aquabike GP SKIクラス参戦中の服部和生選手。
WJS 服部選手にとって、「レースの楽しさ」とは何ですか?
服部 レースが終わった後の「爽快感」です。
WJS それは、結果に関係なくですか?
服部 そういう部分の話ではなく、「好きなものがお腹いっぱい食べられる」とか、レースのために我慢してきたことや重責から、一気に解放される。そういう「爽快感」です。
WJS レース前は、食事はできないのですか?
服部 昼飯なんか、絶対に食べない。というか、食べる気が起きないです。本当は、食べんとイカンのかもしれないけど……。
WJS タイトルマッチを控えたボクサーみたいですね。
服部 そんな感じです。
WJS それだけ、ストイックに自分自身を追い込んでいたものから開放される。その喜びがあるから、勝っても、負けたときでも、レースが楽しいと言えるのですね?
服部 そうです。その気持ちは、レース前とは全然違います。仲間とワイワイガヤガヤやりながら、「あの場面は良かった」「あそこはアカンかった」「あそこは、こうしたほうが良かった」って、話は尽きないです。
WJS 服部選手は、いつ勝っても、誰もが驚かない実力をお持ちです。「勝つのでは……」と周囲から思われ、惜しいレース展開で1位になれないことも度々あります。本当は、このレース会場で、「最も悔しい思いを抱いている選手」ではないのですか?
服部 えっ! あ、いや……。でも、「もう近いよ、本当に」。「もう近い」。最近は特に感じる。「勝つのは、すぐ」だって……。
WJS そう思われているのが、見ているほうにもビシビシと伝わってくるので、本人は余計に悔しいのではと思っていたのですが?
服部 ん……、そやね。でも、「もう近いよ、本当に」。「もう近い」。
WJS 他の選手は、1台のマシンで全レースを戦うことが多いのですが、服部選手は水面によってマシンを変えますよね。ご自身で、マシンを開発できるからだと思うのですが、ライダーもマシンも良く走っています。そのことも、「服部選手が勝つのでは……」と、思わせてくれる要因です。
服部 確かに、平水と波が出たときでは、使うマシンを変えています。でも、それが「弊害になる」こともあるんです
。WJS どういうことですか? 両艇とも、ご自身で造られたマシンですよね?
服部 そうなんですが、マシンを乗り換ると、すぐに体がアジャストできず、レース序盤は少しぎこちないんです。曲がるタイミングや船の挙動も違いますから。両方のマシン特性が全く違うので、慣れるまではすごく疲れる。乗れてくると、速く走れて体も楽になるんですけどね。
WJS なぜ、同じマシンにしないのですか?
服部 同じマシンを造る意味がないからです。さらに上の走りを目指して開発をするので、それはあり得ないです。
WJS 今回、2台のマシンを持ってきていますが、どのように違うのですか?
服部 「後ろから、ガンガン追い上げて、抜かして行くのに適したマシン」と、「前に出て、後続を引き離し、逃げ切るのに適したマシン」です。最初の2ヒートは、「後ろからガンガン追い上げて抜かして行くマシン」で戦い、波が収まったように見えたので、最終ヒートは「前に出て、後続を引き離して行くのに適したマシン」に乗り換えました。でも、それが裏面に出た……。
WJS 面白いですね。自分で作ったマシンで、水面に応じてチョイスまでしたはずが、製作者が乗れないなんて。
服部 最初に乗ったマシンに、体がアジャストしてしまうんです。だから、1台のマシンを乗り続ける分には何の問題もない。でも、マシンを変えたときに、体が対応するまで少し時間がかかってしまい、それが仇になる。
WJS レースは、難しいですね。失礼ですが、それも面白いです。マシンを造れる人ならではの悩みですね。
服部 その匙加減が難しい。aquabikeに出場しているトップ3に勝とうと思ったら、ちょっとでもズレると、絶対、ダメなんです。人馬一体。マシンと一心同体になれなければ勝てない。本当に、少しの匙加減だけなんです。
WJS 最終ヒートでマシンを変えたことが作戦ミスだと思いますか?
服部 それは違います。自分で超えなければいけないことなんです。マシンが速くて、人間が追い付かない。これダメ。だからといって、人間だけ速くてもダメ。マシンを、とことん仕上げないと、手足のように操ることはできません。優れたマシンと「一心同体」にならなければ、「このレベルで1番」にはなれないんです。
WJS 最近は、表彰台にいるのが当たり前になっていますよね?
服部 はい。1番ではないけれど……。でも、感触は良いです。
WJS 話がズレてしまいましたが、「レースの楽しさ」は、「レース後の爽快感」ということでいいですね?
服部 間違いないです。
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