BRP社より発売されている「Can-Am SPYDER(カンナム・スパイダー)」の最新モデル2020 Can-Am スパイダー RTに試乗した。BRP社は、スノーモービル(Ski-Doo)や水上バイク(SEA-DOO)、ATVを開発しているメーカーだからこそ、この「スパイダー」というマシンが出来たのだと感じる。
走行姿勢はSki-Doo、SEA-DOO、ATVの全てにおいて、共通する部分がある。それは比類なき「ファン・トゥ・ライド」ということだ。
スパイダーは、前2輪、後ろ1輪の通称「リバース型トライク」と呼ばれるタイプだ。
見た目の印象よりも、かなり軽い。乾燥重量464㎏の近未来デザインのボディに、115馬力のRotax製1,330cc水冷4ストローク・直列3気筒・DOHC 4バルブエンジンが搭載されている。
このような数字を並べられても、いまひとつその走りをイメージしにくいのは、比べるべき乗り物が他にないからだ。普段、乗っているシードゥのフラッグシップ(RXT-X 300)は、総重量376kgのボディに、300馬力、1,630ccのスーパーチャージャーエンジンが搭載されている。
だから、スパイダー RTと、シードゥRXT-X 300の両方を、トコトン乗り込んだWJS編集部の感想を書きたいと思う。
分かりやすく言えば、スパイダーは「陸上のシードゥ」だと思う。「速さ」だけの定義ではなく、「ファントゥライド」という意味において、水の上を走る乗り物でRXT-X 300に勝るものはないと私は感じているし、陸の上ではスパイダーに勝てるものはない。
街中で多用する「Stop & Go」の軽快な爽快感は、他にライバルなどいないと思っている。本来のポテンシャル的には、最高速200kmくらいは出せる。恐怖感はないかと聞かれたら、「全然、余裕で走れる」。これは、オーバースペックとも思えるほどの、完璧な足まわりによるものと考えている。
スパイダーは「自動車」扱いのため、公道で運転するには「普通自動車」以上の運転免許が必要だ。ちなみに、二輪免許では運転できない。高速道路での走行ももちろんOKで、通行料金は軽自動車やバイクと同じである。
「“走ること”そのものを楽しみたい」。それなら、高性能・オープンエアに勝る乗り物はない。
スパイダーの「典型的」なオーナー像を、「若いころは無茶もしたけれど、いまは公私共に責任があるから、安全にライディングの楽しみと刺激を味わいたい」「革新的で個性的なものが好き」「いくつになっても好奇心旺盛でエネルギッシュな40~60代の男性」だと、メーカーは想定している。
「パワーステアリング+フットブレーキ+転倒しない」と、3拍子揃った安全性能。スーパーカーのようなライディングフィールと、F1から生まれた技術「6速パドルシフト」に魅了され、フェラーリやランボルギーニといったスーパーカーのオーナーが、スパイダーを所有するケースが非常に多いという。
街は、クリスマス一色で盛り上がる12月24日。私は2020年モデルのBRPの「Can-Am(カンナム) スパイダー RT」に乗って、寒風吹き荒ぶ新東名高速を走っていた。
出発地は東京。目的地は、愛知県尾張旭市にあるジェットショップ「シーゲッツ」だ。片道340km、往復680kmを1日で走ろうというのである。クルマでも、1人で往復するには、結構、嫌になる距離だ。それが三輪トライク。寒波も来ているし、出発前は少し後悔していた……。
結論から言ってしまえば、朝6時半に出発し、11時半にはシーゲッツに到着した。
途中、中野から東名高速道の用賀料金所まで、渋滞で1時間かかったほかは、途中の海老名あたりで渋滞したぐらい。途中のサービスエリアで、1度ガソリン給油を行っただけで、非常に燃費がいい。実質、4時間程度で到着したのである。
スパイダーは6速セミオートマ・パドルシフトなのだが、これが楽しい。走る前は、「こんなバイクのような乗り物で、高速を走ったら怖いのでは?」という思いはあった。バイクは若いころに乗っていたから、どれだけスピードを出しても全く怖くないが、スパイダーは未知の乗り物。そういった意味では、いくら安全性は保障付きだし、ヘルメットを被るといっても、ポテンシャルが分からない分、漠然とした不安はあった。
しかし、そんな気がかりは、あっという間に消え失せた。楽しいだけだ。恐怖感は全くない。足まわりの優れたスーパーカーに乗っているのと同じ感覚なので、高速で飛ばしたくて仕方がなくなる。
