2月14日はバレンタインデー。といっても、この記事に浮いた話は全くない。
この日、九十九里浜でサーフライドの練習に参加させていただいたのだ。朝8時半にビーチに集合だった。時間よりも少し早めに来たはずなのに、到着したときには、すでに準備が始まっていた。
サーフライド(フリーライド)の中心的人物は、国内のフリーライドの第一人者、村尾 “DEVIL” 高明氏である。彼は、2000年のJJSFプロフリースタイル全日本チャンピオンでもある。現在は、フリースタイル、フリーライドだけでなく、ヴィンテージスキーでブイまわりにも挑戦している。
「もう、ウェーブライドに命懸けという時期は過ぎました。ジェットに乗るのもボチボチでいいかなって思っています」と言うわりに、毎週、水上バイク(以下、ジェット)に乗っているオールラウンドプレーヤーだ。
後進の育成にも力を入れており、「若い選手に、自分の知っていることを教えてあげたい。いろいろな意味で、ジェット乗りにとって良い環境を作ってあげたい」と話す。
しかし、彼ほど真剣にジェットに乗っているライダーいない。村尾氏の真摯な姿勢に共感した多くのライダーが、真冬の九十九里浜に集まっているのだ。
ここ九十九里浜はサーファーの聖地である。一年中、大きな波が立つので日本全国からサーファーが集まってくる。普通、サーファーのいるビーチでは、ジェットの上下架はもとより、沖からやってくることすら禁止されているところが多い。ローカルルールを知らないジェット乗りが、「ここは入っちゃダメ」とサーファーに叱られている光景をよく目にする。
そんななか、マリーナ「サンセット」では、通年、ジェットに乗れる。ショップの前の砂浜はジェット専用なのだ。
サーフライドとは、波を使ってサーフィンのようにジェットのライドをしたり、大波をジャンプ台にしてエアリアルトリックを楽しむこと。
といっても、こんな海面は、普通、危なくてジェットになぞ乗れない。普通に立って走ることすら、初心者には無理である。普通にジェットでライディングを楽しむ分には、こんな大きな波は必要ない。むしろ、波を嫌がる人のほうが多いだろう。
とにかく最初は、間断なく来る波に対し、沖に出て行けないのだ。
今回、久しぶりに九十九里浜でジェットに乗らせてもらった。私なんぞは、村尾氏のようにエアリアルトリックができるわけでもなく、ただ海面を走っているだけなのに、平水面で走る5倍は体力を使うし、翌日は、間違いなく筋肉痛になる……。
ここでジェットに乗っている人は、「波がないとつまらない」という。たまに来て乗らせてもらう私には、さっぱり分からない感覚だ。波がない方が楽しいし、楽なのに……、と思うが、ここに来る人たちは、そんな “退屈な” ものを求めてはいないのだ。
モトクロスバイクが趣味だという勝山選手。ジェットもモトクロスバイクのように乗る。この海面なら、オフロードと同じだ。
人生初の大きなエアターンを成功させた高橋選手(写真左)。村尾氏とガッチリと喜びの握手。
波の中で転ぶ。それが問題なのだ! 平水面と違って、簡単には乗り込めない。乗り込もうとするたびに新しい波に襲われる。ようやく乗り込んで立ち上がったときには、すでに疲労困憊だ。
上手く波に乗れたときの楽しさも、平水とは比べものにならない。迫りくる波の音と、それと共に地面が動く感覚は、地球を感じる瞬間だ。しかし、そういう楽しい時間はすぐに終わってしまう。調子に乗っていると、谷底に落ちていく感覚も味わわされるはめになる。
目まぐるしく変化する波の中を、機嫌よく走っているときは、すごく楽しい。しかし、急に視界が暗くなったと思うと、両サイドに大きな波のうねりが迫ってくる。左右を見ても波しか見えず、谷底のような場所を走っているときは恐怖しかない。
上を見上げて、ようやく空が見えて一安心するが、気がついたら波の一番高いところにいて、急降下する羽目になるのだ。
