2022年1月12日~16日に、タイのパタヤで「JETSKI WORLD CUP & JETSKI WORLD SERIES 2021」が開催された。この大会のメインカテゴリーのひとつPro Runabout(プロランナバウト) GPクラスで、砂盃 肇選手が出場し4位に終わった。
砂盃選手は、2018年大会と前回(2020年大会)、世界チャンピオンを獲得し、今回、3度目のワールドチャンピオンを目指していた。
彼は、14回の全日本チャンピオンを獲得しており、現在、「国内最強のランナバウトライダー」である。それだけに、この結果には全く満足していないだろう。
総合順位 | 選手名 | 第1ヒート | 第2ヒート | 第3ヒート | 第4ヒート |
---|---|---|---|---|---|
1位 | マーカス・ヨルゲンセン | 2位 | 4位 | 2位 | 3位 |
2位 | ムハマド・ブバイエア | 16位 | 1位 | 1位 | 5位 |
3位 | ムハマド・エルバス | 1位 | 9位 | 14位 | 1位 |
4位 | 砂盃 肇 | 14位 | 5位 | 5位 | 2位 |
5位 | ワリード・アルシャーシャニ | 15位 | 2位 | 7位 | 4位 |
Pro Runabout GPクラスは、15日(土)に第1、2ヒート、翌16日(日)第3、4ヒートの全4ヒートで争われた。今大会の優勝候補筆頭は、もちろん前回の勝者・砂盃 肇選手である。
しかし、第1ヒートがマシントラブルで14位、第2ヒート、第3ヒートともに5位、最終第4ヒートが2位と、総合4位に終わった。この結果に、ライブ中継を見ていた人たちは、「なぜ?」という思いだったことだろう。
今回、レース直後の砂盃選手に、この大会について語っていただいた。
WJS お疲れさまでした。レース直後でお疲れのところ申し訳ありません。この大会、4位に終わりましたが、何があったのですか?
砂盃 敗因は、自分自身の「驕り」です。昨年4月に行われた「JETSKI WORLD CUP & JETSKI WORLD2020」で世界チャンピオンを獲得し、どこか慢心していたところもあり、天狗になっていました。今大会は「全部、ホールトゥフィニッシュで勝ってやろう」って考えていました。でも、この場所で「ホールショットを狙う」のは、ある意味で非常に無謀なことです。レースが終わった今だからこそ良く理解できますが、それが一番の敗因です。
WJS 全部1位を狙ってはいけないのですか? 確かに今回優勝したマーカス選手は、第1、第3ヒートが2位、第4ヒートが3位と、勝ったヒートはありません。
砂盃 俺が世界チャンピオンを獲得したときも「そんな感じ」でした。今回みたいに、「全て1位で」なんていう狙い方はしなかったです。
WJS それが一番の敗因ですか?
砂盃 それだけではありませんが、最大の要因であることに間違いはないです。
今大会、「ガーコ3」と新開発の「ガーコ5」の2台を持って行きました。「ガーコ5」のほうが速いんです。第1ヒートから第3ヒートまで「ガーコ5」で戦い、第4ヒートだけ「ガーコ3」で走りました。
WJS 新開発の「ガーコ5のほうが速い」と言われますが、今大会、1度もホールショットを取っていませんよね?
砂盃 この場所でホールショットを獲るには、「マシンが壊れても良い」という考えでしか無理なんです。今大会でホールショットを獲得したのは、クウェートのムハマド兄弟と、カタールのワリード、タイのテラ・セッツーラです。彼らのマシンは、みんな壊れています。テラのブーストなんて、最大限の2.2まで上げているそうです。だから考え方を変えて、「勝つなら“後ろ”から」としないと、トータルでマシンが持たない。
WJS 今大会、私もライブ中継を見ていましたが、第1ヒートで2位を走っていたのに、いきなり先頭争いからいなくなってしまいました。あれは、何があったのですか?
