジンを分解する。

ボディービーチ(練習用ビーチ)の入り口にチームのステッカーを貼る。「ベルファクトリー・アメリカ参上!」オリャー。

日本から発送したマシンに不具合が出ていないかなど、マシン状態を入念にチェックする。

翌朝、新しいピストンが届く予定。すぐに装着できるよう、エンジンを分解しておく。


    • 「10月6日」 日本を出発する前に、片野選手から「もう少し(下のパワー)エンジントルクが欲しい」という要望があった。
      対処方法として、「トルクの出るピストンに入れ替える」ことにする。そのピストンが日本国内になかったため、事前にアメリカに発注していた。
      そのピストンが届いたので、エンジン内部のピストンを交換する。

      午前中にエンジンが完成。昼から「慣らし運転&テストラン」を行った。「下のパワーが上り、スタートで前に出られるようになった」ことを確認した。

届いたばかりの新しいピストンを装着。

こんな感じ。

ピストンを交換したので、新品エンジンと同じ状態になった。早速、慣らし運転を行う。

慣らし運転後、性能を確認すると、狙い通りのパフォーマンスが出ていた。


    • 「10月7日」 朝一番で、マシンホルダーを交えてのスタート練習開始。
      「何回転までホルダーが持てるのか?」「最も速いスタート回転数は?」「最も悪い条件での、ホルダーとのマッチング」といった、さまざまなスタートテストを行う。
      1時間ほどスタート練習をした後、片野選手がレースコースを走る。その日は、ワンタンク程度乗って終了。

ホルダーを交えてのスタート練習。

「何回転までホルダーが持てるのか」をテストする。

「最も速いスタート回転数」を確認する。

片野選手がレースコースを走る。ワンタンクほど乗ってみた。


    • 「10月8日」 レース前日は、終日オフとする。レース前にあえて休日を作り、メンタルを整える重要性は、豊富な海外レースの経験から得たものだ。
      長期間、常に緊張状態でいるのは良くないので、あえて「レースとは、全く違う環境に身を置ける日」を設けるのがベルファクトリー流。

      この日、全員でグランドキャニオンに観光に行った。
      ちなみに、タイでレースを行う際も、必ずこのようなオフ日は設け、寺院に足を運んでいるそうだ。

片野丈一郎選手、グランドキャニオンに臨む。

あえて休日を作り、メンタルを整える。

明日のレースに備えて、マシンの足回りチェック。


  • 「10月9日」 レース当日

Pro Sports GPクラスは全3ヒート制

第1ヒート

第1ヒートは午前10時ごろスタート。
スターティンググリッドに18台が並んだ。
結果は1位。文句なしの「ホールトゥフィニッシュ」である。

スタートした瞬間、ホルダーを務めていた監督の片野宣之氏は、「ジョーの勝ち」を確信したという。さらに、「今大会は優勝」と強く感じた。

第1ヒートは、終始、片野選手がレースを引っ張り、彼の走りに食らいついてきたのは、元世界チャンピオンのダスティン・ファージング選手の息子で、今大会の優勝候補のひとり、デヴィン・ファージング選手ただ一人だった。
しかし、片野選手は常に真後ろから迫るデヴィン選手を確認しながら走っていたので、抜かれる心配はなかった。

レースは全10周で、3周目ぐらいから周回遅れが出始めた。例年は、周回遅れの選手による「思わぬブロック」に遭い、波乱があるのだが、今年はそのような走行妨害もなく、「フェアに前に行かせてくれて助かった」と語った。

ちなみに、デヴィン選手のハルはシードゥHX形状の軽量ハル。片野選手はフリーダム製の軽量ハルである。2年前に戦ったときは、デヴィン選手と片野選手は、同じフリーダム製の軽量ハルを使っていた。

荒れた水面のコーナリングは片野選手の方が速いが、フラットな水面では、デヴィン選手の方が速そうである。「トータル的に、デヴィン選手はノーマルの軽量ハルを選んだ」と考えられる。いずれにせよ、片野選手のマシンの足まわりは、藤江氏によってスペシャルなセッティングに仕上げられている。

レース直前は、音楽を聴きながら体をほぐす。

スタートは、狙い通りのホールショット。

周回遅れのレーサーによる、「キツいブロック」もなかった。

レース終盤、デヴィン選手が後方にいるのは分かっていたが、「脅威ではなかった」と語る。最後までレースをコントロール出来たという片野選手。

第2ヒート

第2ヒートは午後1時スタート。
片野選手は、スタートで出遅れた。1周目はアウトコースの2位で第1ブイを通過したが、合流でインコースから来ていた2台に先行され、ファーストラップは4位からとなる。

そこから追い上げ、4周目で2位まで上がったが、トップを走るデヴィン選手に追いつけない。結果、このヒートは2位で終わった。 3ヒート目に勝負をかける。

スタートは悪くなかったが、「隣のライダーが抜群のスタートを切った」という。1周目は4位だったが、2位まではすぐに上がれた。しかし、1位のデヴィン選手が思いのほか速く、「次のレースで勝負だ」と決めた。
以前より、デヴィン選手のライディングスキルが上がっていることを肌で感じた。

この日1日で、3ヒート走る過酷な戦いとなった。

薄くて軽いドライカーボン船体は強度が不足する。ハル底に無数のクラックがある。常に補修しながら戦う。

第3ヒート

第3ヒートは午後3時スタート。
インコースにデヴィン選手、アウトコースに片野選手。ともに、アウトとインのホールショットを獲得する。
2艇は、ほぼ同時に合流ブイに突入すると、イン側のデヴィン選手がわずかに前に出て、2位が片野選手となった。

