2018年「SPARKクラス」シリーズチャンピオン・大岡嗣典選手。
JJSF全日本選手権シリーズのレースカテゴリー「SPARKクラス」、2018年のシリーズチャンピオン・大岡嗣典選手の特集です。「SPARKクラス」は、メーカー（BRP）が主催するレースで、改造範囲が狭く、マシンの差があまり出ないカテゴリーです。
レースに全く興味がないとおっしゃる方でも、誰にでも共感できる内容となっています。今回は、4回目です。
2000年ごろから、「ランナバウト800クラス」に出場し始めた大岡選手は、通算6度の国内タイトルを獲得。さらに、2006年からは、タイで行われている「KING'S CUP（キングスカップ）」にも出場するようになりました。
今回は、初めて行った国際大会の話です。
Rider／大岡嗣典（おおおか・つぐのり）WJS 2018年のキングスカップは、中部の方に笑われた「どうしようもなく遅いSPARK」で出たんですか？
大岡 はい。それで行ったら、今度は最高速79 km／hとか……。今から考えてみれば、ガソリンのせいだったんですけど、本当に、全く走らなかった。予選もギリギリの状態で、「これはイカン」と。英語が多少しゃべれるんで、まわりの人間とコミュニケーションを取りながら、「誰の船が１番速い？」って調べていったら、「N Pro Tune（エヌ・プロ・チューン）」っていう、スウェーデンのメーカーのECUを使っていたチームが、断トツで速いことまでは分かったんです。
WJS タイのSPARKは速いんですか？
大岡 速いです。N Pro Tuneタイランドがすごい。で、帰ってからすぐに、フェイスブックで調べて、N Pro Tuneに直接、「おたくの部品を使ったら1番になれるんですか？ タイのT20がすごかったですけど」って、英語でアプローチをかけました。キングスカップのとき、たまたまメーカーの人とテントが近かったらしく、僕のことを覚えていてくれたんですね。「お前、いたよね。知ってる。船、遅かったけど頑張ってたよな」って、ダイレクトにいわれた（笑）。
WJS N Pro Tuneを使うと、そんなに違うのですか？
大岡 もう衝撃的でしたよ。まず、回転数が8,450回転くらいまで一挙にまわって、いきなり84、85km／hくらい出る。体感も何もかも、全部違う。
WJS でも、日本では全く知られていないメーカーですよね？ よく、「すぐに使ってみよう」と思いましたね？
大岡 タイのレースが悔しかったんですよ。もうボロボロにやられて。N Pro Tuneに「日本に代理店はないのか？」って聞いたら、「日本にはない。お前がやるか？」って言われた。「いや、それはちょっと考えさせてくれ。信じないわけじゃないけど、１回、ちゃんとお金を払って買うから、部品を送ってくれ」って購入しました。パソコンを用意すれば、「リモート」っていうアプリを通じて、全部、遠隔操作で入れてくれるんですよ。「いいからこれで走って来い」って言われて、「分かりました」って走ったら、いきなり8,400回転で84、85km／h出た。
WJS ECUの書き換えだけで、そんなに速くなるのですか？
大岡 いや、インペラーとECUがセットです。遠隔用のケーブルと、インペラーとリマップのための道具を全部送ってくれる。その関係で、今、日本の代理店もやっているっていう感じです。でも、利益なんて全然ないですし、スウェーデンの単なる支社ですよね。
WJS 2018年に、大岡さんがタイトルを獲得した一番の要因は何だと思いますか？
大岡 「N Pro Tune」です。
WJS 他のECUよりも、優れていたということですか？
大岡 ECUの差は、そんなにはないんじゃないかな。ヨーロッパのチューニングデータを、そのまま全部放り込んでるだけの話です。何より、N Pro Tuneはインペラーがすごい。ECUとインペラーの開発を、ものすごくしていた。それが理由だと思います。
WJS インペラーとECUのマッチングで速いのですね？
大岡 ほとんどインペラーのおかげです。今年は、中部勢がそれに気づくのが遅れたおかげで、僕も、最初のうちに勝てるだけ勝ちましたから。
WJS SPARKクラスのレースは、実力が伯仲しているので、見ているほうも面白いです。
大岡 たかだか、トップスピードが90 km／hの話ですけど、そんなに遅いって感じはないですよね。
WJS 今のライバルは誰ですか？ やはり、中部勢ですか？
大岡 皆です。皆、速いです。僕、今年はずっとハイオクだったんですよ。１戦目だけエタノールを使ったんですけど、それ以外は、「まだ大丈夫でしょ」ってハイオクにしていた。でも、最終戦で片野（宣之）君にやられて、「うわっ、こんなに離されるんだ。エタに変える」って。N Pro Tuneに、ECUを打ち換えるって連絡を入れて、エタノールに変えたら3、4km／hトップが上がりましたね。
WJS 最高速が何キロになったんですか？
大岡 92.9km／hくらいです。
WJS 急にそんなにスピードが上がったら、乗りにくくならないのですか？
大岡 いや、乗りやすいと思います。ただ、燃える燃料ではないんで、スタートがワンテンポ遅れちゃう。そこだけですね。エンジンは冷えるんで、熱ダレしないんです。ハイオクは熱ダレする。2018年の蒲郡大会でも、今井（照久）さんに追っかけまわされたのは、後半熱ダレして、トップが出なくなっちゃった。あのときだけですよね、ヤバいなって思ったのは。ペース配分できなかった。本当に苦しかったです。さすが今井さんって思いました。
WJS 今のお話を伺っていると、来年になったら、中部勢はもっとインペラーに力を入れてきますね？
大岡 いや、藤江さんはもっとすごいのを出してくると思います。来年は、厳しい戦いになると思います。
WJS 大岡さんにとって、レースの楽しさって何ですか？
大岡 グリッドに並んだときのアドレナリンの出方。このなかで、どうなるんだろう。１位で帰って来られるのか、っていうドキドキ感がたまらないんでしょうね。多分、病気なんだと思います。
