犬とジェット乗りの幸せな関係　ジェットスキー（水上バイク）　コラム

アメリカ・アリゾナ州。ここは、ジェット乗りが集まるビーチだ。

アメリカのビーチで見た景色

アメリカで行われるワールドファイナルの開催時期になると、「ジェット乗り」が集まるビーチがある。大会期間中は、ここでレース艇の調整を行っているのだ。
レースが行われていない時期は、地元・アリゾナ州のジェット乗りの格好の遊び場となっている。
ある年のワールドファイナルウィークの早朝、すでに何人かのレーサーがマシンセッティングの真っ最中だった。

そのとき、1台のピックアップトラックがやってきて、バックで水際に止まった。この場所に来るクルマとしては、どこか引っかかるトラックだった。

愛おしそうに、愛犬の姿を眺める飼い主。

ジェットスキーはどこに!?

違和感の正体は、荷台が空っぽだったからだ。このビーチは、水上バイク（以下、ジェット）を水に降ろすクルマだけが水辺に停める。それ以外のクルマは、もっと水際から離れた場所に停めているのだ。

トラックの助手席のドアが開いた瞬間、焦げ茶色の大きな犬が、元気いっぱいに飛び出してきた。千切れんばかりに左右に尻尾を振りながら、クルマのまわりを飛び跳ねている。
運転席のドアが開いて、飼い主らしき男性がゆっくりと降りてきた。彼は、リアゲートを開け、トラックの荷台に上がった。それを見て、犬はさらに興奮している。彼は一度、犬のほうを見てから、湖に向かって、力いっぱいオレンジ色のボールを投げたのだ。

オレンジのボール目がけて、一目散に泳いでいく。

どこから誇らしげな表情で、ボールをくわえて戻ってくる。

彼と、彼の愛犬の「儀式」

飼い主がボールを投げた瞬間に、犬は全速力で走り出していた。水に飛び込み、水に潜らない潜水艦のような見事な泳ぎで、あっという間にボールをくわえて嬉しそうに戻って来た。

ボールを受け取った飼い主は、愛情たっぷりに犬の頭をなでると、また同じように湖に向かってボールを投げたのだ。先ほどと同じように、全速力で水に飛び込んだ犬は、潜水艦の泳ぎでボールをくわえて戻って来る。

これを4回ほど繰り返して、「儀式」は終わった。陸上に上がってブルブルと体を震わせて水気を飛ばした犬は、そのままトラックの荷台に飛び乗った。飼い主は荷台のリアゲートを閉めて運転席のドアを開け、乗り込んで帰って行った。ビーチに来てから帰るまで、ほんの15分くらいの出来事であった。

「儀式」が終わると、来たときと同じようにサッと帰っていった。

ささやかな私の夢

この光景を見た日以来、犬を飼いたくなった。
今は、一緒に水辺で過ごせる15分の時間すら取れないので我慢しているが、いつの日か、私も犬を飼いたいと思っている。あの日、あの15分間で、飼い主と犬がさまざまな話をしていたのを見ていたからだ。

情けない話かもしれないが、自分にもそんな相手になってくれる犬が欲しいと心から思った。
ジェット乗りは水辺に行く。水辺が好きなもの同士、仲良くやれれば最高だ。