ここから、2人のデッドヒートが始まる。
レース序盤から、片野選手は果敢に攻め続けた。選択コースで分かれ、僅差でデヴィン選手が抑えるという展開が何周も続く。周回ごとに手に汗握る緊張の戦いが続くので、ギャラリーも2人から目が離せなかった。

周を重ねると、周回遅れの選手が出始める。周回遅れの選手を、2人が鮮やかにかわしていくのだ。

最終ラップのゴール直前のブイに片野選手が接触して、わずかに減速してしまう。結果、デヴィン選手が逃げ切ってトップフィニッシュ。チャンピオンもデヴィン選手の手に渡った。
レースに「もし」はないが、もし、最終ラップでの減速がなければ、片野選手が逆転トップで優勝していた可能性は高かった。本当に惜しいレースとなった。

インにデヴィン選手、アウトに片野選手。ともに、好スタートを切った。2艇は、ほぼ同時に合流ブイに突入。イン側の分、有利だったデヴィン選手(写真右)がトップに立つ。左が片野選手。

3周目まではデヴィン選手の真後ろで様子を伺いならが走っていたが、4周目から勝負を仕掛けた。
真横に並び、何度もアタックしたが、ほんのわずかの差で抜けない。

ラスト1周の最終コーナーで抜きかけた瞬間、ブイにマシンの一部が接触。そのため、わずかにマシンが減速して僅差で2位でゴール。

レース内容が評価され、何度も取材を受けた。

表彰式。デヴィン選手(写真左)と片野選手の身長は、ほとんど同じである。昨年、タイの大会のときはひと回りも背が低かったのに、その成長に驚く。

片野丈一郎選手に聞いた「今回のワールドファイルと、今後の目標」



WJS 最初に聞きたいのが、今回、コロナ渦の中、なぜワールドファイルに出場しようと思ったのですか?
片野 将来的に、このジェットスポーツで名前が残せるような偉大な選手になりたいからです。今年と来年の2年間は、そのための礎を築くための2年間にしたいと思っています。だからアメリカに行きました。

WJS 今年のワールドファイナルの印象はいかがでしたか?
片野 今回はデヴィン・ファージング選手の成長に驚きました。

WJS デヴィン選手の、何に一番驚きましたか?
片野 体が大きくなったのにも驚きましたが、ライディングも変わっていました。今、世界中で最も練習している選手は彼だと思います。偉大な父親(ダスティン・ファージング選手)の英才教育を受け、毎日、何かしらトレーニングを続けていると聞いています。

WJS ワールドファイナルは僅差で負けましたが、次のタイでは勝てそうですか?
片野 やれると思います。精一杯頑張りましたが、今大会は、右手の側面を骨折していて、8割くらいのライディングしかできませんでした。次は万全の状態で戦うので、必ず勝ってチャンピオンになります。

WJS タイには、セッツーラ選手をはじめ速い選手がたくさんいますよね?
片野 アメリカで走って感じるのは、タイのレースは、「デヴィン選手と自分のチャンピオン争いになりそうだ」ということです。他の選手も速いですが、負ける気はしません。デヴィン選手とは、風向き次第で勝敗が分かれると思いますね。

WJS デヴィン選手の実力をかなり認めていますね。ちなみに、父であるダスティン・ファージング選手が出場したらどうでしょうか?
片野 僕もデヴィン選手も、まだ勝てないと思います。

WJS ダスティン・ファージング選手は、何がそれほど違うのですか?
片野 体中から「俺が1番!」「俺は誰にも負けない!」というオーラ―が出まくっています。あんな選手、他にはいません。やっぱり彼は「King D」と呼ばれるだけのことはあります。

WJS 今回のワールドファイナルは、悔しいだけで終わりましたか?
片野 全然、楽しかったです。スポーツクラスにも、こんなに若くて速いライダーが出てきたことが嬉しいです。「GREAT RACE!」と、会場中から声をかけていただいたのも嬉しかったです。

WJS 現在、デヴィン選手が18歳、片野選手が22歳と、これからも2人の戦いは当分、続きそうですね。
片野 はい。そのなかで、ジェットスポーツの上を目指していきたいです。




チーム監督・片野宣之氏が語る「今回のワールドファイル」

チーム監督の片野宣之氏は「良くやった」と、このレースでは何の後悔もないという。ただひとつ悔やまれるのが、「レース直前に、日本で人差し指を骨折したこと」だ。
「ジョーは、痛み止めを飲んで戦っていたが、もし骨折していなければ第2ヒートでデヴィン選手を捉えていたのではないだろうか。レースに“たられば”はないけれど、良く頑張った」と締めくくった。
また、アメリカでは、「良いレースをすると、しっかりと認めてくれる」という。コンビニなどで片野選手に会うと、「お前、グレート」と言ってくれるアメリカ人が多くいたそうで、「ジョーが認められて、嬉しかった」と語る。

藤江氏も「今までの戦いで最も良いレース。次に繋がる戦い方が出来た」と、満足げに語ってくれた。

次に片野選手が出場する国際レースは、来年2022年1月にタイのパタヤ市で行われる「JETSKI WORLD CUP」である。この大会は、デヴィン選手を始め、タイの英雄セッツーラ選手など、強豪ひしめく戦いとなる。まだまだ伸びしろ十分な片野選手だ。次の大会はぜひとも勝利し、世界タイトルの座を奪還してほしい。





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