ひたすらジェットの後方に加重して、フロントを持ち上げるように走る。ものすごい勢いで降下する。何とか最悪の状況からは逃れられたが、異常に体力を消耗した。
以前これと同じ状況になったとき、アドレナリンが出まくっていたのか、フロントから真下に落下し、海底の砂浜にジェットがぶつかった衝撃だけは覚えている。そして、そこからクルクルと波に巻かれ死にかけた……。
ジェットとともに、波打ち際までゴロゴロと転がされ、ヨロヨロと立ち上がったときに気がついた。「今、自分は水深30cmのところで死にかけたんだ」と。
ウェーブライディングでいつも大変なのが、転んでから乗り込むときだ。波に巻かれ、ジェットにしがみつくので腕がパンパンになり、感覚がなくなる。なのに、素早く乗り込まないと次の波がやってくる。そういうときに限って、セルは回ってもエンジンがかからない。
神様、あと30秒だけ波を止めて! と、都合の良いときだけの神頼みは却下され、何度、涙を流したことか……。
四苦八苦して、ようやくジェットに乗り込む。このままビーチに戻ればいいものを、往生際の悪い私は、「これで普通に乗れるじゃん」と考えて沖に向かい、ドツボにはまるのだ。また転んで、さらに疲労し、再度乗り込む。乗り込んだら、ビーチに戻らず走り出してまた転ぶ。
最近になって、ようやく波に巻かれてもマシンを水没させなくなった。ジェットを貸してくれる村尾氏に迷惑をかけるケースが減ったことだけは確かである。
前から波がやってくる。エンジンよ、早くかかってくれ!
小さな波をひとつ超えるだけでも大変だ。沖に向かうだけなのに、どんどん体力が奪われる。
次から次へと波が襲ってくる! 早く態勢を立て直さなければ、また波に巻かれてしまう……。
疲れて休みたい気持ちは分かる。しかし、この場所で休憩したら、ろくなことにならない。さあ早く乗り込んで!
波は、簡単に人からジェットを引き剥がす。疲れた体に、この数メートルが永遠の長さだ。
サーフライドでは、どれだけしんどくても、こうやって勢いをつけてビーチに上げなければならない。そうしないと、すぐにジェットは波にさらわれてしまう。
お疲れさまでした。しっかりと走り終え、このビーチに自力で戻られた。ゆっくりと、動かぬ大地で休息を。
もう立てません……。ものすごく頑張りました。大丈夫、あとは仲間が何とかしてくれる。
中野選手は、現在56歳。得意技は、バレルロールである。スーパージェットに乗っていたときは、「1万回はエアターンをやった」というほど練習したが、バレルロールはできなかったそうだ。
しかし、5年前にリクター(フリースタイルの神様といわれるリック・ロイが造ったマシン)を買い、乗った瞬間に「これでバレルが回れる」と、確信したという。それはなぜかと聞くと、「とにかくそう感じた」といい、その言葉通りバレルロールができるようになったという。
リクターに乗った瞬間、「バレルロールができる」と確信したそうだ。
有言実行、中野選手の完璧なバレルロール。
笑顔がステキな中野選手。
ベテラン・柏崎選手の美しいエアリアルトリック。
柏崎選手は、波に乗るのも上手い。
勝山選手のサーフライド。
太陽が沈み始める前にジェットを水洗い。塩分が強いので、水洗いにソルトアウェイは必須だ。片付けも楽しい。
DEVIL FREE RIDEメンバー。写真左から、中野選手、高橋(昌志)選手、高橋(信祐)選手、DEVIL村尾氏。
この記事では、あえて村尾氏のライドを掲載していない。世界でもトップレベルにある彼のライドは、3月10日公開のワールドジェットスポーツマガジン4月号にて掲載予定。美しいエアリアルトリックの数々をお楽しみに!
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