2021年の「aquabike world championship・GP SKI」クラスで、日本一の栄冠を手にしたのは、「コマンダーGP1」に乗る“佐々木 宏樹 選手”である。彼は、1978年(昭和53年)3月生まれで、現在43歳。レース歴8年の選手だ。
2018年にプロクラスに昇格してから、わずか3年で日本チャンピオンの栄冠を手にした。
彼の優勝に大きく貢献したのが、愛艇「コマンダーGP1」である。日本人レーサーの中で、1番最初に“このマシン”の素晴らしさを理解して乗り換えたことが、彼の戦闘能力を大いに高る結果となった。
WJS 佐々木プロがレースを始めたのはいつですか?
佐々木 2013年です。
WJS 最初に乗ったマシンは何だったのですか?
佐々木 「スーパージェット」です。このマシンは大好きでした。その年にストッククラスのチャンピオンになって、2014年にA級に上がりました。
WJS 「スーパージェット」に4年乗って、2017年には「SX-R」に乗り換えていますね。
佐々木 開幕戦では、まだスーパージェットで勝てると思っていたんですが、途中でSX-Rに乗り換えることになりました。
WJS スーパージェットでは勝てないと判断したのですか?
佐々木 第1戦、レースが始まる前は「スーパージェットで俺はイケる」と思っていた。でも、スタートして、1ブイに着く前に全部のSX-Rに抜かれちゃいました。第2戦も、スタートでドンと前に出て、横を見たら誰もいない。「やった、ホールショットだ!」と思っていたら、また1ブイの手前で全員に抜かれたんです。
WJS それでSX-Rに乗り換えたのですか?
佐々木 SX-Rじゃなきゃ、戦いのスタートラインにも立てないって。第4戦目からSX-Rに乗り換え、とりあえず、翌年からプロクラスに上がれる成績は残せました。でも、船体が大きくてランナバウトのようなSX-Rが好きにはなれなかった。だから、練習すら面白くなかったんです……。
WJS なぜ、「コマンダーGP1」を買おうと思ったのですか?
佐々木 2017年のワールドファイナルで、プロフォースのマシンを借りてレースに出ました。そこで、「アフターパーツメーカーのコンプリートマシンは乗りやすい」というのを知った。でも僕の乗り方では、プロフォースのフロント部分が水に潜ってしまうことがあったんです。これが嫌でたまらなかった。
この年、コマンダーに乗るクエンティン・ボッシュの走りを見て、「ああ、GP1、良いな」って。
WJS いつ、購入しようと決めたのですか?
佐々木 2018年7月に発注しました。実は、1回も乗らないで買ったんです。「ダメだったら、ダメでいいや」って。賭けですよね。モツ(ダスティン・モツリス)の言葉だけを信用して買いました。
WJS 全く試乗もしないで購入した「コマンダーGP1」ですが、初めて実物に乗ったのはいつですか?
佐々木 2018年の10月です。アメリカに行って、コマンダーの近くの湖で初めてGP1に乗りました。
WJS 初めてのGP1はどうでしたか?
佐々木 「あっ、乗りやすいじゃん。乗れる、乗れる」って。SX-Rよりも、全然、乗りやすいと思いました。
WJS 2021年のアクアバイクシリーズ、「SKI DIVISION GP1」クラスでのチャンピオンおめでとうございます。今シーズンを振り返っていかがでしたか?
佐々木 ありがとうございます。本当に「運」が良かった。「俺、今年は本当に運がいい」って思っていたんです。いいボートを持つのも「運」じゃないですか。チャンスって、スタートラインに立った人に平等にあると思うんですよ。でも、それを手にできるかできないかは、「運」と自分の「行動」。「運」がないと、俺は絶対に無理だと思う。
WJS 佐々木選手は、現在、「コマンダーインダストリー・ジャパン」の代表でもありますが、元は3年前に「コマンダー」のマシンを買ったことがきっかけですよね?
佐々木 今でこそ、みんなGP1を認めてくれていますが、最初にあれを国内に持ち込んだとき、もう、全員が全員「全否定」から始まったんですよ。「あんなマシン、ダメだ」って。
WJS それがいつごろから変わってきたのですか?
