カテゴリ
タグ
  1. TOP
  2. INTERVIEW
  3. 2021年度 国内最速レーサー・日本チャンピオン「 佐々木 宏樹 選手」 インタビュー aquabike world championship 「GP SKI」(ジェットスキー) 水上バイク

2021年度 国内最速レーサー・日本チャンピオン「 佐々木 宏樹 選手」 インタビュー aquabike world championship 「GP SKI」(ジェットスキー) 水上バイク

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「トータルバランス」の良さで、「日本人最速」の称号を掴んだ男

マシン、ライダー、メンタル。どの要素が欠けてもチャンピオンにはなれない。”総合力”で勝ち取った佐々木宏樹選手

2021年の「aquabike world championship・GP SKI」クラスで、日本一の栄冠を手にしたのは、「コマンダーGP1」に乗る“佐々木 宏樹 選手”である。彼は、1978年(昭和53年)3月生まれで、現在43歳。レース歴8年の選手だ。
2018年にプロクラスに昇格してから、わずか3年で日本チャンピオンの栄冠を手にした。

彼の優勝に大きく貢献したのが、愛艇「コマンダーGP1」である。日本人レーサーの中で、1番最初に“このマシン”の素晴らしさを理解して乗り換えたことが、彼の戦闘能力を大いに高る結果となった。

2021年「aquabike world championship ・GP SKIクラス」シリーズチャンピオン・佐々木宏樹選手。1978年(昭和53年)3月6日生まれ、現在43歳である。

佐々木 宏樹選手が、「コマンダーGP1」に“たどり着く”まで

これまでのマシン遍歴と、乗り換えてきた理由

WJS 佐々木プロがレースを始めたのはいつですか?
佐々木 2013年です。

WJS 最初に乗ったマシンは何だったのですか?
佐々木 「スーパージェット」です。このマシンは大好きでした。その年にストッククラスのチャンピオンになって、2014年にA級に上がりました。

WJS 「スーパージェット」に4年乗って、2017年には「SX-R」に乗り換えていますね。
佐々木 開幕戦では、まだスーパージェットで勝てると思っていたんですが、途中でSX-Rに乗り換えることになりました。

WJS スーパージェットでは勝てないと判断したのですか?
佐々木 第1戦、レースが始まる前は「スーパージェットで俺はイケる」と思っていた。でも、スタートして、1ブイに着く前に全部のSX-Rに抜かれちゃいました。第2戦も、スタートでドンと前に出て、横を見たら誰もいない。「やった、ホールショットだ!」と思っていたら、また1ブイの手前で全員に抜かれたんです。

WJS それでSX-Rに乗り換えたのですか?
佐々木 SX-Rじゃなきゃ、戦いのスタートラインにも立てないって。第4戦目からSX-Rに乗り換え、とりあえず、翌年からプロクラスに上がれる成績は残せました。でも、船体が大きくてランナバウトのようなSX-Rが好きにはなれなかった。だから、練習すら面白くなかったんです……。

運命の出会い「コマンダーGP1」。例えるなら、お見合い写真だけで決めて、結婚式場で初めて相手に会ったようなもの。

運命の出会い! 一度も乗ったことがないのに購入を決めた「コマンダーGP1」

WJS なぜ、「コマンダーGP1」を買おうと思ったのですか?
佐々木 2017年のワールドファイナルで、プロフォースのマシンを借りてレースに出ました。そこで、「アフターパーツメーカーのコンプリートマシンは乗りやすい」というのを知った。でも僕の乗り方では、プロフォースのフロント部分が水に潜ってしまうことがあったんです。これが嫌でたまらなかった。
この年、コマンダーに乗るクエンティン・ボッシュの走りを見て、「ああ、GP1、良いな」って。


WJS いつ、購入しようと決めたのですか?
佐々木 2018年7月に発注しました。実は、1回も乗らないで買ったんです。「ダメだったら、ダメでいいや」って。賭けですよね。モツ(ダスティン・モツリス)の言葉だけを信用して買いました。