砂盃 ステアリングケーブルが切れてしまいました。ハンドルが効かない。やっとの思いで、何とかゴールしたっていう感じです。
WJS 第2ヒートは5位でしたよね。いつもの砂盃選手なら、悪くても2位ぐらいにいるのに、最初から中盤にいたままでした。
砂盃 今大会、急にスタートのやり方が変わったんです。言い訳みたいになっちゃいますが、フライングなんかがあって、スタートのやり直しが続いて集中力に欠けました。
WJS 第3ヒートも5位でしたが、このヒートは3位を走っていたのに、4位のマーカス選手に外側からまくられて抜かれ、そのドサクサで5位だったジェレミー選手にも同時に抜かれました。あんな抜かれ方をした砂盃選手を見たことがなかったので、かなりショックでした。
砂盃 あれは、自分が一番ショックでした。後ろを全く見ていなかったんです。第3ヒートが終わったあと、悔しくて飯が喉を通りませんでした。自分のレース人生の中でも、ワーストに近い抜かれ方をしました。
WJS 第3ヒートのホールショットがクウェートのムハマンド選手(ゼッケン66)で、2位にタイのセッツーラ選手、3位が砂盃選手でした。このヒートは、選択コースでインコースを走るセッツーラ選手を抜こうと、砂盃選手がアウトコースから何度も仕掛けて、辛うじて抜けないというのが何周か続きました。そろそろ2位に上がるだろうと思っていたとき、選択コースの合流後の次のブイで、マーカス選手に抜かれました。その前から、何度かマーカス選手をブロックしていたように見えたのですが、後ろから来ることに気が付いていなかったのですか?
砂盃 マーカス選手が来ていることは、全く知らなかった。「セッツーラ選手を追い抜く」ということしか頭にありませんでした。選択コースで3度か4度仕掛けて抜き切れなくて、その後のコーナーで、マーカス選手にやられました。
自分が一番疲れている場所を、マーカス選手は狙っていたのだと思います。その後ろにいたジェレミーも、さすがに上手いです。前しか見ていなかった、完全に自分のミスです。
WJS 最終の第4ヒートで、ようやく2位になりましたね。
砂盃 あのとき「ガーコ5」ではなく、「ガーコ3」で走ったんです。
WJS なぜスピードの速い「ガーコ5」ではなく、「ガーコ3」に戻したのですか?
砂盃 「ガーコ3」のほうが、荒れた海面では思い通りに走れるからです。最初に言った「驕り」じゃないですけれど、最終ヒートは、ホールショットではなく「負けない走り」をした。
第4ヒートは、最初から最後まで2位だったんですが、あえて1位を抜きに行くのではなく、スピードを落として走りました。
WJS 最終ヒートだから「1位を狙おう」とは思わなかったのですか?
砂盃 あのときの1位はカタールのムハマド選手(ゼッケン38)でしたが、もし1位を抜きに行ったら、第3ヒートのときと同じようにマーカス選手にやられていたと思います。自分が選択コースで1位を抜こうと必死で攻めたら、その後のコーナーでマーカス選手が仕掛けてくることは目に見えていましたから。だから、あえてスピードを落として、マーカス選手に勝負を仕掛ける場所を作らせないようにしたんです。
WJS 確かに、第4ヒートでマーカス選手は、砂盃選手に仕掛ける場面はありませんでした。あの極限状態のレースで、そういった駆け引きをしながら走っているのですね。
砂盃 このメンツはすごいです。第3ヒートでマーカス選手にやられたように、前も後ろも注意しながら戦わないとダメなんです。
大会が終わってから、猛反省しましたよ。最初に言ったように、俺は世界チャンピオンなんだから“最初から最後まで圧倒して勝つ”みたいな考えは「驕り」でしかないと本気で思いました。
本当に悔しい。最初から、いつものように「チャレンジャーの気持ち」で大会に臨んでいれば、順位や結果も違ったと思います。今は、この悔しさをバネにして、「さらに強くなって、この場所に戻ってきたい」と思っています。
