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31年間追い続けている背中 Mr.スタンドアッパー桜井直樹が語る「竹野下正治」という選手 ジェットスキー(水上バイク)

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Mr.スタンドアッパーが「31年間追い続けている背中」

「日本人最強のスタンドアッパーは誰か?」と考えたとき、編集部では「竹野下正治」という名前しか出てこなかったという話を別項でした。

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しかし、こんな重い答えを我々の一存で決めて良いわけがない。そこで、全日本の「Mr.スタンドアッパー」と呼ばれ、長年にわたって竹野下プロとタイトル争いを繰り広げ、国内のレースを牽引してきた桜井直樹プロに、「竹野下正治」というライダーについて語ってもらった。

桜井直樹プロ
2002年、2003年、2014年JJSF Pro SKI全日本チャンピオン。
1967年8月27日生まれ。#1 POUND ONE所属。


「KING竹野下」との因縁・桜井直樹プロインタビュー

20歳のころの僕の目標は、金森さんでした。
タケさんを目標にすると、超えられないと思ってしまうので……。

WJS 今回、プロフェッショナルの見地から、「日本最強のスタンドアッパー」を判断できるフェアな人にお話を伺いたいと思っています。WJS編集部としては、「竹野下正治」プロが最強だと思っていますが、桜井プロの見解はいかがですか?
桜井 僕自身も、タケさん(竹野下正治)がダントツで最強だと思ってます。僕とタケさんは、ノービス(レースカテゴリーの一番下)クラスのころから、ほぼ同時期に走ってたんですよ。年齢も2歳差と近かった。遥か昔、僕が20歳のころだから、もう30年以上も前ですね。

WJS 当時の竹野下プロの印象はいかがでしたか?
桜井 最初から強烈なインパクトでした。初めてタケさんと会ったとき、あの人、三角の真ん中が尖ったスゴイ髪型をしていたんですよ。いわゆるリーゼントですよね。「何だ、この人は」って思いましたよ(笑)。

WJS それはすごいですね!! なかなか今からは想像ができません。当時から、竹野下プロも桜井プロも速かったと聞いていますし、現在もチャンピオン争いをしていますから、お2人が「国内のスキークラスの歴史」といっても過言ではないと思います。
桜井 でもタケさんは、2003年にJJSFのプロクラスができてから、18年間で11回チャンピオンでしょ。完全に金森(稔)さん(日本人初のランナバウトクラス・ワールドチャンピオン)を超えていると思います。

WJS ランナバウトクラスで勝っている年もありますから、ものすごい勝ち方ですよね。
桜井 ムチャクチャですよね。どんなモータースポーツでも、5割以上の勝率なんてありえない。もう、漫画の世界ですよ。だから、20歳のころの僕の目標は、金森さんでした。タケさんを目標にすると、超えられないと思ってしまうので……。

WJS 桜井プロと竹野下プロには、浅からぬ因縁があるといたことがありますが、何があったのですか?
桜井 1989年くらいですが、当時はプロへの昇格テストがあったんです。実技と学科があって、そのときの実技のレースで僕は予選落ちし、タケさんはトップ通過です。で、帰ろうと思って友達とジェットを片づけていたら、レース団体の人に「試験に合格したから、マシンのインスペクションをする」って呼ばれたんです。なんで? って聞いたら、タケさんが学科試験に落ちたから僕が繰り上げで合格だって。学科試験で落ちる人なんてほとんどいないので、まさかとは思いました。同じ年にプロテストを受けて、タケさんのおかげで僕が昇格した。すごい因縁があるものです。
WJS 竹野下プロも、あのときは、相当、落ち込んだと話していましたよ。

ずっと追い続けている「KING 竹野下正治」。写真は2020年のaquabike・二色の浜大会。


タケさんに勝つには、自分が限界を超えないと勝てない。
だから、勝てたときは本当に嬉しい。

WJS 記録は正直で残酷です。JJSFのプロクラスが新設された2003年から2020年までの18年間で、2回以上タイトルを獲っているのは、竹野下プロと桜井プロ、そして倉橋秀幸プロの3人しかいません。
桜井 僕にしてみたら「2回も獲ってる」ではなく、「あの年も獲れたし、この年も獲れたのに」という、悔しさの歴史でもあります。勝率が5割も超えてるなんて、どう考えてもスゴすぎるでしょ。