佐々木 否定していた人たちも、You Tubeとか動画を見て言ってるだけで、乗ったことはなかったんです。で、僕のマシンに乗せたら「ン? 意外と乗れるじゃん」となって、「長所もあるけど、短所もあるやん」に評価が変わっていった。
WJS 今年のレースは、第1戦の二色の浜大会と、第3戦の千里浜大会で優勝し、第2戦の銚子大会で2位、第4戦の二色の浜大会で3位。優勝を2回した、非常に安定した成績でタイトルを獲得しました。最初にコマンダーGP1で参戦したときから、すぐに乗りこなせたのですか?
佐々木 2018年のワールドファイナル終了後、「コマンダーGP1」を手に入れました。2019年からはコマンダーGP1で参戦しています。でもこの年は全然ダメで、10位くらいでした。それから真剣に練習を始めました。
WJS コマンダーGP1に乗ったとき、手ごたえはあったのですか?
佐々木 はい。このコマンダーGP1を乗りこなせたら、「十分に上に行ける」と思ってました。
WJS 今シーズンも、ホールショットを獲得することが何度もありました。マシンが速かった印象があります。
佐々木 でも、せっかくホールショットを取っても、2周目ぐらいから抜かれて、順位がダダ下がるみたいな感じでした。それで、2019年のシーズンが終わったとき、新しいコマンダーをアメリカに発注した。シーズンを戦いながら、「この部分は、もっとこうして欲しい」という、僕の「要望の塊」のようなマシンをリクエストしたんです。
WJS 具体的にどんな要望を出したのですか?
佐々木 国内のレースは海ばかりなので、エンジン搭載位置を後ろにズラして、重心位置を後部へ持って行きました。要するに、波のある海面でもフロントが水に刺さらないようにしたかった。1周目から2周目と走れば走るほど水面は荒れてくる。そうするとますますノーズダイブする可能性が高まります。それをなくしたかった。
WJS ノーズが水に刺さるのは、それほど嫌なものですか?
佐々木 もう、レースやめたくなりますよ。大したことがないならいいのですが、もろに「ドーン」と水が来ると、「もうやめよう……」って心が折れます。
WJS よくレーサーがヘルメットのバイザーを外していますが、あれはノーズダイブをしたときに、首を痛めないためだと聞きます。
佐々木 首の負担もそうですが、1周目や2周目で波に刺さって、衝撃を受けて呼吸が乱れたら、それからリズムを取り戻すことが難しい。レース中に喋れなくなったらダメ。興奮してくると呼吸を忘れる。
WJS レース中に、何か喋っているのですか!?
佐々木 喋ってます。(山本)陽平さんなんて、レース中に常に叫んでますよ。「どけーっ!」って。
WJS 今年のマシンは、今までのコマンダーGP1とは違うのですか?
佐々木 GP1に乗り始めて今年3年目で、このニューマシンが来ました。でも、初めて乗ったらパワーがスゴすぎて「これ、無理かも……」って。
WJS 自分でオーダーしたのに、無理かもしれないと思ったのですか?
佐々木 いや、これは全部、モツ(ダスティン・モツリス、元世界チャンピオンで、現コマンダーのオーナー)に任せたんです。2年目に乗っていたマシンは売ってしまっていて。そのマシンとは違った。「暴れる」っていうのか、じゃじゃ馬な感じがしたんです。
WJS 想像した以上に「じゃじゃ馬」だったのですね?
佐々木 はい。2年間乗り込んだので、「GP1なら、何でも乗れる。だから最強マシンをくれ!」っていう気持ちでした。で、実際に乗ったら「これは無理って」。
WJS 何がそれほど違ったのですか?
佐々木 トップスピードは同じなんですが、それに到達するまでが「じゃじゃ馬」な感じがする。それでも、これを乗りこなしたら「チャンピオンが取れるかも」と思いましたが、日本の水質に合わない部分とか見つかって……。
「これに乗れたら勝てる」という気持ちはひとまず置いておいて、モツのエンジンを降ろしました。「最終兵器として、とっておこう」と決めたんです。
WJS モツリス選手のエンジンではなく、新たに、佐々木選手が乗りやすいエンジンを積み直したのですね?
佐々木 一人では無理なので、マリンメカニック埼玉店の小西さんに作ってもらいました。
WJS 新しいエンジンはどうでしたか?
佐々木 申し分ないくらい走って、体の負担もかなり軽減された。「これを乗りこなせたら勝てる」と思えるエンジンでした。
WJS 新しいマシンのスピードは、モツリス選手が作ったのと同じなのですか?
