この記事は、2021年モデル、「ヤマハ 4ストロークのNEWスーパージェットでフリースタイルはできるのか?」というテーマで始まった。この検証にあたり、2000年のフリースタイル全日本チャンピオン・村尾 “DEVIL” 高明氏に協力をお願いした。
今回、乗り比べのため、発売されたばかりの4ストローク艇と、1996年モデルの2ストローク艇の2台のスーパージェットを用意した。両艇とも、エンジンは完全ノーマルだ。
ECUの書き換えすら行っておらず、フリースタイルができるように、ポンプノズルだけ上側に向けられるようにした。さらに、フットホールを装備している。
今回、協力していただいた“DEVIL 村尾”氏は、フリースタイル競技を引退後、サーフライドに転向し、世界2位になっている。現在は、古き良き時代のビンテージマシンでのレースを主催し、クローズドコースの練習にも余念がない。
「ジェットはとても楽しい遊び。何が良くて、何が悪い」という固定観念を持っていない村尾氏は、「自分がやりたいのなら、何でも積極的に取り組めば良い」が信条だ。根っからジェット好きな人種である。
3人乗りのランナバウトが主流の現在、販売台数でみると1人乗りのスタンドアップの占める割合は非常に少ない。マーケットが小さいカテゴリーでありながら、環境問題をクリアした「究極の4ストロークスタンドアップ」が、2021年から発売されている「ヤマハ NEW スーパージェット」だ。ヤマハの“プライド”が、「形」となったモデルである。
もし、スーパージェットが買えるチャンスがあったら、少々無理をしてでも買ったほうが良いと編集部は断言する。クオリティの高さは言わずもがな、練習すればとことん上手くなれる奥深さもある。
2ストロークのスーパージェット同様、ロングセラーモデルになることは間違いない。こんなに購入を安心して薦められるモデルは、滅多に出ないだろう。
編集部は、村尾氏がカワサキの4ストロークスタンドアップ「SX-R」でも、バレルロールができることを知っている。SX-Rは、本体重量に加え、ガソリン、オイル、ライダーの体重を含めると、総重量は300kgを優にオーバーする。それでバレルロールができるのなら、170キロのニュースーパージェットなら余裕だろうと思っていたが、そうではないらしい。
「カワサキSX-R」と「NEWスーパージェット」では、バレルロールがどれほど違うのか、面白い話を聞いた。
村尾氏が初めて「SX-R」で、バレルロールにチャレンジしたとき「意外と回れる」と感じたそうだ。乗る前は、大きくて重い「鉄の塊」のようだと思ったが、チャレンジしたら思っていたよりも”やりやすかった”という。逆に、新しいスーパージェットでは「大変だ、回らない」と思ったという。
これは、ハルの形状に理由があるそうだ。ニュースーパージェットは、ハルのフロント部分の「V字角度が鋭く」て、引き波を描いても、その波に乗れない。波を切り裂いてしまう。描いた引き波の、最も分厚くて膨らんでいる一点だけに焦点を合わせられないと、ジャンプ台にできないというわけだ。
しかし、そのハル形状は、バレルロールをするにはマイナスだが、その他の部分ではプラスに作用することもあるので、一概に悪いとは言えないという。
村尾氏曰く「ニュースーパージェットは安定感があり、船体バランスも良いので、ベーシックなトリックには十分に使える」そうだ。しかし、エアリアルトリックには苦労する。
とはいっても、近年のフリースタイルは、軽量ハイパワーのスペシャルマシンで行うのが普通で、純正ノーマル艇で行う選手などは「少数民族」と呼ばれている。しかし、オールドスクールのトリックの人気は根強い。ハイパワーマシンでビッグエアーを飛ぶよりも、純正ノーマルで完璧な技を行うほう”ウケる”ことが多い。
「ギャラリーを楽しませる」という、フリースタイルの基本は、「永遠に変わらない」ということなのであろう。
ただ、4ストロークのスーパージェットに乗れば乗るほど、改めて古いスーパージェットの良さを実感しているという。
