今回、この「WaveShark Foil(ウェーブシャーク・フォイル)」に試乗する機会を得た。
結論から言ってしまえば、「ウェーブシャーク・フォイル」は過去に乗ったことのある、こういった「動力付きサーフボード」のどれよりも、工業製品として完成度が高かった。 オールカーボンのボードは高級感に満ち溢れ、ワイヤレスのアクセルレバーは「マジか」と感じるくらい高性能だった。
私は仕事柄、さまざまな「動力付きサーフボード」のような乗り物に試乗してきた。そのなかには、ガソリンで動く2サイクル単気筒エンジンが装着されていたものもあった。それらは上級者用にチューンナップされていても、まるで「昔のラジコン」のような「昭和的なエンジンフィーリング」であった。トップスピードはそこそこ伸びても、初速が物足らなく感じたのだ。
しかし、今回試乗した「ウェーブシャーク・フォイル」は、まるで自動車の「テスラ」に乗っているような感覚だった。
モーターだけあって、無音なのにトルクフル。水上バイク乗りの私にとって、「無音」というのはかなり新鮮であり、違和感があった。
何より、「たかが2馬力」なのに、体重83kgの成人男性(私)が乗っても、初速もパワーもある。走りだした瞬間、「コレで十分だ」と感じたことだ。
いつも300馬力オーバーの水上バイクに乗っている私の頭は、軽くパニックを起こしていた。300馬力ですら慣れてしまって怖くもない私が「2馬力で十分」と感じるとは……。
乗り物における馬力は、船体形状や重量によって大きく変わってくる。水上バイクでいえば、260馬力のヤマハFXシリーズが、310馬力のカワサキULTRA310より、「ものすごく遅い」という印象はあまりない。
今回乗った電動サーフボード「ウェーブシャーク・フォイル」の重量は34.5kgしかない。 成人男性なら普通に持てる重さである。400kgを超えるジェットとは、比較にならないほど軽い。それなのに、十分なパワーと思える理由は、パワーウエイトレシオの関係かもしれない。
「ウェーブシャーク・フォイル」は電動なので、ジェット推進と違って、推進力のロスが少ない。「ジェット推進=最強・最速」と信じていた私は、「たかが2馬力のパワー」を前にして、圧倒的な推進力に少し泣きそうな気持ちになった。
ウェーブシャーク・フォイルは、ワイヤレスのコントローラーを握ることでスクリューが回って進む。コントローラーとモーターの相性の良さが素晴らしい。今まで、水上バイクの電子スロットルが最高だと思っていたが、このアクセルレバーはタイムラグなしで、思い通りに加速・減速が操れる。反応が良いのでピーキーさがないことに驚かされた。
速度やバッテリー残量も、このコントローラーに表示される。また、異なる4つの速度設定により、自分のレベルに合ったライディングが楽しめるのもいい感じだ。
試乗する前、最初にメーカー担当者に聞いたことは、「この乗り物は、楽しいですか?」「すぐに立てますか?」である。「商品の完成度だけ高いが、乗って楽しくない」のでは本末転倒だからだ。
担当者の答えは、「私が立つのに1時間かかりました。疲れたけれど、多分、楽しいと思う」と言う。それを聞いて、「ぜひ乗らせて下さい」と即答した。
良くある話だが、メーカーの担当者が、自社製品の「本当の楽しさ」を知らないケースは意外と多い。特に大手企業では、開発担当者でない限り、自社製品をとことん極める時間はないからだ。
それよりも安全性や耐久性、顧客の購買意欲といった「楽しさ」以外の部分を重要視しなければならない。その担当者が、ほんの少しの時間乗っただけで「楽しい」と感じたのなら、乗りこなせるようになったら、それ以上に魅力のある乗り物である可能性が高い。
最初に乗り方を教えてもらったとおり、まずは腹ばいでスロットルを握る。生まれて初めて乗る「乗り物」には、用心しすぎることはない。電動モーターなので、音は非常に静か。というより、ほぼ無音だ。
20メートルほど走って確信した。これは、ものすごく完成度の高い製品で、壊れそうな雰囲気は一切ない。あらかじめ用意しておいたヘルメットも要らない。安全性が担保されていると感じたからだ。
停止時からストレスなく加速していく、ボードの全長は1,680mm、幅は670mmだが、これだけ「大きな板」なら立てないわけがない。ウェイクボードやサーフィンの経験者なら、すぐに立てるようになるだろう。
しかし、ワイヤレスのコントローラーによる操作が必要なので、水上バイクのスタンドアップに乗っている人のほうが、すぐに慣れそうだ。
膝立ちから立ち上がると、簡単に立つことができた。「これ、ヤバい! 楽しい! 簡単そうで難しい」。
これは、かつて水上バイクがスタンドアップしかなかった時代にハマった感覚と同じだ。「もっと上手く乗れるようになりたい!」と、自然と思えてくる乗り物だった。
ボードから立ち上がってから、挙動に慣れるまで直線走行を繰り返した。ある程度スピードを上げると、水中翼に揚力が生まれ、ボードが浮かび上がる。船底と海面が離れることによって水面との抵抗がなくなり、動力が非常に効率よく推進力に変わる。