WJS 全く試乗もしないで購入した「コマンダーGP1」ですが、初めて実物に乗ったのはいつですか?
佐々木 2018年の10月です。アメリカに行って、コマンダーの近くの湖で初めてGP1に乗りました。

WJS 初めてのGP1はどうでしたか?
佐々木 「あっ、乗りやすいじゃん。乗れる、乗れる」って。SX-Rよりも、全然、乗りやすいと思いました。

「コマンダーGP1」を乗りこなせれば、「俺、イケるかも」と感じて買ったのが2018年のことだ。

2021年「aquabike world championship・GP SKIクラス」全日本チャンピオン・佐々木宏樹選手に聞く

今シーズンの勝利は「運」というが、それだけではチャンピオンにはなれない

WJS 2021年のアクアバイクシリーズ、「SKI DIVISION GP1」クラスでのチャンピオンおめでとうございます。今シーズンを振り返っていかがでしたか?
佐々木 ありがとうございます。本当に「運」が良かった。「俺、今年は本当に運がいい」って思っていたんです。いいボートを持つのも「運」じゃないですか。チャンスって、スタートラインに立った人に平等にあると思うんですよ。でも、それを手にできるかできないかは、「運」と自分の「行動」。「運」がないと、俺は絶対に無理だと思う。

WJS 佐々木選手は、現在、「コマンダーインダストリー・ジャパン」の代表でもありますが、元は3年前に「コマンダー」のマシンを買ったことがきっかけですよね?
佐々木 今でこそ、みんなGP1を認めてくれていますが、最初にあれを国内に持ち込んだとき、もう、全員が全員「全否定」から始まったんですよ。「あんなマシン、ダメだ」って。

WJS それがいつごろから変わってきたのですか?
佐々木 否定していた人たちも、You Tubeとか動画を見て言ってるだけで、乗ったことはなかったんです。で、僕のマシンに乗せたら「ン? 意外と乗れるじゃん」となって、「長所もあるけど、短所もあるやん」に評価が変わっていった。

WJS 今年のレースは、第1戦の二色の浜大会と、第3戦の千里浜大会で優勝し、第2戦の銚子大会で2位、第4戦の二色の浜大会で3位。優勝を2回した、非常に安定した成績でタイトルを獲得しました。最初にコマンダーGP1で参戦したときから、すぐに乗りこなせたのですか?
佐々木 2018年のワールドファイナル終了後、「コマンダーGP1」を手に入れました。2019年からはコマンダーGP1で参戦しています。でもこの年は全然ダメで、10位くらいでした。それから真剣に練習を始めました。

今シーズン、佐々木選手を勝ちに導いた、3台目の「コマンダーGP1」。

実はトップライダーたちは、「レースの最中に喋っている」

WJS コマンダーGP1に乗ったとき、手ごたえはあったのですか?
佐々木 はい。このコマンダーGP1を乗りこなせたら、「十分に上に行ける」と思ってました。

WJS 今シーズンも、ホールショットを獲得することが何度もありました。マシンが速かった印象があります。
佐々木 でも、せっかくホールショットを取っても、2周目ぐらいから抜かれて、順位がダダ下がるみたいな感じでした。それで、2019年のシーズンが終わったとき、新しいコマンダーをアメリカに発注した。シーズンを戦いながら、「この部分は、もっとこうして欲しい」という、僕の「要望の塊」のようなマシンをリクエストしたんです。

WJS 具体的にどんな要望を出したのですか?
佐々木 国内のレースは海ばかりなので、エンジン搭載位置を後ろにズラして、重心位置を後部へ持って行きました。要するに、波のある海面でもフロントが水に刺さらないようにしたかった。1周目から2周目と走れば走るほど水面は荒れてくる。そうするとますますノーズダイブする可能性が高まります。それをなくしたかった。

WJS ノーズが水に刺さるのは、それほど嫌なものですか?
佐々木 もう、レースやめたくなりますよ。大したことがないならいいのですが、もろに「ドーン」と水が来ると、「もうやめよう……」って心が折れます。