WJS レース終了直後にお疲れのところ、ありがとうございました。砂盃選手は、我々日本人が世界中に向かって「どうだ、すごいだろう!」と言える貴重な選手。プロ野球で例えるなら、大谷翔平選手のような存在です。次の大会で、チーム・マリンメカニックと砂盃選手のリベンジが見られることを楽しみにしています。
2019年に世界チャンピオンを獲得し、前回大会では2位となった片野丈一郎選手が参戦した。
この「Sport GP」というクラスは「タイの独断場」と言われ、タイ人にしてみれば、このクラスのトップライダーに片野選手がいることのほうが不思議なほどだ。
今大会は4ヒート全てで、タイのエース、スパーク・セッツーラ選手のホールトゥフィニッシュによる完全勝利となった。
片野選手も、スタートは悪くないが中速からトップスピードに伸びる領域で、タイ人選手に引き離されていた。それでも、持ち味である“怒涛の追い上げ”で順位を上げていったが総合3位に終わった。
ライブ中継を見た感じ、スタートでホールショットが獲れなかったことが敗因ではないかと思った。実は片野選手、このレースの1週間前に高熱を出し、体力的にも万全ではなかったという。それでも、これだけの走りを見せてくれた。
レース後、コンストラクターの藤江功一氏(K-1 Racing Service)が、「今回の敗因を検証しなければいけない」と語ってくれた。父親でチーム監督の片野宣之氏とともに原因を究明し、タイのエース、スパーク・セッツーラ選手を倒して、再び世界チャンピオンに返り咲いてくれることを願うばかりだ。
今大会3位となり、ワールドシリーズチャンピオンの座を勝ち取った片野選手。(撮影/藤江功一氏)。
表彰式直後のチーム・ベルファクトリー。写真左端が監督の片野宣之氏。中央が片野丈一郎選手、右から2番目がコンストラクターの藤江功一氏。
総合順位 | 選手名 | 第1ヒート | 第2ヒート | 第3ヒート | 第4ヒート |
---|---|---|---|---|---|
1位 | ケヴィン・ライテラー | 2位 | 1位 | 2位 | 1位 |
2位 | クエンティン・ボッシュ | 1位 | 3位 | 1位 | 3位 |
3位 | ラファエル・マーリン | 3位 | 2位 | 3位 | 2位 |
4位 | ゲータルス・アントワーヌ | 4位 | 4位 | 4位 | 4位 |
5位 | 倉橋秀幸 | 7位 | 6位 | 8位 | 6位 |
Pro Ski Grand Prixクラスに優勝したのは、オーストリアのケヴィン・ライテラー選手。彼は、ベルギーのクエンティン・ボッシュ選手と激しいトップ争いを見せてくれた。
このクラスも全4ヒートで行われ、ケヴィン選手、クエンティン選手ともに2回ずつ1位を獲得している。残りの2ヒートで、ケヴィン選手が2位、クエンティン選手が3位となり、総合優勝はケヴィン選手のものとなった。
3位のラファエル・マーリン選手は、2ヒートで2位が、2ヒートで3位の総合3位であった。総合4位のゲータルス・アントワーヌ選手は4ヒート全てで4位だった。日本人の倉橋秀幸選手が5位に入賞した。
スキークラスは、実力がそのまま成績となりやすい。今大会、実力者の一人であるジェレミー・ポレット選手は参戦していなかったが、ここに立った選手たちが、現在の「スキークラスの世界ランキングトップ選手」であると考えるのが妥当であろう。
優勝したケヴィン選手は、表彰式の最中でも、日本のナガイデザインがペイントしたヘルメットを離さず持っている。とても義理堅い選手である。
ワールドシリーズチャンピオンとなったクエンティン選手、今大会の第4ヒートで、トップを独走中に転倒し、3位でゴール。悔しい大会となった。 (撮影/藤江功一氏)。
この大会、このメンバーの中で、途中で抜かれたがトップを独走した日本人、倉橋秀幸選手。良いシーンを見せてもらった。次は勝つ姿を見せて欲しい。
日本の山本汰司選手が、美麗な技を見せて優勝した。(撮影/藤江功一氏)。
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