今回、2020年のニューモデル「SEA-DOO(シードゥ)RXT-X 300」に試乗した。乗ってすぐに感じたのは、完成度の高さだ。
エンジンをかけ、アイドリング走行だけで、それをはっきりと感じることができる。良い意味で重厚感に包まれる。誤解のないように言えば、RXT-X 300は決して重い船体ではなく、むしろ軽い。船体重量は376kgと、400kgを超える他メーカーのフラッグシップと比べて、ずいぶんと軽量だ。
エンジンパワーとハルのマッチングがいいのか、メーカーのセッティングが秀逸なのか、重厚感はあるが重さは感じない。理由はレスポンスの良さだ。アクセルを握ると、瞬時にマシンが反応して前に飛び出す。初めてこのRXT-X 300に乗る人は、慌ててハンドルにしがみつかないと振り落とされてしまうだろう。そんな光景が目に浮かぶほど、アクセルレスポンスがいい。
むしろ、欠点を探すのが難しいほどだ。コーナリング性能こそ「RXP-X 300」に劣るが、それもタイトなコーナーを走る場合に影響があるだけだ。オーバルなコースを走るのなら、直進安定性の差でRXT-X 300に軍配が上がりそうだ。
速さ、操縦のしやすさ、使いやすさ、どの部分をみてもレベルが高い。
このマシンの突出している部分は、エンジンパワーを含めた乗り味だ。とにかく、乗っていて気分が良い。最初は、あまりの速さにマシンにしがみついているだけだが、挙動に慣れるにつれて、安定性の高さが安心感に変わる。
私の場合、2、3度大きく吹っ飛ばされたころから、このマシンの本当の良さを感じるようになった……。
このRXT-X 300は、「走る喜び」が満載だ。いくら自分の愛艇に満足していても、他のマシンに乗った瞬間、自分のジェットスキーに不満を覚えることもある。しかしRXT-X 300は、他のどんな機種に乗っても、自分のマシンを誇りに思えるだろう。
「RXT-X 300」は、2018年に船体(アンダーハル)が改良。ボンドフランジ(上部)はワイドになった。アンダーハルの上部は、停止時や低速走行時に水に接する部分であるが、斜めに着水しても、船体が平らになるように設計されている。水面が荒れていても、自動的に水平に補正してくれるので、安心してアクセルを握っていける。
アンダーハルの下部は、以前よりシェイプされ深いV字型となった。高速走行時は、V字型の先端のみが水に接するので、水への抵抗が少ない。まるで、「世界最高峰の旋回性能を持つRXP-X 300」のようである。
2018年モデルから、シートの高さが3.6cm低く、船体が3.1cmワイドになったが、ハルがワイドになったおかげで動きが俊敏でも恐怖感は少ない。荒れた沖合での高速走行時でも、入り江でのんびりと浮かんでいるときでも、抜群の安定性を誇るのだ。メーカーが「究極のハイパフォーマンスモデル」と自負する理由は、停止時でも高速走行時でも、最適な安定性を確保しているからである。
RXT-X 300には、「BLUETOOTHオーディオシステム」が標準装備されている。業界初の完全一体型オーディオシステムは、どこでも好きな音楽を聴くことができる。
指向性の高いスピーカーは、周囲に迷惑をかけずに音楽を楽しむことができる。天気のいい休日、最高のロケーションで音楽を聞くためだけに、PWCに乗りに行く日があるかもしれない。
パワフルな300馬力のエンジンは、業界最高峰のパワーウェイトレシオを誇る。インタークーラーを外部に設けたスーパーチャージャーを搭載。停止状態から、わずか3.8 秒で96.6 km/h(60 mph)に達する加速は、胸のすくような走りを体感させてくれる。
RXT-X 300は、コーナリングの安定性を確保する「X-スポンソン」「狭いレーシングシート」「特別な角度の付いたフットウェルウェッジ」「調整可能なX-ステアリング」を備えた。
幅の狭いレーシングシートにより、ニーグリップで船体をしっかりとロックできる。マシンと一体感のある走りが楽しめるようになっている。
「ローンチコントロール」とは、「完全に静止している状態から、スムーズに素早く発進させる自動制御技術」のこと。ハンドルバーに取り付けられている可変トリムシステム(VTS)により、ライダーの好み、水の状態、乗船人数によって微調整できる。
発進時はフロントが上がらないように、ノズルが最初から下がっているが、時速30kmを超えるとノズルが自動的に通常走行時にポジションにしてくれる。
「LinQ(リンク)アタッチメントシステム」とは、リアデッキに装備された2つの取り付けポイントを利用して、クーラーボックスやガソリンタンクなど、専用アクセサリーを装着できるシステムのこと。このシステム自体は、2005年からATVで使われており性能も折り紙付き。激しいライディングでも外れないのが特徴だ。
リアデッキはフラットで、安定性と快適性を備えている。水中から乗り込むときも、デッキに座るときも、ウェイクボードやトーイングチューブの準備にも適している。後部座席を後ろにズラせば、対面して快適に話もできる。リアシートを取り外しても走行に影響がないので、1人で乗るならさらに広いスペースを確保できる。
2020年モデルの「RXT-X 300」は、基本的には2019年から大きな変更はない。ガソリンタンクが60リットルから70リットルに増えたことが一番大きな特徴だろう。この10リットルの差が、ツーリングに行ったときに「天国と地獄」の境目となる。
さらに、LinQシステムのオプションにある15リットルのガソリン缶を積んでいけば、計85リットル。これだけあれば、走行距離はかなり伸びる。ロングツーリングの強い味方だ。
300馬力「Rotax 1630 ACE-300」のハイパワーエンジンは、加速性能、中間速度域、最高速、全ての速度域において快適だった。
今回、170馬力の「GTX 170」と一緒に走ったが、GTX 170と比べると、その違いに驚くことになる。
アイドリング時、GTX 170よりも若干重く感じたため、「ゼロ加速は少し不利かな?」と思った。しかし、アクセルを握ったと同時に、とんでもなく爽やかな加速を見せた。速い、スムーズ、力強い。爽やかで、好感度の高い走りだ。最高速に達するまでの間に、「やっぱりRXT-X 300だな」としか思えなくなる。
世界最高峰の直進安定性を誇る「ST3ハル」が、爆発的な加速に対する恐怖感を軽減してくれる。戦闘能力の高さも、安心感に変えてくれるのだ。
試乗している身としては、何かアラはないかと探したが、本当に見つからなかった。ものすごく良くできたモデルだと、改めて実感することになった。
エンジンパワーを含めた「乗り味」という部分を褒めるのは難しい。だが、「よく曲がる」、「速い」、「乗っていて楽しい」といった部分は分かっていただけるはずだ。
これからの季節、全国各地でニューモデル試乗会が行われる。もし、近くで試乗会が開催されるようなら、ぜひとも試していただきたい。一度乗ってみれば、「最高の乗り味」という言葉を理解していただけるだろう。
全長 | 3,451mm |
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全幅 | 1,255mm |
全高 | 1,147mm |
エンジン | Rotax Engine 1630 ACE-300(SC) |
最大馬力 | 300hp |
排気量 | 1,630cc |
乾燥重量 | 376kg |
燃料容量 | 70リットル |
カラー | California Green Metallic & Black Eclipse Black & Lava Red |
定員 | 3名 |
価格 | 2,358,000円(税込み) |
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