佐々木 トップスピードは同じだけど、乗り味はマイルド。「まだ加速も上げられるよ」って小西さんに言われたんですが、僕が乗り切れない。それで、4月の二色の浜の開幕戦に挑みました。
WJS 去年はコロナ禍で参戦を取りやめていましたよね?
佐々木 スポンサーの人たちからも、「こんな状況下で日本全国を移動するのはどうか」ってことで参戦を諦めました……。その代わり、(2020年は)死ぬほど練習しました。
練習でも、先輩ライダーに負けなかったので「これはイケる」と。清野(泰二)さんや陽平さんと走っていて「これは俺、イケるかも」って思ったんです。
WJS 昨年は、大会に出ていない間は何をしていたのですか?
佐々木 ひたすら練習を頑張りました。去年は、コロナでマリーナも使用禁止になって、2カ月練習できない期間があったんです。そうしたら、全然乗れなくなっちゃた。
技術的にも体力的にも、「初めてGP1に乗り始めたころ」のようになってしまいましたから。
WJS そうはいっても、今シーズンの開幕戦は全3ヒートのうち、第1ヒートと第2ヒートが、ホールトゥフィニッシュの完全勝利。第3ヒートは、ラスト1周で山本陽平選手に抜かれて2位でしたが、開幕戦を勝利で飾りましたね。
佐々木 実は勝てるとは思っていなかったんですよ。第1ヒート、ホールトゥフィニッシュでゴールした後、「え、やっちゃったよ!」みたいな感覚。
自分のなかでは、「3番手ぐらいでゴールできれば良い」「誰と誰には抜かれても良いけど、それ以外はダメ」っていうのだけ決めていました。
WJS 開幕戦の第1ヒート、佐々木選手がトップを走っていましたが、見ていたまわりのレース関係者が、「途中で抜かれるよ」と、ひどいことを言っていました。でも、最後まで抜かれることなく、トップでゴールしました。
佐々木 その話を聞いたとき、僕自身も「いや、たまたまです」と答えましたが、内心、ハラワタが煮えくりかえってました。「絶対に見返してやるぞ!」って。
WJS それで、第2ヒートもホールトゥフィニッシュの快勝です。
佐々木 「よし、全部勝ってやる。ここで行かなきゃ男じゃねえ」って思いましたよね。
WJS 最終の第3ヒート、途中までトップでしたが、最後の最後に山本選手に抜かれてしまいました。あれは何か原因があったのですか?
佐々木 あれは、いろんなことが重なった。周回遅れがどんどん出てきて、どかない人もいる。あのときは、周回遅れが右(アウトコース)のチョイスに入って行ったんです。それを見て、僕は左(インコース)に行けばよかったんですけど、あの日、1回もインコースに入ってない。
インコースを走っていないから、こんなところでミスブイしても嫌だし、怖かったんです。あれは本当に自分の弱さだし、自分が守りに入ったから抜かれただけ。本当にいい勉強になりました。
WJS 守りに入った瞬間に、負けてしまったわけですね?
佐々木 でも嬉しかったのは、3ヒート全部終わって、陽平さんが「いや、完敗だ」って言ってくれたんです。「宏樹君のおかげで、俺はもっと速くなれる。いや、本当によくここまで来たよ」って。それが一番嬉しかった。
憧れて、「もっとこうなりたい」って愛知に弟子入りしに行って7年くらいですか。ずっと背中だけ見てきた人に勝てた。あんな嬉しいことなかったし、。それが今年、一番の自信になりました。
「俺は、山本陽平に勝った男」だって。今までずっと「ミスターヤマハ」に憧れてて、それにレースで勝っちゃったら、怖いものはなくなる。これが本心です。
WJS 開幕戦で山本選手に勝ったことで、今年は行けそうだと思ったのですか?
佐々木 「行けちゃうかも」って思ったのは、開幕のちょっと前、銚子で陽平さんと練習したんです。水面がすっごい荒れてたなか、15分、守り切った。そのときに、「陽平さん、本気ですか?」って聞いたら「本気や」って。「宏樹君、乗れてるわ。本当に抜けんかった」って言われて、「あれ、俺、もしかしたらイケてるかも」って思ったんですよ。あれも、俺のなかですごくプラスになった。
それで、レースのスターティンググリッドに並んだとき「このなかで山本陽平に勝ったヤツ、何人いるかな」って思ったんです。あの人、2013年の全日本チャンピオンですから、数人ですよ、彼と対等のライダーって。そう考えたら、全然怖くなくなった。
WJS 師匠ともいえる山本選手に、第3ヒートで抜かれたときはどうでしたか?