水中翼の長さが1メートルだから、実際には最大でも70~80cmくらい上昇するのだと思うが、実際に乗っていると、少し浮かび上がっただけでも、ものすごく高く感じる。
フライボードやホバーボードに乗って、高さの経験があっても恐怖心は残る。これがスリリングで楽しい秘密なのだろう。
ボードが浮き上がってから、バランスを保つのに苦労する。フロントから着水すると前のめりに水中に刺さって転ぶ。逆に後ろに体重をかけると後ろに転ぶ。浮き上がったボードの高さの分、痛さも増す。
メーカーのプロモーションビデオのように格好良く浮き上がって走りたい。出来そうで出来ない自分に腹が立つ。これの繰り返しだ。
気が付いたら、あっという間に電池の残量がなくなった。しかし、「あっという間」と思っていたのは自分だけで、時計を見たら1時間半以上も乗っていた。
替えのバッテリーを用意していなかったので、後ろ髪を引かれる思いで試乗終了。一緒に試乗してくれた、ジェットショップの加藤店長に「もっと乗りたかった」と叱られた。
電気自動車でも電気バイクでも、常々、電池の表示には大きな疑問があった。連続可能な走行距離が、メーカーの数値通りだという話はほとんど聞かない。大抵の場合、メーカー発表値よりも短い時間で充電が必要となる。
私が「ウェーブシャーク・フォイル」に乗ったのは1月中旬、場所は湘南・相模川だ。ちょうど、「この冬1番の寒波」と言われていた時期で、日中の最高気温は7度であった。
ご存じの通り、バッテリーは外温度が低いと性能が落ちる。当初、「連続使用時間は2時間」と聞いていたが、この日は、1時間半ほど走行したところで電池の残量がなくなった。もちろん「2時間」というのはあくまで目安であって、「使い方で変わる」のは当然だ。水上バイクも、アクセル全開で走り続けたら、あっと言う間にガソリンがなくなる。
それを鑑みても、気温7度で1時間半バッテリーが持った。しかも、ずっとアクセル全開で乗っていたにも関わらず、である。
現在、このとき試乗したモデルからバージョンアップした電池が使われ「3時間」持つということだ。バッテリーの進化は著しい。この企業なら、真冬でも2時間半ぐらい持つバッテリーは、容易く作れそうな気がする。
今回初めて「ウェーブシャーク・フォイル」に乗ったが、単純に「楽しい」と感じたほかに、「これを極めたら、もっと楽しそうだ」と思った。簡単そうで難しい。乗り物に奥深さがある。
ボードが「浮き上がった」ときと、「着水したまま水面を走る」ときの難しさは、全く「ベツモノ」である。
この日の試乗前、私は自分の愛艇「SX-R」に乗っていた。気温が低いので最高時速は104kmも出ていた。その後に乗った「ウェーブシャーク・フォイル」は、「最高速度45km」であったが、かなり速くスリリングに感じた。乗り物は形状や重量、乗り味によって、体感速度は全く変わる。
製造・販売元の「PowerVision(パワービジョン)」という会社は、水中や水上を走らせる高性能ドローンの分野で、世界的なリーディングカンパニーである。
この「ウェーブシャーク・フォイル」には、水上・水中で使われているドローンと、同じカーボン製のインペラーが装着されている。世界に認められた技術が、全てこのウェーブシャーク・フォイルに流用されているのだ。
今までに、この手の「サーフジェット系」の乗り物に試乗したことが 何回かあるが、もっと「泥臭い」乗り物であった。この「ウェーブシャーク・フォイル」は、もっと先進的である。いうなれば、「人間を乗せるドローン」であるということだ。新しい時代の到来を感じるものである。
2021年10月8日、オランダ人のNiels Noteboom(ニルス・ノーテボーム)氏が、「ウェーブシャーク・フォイルでジブラルタル海峡を横断する」ことに成功したという。ジブラルタル海峡の幅は、最も狭いところで14km、最長で45kmである。
ノーテボーム氏によると、「ジブラルタル海峡は危険なため、当初、天気、海流、風が少し心配でした。前半はとてもスムーズに進みましたが、途中で潮の流れが強くなり、大きな波が出て、少し不安になりました。それでも、私が使用したウェーブシャーク・フォイルは非常に上手く機能し、バッテリーも問題ありませんでいた。
旅を終え「このボードが、あればどこにでもチャレンジできる」と確信しました。次の冒険をすでに楽しみにしています!」と語っている。
このボード1枚で、広い海でも走り切る十分な性能があることが実証されている。
自動車やオートバイなどの電動バッテリーは、日進月歩の進化を遂げている。
「モーターなんて、まだまだ先の話」と考えていた私の脳味噌は、ずいぶんと遅れていたわけだ。
12年ほど前、私が初めて「テスラ」という電気自動車に乗ったとき、「日本の自動車メーカーは、何をやっているんだ!」と思ったくらい衝撃的な出来事だった。
この「ウェーブシャーク・フォイル」も同じ感覚である。「いつの間にこれほど……」という驚きが頭から離れなかった。とにかく、一度乗って、「2馬力」のパワーに驚いてほしい。
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