今回は、シードゥ艇のトラブルの原因となりやすい「カーボンリング」について説明しよう。
「カーボンリング」の役割を簡単にいえば、エンジンルームへの水の浸入を防ぐことである。
エンジンとインペラーは、ドライブシャフトという棒で繋がっている。ドライブシャフトは船体のなかを通っているので、スコープゲートから取り入れた水が船内に入らないように止める仕組みが必要となる。それが「カーボンリング」で、船内の繋ぎ目に設置されている。そのため、カーボンリングに不具合が起きるとここからエンジンルームに水が流れ込み、最悪、ジェットが浸水することになる。
上の写真にある「カーボンリング」と「ステンレスリング」は、セットでドライブシャフトに取り付けられている。カーボンリングは固定されているが、ステンレスリングはドライブシャフトと一緒に回転する。
ステンレスリングとカーボンリングが圧着することで、エンジンルーム内に水を浸入させない仕組みだ。水の上に浮かべた場合、カーボンリングまでは水が入ってくるが、ステンレスリングより前には水は行かない構造となっている。簡単な仕組みだが、これで船内に水が入らないのだ。
ちなみに、「カーボンリング」を採用しているのはシードゥ艇のみ。ヤマハ艇とカワサキ艇は、別のシーリング方式を使っている。
ヤマハ艇とカワサキ艇の仕組みを知りたい方は、大丈夫!? 「オイルシール」が劣化すると、ジェットスキーが沈没することがあります をお読みください
カーボンリングは固定されているが、接しているステンレスリングはドライブシャフトと一緒に回転していると、先ほど書いた。そのため、カーボンリングとステンレスリングの間には摩擦熱が生じ、高温になる。
ジェットを走らせているときは、カーボンリングは水に浸っている状態なので、常に冷却されている。しかし、陸上で水洗いをするときは、カーボンリングを冷却できるだけの水がまわらない。そのため、メーカーの推奨時間以上にエンジンをかけていると、高温になるのだ。
ジェットが走っているとき、大量の水を吸い込んでいる。それがカーボンリングを冷やしているのだから、水洗いのときに水道水を流すくらいでは十分な冷却効果が得られないことは理解できるだろう。
ジェットの水洗時など、陸上で長くエンジンをかけ続けると、瞬く間に摩擦熱でカーボンリングの温度が上がる。これが破損の原因に繋がる。
シードゥ艇の陸上でのアイドリング時間の目安は「約90秒」である。これを守れば、カーボンリングは高温にならない。
ジェットを大事にして、長い時間、一生懸命に洗う人ほど、「カーボンリング」が破損する原因となってしまうのは皮肉な話だ。メーカーが推奨する時間には、理由がある。
90秒以上、エンジンをかけた場合、回転する「ステンレスリング」と固定された「カーボンリング」が、摩擦熱によってどんどん高温になり、すり減る。
カーボンリングは、クルマで例えると「ブレーキパット」的なものだと考えると理解しやすい。ある一定の厚さまでは「すり減っても構わない」という考え方で良いだろう。
しかし、歪な形にすり減ったら、すぐに交換しなければならない。ステンレスリングとの圧着面に隙間ができてしまうと、そこからエンジンルーム内に水が入り、最悪、ジェットは沈没するのだ。
シードゥ艇における最も多いトラブルの原因は、「陸上でエンジンをかけ続けたことによるカーボンリングの破損・変形」。なのだ。
何かのきっかけで、カーボンリングとステンレスリングの間に隙間が出来ることもある。この例は、釣り糸が絡まり、カーボンリングとステンレスリングの間にはまってしまった。このようなケースはレアかもしれないが、絶対に起こらないわけではない。
【実録・釣り糸1本でジェットが沈没】 パルアップ・ダーさん 実録・沈没体験記!
① ハル(船体)に穴が開く。暗礁などに船底がぶつかるなど、外的要因が多い。
② ドレンプラグの閉め忘れ。ドレンプラグが確実に締まっていなかったり、Oリングが劣化していると浸水の危険性がある。
③ ジェットの転覆。転覆したときにすぐに元に戻せば大丈夫だが、そのまま放置していると、エンジンルーム内に空気を取り入れる穴からどんどん水が入ってくる。夏場に、ビギナーが起こしやすい沈没事故だ。
④ エンジンルーム内で、冷却水のホースが外れたまま放置。本来であれば外部に排出されるべき水がエンジンルーム内に溜まって沈没する。
⑤ ステンレスリングとカーボンリングの間に隙間が生じる。カーボンリングの劣化や釣り糸を巻き込んでしまうと、ステンレスリングとの間に隙間ができる。その隙間から水が入ると沈没する。
取り扱いを少し間違えただけで、大事なジェットが沈没するといった悲劇は避けたいもの。冷却水のホースとカーボンリングの確認以外は、ビギナーでも簡単にできることばかりだ。ジェットの仕組みを知ることで、大きなトラブルを防ぐことができる。
取材協力/スズキマリン
シードゥ艇は、カーボンリングとステンレスリングの接合によって水の侵入を防いでいる。ヤマハ艇とカワサキ艇は「オイルシール」で防いでいる。詳細は、大丈夫!? 「オイルシール」が劣化すると、ジェットスキーが沈没することがあります をお読みください。
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