佐々木 いやー、今も悔しいです。あの人(山本選手)、あのヒートのあのシーンを自分のYouTubeに上げているんですよ。どう思います?
あれ以来、自分への戒めのために、毎日、あの「抜かされる自分の動画」を見ています。おかげで、モチベーションが上がりました。陽平さんの動画の再生回数の半分以上は、間違いなく「俺」です。
WJS こういっては失礼ですが、山本選手のほうが、キャリアも長いし、実績も上です。技術も全て格上だと思うのですが、どうして佐々木選手が勝てるのですか?
佐々木 陽平さん、マシン造りが出来過ぎて、「自分の乗りやすいマシン」にし過ぎてるからだと思います。
WJS マシンが乗りやすくなると、戦闘能力が下がるのですか?
佐々木 そんな気がしています。僕がモツに言われているのは、「俺が速い船を作ってやるから、“お前はそれに乗れ”」って。そりゃそうですよね。時速120キロオーバーの、「日本で一番速いボート」なんですから。何かをすれば乗りやすくなっても、速くなることはありません。むしろ、遅くなる確率が高いです。
WJS 速いマシンは欲しいけど、乗りやすさも大事ですよね。
佐々木 そうなんです。みんな言うんです。「そのボート、もっと乗りやすくなるって」とか、「もっとこうすれば」って。でも、乗りやすくて2km/h落ちるんなら、乗りにくくても2km/h上がるほうがいい。僕は技術がないから、そのほうが成績が出るんです。
WJS 第2戦(※本来、周防大島大会が第2戦だが中止となったため、便宜上、繰り上げて表記する)の銚子大会では、小原聡将選手が3ヒート全て1位でした。佐々木選手は、第1ヒートが2位、第2ヒートが3位、第3ヒートも3位で総合2位。今シーズンの結果をみれば、この銚子大会の2位が大きかったですね。
佐々木 小原選手にはやられました。小原選手は速いです。それは、仕方がないことだから「自分が精一杯走ること」だけを考えていました。でも、銚子は俺のホームゲレンデなんで、実は、ある程度の自信はあったんです。
WJS レース前に、「ホームゲレンデだから頑張って」と声を掛けたとき、「ここはダメ、いつも練習でみんなにコテンパンにやっつけられている。第1戦に勝ったからと言って、銚子だけは決して期待しないで下さい」と言っていましたよね。あれはブラフですか?
佐々木 今、そんなことをバラさなくてもいいですよ(笑)。
WJS レース後のSNSで「小原選手にコテンパンにやられた」と書いていましたよね。
佐々木 そりゃそうです。負けた人間が、偉そうなことを書いちゃいかんでしょ。
WJS あの時点で、ポイントリーダーは佐々木選手でした。小原選手は「アクアバイクは、全戦出ない」と公言していたのに、佐々木選手が「参りました」とSNSで書いたことに驚きました。
佐々木 やめてくださいよ(笑)。本当に「完敗した」と思っただけですから。
WJS それで第3戦千里浜大会でも勝ち、第4戦の大阪大会で3位となって、最終戦を待たずにシリーズチャンピオンが確定しました。
佐々木 運が良かったんです。千里浜に勝った後、大阪と山口と淡路島の3戦が残っていました。自分は、ハバス(アメリカで行われるワールドファイナル)に行く予定でいたので、大阪、山口(周防大島大会)の2レースで、タイトルを決めるつもりでいました。
WJS 周防大島大会は、片山司選手が参戦すると聞いていました。結局、片山選手は出場しませんでしたが、佐々木選手のタイトルを脅かすライダーは、小原選手にしても片山選手にしてもスポット参戦なので、年間タイトルとは関係ありませんよね。
佐々木 ちょっと待って下さいよー(笑)。だから、僕は運も良かったんです。「運」が良かったのも、全て日ごろの行いが変わったからなんですから。
WJS 第4戦の大阪・二色の浜大会は、結局、この大会はスポット参戦の小原選手が勝ちました。その後ろで、佐々木選手と平阪勇助選手が2位争いをしていましたね。
佐々木 二色の浜は勝ちに行きました。そんなことは口には出しませんが、「勝つ気」でいました。平阪さんは、「勝てるマシン、ホールショットの獲れるマシン」でないと出場してきませんので、彼が出ると聞いたときから、ホールショット争いは覚悟していました。ただ「絶対、負けない」と思っていました。
WJS 平阪選手のマシンは、そんなに速いのですか?