始末が悪いのは、スピードはすぐに慣れてしまうので、ますます恐怖感がなくなることだ。本能の赴くままに走り続ければ、一瞬で免許がなくなるのは目に見えている。
車重が500kg以下なのに、ショックアブソーバーは「カヤバ」、ブレーキは「ブレンボ」という超一流ブランドだ。スパイダーの性能に、日本の法整備が追い付いていない感がハンパない。何しろ法定最高速度は、一般道が60km/h、高速道路は80km/h(三輪自動車扱い)なのだから……。
低速で走っていると、かなり狭い道でも、不安なく入っていけるほど車体は小さく感じる。気分的には、バイクに乗っている感じだ。しかし、スピードを上げるほど、実は、結構車体が大きかったのだと気が付く。
例えが悪いが、1車線道路を時速200kmでぶっ飛ばしたら、前輪が車線の中にちゃんと収まるように気を使って走っている感じ。そのときに思うのは、「前輪が思ったよりワイドに広がっている」である。それゆえに、高速走行での安心感が非常に高い。こんなにワイドなら、スピンもしないしコーナーも滑らないだろう。
スパイダーの最大の安心感は「止まれる」ということだ。電子デバイスの行き届いたブレンボ製アンチロックブレーキは、バイクのように右足で踏みつけるフットブレーキだ。思いっきり踏みつけても、スピンすらしそうな気配もない。
エンジンは、スパイダーシリーズ専用に開発されたRotax製1,330cc水冷並列3気筒。低中速域から、徐々にシフトアップしていくレーシーなサウンドに酔いしれる。楽に走りたければ、途轍もなくゆっくりと走れるし、飛ばしたければ、カートレーシングのように走れる。オーナーの意図によって、さまざまな走りが楽しめる懐の深い特性を持っている。
アクセル操作はバイクと同じ。右手のグリップを回すことで、スロットを開閉する方式だ。ブレーキは右足のみである。バイクの後輪ブレーキのように、ペダルを踏み込むと止まる。このほかに、ボタン操作でオン/オフできるパーキングブレーキを備えている。
その気になれば、周囲のクルマを置き去りにするほど高スペックだ。トラクションコントロールシステム(後輪のスリップ制御)や、スタビリティコントロールシステム(左右ブレーキによる旋回制御)、ABSを標準装備。完璧な足まわりによる安全対策も万全である。
スパイダーの真骨頂といえば、間違いなく「6速セミオートマチック」だと私は思う。パドルシフトのシフトアップは、親指で「+」ボタンを押していくが、シフトダウンは、必要に応じて、ブリッピングを織り交ぜながら適切なギアに落としてくれる自動式。停止したときには、自動的に1速になっている優れものだ。
コーナーへの進入時など、エンジンブレーキを使いたいときには、人差し指で「-」ボタンを押すだけで、いつでもシフトダウンができる。
このパドルシフトの使い方ひとつで、スパイダーを走らせる楽しさが倍増する。スーパーカーのオーナーほど「スパイダー」に夢中になるのは、この高性能な6速パドルシフトの秀逸さによる部分が大きい。6千万円もするスーパーカーのパドルシフトよりも、反応や爽快感ではスパイダーのほうが上だと言っているのだ。
スーパーカーとスパイダーの両方を所有しているオーナーたちは、一様に「見るならスーパーカー、乗るならスパイダー」と言う。
スパイダー最大の魅力は、他に類を見ない「ファントゥライド」であり、それを造り出しているのが、「6速セミオートマチック・”パドルシフト”」にあると私は考えている。単なるAT(オートマチック)車だったら、普通に格好いいビッグスクーターでしかないからだ。
ここでは、使いこなすと本当に楽しい「パドルシフトの使い方」について解説する。
パドルシフトとは、ハンドルに付いているパドルでシフトチェンジを行う装置のことである。メリットは「マニュアルシフトのような操作性を味わうことができる」ことだ。もともとパドルシフトは「F1」から生まれた技術であり、瞬時に変速できるように作られた。ドライバーは、ギアチェンジのときにハンドルから手を離すことなくシフトが変えられるので、運転だけに集中できる。
通常、シフトチェンジを行う際に、瞬間、アクセルを戻してから行う。
パドルシフトの場合、アクセルを戻さずに作業を行うのだ。アクセルを開け続けた状態で加速を続け、トップが伸びなくなったらギアを上げていくという感じだ。