以下、伝統的なフリースタイルトリックを村尾氏が披露してくれた。
最近の自分は、「フリースタイルでもフリーライドでも、人生で一番上手いと感じている」と村尾氏が言う演技を見てほしい。
1997年製・純正ノーマルの2サイクル、700ccエンジン搭載のヤマハスーパージェット。
超高速360°スピンターン。
ジェットが体の一部と化したような、オンザフードでのターン。流れるように、次々と技が繰り出される。
すべての演技に余裕を感じる。
2002年以降は改正されたが、2001年までフリースタイルの大会ルールで、スーパージェットの排気を前方から出しても良かったそうだ。スーパージェットは、発売当初から後方排気であるが、1990年代の中盤から、フリースタイルトリックのために「前方・後方の両排気」に改良する選手が増えた。
今回、デモライドを行ってくれた1997年製スーパージェットは、「前方・後方の両排気」になっている。ウイリーをしても、前方からも排気が抜け、キャビテーションが起こらない。
ウイリーでリアを沈め、足の先でアクセルレバーを踏んで上空に飛び上がり、そのパワーを利用する「モンキージャンプ」が、当時のキラートリックだった。
足先まで美しい「モンキージャンプ」。前方排気が禁止になって、フリースタイル大会でモンキージャンプをしなくなったと村尾氏は言うが、今でも完璧なモンキージャンプは、オーディエンスから大変喜ばれるトリックだ。マシンのサポートが少なく、ひたすら練習することでしか習得できない技である。何年経っても、基本トリックは裏切らない。
基本を忠実に練習してきた最強の財産は「バレルロール」である。
今が人生で一番上手いという村尾“DEVIL”高明氏。「コンペティションに出場しなくなり、ガツガツした練習をしないほうが良いのか?」と、自分でも疑問に感じるという。
つい先日、村尾氏が猪苗代湖に行って来たときの話だ。フリースタイルの仲間と乗っていたそうだが、乗ってる場所が「ジェットができるメインビーチの1番端っこの片隅」だったそうだ。
さらに、少しでもメインビーチに近寄ると、放送で「あっちへ行け」と言われたそうである。
昔は、フリースタイラーが乗っていると、ビーチの人たちがみんなで見に来て、拍手をしてくれたという。この待遇の違いに愕然としつつ、「頑張ろう! フリースタイル」と感じたそうだ。
そう言えば一昨年、取材で村尾氏と河口湖に行った時、地元のフリースタイラーに取り囲まれ、「僕のマシンで、バレルロールができますか?」と、詰め寄られていたことがあった。エンジンをかけて少し走って戻ってくると、「出来ますよ」と答えた村尾氏は、実際に完璧なバレルロールして見せた。
それを見ていたジェットの持ち主は「やったー! 俺のマシンは『バレルが回れるんだ』」と大喜び。出来ないのは自分が悪かったのだと、顔を輝かせながら村尾氏の手を握っていた姿が忘れられない。
そんな村尾氏だから、猪苗代湖での扱いにショックを受けたのだと思う。
「頑張ろう!フリースタイル」なのだ。
「ヤマハ2021年スーパージェット・情熱のウエーブライディング」という記事を、無料で公開中の「ワールドジェットスポーツマガジン9月号で掲載しております。
ヤマハNEWスーパージェットで行う「超グレートなウェーブライド」の記事を、お楽しみ下さい。NEWスーパージェットの新たな可能性が見出せますよ。
映画「ロッキー」を思い出したシーン。撮影終了後、”やり切った感”からか、村尾氏が「両手を天に突き上げた」姿は、まるで映画「ロッキー」のクライマックス。
ランニングのラストスパートを走り切って夕日に照らされた”フィラデルフィア美術館”の広場で、両手を天に突き上げるシーンと被りました。
「ペンシルベニア州」と「九十九里浜」の違いはありますが、最高のパフォーマンスを出し切った”高揚感”には共通のものがあります。
まるでフリースタイルの「お手本」のような美しいトリックが見られます。
撮影協力/岬マリン
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