佐々木 平阪さんのマシンは、僕のボートみたいに120キロ出なくていい。ただ、「110キロまでの到達を速くする」っていう造りなんです。僕も同じ考えで、ホールショットを取って、逃げ切れるだけ逃げ切ろうと。
数字ってウソをつかないんですよ。バーッと走って、何メートルで119キロ、120キロ出たよってなったら、それ以下のボートは、それよりも遅いわけじゃないですか。それが乗りやすかろうが乗りにくかろうが、関係ないんですよ。1ブイ取るためには、速くなければ取れないわけですから。
WJS 第1ヒートは、ずっと平阪選手の真後ろにいましたが、さすがに抜くのは難しかったのですか?
佐々木 平阪さんは、上手いです。良く見ています。「あっ、イケる」と思ったら、スーッと僕の前に現れます。「チクショウ!!」と、叫びながら走っていましたよ。結局、このレースで総合3位で表彰台に上がれたことで、二色の浜大会のポイントでシリーズチャンピオンが決まりました。でも、来年は逆のパターンで、自分が最初から前にいるレースをすることしか考えていないです。
WJS 来年の目標は「打倒・平阪選手」ですね。
佐々木 来年は、シリーズチャンピオンなんて考えていないので、平阪選手のまえでホールショット争いに勝てれば3位でも4位でも構いません。
WJS 2連覇は考えていないのですか?
佐々木 僕、竹野下正治選手のヘルメットも塗ってるから知ってるんですけど、ここ10年くらいで、スキークラスの「全日本チャンピオン」を2回取った人って、竹さん(竹野下選手)と倉橋(秀幸)選手だけでしょう? 勝つのが、そんな簡単なもんじゃないのも分かっている。
チャンピオンより、「平阪さんにホールショットを獲らせない」ことが目標です。それができたら、俺はもう2度とタイトルを獲れなくても本望です。
WJS 結局、最終戦の淡路島大会の前に、シリーズチャンピオンが決まったのですよね?
佐々木 はい。最終戦の淡路島は、エントリーさえすればチャンピオンでした。だから、今年は「運」が良かった。風は、僕に向かって吹いていたんです。
WJS タイトルが決定して、結果に関係ないなら、淡路島大会も出ても良かったのではないですか?
佐々木 シリーズチャンピオンは決まったんですが、そのころ風向きが急に変わって、運がなくなったんです。プライベートでも事故を起こしたり、嫌なことがたくさん起きました。「今、レース出ても良いことないわ」ってやめたんです。実は、大阪のレースのときも平阪さんとぶつかった少し先が岸壁で、あのまま落水したら死んでたかも……。そんなことが頭をよぎりました。運がよかったんです。
WJS 「運」を引き寄せた一年だったわけですね。
佐々木 はい。自分自身、練習を一生懸命やりましたし、今までやったこともないけど、一生懸命やっているライダーに貢献したいと思い「下のクラスに、賞の提供」を申し出るとか。「人のため」みたいなことをやりました。そしたら、モツもやるって言ってくれたので、嬉しかったです。
WJS ダスティン・モツリス選手はコマンダーの代表で、アメリカのライダーですよね? その彼が、日本のレースに協力してくれたのですか?
