「ちゅーた先生」こと中田正樹氏は、国内以外で活躍するマシンコンストラクターです。 チームカワサキ時代、ジェットスポーツ界のスーパースター、クリス・マックルゲージ選手のメカニックを務めて世界チャンピオンに貢献。その後、2007年までマックレーシングに在籍し、現在は、フリーのコンストラクターとして、タイをはじめ、国内外でその腕を発揮しています。
前回、タイで行われるジェットスキーワールドカップのマシンを製作するため、タイに入国したちゅーた先生。無事に隔離期間も終え、マシン造りが始まりました。造らなければいけないマシンの多さとテストに、毎日、忙殺されているようです。
マシンコンストラクターの、とても忙しい日常をお届けします。
【前回のおさらい】 Chuta's Jet Attitude タイへ入国してから編 「隔離生活」で何をしているのか全部見せます!
隔離生活も終わり、タイのチームに入ります。さて、今年の我々のチーム体制はどうなっているのでしょうか。
スパック・セツーラ T52
ティラ・セツーラ T51
デューク・エカチョン T5
チャッチャナン・シリワタナクル T32
スパック・セツーラ T52
ティラ・セツーラ T51
ティラ・セツーラ T51
TBD(To Be Determined、現在未定)
TBD(To Be Determined、現在未定)
スパック・セツーラ T52
ティラ・セツーラ T51
デューク・エカチョン T5
チャッチャナン・シリワタナクル T32
ナコン・シラチャイ T666
という感じであります〜。んんん? 多くないか~??
で、メカニックの方は……?
以前、謀反を起こしてクビになったメカニックが、反省して復帰。まあ〜、丸1年、私もコロナの関係で来られなかったので、オーナーもシビレを切らして呼び戻したみたいです。帰って来たメカニックも、長い放浪でいろいろ苦労したみたい。とあるところでは、給料を貰えず踏み倒されたとか……。
以前からいた用務員さんは、晴れてメカニックに昇進。エンジン以外の船体加工や溶接、削り物はお手のもの〜。あとはミャンマー人のお手伝い2人です。
昨年一年、しっかり作業をさせられたせいで、それなりに組み付けや、船体のファイバーグラス修理は手際よくできるようになってました〜。言葉は通じないが、作業が分かっていれば次に私が何をするか理解できる。工具やネジを手元まで運んでくれるので助かります。
まあ、私を入れてメカニックが5人もいるので、それなりに早く作業が進むようになりました。
新設計船体のスポーツクラス艇、1100ランナバウト艇とスタンドアップ艇の3台は、笑えるくらいハンドリングがNGだったので、その修正から入ることにする〜。
まずはスポーツ艇から。徐行時の艇操作が全くできない……。なぜなら、超低速走行で激しいキャビテーションを起こしていてハンドルが利かなくなるからだ。
ポンプシールは完璧だと!? なら、こんなことになるわけがない!! ポンプを外して、ライドプレートからインテークゲートのシーリングを確認すると、やはり空気の通り道を発見。ポンプハウジングから空気を吸い込んでいたのが原因であった。
やっと低速でのキャビテーションはなくなったが、コーナリング中のハンドルのレスポンスが悪い。高速でハンドルを小さく左右に振っても、艇が反応しない。ポンプ出口サイズと、ステアリングノズルの組み合わせが悪そうであります。
ノズル口径を調整することで、一気に状勢は変わった。 艇が暴れても立て直しが楽になり、コーナーの入り口の船体の動きが歴然に良い。キャビテーションもなくなり、驚くほど良い加速性になった。コーナリング性能が良くなると、スピードも上がってくる。
アクセル全開で曲がれるようになると、また違う問題が……。 艇後部がスライドし始めた……。スポンソンに穴を加工して、艇後部を下げることにした。いろいろなライダーに試乗してもらったが、皆が口を揃えて「乗りやすくなった」という。
一番嬉しかったのは、以前のハンドリングでは乗るのを嫌がった14歳のライダーが、「面白くなった!」と、率先して乗るようになったこと。 玄人がテクニックで乗りこなすのではなく、素人が普通に乗れるようになったことが、大事であると感じた〜。
最初に乗ったときに、危なくて乗れるもんではなかった1100ランナバウト。曲がらない〜、真っすぐ走らない〜、恐ろしい〜と、3分で試乗は中止となった。
「え!? もういいの??」と言われたが、またまた高速で艇から振り落とされ、数カ月もの間、痛い思いをするのはもう嫌です〜。
ドえらい加速はしますが、競艇ボートのようなハンドリングですがな〜(乗ったことはないけど)。ハンドルを切ってアクセル開けたら、真っすぐ走るがな〜。で、少し戻したら曲がり始めるが、アクセル開けたらまた真っ直ぐ進むがな〜。タックインするがな〜。
「これはFFの車か!?」と思ったが、ジェットでFFはないぞ〜。危うく、草むらに突撃インタビューするところでしたわ〜(笑)。高速になると、右に左に艇がヨロヨロとして、ヤジロベエのように傾く……。「なんじゃ、こりゃ!?」である~。
まず、スポンソンのセットアップが全く間違っています〜(笑笑)。なんでこんなところに付けるのか? たくさん穴が開いていて、いろいろ動かした形跡がありますが、全部、不正解〜。
ショップ内に転がっていた適当なスポンソンを握って、角度と位置、船体形状を鑑みて取り付けてみた。 位置的にはほぼ正解だったようで、コーナーも曲がるようになり、高速での「ヤジロベエ症状」はなくなった。スピードも、アクセル全開にしていないのに、えらく速い!!