アクセルを戻しながらシフトチェンジを行うマニュアルシフトと、戻さないパドルシフトだったら、どちらが速いかは自明の理だ。近年のスーパーカーには、マニュアルシフトがないのはこのような理由からである。
ドライバーがマニュアルシフトで操作すると、変速にかかる時間は0.1~0.2秒程度。セミオートマでは0.02~0.03秒に短縮されると言われている。変速時間が短縮されるほどタイム的には有利だが、逆にスムーズにクラッチをつなぐのが難しくなり、変速ショックでタイムをロスする場合もある。F1マシンの超高速の変速は、高精度な油圧制御によって実現されている。この油圧制御方法は、スパイダーにも採用されている。
スパイダーの燃料容量は26.5L。燃費は、街中ならリッター12~18km、高速道路なら満タン~燃料残量警告灯が点くまでに、約280km走れるほどだ。ただし、燃費は走り方で全く変わってくる。
もし、道路事情が許すなら、信号ごとにフル加速でカッ飛んで、赤信号でエンジンブレーキとフットブレーキをフル活用して止まるというような走り方をしたい気持ちになる。音がうるさいわけでもないし、スーパーカーライクな外観のおかげで、過激に走っても暴走族には見えない。
それよりも、とにかく走ることが楽しい乗り物なのだ。全てにおいて良くできたマシンである。
乗り味は、「スポーツカーを駆る」雰囲気満点である。スパイダーのシートに跨ると、思ったよりも目線が高いことに驚く。
スポーツカーの場合、ドライバーの目線が低い位置にある。喜び勇んでスポーツカーのシートに座り、公道に出たとき目線の低さによる不快感を経験したことがあるだろう。
サーキットなど、開けた視界の道路なら問題ない。しかし、すぐ目の前に他の車のリア部分が迫り、視界のほとんどがそれしか見えない幹線道路を走りながら、うんざりした気分を経験した人は多いはずだ。
スパイダーのライディングポジションは、「何でこんなに高いの?」と混乱するほど座席位置が高い。ミニバンクラスでも「下から見上げなくていい」ので、圧迫感がない。普通の乗用車なら、大抵は、見下ろす位置になるので気分が良い。
ライディング中は、常に2本のフロントタイヤが視界に入ってくる。それが何とも誇らしく、不思議な優越感を感じるのだった。
エンジンは車体の最も低い部分に搭載されており、車高自体も低いので、スポーツカーに乗っている気分なのに、座席だけがこんなに高い位置から見下ろしている。これは不思議な感覚だった。
個人的には、このポジションはとても気に入っている。渋滞のときでも、ちょっと高い位置から周囲を見られるのも新鮮な感じだ。
スパイダーのハンドルバーは、水上バイク(以下、ジェット)のように、1軸で遊びがほとんどない。だから、ハンドルの切れ角がそのままコーナリングの走行軌跡に影響する。
ライディングが上手くなれば、繊細なコーナリングも思いのままになるだろう。2本の前輪タイヤが効くので、スピンをすることも、グリップを失う心配もない。人間の限界を超えたコーナリングを可能にする性能がある。
この乗り物で極限のターンを行えば、ジェットで経験したような「走行姿勢のまま吹っ飛ばされて、空中で気が付く悲劇」になるのが目に見えている。そこそこで「攻める」のをやめるのが得策だ。水に叩きつけられるも嫌だが、アスファルトでは命がいくつあっても足りない……。
繰り返しになるが、「スパイダーは、ハンドルの切れ角がそのまま軌跡に影響する」。これは、レーシングガーそのものだ。
このマシンで、思い通りのラインを走るのは、誰でも簡単にできる。しかし、「体にかかるG」となると別の話だ。強烈に急ハンドルを切ると、想像を超えたコーナリングができるが、自分の限界を超えた走りをしようと思ったら、同時に「異次元のG」にも対処しなければならない。
スタビリティコントロールやトラクションコントロールといった優れた電子デバイス機能も搭載。これらは、自分の技術を超えたライディングをしたときに助けてくれるという。
今回、私が乗ったスパイダー RTは、1,330cc水冷3気筒エンジンを搭載。シャーシを覆う重量感のあるボディデザインは、高級感が漂っている。
ライディングフィールは、走り方で全く変わる。ゆったりと街を流せば、穏やかでラグジュアリーな走り。アクセルを開けて攻めれば、高性能なスポーツカーか、レーシングマシンのようだ。
アイドリング時から豊かなトルクを発揮し、エンジン音だけでもクルマとは違う何かを感じて気分が盛り上がる。エンジンブレーキも滑らかで絶品だ。