佐々木 彼もワールドファイナルのジュニアスターに協力しています。だから、日本の若いライダーの育成にも、協力したいと思ってくれているんです。
僕も、自分が下のクラスで走っていたときに「もらえたら嬉しいな」って思うものを渡したい。大したもんじゃありません。賞金と盾。盾も、モツとタイロン(モツリス選手の弟で、トップライダー)の写真とサインです。
WJS 若手のライダーからすれば、世界のトップライダーから祝ってもらえたら嬉しいですよね。
佐々木 僕だったら、すごく嬉しい。だから、若い子にあげたかった。例えば、湯島楓とか釘崎勇真とかって、親が一生懸命に見えるけど、実は彼らも頑張ってるんです。そういう子たちに何かしてやりたい。
それをモツに言うと「お前はいくら出すんだ?」って聞かれたんです。正直に、「自分の小遣いからだから、100ドルくらいしか出せない」って言ったら、「じゃあ、3人分の300ドルは俺が出す」って言ってくれた。最初は1位にだけ出そうと思っていたんだけれど、モツリスも出してくれるから1位・2位・3位と、3人に出せるようになったんです。
そのときモツに「ビデオレターも」ってお願いしたら、ふたつ返事でOKしてくれた。やっぱり、世界チャンピオンからビデオレターを貰ったら嬉しいじゃないですか。若いライダーが憧れる世界のトップライダーから、「世界選手権大会で待ってるよ!」って言われたら、頑張りますよね。
それから、「MVP賞」。これは、別に勝ってなくてもいいんです。その日、一番頑張った人、輝いた人に贈る賞です。銚子大会のときは、MVP賞は金子真珠ちゃんに渡しました。彼女、レースの結果がダメで、表彰式の前にすごく泣いてた。でも、ヒート2で男性ライダーをごぼう抜きにして、とてもいい走りを見せたんです。だから、「今日は、この子だな」って。
佐藤颯志が1位、金子真珠が2位とMVP賞、田中エミが3位。みんなが喜んでくれたんで、これは1年続けようと思いました。
WJS コマンダーファミリーがレースを盛り上げてくれましたね。
佐々木 そうなれるように頑張りたいです。コロナ次第なんですが、来年は、モツリスが「日本のレースに来てくれる」って言ってくれているので。
WJS モツリス選手は、レーサーとしても一流ですが、人格的にも素晴らしい人ですね。
佐々木 彼、南アフリカ共和国出身者で、チームカワサキにいたんです。アメリカ人って、よその国の人間を格下に見てる部分あるでしょう。多分、若いときに相当嫌な思いをしたと思うんです。
だから、日本人の僕にも本当に親切にしてくれます。一緒にいるスティーブもそうです。僕は、彼らに恩返しがしたいんです。
WJS 最後に、今年の勝因は何だったと思いますか?
佐々木 「山本陽平に勝ったこと」だけは、俺の一年を変えました、本当に。
それと、去年はコロナでレースには出なかったんですが、レース会場に行って、ずっと人を見ていました。そのとき「この人、速いし、上手いのに、何で勝てないんだろう」って。これって絶対に「行い(おこなう)」だろうって。そういう人を見てから、その人たちのやってないことをやってみようと思った。それが何かいい方向にいったのかな。あとは「神頼み」。今年は、「マシン」と「運」のおかげです。
WJS でも運だけでタイトルは取れませんよ。
佐々木 いや、同じチームの伊東憲太郎は、ライダーとして僕より優れています。でも彼には「運」がなかった。
WJS 確かに、伊東選手の練習を見ていると速いですね。
佐々木 そうなんです。海老原祥吾もそうです。あんなに速いのに「運」がない。だから、全然怖くないんです。僕より「運」がないから。
WJS 来年も、「運」のいい佐々木選手の走りをぜひとも見たいです。
佐々木 自分が、精一杯走るだけです。
このチャンピオンのトロフィー、開幕戦で返すんですけど、そうするとここに僕の名前が入るんです。その次が誰になるのかもすごく気になりますけど、この「3人目」になるのはデカいですよね。これが、毎年毎年、受け継がれるっていうのはいいですよね。
「僕が勝てるわけないでしょう」。これは、佐々木宏樹選手の口癖でもある。
しかし、3年前に彼が「コマンダーGP1」を購入したときから、全日本チャンピオンを狙っていたと思っている。第2戦の会場となった調子は、彼のホームゲレンデである。「この“負け癖が染みついたコース”だけは、絶対に無理」と公言し、表彰台に上がったら「ホームなのでイケると思った」と言っていた。
今の私には、彼の「無理」は「自信がある」と言っているようにしか聞こえない。佐々木選手は、地元・湘南から往復6時間以上もかけて、ほぼ毎週、練習のための銚子の海に通っている。「実際のレースコースで練習しないと身にならない」と判断しているからだ。
これは、「自信の裏付け」でもあるのだろう。「実戦形式で練習を続けていれば勝てる」という自負があるのだ。
優れたレーサーほど、レース前に頭に描く「シミュレーション」は実戦に近いものである。今季の佐々木選手は、ホールショット争いの1ブイに突入する場面で、「誰と、どう競り合うか」までもイメージ通りにできたのだと思う。
レース終了後、「運」が良かったと発言するのも、「イメージ通りに走れた」と言っているのと同じなのである。
「来年、連覇は考えていない」と言っているが、今年、チャンピオンを獲得したことで、「経験」だけでなく「したたかな自信」も手にした。来年の佐々木宏樹選手は、侮れない存在である。
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