WJS よくレーサーがヘルメットのバイザーを外していますが、あれはノーズダイブをしたときに、首を痛めないためだと聞きます。
佐々木 首の負担もそうですが、1周目や2周目で波に刺さって、衝撃を受けて呼吸が乱れたら、それからリズムを取り戻すことが難しい。レース中に喋れなくなったらダメ。興奮してくると呼吸を忘れる。

WJS レース中に、何か喋っているのですか!?
佐々木 喋ってます。(山本)陽平さんなんて、レース中に常に叫んでますよ。「どけーっ!」って。

佐々木選手のレースは、典型的な「先行逃げ切り型」。時速120キロオーバーの「日本で一番速いボート」という。

モツリス選手が作ったエンジンは、日本の水質に合わず断念。新たに、自分好みの仕様に積み換えた

WJS 今年のマシンは、今までのコマンダーGP1とは違うのですか?
佐々木 GP1に乗り始めて今年3年目で、このニューマシンが来ました。でも、初めて乗ったらパワーがスゴすぎて「これ、無理かも……」って。

WJS 自分でオーダーしたのに、無理かもしれないと思ったのですか?
佐々木 いや、これは全部、モツ(ダスティン・モツリス、元世界チャンピオンで、現コマンダーのオーナー)に任せたんです。2年目に乗っていたマシンは売ってしまっていて。そのマシンとは違った。「暴れる」っていうのか、じゃじゃ馬な感じがしたんです。

WJS 想像した以上に「じゃじゃ馬」だったのですね?
佐々木 はい。2年間乗り込んだので、「GP1なら、何でも乗れる。だから最強マシンをくれ!」っていう気持ちでした。で、実際に乗ったら「これは無理って」。

WJS 何がそれほど違ったのですか?
佐々木 トップスピードは同じなんですが、それに到達するまでが「じゃじゃ馬」な感じがする。それでも、これを乗りこなしたら「チャンピオンが取れるかも」と思いましたが、日本の水質に合わない部分とか見つかって……。
「これに乗れたら勝てる」という気持ちはひとまず置いておいて、モツのエンジンを降ろしました。「最終兵器として、とっておこう」と決めたんです。

WJS モツリス選手のエンジンではなく、新たに、佐々木選手が乗りやすいエンジンを積み直したのですね?
佐々木 一人では無理なので、マリンメカニック埼玉店の小西さんに作ってもらいました。

WJS 新しいエンジンはどうでしたか?
佐々木 申し分ないくらい走って、体の負担もかなり軽減された。「これを乗りこなせたら勝てる」と思えるエンジンでした。

WJS 新しいマシンのスピードは、モツリス選手が作ったのと同じなのですか?
佐々木 トップスピードは同じだけど、乗り味はマイルド。「まだ加速も上げられるよ」って小西さんに言われたんですが、僕が乗り切れない。それで、4月の二色の浜の開幕戦に挑みました。

密かに、「タイトルを取る自信はあったが、言うとマークがキツくなる」と思っていた。「みんなの前では謙虚に!」が今年のモットー。

「3位でOK」と思っていた開幕戦で、いきなり優勝した2021年

WJS 去年はコロナ禍で参戦を取りやめていましたよね?
佐々木 スポンサーの人たちからも、「こんな状況下で日本全国を移動するのはどうか」ってことで参戦を諦めました……。その代わり、(2020年は)死ぬほど練習しました。
練習でも、先輩ライダーに負けなかったので「これはイケる」と。清野(泰二)さんや陽平さんと走っていて「これは俺、イケるかも」って思ったんです。


WJS 昨年は、大会に出ていない間は何をしていたのですか?
佐々木 ひたすら練習を頑張りました。去年は、コロナでマリーナも使用禁止になって、2カ月練習できない期間があったんです。そうしたら、全然乗れなくなっちゃた。
技術的にも体力的にも、「初めてGP1に乗り始めたころ」のようになってしまいましたから。