個人的には5,000rpmを超えたあたりからのレーシーな排気音がたまらなく好きだ。気分はF1レーサー。攻めればとことん期待に応えてくれるし、上品に走れば寝てしまいそうなくらい快適だ。これほど両極端な顔を持つ乗り物を、私は他に知らない。
時速80kmでの巡航は、6速2,600rpm、5速3,000rpm。
さすがに国内で、そのスピードを出すことはできないが、最高速度は約200km/hというのを聞いて、また驚いた。これなら、偶然、街で出会ったポルシェ911とたわむれても、物足りなさを感じることはないだろう。
信号待ちでスーパーカーと並ぶと、なぜか競争したくなる乗り物だ。あきらかにスパイダーのほうが楽しいので、マジで優越感を感じてしまうのも困りものなのだ。このスパイダー RTは370万円。金額的には0がヒトケタ少ないのに、こんなに楽しくて申し訳ない気分になる。
スーパーカーもスパイダーも、非日常の乗り物である。「移動するために必要とされるパワー」を超越している。要するに「無駄なモノ」といえるのだろうが、無駄なモノのなかにこそ、「ファントゥライド」が隠されている。
そう考えると、高いライディングポジションは気分が良いし、車体重量が軽くてパワーウエイトレシオに優れ、良く曲がり、良く止まる秀逸な足まわりは最高だ。何より、「6速セミオートマチック」の至高のシングルギアは、最強だと思っている。
11時半にシーゲッツに到着し、仕事をシーゲッツの西本社長と摂り、14時には東京に向かって出発した。
途中の沼津で少し雨に降られたが、スパイダーのフードカバーのおかげで、ほとんど濡れずにすんだ。
17時に海老名のサービスエリアで夕食を摂ったが、全身に風を受けて走るスパイダーは、乗っているだけでお腹が減る。
都心に戻ってきたら、クリスマスイブの大渋滞が待っていた。東京の道を走るのに、スパイダーの何が良いかといえば、クルマなら絶対走らないような狭い道路にもガンガン入って行けることだ。
地図にも乗らないような住宅地のなかの道路を感覚だけで走る。方向感覚には少し自信があるので、意外と大正解が多い。
スパイダー RTの全幅は1,554mm。軽自動車の最大横幅が1,480mmなので、74mmほどスパイダーのほうが大きい。大きなボディながら、細い道が苦にならない。決して小回りが利くわけではないが、バック機能が優れているので、簡単にバック&切り返しを多用できるのだ。ある意味、渋滞知らずの乗り物である。
19時には、会社に戻って来た。往復680kmのロングツーリングは、思った以上に楽しかった。もっとつらい罰ゲームになるかと思ったが、全然そんなことはなかったのだ。
事務所で一服していると、シーゲッツの西本社長から電話があった。「ウチのスタッフが、乗って来たスパイダーを見て、『タイヤの空気が少ない気がした。前輪は空気圧が1.4、後輪は1.9だけど、2.0で構いません。確認してください』と言っていました」と言うのだ。
「危ないと思ったので、昼食から帰ったら言おうと思っていたら、言う前に帰ってしまったので空気を入れてあげられませんでした」と、わざわざ連絡をくれた。
翌日、早速ガソリンスタンドに持って行ったら、指摘されたように空気が足りなかったので、入れてもらった。
見ただけで空気圧が足りないことが分かるのも、普段からシーゲッツではいかに多くのスパイダーを整備しているかが分かる。スタッフの方に感謝と尊敬である。
全 長 | 2,833mm |
---|---|
全 幅 | 1,554mm |
全 高 | 1,464mm |
乾燥重量 | 464kg |
定 員 | 2名 |
搭載エンジン | Rotax 1,330cc 水冷4ストローク直列3気筒 DOHC 4バルブ |
最高出力 | 115hp(85.8kW)/7,250rpm |
最大トルク | 130.1N・m/5,000rpm |
トランスミッション | 6段セミAT |
燃料タンク容量 | 26.5L |
メーカー希望小売価格 (消費税込) |
350万円(SPYDER RT LIMITED) |
2020 BRP Can-Am SPYDER RTと、1958年製Jeep WILLYS。絵になる2台が一緒に写るとさらに格別だ! この写真を見て、「地球を守るぞ」と思う私は、少し変なのかもしれない。
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