WJS やはり、竹野下プロの存在は大きかったですか?
桜井 常に意識していました。今でも忘れられないのは、2008年の最終戦です。あの年、タケさんの4連覇がかかっていて、「ハイドロスペースに乗ったタケさんをとにかく止めろ」って、メーカーの人たちもかなり応援してくれました。

WJS 確か最終戦直前までは、桜井プロがダントツのポイントリーダーだったんですよね?
桜井 そうです。この年は春先から調子が良くて、第4戦が終わったとき、ポイントで大きくリードしていました。最終戦でタケさんがチャンピオンになるには、両ヒートとも1位が必須条件。逆に、僕は2ヒートのうちのどちらかを3位以内でゴールできれば、誰が1位になってもシリーズタイトル獲得という、圧倒的に有利な状況でした。

WJS 桜井プロなら、余程のことがない限りタイトルを獲れるポジションですよね。
桜井 はい。結果、タケさんが両ヒートともトップフィニッシュし、自分は3位以内にも入れず、タイトル目前で全部持っていかれました。最後のレースで4位か5位を走りながら、「俺、何やってんだ……」って。タケさんの勝利に対する執念にやられたんですよ。

WJS あのときは、レース後、桜井プロに近づける雰囲気ではありませんでした。
桜井 大阪の会場だったから、カワサキの方たちも大勢見に来てくれて声をかけてくださる。みんなの期待をすごく感じて、それに応えたい気持ちもどんどん膨らんでいって。でも、結局はタケさんのプレッツシャーに負けてしまったのかもしれません。あのときだけじゃなく、何回も惜しい思いをした年がありますが、ことごとく自分の前にタケさんがいるんですよ。

WJS 桜井プロが竹野下プロに競り勝ったレースも覚えています。大荒れの熱海の海で、倉橋プロと竹野下プロを2人とも抜き去りました。水面はすごく荒れているのに、桜井プロの頭の高さがずっと変わらない。スキーのモーグルみたいに下半身で衝撃を吸収しているのを見て、「レーサーってすごい」と心から思いました。
桜井 あのときは、タケさんが前にいたから、あんな走りができたんです。限界を超えないとタケさんに勝てない。だから、勝てたときは本当に嬉しい。でもタケさんって、あんな海面状況でも何度も後ろを振り返るんですよ。「来い」って言われてる気がして、イチかバチか飛ぶ気で行きました。

目の前のたったひとつのコーナーを、どれだけ速く小さく走れるか。桜井プロの考えていることはそれしかない。


タケさんは2歳年上で、ハタチのころからずっと背中を追いかけてきた。超えたい、超えたいって。

WJS 桜井プロは現在、53歳で30年以上もレース界を牽引しています。これほど長くレースを続けてきた原動力はどこにあるのですか?
桜井 超えたい一心です。金森さんもタケさんも2歳年上で、ハタチのころからずーっと彼らの背中を追いかけてきた。超えたい、超えたいって。

WJS 今もそうですか?
桜井 タケさんに、「やっと追いついたかな」って思ったら、もっと先にいってる。そんなんばっかですよ。

WJS 桜井プロから見て、竹野下プロは「速い人」なのですか? それとも「強い人」なのですか?
桜井 「強い人」。それだけは間違いないです。例えば、(片山)司とかは「速い人」。持ってるんですよ。持って生まれた部分というか、一瞬一瞬のコーナーとかで、強烈な速さが見える。でも、タケさんは絶対に見せない。瞬間ではなくレース全体、トータルの周回数を考えているんだと思います。で、終わったら勝ってる。だからタケさんは間違いなく「強い人」です。

WJS 桜井プロはどちらのタイプだと思いますか?
桜井 僕は、目の前のたったひとつのコーナーを、どれだけ速く小さく走れるか、それしか考えていません。それだけです。ラインも何もない。ひとつのコーナーでコンマ何秒か縮めることができれば、コーナーの数だけタイムが上がるでしょ。

WJS スタートで出遅れても効率良く抜いていくのではなく、出遅れたからこそ目の前のコーナーをより丁寧に速くクリアすることだけを考える。走りとしてはしんどいですよね。
桜井 僕はそれしかできませんから。あの人たちのような天性の速さが、僕にはないんです。

