「レースの楽しさは何ですか?」。「人生がレース」と思えるような、強烈なレースの虜たちに問いかけた。正直な答えの中に、それぞれの考え方が明確に表れている。
ジェットスキーには、これほどまでに人生を変える力があります。魅力に満ち溢れた、レーサーとコンストラクターたちの「生の考え」をお楽しみください。
WJS 片山選手にとって、「レースの楽しさ」とは何ですか?
片山 「アドレナリン」。
WJS 「アドレナリン」?? 片山選手は、何歳からレースに出ているのですか?
片山 16歳で免許取って、すぐです。
WJS 失礼ですが、今、おいくつですか?
片山 43歳です。
WJS レース人生、27年間ですね。1990年代には、カワサキのメーカーワークスチーム「TEAM VERDE(チーム・ヴェルディ)」に所属し、1997年にアメリカで行われた世界大会では3位の好成績を収めました。もちろん日本でも、3強の1人として長くトップライダーとして活躍されています。これほど長くトップで戦い続けられる理由は、何なのですか?
片山 「何やろね?」 リズム?
WJS 「リズム……」?
片山 さっきまで「乗れとった」です。沖で波が急に出だして、それで飛ぶのが嫌でアクセルが握れんようになって、抜かれてしまった。誰が抜いた、抜かれたは関係ないです。自分がアクセルを握れなかっただけ。それだけが原因です。握り続けれたら、誰にも負けんです。
WJS 最近のレースでは、マシンもよく走っていて、ホールショットを連発しています。マシンが速いと、ライダーはプレッシャーを感じませんか?
片山 全然。ライダーとしては楽なだけです。マシンが速いと、自分のテンションも上がります。そのまま勝ちたいけど、たまに抜かれるけん、「嫌」ってなります。さっきも、逃げ切る予定やったけど、波が出たので握れんかった。計算外です。
WJS 片山選手も、計算をして走っているのですね?
片山 いや、いや、いや、「計算なんか、絶対せん」です。バックストレートで、「握り切れるか」それだけですよ、僕は。それだけ。「アクセルを握り続けれたら、誰にも負けんです、絶対」。
WJS 波が出たときは、どうするのですか?
片山 波が出たら、「淡々と走る」だけ。アクセルは握れない。「うなる」けん、淡々と走って逃げ切るだけです。
WJS 話を戻しますが、片山選手にとってのレースの楽しさは、「アドレナリン」ということですね?
片山 間違いない。さっきも、バンバン出とった。
WJS 「バンバン出とった」? アドレナリンがですか? どんなときに出ていると感じるのですか? 例えば、レースの中盤とか、終盤ですか?
片山 スタートです。
WJS スタートで「アドレナリン」をバンバン出して、ホールショットを取るのですね?
片山 はい。「アドレナリン」です。やっぱり!
WJS 千木良選手にとって、「レースの楽しさ」とは何ですか?
千木良 俺はね、「1ブイを取るために、あそこに向かって突っ込んでいく瞬間」が好きですね。
WJS 普段の生活では、地位も名誉もある人なのに、ある意味、危険な思想ですね。
千木良 日本と海外で戦うのでは、少しテンションが違いますけどね。
WJS 海外のほうが、過激なのですか?
千木良 スターティンググリッドに並んでも、隣のライダーの顔も知らないじゃないですか。だから、イケますよね。思いっきり、「おりゃー」って。
WJS 海外のほうがやりやすいですか?
千木良 何か言ってても言葉も分からない。だからイケる。
WJS レースは、闘争心が発揮できる場所なんですね。特に海外では。
千木良 そうです。「1ブイ」という同じ場所に向かって全員が走って行くのだから、ある意味、ぶつかって当たり前みたいな部分もレースにはあるじゃないですか。
WJS 千木良選手が、タイのキングスカップで勝ったレースを見てました。確かに全く躊躇せず、ファーストブイに飛び込んで行きましたね。ホームストレートを、日本人が1番で走り抜ける姿を見るのは快感でした。
千木良 だから、何も考えないで1ブイに突っ込んで行けるのは楽しいんです。隣の選手の顔も知らないんだから。
WJS でも、怪我をするリスクはありますよね?
千木良 うーん。実は、レースで大怪我をするまでは、「何でもいいから、行ったらんかい」って思ってたんです。だけど、入院してから、「これ、ちょっとマズイかな……」って思うようになりました。大怪我をしてから、ちょっとだけアクセルを握り切れない俺がいます。ライダーとしては駄目ですね。
WJS 石川選手にとって、「レースの楽しさ」とは何ですか?
石川 レースの楽しさですか? 「勝てればいいなー」って。でも、皆、勝ちたいからずっとやっているわけですよね。
WJS 勝つのは1人だけですから、なかなか勝てるものではありませんよね。
石川 だから、こうやってコツコツと努力してます。
WJS では、その努力が楽しいのですか?
石川 その努力は、楽しいわけではないです。でも、たまに、ほら、こういう「ご褒美」があるじゃないですか?
WJS 「ご褒美」ですか?
石川 表彰台ですよ。1位じゃないですけど、表彰台に上がれることがあるじゃないですか。こういう「ご褒美」が喜びなんです。もちろん、1位が1番いいんですけどね。
WJS 結果が出るのが嬉しいわけですね?
石川 はい。結果です。よく、「レースが楽しいんで……」なんて言うじゃないですか。もちろんレースも楽しいですけど、僕が欲しいのはそこじゃない。結果なんです。
WJS 小西さんにとって、「レースの楽しさ」とは何ですか?
小西 えー、「何が楽しんだろう?」何ですかね?
WJS 小西さんは、もともとプロライダーですよね。ライダーとして自分が走るのと、コンストラクターとしてマシンを造るのでは、どちらがレースを楽しめるのですか?
小西 それはやっぱり、「自分が走っている」ほうが楽しいですよ。だって走るだけですから……。
WJS 今は、コンストラクターですから、どちらかといえば裏方ですよね?
小西 裏方のほうが大変です。あっ、そうだ! 楽しみは「食事」です。
WJS えっ? 「レースの楽しさ」の答えが……?
小西 はい。楽しみは「食事」です。はははは。
WJS 清野選手にとって、「レースの楽しさ」とは何ですか?
清野 「自分の向上心が上るようなレースができたとき」かな。練習でも、今までできなかったことが、できるようになった瞬間は楽しいですよね。でも、レースは、結局、リザルト(結果)だったりするんですが……。
WJS どちらかといえば、結果よりも自分が成長したと感じられるときが、1番楽しいということですか?
清野 そうです。今日は「すごく乗れた」って日があるんです。
WJS それは、レース中に感じるのですか?
清野 終わったあとです。もちろん、レース中にもありますよ。でも、レース中に、自分の体力を全て出し切れたときは最高です。
WJS 完全燃焼ということですか?
清野 はい、完全燃焼。だけど、「そういうことって、まずない」。「なかなか、ない」です。気力、体力の全てを出し切って「完全燃焼した」ときのほうが、意外と疲れなかったりするんです。むしろ、乗れてないときのほうが疲れる。余計な力ばかり使っていると思うんです。きちんと乗れているときは、「船が、勝手に自分を連れて行ってくれる」んですよね。
WJS マシンと一心同体ということですか?
清野 そうです。だけど、なかなかそれができない。
WJS 他のスポーツでも良く言われますが、それは、日々、努力を続けている人間だけに訪れる「ゾーン」という状態なのですね。
清野 そうだと思います。でも、それがなかなかできないから、できたときは最高に楽しいんです。完全燃焼できれば勝てます。