2021年モデルのヤマハ・4ストローク「スーパージェット」用に、リバレーシング(RIVA RACING)がチューニングキットを発売しました。 リバレーシング(以下、RIVA)は、アメリカに拠点を置き、1980年代からジェット業界に参入している代表的なアフターパーツメーカーです。
同社のカスタムマシンは、チューニングの度合いによって、「ステージ 1」「ステージ 2」「ステージ 3」と、段階的に性能を上げられるようになっています。
今回、最もノーマル艇に近い「ステージ 1」キットを装着した、新しい4ストローク・スーパージェットと、純正ノーマルのスーパージェットを用意し、両艇の乗り比べを行いました。
市販艇のスーパージェットとRIVA ステージ 1の最高速とエンジン回転数は下記の通りです。
■2021年モデルのヤマハ・スーパージェット:最高速「55mph(88km/h)」、エンジン最高回転数は「7400rpm」
■RIVA RACING「ステージ 1」キット装着:最高速「60mph(96km/h)」、エンジン最高回転数「8400rpm」
RIVA RACINGでは、「ステージ 1の装着時、最高速が8km/h上がり、エンジン最高回転数が1000rpm伸びる」と発表しています。
ちなみに、本誌が今年3月にノーマル艇のスーパージェットの最高速を計測したときは「87.9km/h」でした。
RIVAのコンプリートマシンは、PWCメーカーの「新艇発表会」の場で、ニューモデルと一緒に展示されていることでも有名です。
例えば、2021年モデルのシードゥ「RXP-X 300」の新艇発表会には、オリジナルのカラーリングを施し、350馬力にチューンナップされたRIVAのコンセプトモデルが展示されていました。
2021年モデルのヤマハの4ストロークスタンドアップ「スーパージェット」でも、メーカー発表時には、すでにこの「ステージ 1」モデルは存在していました。これは、開発の途中でRIVAに情報を提供しているからです。
以前、BRP社のトップが、「ニューモデル発表会の場に、アフターパーツメーカーのコンセプトモデルが展示されていることで、そのモデルの『さらなる可能性』を感じてもらえる」と言っていました。
「守秘義務を順守する」という契約を交わしたうえで、開発段階から新しいモデルについての感想や、意見を求められることもあるそうです。
さまざまなアフターパーツメーカーから、同じような効能を持つパーツが数多く発売されているなかで、「確実に効果が上がる組み合わせ」を見つけるのは、非常に大変なことです。
自分のマシンを速くしたいと考えたとき、費用的にも時間的にも、世の中にある全てのパーツを試すわけにはいきません。また、パーツ同士の「相性」もあります。
優れた製品でも、「相性」の悪いパーツを組み合わせたら、そのポテンシャルを最大限に生かせないからです。
その「効果の上がる組み合わせ」をキット化したのがRIVAなのです。
「チューニング」には、「調和」という意味もあります。「ステージキット」は、ユーザーに「チューニング」への安心感を与えてくれます。 RIVAのパフォーマンスキットの特徴は、チューニングの度合いによって、「段階的に性能を上げられる」こと。各キットの“最適な組み合わせ”を「ステージ」と呼び、パーツ同士の効果を最大限に得られるようにしています。
「ステージ 1」、「ステージ 2」、「ステージ 3」と、ステージが上がるごとに装着するパーツも、よりレーシーになります。「ステージ化」し、「数値」と「費用」を明確にすることで、ユーザーは安心かつ確実に、マシンのポテンシャルを上げられるのです。
ノーマルのスーパージェットの足まわりを、RIVAの「ステージ 1」に変更することで、コーナリングが劇的に変わります。
市販のスーパージェットは、もともとの設計時に、あえて旋回能力を落とすようにしています。
船体を傾けるとキャビテーションを起して、スピンするようになっているのです。旋回の手前でしっかりと減速をして、船体を水平に保てるスピード領域でないと曲がれません。
プロライダーであろうが、ビギナーであろうが「曲がれるマックスの速度」は同じです。旋回能力に、限界を持たせています。
これを、RIVAステージ1に変更すると、どれだけ船体を倒しても、しっかり水を捉えてくれるようになります。
キャビテーションが起こらず、曲がれるスピード領域の限界値が高まります。これにより、ライディングの楽しさが倍増します。
なぜ、アフターパーツを選ぶのが難しいかといえば、「自分が何のために改良するのか」を理解していないからです。
「このスコープゲートを付ければ速くなる!」「このスポンソンを付ければ良く曲がる!」といった理由で、パーツを交換する人は多いでしょう。
しかし、「このジェットをどうしたいのか」という最終的なビジョンがないと、単にお金を使って、「改良」ではなく、「改悪」していることにもなりかねません。