WJS 昔から、桜井プロのライディングフォームは、日本で一番美しいと思っています。近年マシンが速くなって、そんなに頑張って乗るより、楽に乗った方が、結果的に速く走れるという話を聞きます。コーナーには曲がれる限界のスピードがありますしね。
桜井 はい。だから、「今までの限界スピードを超えたい」と、常にチャレンジしてます。司のすごいところは、レース中にチャレンジしてくることです。

WJS 片山プロといえば、後ろからものすごい速さで全員抜き去った後、吹っ飛んで泳いでいることもありますよね。
桜井 それが “片山司” なんです。彼は、何があろうが、誰がいようが、常に同じ走行ラインで走ります。速いので抜けませんが、ラインは分かりやすい。でも、タケさんは違う。僕が息を止めて抜きに行った瞬間、思いもよらないラインを走るので抜けない。それが何度もあります。この人、こんなこともできるんだ、って驚かされます。

WJS 「速い」というのは、マシンの差ではないのですか?
桜井 違います。スタートで飛び出したり、長いストレートならマシンの差は出ます。しかし、減速したら関係ない。いかに速くコーナーに飛び込んだり、限界スピードを上げられるかっていうのは「人間の差」です。僕にはその才能はない。僕ができるのは、「コーナーをいかに小さく速く曲がるか」だけです。

2019年のJJSF最終戦。ホールショットは片山 司プロ(写真手前)。2位には桜井プロ(奥)が追いかける。3位に竹野下プロが続き、3強の揃い踏みとなった。


「どうして、自分のマシンを持たないの?」って、タケさんに聞いたことがある。答えは一言、「嫌」だった。

WJS 竹野下プロも桜井プロも、毎年毎年、「頑張ります。トップを獲りたい、上に行きたい」と言い続けて31年経ちました。体力の衰えを感じることはないのですか?
桜井 衰えを感じたらやめます。トレーニングさえきちんとやっていれば、体力は落ちないです。年齢と共に瞬発力は低下しますが、経験とテクニックは上がるはずですし、技術的にもマシン的にも、毎年進化していますから。

WJS 改めて考えたら、50歳過ぎても現役バリバリのトップライダー。「今年は勝つぞ」と、20歳そこそこの若手とスターティンググリッドに並んで牙を剥いるわけですよね。
桜井 迷いはないですね。

WJS お2人とも、見ているとジェットが大好きですよね。
桜井 タケさんは好きだと思いますけど、僕は違うと思ってました。でもある年、最終戦が終わってから半年以上もジェットに乗っていないときがありました。レーサーになってから、こんなに長く乗ってないのは初めてでした。そしたら気が付いたんですよ、「自分はジェットが好きなんだ」って。

WJS そのときに、初めてジェットが好きだと実感されたのですね。でも、ジェットに乗っていなくても、トレーニングはしてますよね。
桜井 はい。続けてます。でも、手足のようにマシンを操るには、乗ってないといけない。日々の努力は、すごく大事です。

WJS 体にライディングテクニックがしみ込んでいるでしょうし、竹野下プロも「レース会場で、ぶっつけ本番でしか乗れない」って、いつも言ってます。
桜井 タケさんが異常なんですよ(笑)。だからすごいんです。まさにプロですね。

WJS 竹野下プロは「勝ってさえいればシートがある。すごい走りを続ければ、誰かしらレースマシンを用意してくれる人が現れる」と言いますね。
桜井 僕からすればあり得ないことです。でも、タケさんは言葉通りずっとやってきたんだから、本当にすごいと思います。何年か前、本人に「どうして自分のマシンを持たないの?」って聞いたことがあります。答えは一言「嫌」。それだけで、会話は終わりました。

WJS 勝つことで自分のレース人生が続くし、今よりもっと速くなる。これが竹野下プロの考え方ですね。
桜井 普通はそう思えないし、考えてもできないですよね。

WJS 桜井プロは今年、53歳になりますが、いつまでレースに出られると思いますか?
桜井 僕は勝ってやめたい。応援してくれる人がいる限りは、その人たちが喜ぶレースがしたいです。ただ勝てばいいわけじゃなくて、戦い方にこだわりたいです。

現在、桜井プロのエンジンを診てくれている小西洋一氏(写真右)。


桜井直樹プロの「スタンドアップのライディングの考え方」【動画付き】
31年間、トップを走り続ける男の物語 国内最強の男・竹野下正治プロが語る

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