WJS そうはいっても、今シーズンの開幕戦は全3ヒートのうち、第1ヒートと第2ヒートが、ホールトゥフィニッシュの完全勝利。第3ヒートは、ラスト1周で山本陽平選手に抜かれて2位でしたが、開幕戦を勝利で飾りましたね。
佐々木 実は勝てるとは思っていなかったんですよ。第1ヒート、ホールトゥフィニッシュでゴールした後、「え、やっちゃったよ!」みたいな感覚。
自分のなかでは、「3番手ぐらいでゴールできれば良い」「誰と誰には抜かれても良いけど、それ以外はダメ」っていうのだけ決めていました。


開幕戦は、「3位以内」と考えていたが、総合優勝を飾った。

シリーズチャンピオンへの原動力・奮起した「山本陽平選手のYou Tube」

WJS 開幕戦の第1ヒート、佐々木選手がトップを走っていましたが、見ていたまわりのレース関係者が、「途中で抜かれるよ」と、ひどいことを言っていました。でも、最後まで抜かれることなく、トップでゴールしました。
佐々木 その話を聞いたとき、僕自身も「いや、たまたまです」と答えましたが、内心、ハラワタが煮えくりかえってました。「絶対に見返してやるぞ!」って。

WJS それで、第2ヒートもホールトゥフィニッシュの快勝です。
佐々木 「よし、全部勝ってやる。ここで行かなきゃ男じゃねえ」って思いましたよね。

WJS 最終の第3ヒート、途中までトップでしたが、最後の最後に山本選手に抜かれてしまいました。あれは何か原因があったのですか?
佐々木 あれは、いろんなことが重なった。周回遅れがどんどん出てきて、どかない人もいる。あのときは、周回遅れが右(アウトコース)のチョイスに入って行ったんです。それを見て、僕は左(インコース)に行けばよかったんですけど、あの日、1回もインコースに入ってない。
インコースを走っていないから、こんなところでミスブイしても嫌だし、怖かったんです。あれは本当に自分の弱さだし、自分が守りに入ったから抜かれただけ。本当にいい勉強になりました。


WJS 守りに入った瞬間に、負けてしまったわけですね?
佐々木 でも嬉しかったのは、3ヒート全部終わって、陽平さんが「いや、完敗だ」って言ってくれたんです。「宏樹君のおかげで、俺はもっと速くなれる。いや、本当によくここまで来たよ」って。それが一番嬉しかった。
憧れて、「もっとこうなりたい」って愛知に弟子入りしに行って7年くらいですか。ずっと背中だけ見てきた人に勝てた。あんな嬉しいことなかったし、。それが今年、一番の自信になりました。
「俺は、山本陽平に勝った男」だって。
今までずっと「ミスターヤマハ」に憧れてて、それにレースで勝っちゃったら、怖いものはなくなる。これが本心です。

WJS 開幕戦で山本選手に勝ったことで、今年は行けそうだと思ったのですか?
佐々木 行けちゃうかも」って思ったのは、開幕のちょっと前、銚子で陽平さんと練習したんです。水面がすっごい荒れてたなか、15分、守り切った。そのときに、「陽平さん、本気ですか?」って聞いたら「本気や」って。「宏樹君、乗れてるわ。本当に抜けんかった」って言われて、「あれ、俺、もしかしたらイケてるかも」って思ったんですよ。あれも、俺のなかですごくプラスになった。
それで、レースのスターティンググリッドに並んだとき「このなかで山本陽平に勝ったヤツ、何人いるかな」って思ったんです。あの人、2013年の全日本チャンピオンですから、数人ですよ、彼と対等のライダーって。そう考えたら、全然怖くなくなった。

WJS 師匠ともいえる山本選手に、第3ヒートで抜かれたときはどうでしたか?
佐々木 いやー、今も悔しいです。あの人(山本選手)、あのヒートのあのシーンを自分のYouTubeに上げているんですよ。どう思います? 
あれ以来、自分への戒めのために、毎日、あの「抜かされる自分の動画」を見ています。おかげで、モチベーションが上がりました。陽平さんの動画の再生回数の半分以上は、間違いなく「俺」です。

WJS こういっては失礼ですが、山本選手のほうが、キャリアも長いし、実績も上です。技術も全て格上だと思うのですが、どうして佐々木選手が勝てるのですか?
佐々木 陽平さん、マシン造りが出来過ぎて、「自分の乗りやすいマシン」にし過ぎてるからだと思います。