最初は「大丈夫かな〜?」と思った新設計船体ですが、ナニゲに優秀です! あとはスポンソンの羽根の出方を調整すれば、レースに使えるかも!?
この艇は、ナニゲに嫌な予感がするので、復活した元現地メカ君に試乗してもらう。予感は的中!! 全開走行中に、右に大きく傾いてライダー落水! 水に突き刺さったあと、水面を転げ回っていました。
落水の衝撃で、ライフベストに付けていたランヤードが吹っ飛び、どこかの水面に浮いているのを探している様子。ライダーは、以前の私のときと同じように胸を強く打っていて、苦しいと言っている。
艇を見たら、原因はすぐに分かりましたが、指摘しても納得しない現地メカ(笑)。 ま〜、テストするのは君だからね〜、と伝えておいたらしっかり修理してました〜。修理後は、全く問題なく走るようになりました(笑)。
スタンドアップに乗ってみた。ハンドルを切って真っすぐ走ります!? 秒で転んだ。
え? どうなってるの……?????
ブイコースの大外を1周まわって、テスト終了〜。「えっ? もういいの?」と言われたが、はい、帰ります。下手くそな私には、乗れませんー(笑笑)。真っ直ぐ走るときには、ハンドルバーは真っ直ぐにセットアップしないと〜。まず、そこから修理ですー。
でも、どこのセットアップを間違っているのか……。ハンドルポール上部のケーブルホルダー位置をどう変えても、左右が同じステアリングノズルの動きになりません。片方だけが異常に切れ角が多いし速い。右左動きが同じでないと、ライダーがコントロールできません〜。
何とか、ごまかしの利くところでテスト始める。この艇も、スポンソンのセットアップが不正解。一番良い結果は……。スポンソンなしでした〜。
「えっ、いらないの?」と言われたが、テストライダーに乗ってもらうと「乗りやすいし、安定している!」と言う。
ネッ! いらないでしょ〜。
何とか全部の艇が、平水では使える範囲の船体になってきた。今回のレースはパタヤなので、波のある海にテストに行くことにしたのだ~。
久しぶりのパッタヤーです。んんん〜、人が少ないですな〜。市内の渋滞もあまりありません。コロナの影響は、すさまじいと感じる……。
ビーチ沿いには、日本でいうところの「海の家」的な大量のパラソルが並んでいるが、ほとんど人が入っておらず、足跡すら残っていない〜。以前は、砂浜にも降りてはいけなかったようだが、それは解除されていた。
そんな風景を眺めながら、いつものオフィシャルホテルの前のスロープでテスト開始。 スポーツGT1モデルは、細かい船体内部の問題はあったが、ハンドリング、エンジン性能、共に合格。
ランナバウトは、セッツーラ選手が「新型船体が良い」、ティラ選手が「旧型船体のほうが良い」と意外な返答が。新型のほうが加速性能が良いし、波の中で安定しているとのことだ。 どうしようもなかった新型船体を筆頭に、思いのほかハンドリングセットアップなど、両艇とも仕上がっていたようだ。
テストを重ねているうちにターボのマフラーが割れたり、海水による電気系統の漏電が起こったりと、改修しないといけない場所がちょこちょこと出始めたため、海水面テストは撤収〜。セツーラ選手が所有する、真水のテストレイクに行くことに~。
テストレイクでエンジン内を洗浄すると同時に、平水でのハンドリングも確認。海よりスピードが上がるため、スポンソンの位置などの調整を依頼されるなどなど、いろいろな成果が得られた〜。
スタンドアップは、やはりハンドルの左右の切れが違うようで、波の中では乗り切れないようだ……。逆に直進安定性は良いみたいで、マシンが跳ねずに前に進むらしい。 と言っている間に、船体のトップデッキが割れてしまいテスト中止〜。やはり、波になるといろいろなところに負荷がかかって壊れてしまう。
レース前にこういったトラブルを出し切って、本番ではガッチリ行きたいものですな~。
現地メカがいると、やはり楽ですな〜。細かい作業は全てやってくれるので、以前のようにバタバタしなくてよろしい。二手に分かれての作業で、テストもスムーズです。
ワールドカップまで 作業は続くのだ~。
中田正樹(なかだ・まさき)
【Profile】
元JJSFフリースタイル全日本チャンピオン。クリス・マックルゲージのメカニックを務め、2004年、2006年と、ワールドファイナルでのマックルゲージの優勝に大きく貢献した。2007年までアメリカのマックレーシングに在籍。現在は、フリーのコンストラクターとして、日本を拠点に世界中を飛び回る日々を送っている。ニックネームは「ちゅうた」、「ちゅーやん」。
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