もし、新しいスーパージェットを「とにかく速くしたい」と考えているのなら、悪いことは言わないので、カワサキの「SX-R」を買うことをおススメします。
スーパージェットとSX-Rでは、排気量も馬力も船体サイズも全く違います。
最高速も、最初から約15km/hほどSX-Rのほうが速いので、この差を逆転しようと思ったら、改造費用はノーマルのスーパージェットがもう1台買えるくらいは必要になります。
さらに、そこまでして速くしたスペシャルなスーパージェットは、繊細で、すぐに壊れます。
でも、スーパージェットの「本質」は、そういうものではないと編集部は思っています。
今回、このRIVA「ステージ 1」に試乗して感じたことは、ステージ 1には、「スーパージェットの楽しさを引き出すような改良」が施されていることです。
レーサーのなかには「あえてスーパージェットで勝ちたい人」もいます。他のアフターパーツメーカーから販売されているパーツは、「スーパージェットでレースに勝ちたいレーサーが望むパーツ」のような気がしてなりません。彼らの欲するパーツは、良く曲がるし、スピードも速くなります。
レーサーと組んでパーツを開発しているアフターパーツメーカーは、少ない資金と労力で、よい製品が作れるので、互いにメリットがあります。もちろん、そういったパーツが悪いと言っているわけではありません。
あくまで、そういう目的で作られたパーツは、「レースに勝ちたいレーサー」のためのパーツであり、「そういう目的のもの」だと理解して使えばいいことです。
それは、RIVAのパーツキットの考え方とは対極にあるもので、RIVAは新しいスーパージェットをとことん分析し、誰でも楽しめる「トータルとしてのファントゥライド」を提案しています。
今回、プロライダーの加藤 豪選手に協力してもらい、「スーパージェット」と「RIVA ステージ1」の2艇を交互に乗り換えながら、ブイを打ったコースを10周ずつ走りました。 2艇の“戦闘能力”の違いは“明らか”です。
「RIVAステージ1」は、トータルバランスが考慮されたチューニングが施されているので、“乗り味”が最高でした。
ここでいう「バランス」とは、水平バランスではありません。戦闘能力、つまり「トータルバランス」のことです。
例えば、「このスピード領域で旋回しようと思ったら、これぐらいは船体をバンクさせたい」、「バンクさせた状態から、コーナーを抜け出すとき、マシンのトルクはこれくらいが良い」というバランスのことです。
これ以上、「下のパワー」があると「ピーキー」と感じる手前の「ちょうど良いパワー」にセッティングされています。これだけバランスが良いと、乗るのが“楽しくて”仕方がありません。面白いほどジェットが言うことを聞いてくれるので“疲れません”。
今回、RIVAの「ステージ1」チューンを施したスーパージェットに乗って感じたことは、「楽しすぎる」です。
純正ノーマル艇では味わえないくらい、ライディングの幅が広がります。適正なチューニングを施すだけで、これほど違うとは思いませんでした。
「もうノーマル艇には戻れない!!」と、真剣に思いました。
正直な感想を言えば、「RIVAステージ1」に乗ったら、「市販のノーマル艇」に乗るのが嫌になりました。全てのパフォーマンスが、市販艇より「少し高いレベル」で発揮できます。
それを実感したのは、私が「RIVA ステージ1」に乗り、加藤プロが「市販艇」でレースコースを走ったときです。
これまでに、何度も彼と走っていますが、コース上で、1度も「競い合うレベル」で走れた記憶がありません。
しかしこのときは、加藤プロが後ろから必死に追いかけてきても、前を走る私には、常に余裕がありました。今、彼がどのあたりを走っているのかも、余裕を持って確認できるほどです。そして、「自分がミスしなければ、抜かれることはない」と確信できました。それほど、「RIVA ステージ1」は乗りやすく、楽しかったのです。
そのとき、今年の春、初めて4ストロークのスーパージェットを試乗したときに、ヤマハの開発部から聞いた話を思い出しました。
「スーパージェットは、これ以上速くても、これ以上曲がってもダメ」と。
市販のスーパージェットが「ヤマハの考える究極のファントゥライド」ということでした。 開発の段階では、もっと速くすることも、もっとパワーを上げることもできたそうです。 しかし、最も苦労したのが「スーパージェット」という名に相応しい動力性能に仕上げることです。
でも、それを否定することは書きたくないし、嘘を伝えることも絶対にできない……。
悩みに悩んで、スーパージェット開発者に電話をしたのでした。
WJS 今回、RIVAの「ステージ1」のチューニングを施したスーパージェットに乗りました。申し訳ないのですが、市販のスーパージェットより、すごく良かった。遥かに楽しかったです。
鈴木 ハハハ、僕もそう思います。
WJS メーカーの方が、それを言っていいのですか? ヤマハの考える「ファントゥライド」は、市販の純正ノーマル艇ですよね?
鈴木 もし、「ヤマハ」という会社に気を使っているのであれば、お気遣いなく。そのまま正直な感想を書いてください。その感想は、ある意味「我々の狙い通り」です。多分、あなたのように立ち乗りに慣れている人や僕は、「RIVA ステージ1」の仕様のほうが乗りやすいと思います。
でも、全員がそう感じるわけではありません。初めてスーパージェットに乗る人や、立ち乗りに慣れていない人は、圧倒的に純正ノーマルが良いはずです。
WJS 確かにそうですね。普段はランナバウトに乗っていて、今回、「生まれて初めてスタンドアップに乗った人」が試乗会にいました。その彼に、市販艇とRIVA ステージ 1の両方に乗ってもらったのですが、「純正ノーマル艇のほうが楽しい」と言っていました。理由は「マイルド」だからというのです。
鈴木 スーパージェットは、「立ち乗り」です。「立ち乗り」は、自分の技量に合わせてチューニングやカスタムを施して、楽しむ乗り物です。初めて乗った彼の技量には、市販艇が良かった。それで、編集部のライディングスキルには、「ステージ 1」が合っていたということです。
スーパージェットは、普段、ランナバウトしか乗ったことがない人にも、「立ち乗りの楽しさ」を知って欲しいと思って開発しています。「立ち乗り」として、何が「楽しいのか」という部分を、とことん追求しています。だから、スーパージェットは、自分の技量に合わせたチューニングを行い、ドンドン深みにハマってください。
今回の試乗会で、生まれて初めて「スーパージェット」に乗った彼は、「福島さん」といいます。福島さんは、現在34歳。サーフィンが趣味で、バランス感覚が抜群です。 スタンドアップにもってこいのスポーツマンですが、それまでランナバウトしか乗ったことがないそうです。
その彼が、生まれて初めてのスタンドアップで、全く転ばず、ゆっくりとコースを周回していました。その姿を、驚きの眼差しで見ていました。
福島さんの感想は「“立ち乗り”って、こんなに楽しいの!?」です。
市販ノーマル艇では一度も転ばなかったのに、「RIVA ステージ 1」に乗ったら、すぐに転んでしまいました。ヤマハの開発部・鈴木さんの言ったことがよく理解できた瞬間です。
今のレースシーンを見るに、スーパージェットの「最強・戦闘形状」が、コマンダーのGP1ではないかと思っています。
それはなぜかといえば、今から6年前(2016年)、スーパージェットと同じ「TR-1エンジン」が搭載されたコマンダーGP1のコンプリート艇が、アメリカのワールドファイナルで活躍していたからです。
マシンを開発した、元世界王者のダスティン・モツリスが、『世界最強のエンジン、「TR-1エンジン+ターボチャージャー」に、レーシング最強ハルの「K1」ハルを組み合わせたパッケージがこのマシンだ』と言っていました。
市販のスーパージェットの開発コンセプトは『旋回をキメる(極める)』です。ターゲット層を『スポーツ走行志向、乗る楽しさを求めている人、いつかはレース参戦が夢』と想定しています。
つまり、「レースに出ていない一般ユーザー」に向けて造られているといえるでしょう。
レースで勝つことよりも、「ファントゥライド」。それが、新しいスーパージェットです。
極論を言えば、レースに出たいなら「コマンダーGP1」。レジャーで「速い」のが欲しければ「SX-R」。そして、ファントゥライドなら「RIVA ステージ1のスーパージェット」だと思っています。
■ステージ 1
RIVA MaptunerX(マップチューナー) ¥205,700
Solasインペラー ¥48,400
RIVAパワーフィルター ¥59,400
RIVAフリーフローエキゾーストキット ¥374,00
RIVAフレームアレスタカバー ¥4,400
■パフォーマンスパーツ
RIVAハンドルポールスプリング ¥9,900
RIVAインテークゲート ¥40,700
RIVAライドプレート ¥46,200
RIVAプロ スポンソン ¥27,500
RRP ライト ステアリングシステム ¥41,800
ファットバー 4度 ¥8,250
■外装
ODI トロイリー デザイン グリップ ¥4,620
グリップエンドキャップセット ¥6,050
RIVA 2021 SJ グラフィックキット ¥74,800
■国内取り扱い先/ホットプロダクツ ジャパン
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