WJS マシンが乗りやすくなると、戦闘能力が下がるのですか?
佐々木 そんな気がしています。僕がモツに言われているのは、「俺が速い船を作ってやるから、“お前はそれに乗れ”」って。そりゃそうですよね。時速120キロオーバーの、「日本で一番速いボート」なんですから。何かをすれば乗りやすくなっても、速くなることはありません。むしろ、遅くなる確率が高いです。

WJS 速いマシンは欲しいけど、乗りやすさも大事ですよね。
佐々木 そうなんです。みんな言うんです。「そのボート、もっと乗りやすくなるって」とか、「もっとこうすれば」って。でも、乗りやすくて2km/h落ちるんなら、乗りにくくても2km/h上がるほうがいい。僕は技術がないから、そのほうが成績が出るんです。

編集部のひとり言:ポイントリーダーになった時点で、SNSに「小原選手は速い。完敗でした」と、反省文を投稿。謙虚に勝る“煙幕”はない。

勝負の決め手は「運」、大事なことは「日ごろの行い」

WJS 第2戦(※本来、周防大島大会が第2戦だが中止となったため、便宜上、繰り上げて表記する)の銚子大会では、小原聡将選手が3ヒート全て1位でした。佐々木選手は、第1ヒートが2位、第2ヒートが3位、第3ヒートも3位で総合2位。今シーズンの結果をみれば、この銚子大会の2位が大きかったですね。
佐々木 小原選手にはやられました。小原選手は速いです。それは、仕方がないことだから「自分が精一杯走ること」だけを考えていました。でも、銚子は俺のホームゲレンデなんで、実は、ある程度の自信はあったんです。

WJS レース前に、「ホームゲレンデだから頑張って」と声を掛けたとき、「ここはダメ、いつも練習でみんなにコテンパンにやっつけられている。第1戦に勝ったからと言って、銚子だけは決して期待しないで下さい」と言っていましたよね。あれはブラフですか?
佐々木 今、そんなことをバラさなくてもいいですよ(笑)。

WJS レース後のSNSで「小原選手にコテンパンにやられた」と書いていましたよね。
佐々木 そりゃそうです。負けた人間が、偉そうなことを書いちゃいかんでしょ。

WJS あの時点で、ポイントリーダーは佐々木選手でした。小原選手は「アクアバイクは、全戦出ない」と公言していたのに、佐々木選手が「参りました」とSNSで書いたことに驚きました。
佐々木 やめてくださいよ(笑)。本当に「完敗した」と思っただけですから。

WJS それで第3戦千里浜大会でも勝ち、第4戦の大阪大会で3位となって、最終戦を待たずにシリーズチャンピオンが確定しました。
佐々木 運が良かったんです。千里浜に勝った後、大阪と山口と淡路島の3戦が残っていました。自分は、ハバス(アメリカで行われるワールドファイナル)に行く予定でいたので、大阪、山口(周防大島大会)の2レースで、タイトルを決めるつもりでいました。

WJS 周防大島大会は、片山司選手が参戦すると聞いていました。結局、片山選手は出場しませんでしたが、佐々木選手のタイトルを脅かすライダーは、小原選手にしても片山選手にしてもスポット参戦なので、年間タイトルとは関係ありませんよね。
佐々木 ちょっと待って下さいよー(笑)。だから、僕は運も良かったんです。「運」が良かったのも、全て日ごろの行いが変わったからなんですから。

今年は、「運」が良かった。日ごろの行いを変えたのが勝因と、佐々木選手は言う。

来年の目標は「打倒・平阪選手」

WJS 第4戦の大阪・二色の浜大会は、結局、この大会はスポット参戦の小原選手が勝ちました。その後ろで、佐々木選手と平阪勇助選手が2位争いをしていましたね。
佐々木 二色の浜は勝ちに行きました。そんなことは口には出しませんが、「勝つ気」でいました。平阪さんは、「勝てるマシン、ホールショットの獲れるマシン」でないと出場してきませんので、彼が出ると聞いたときから、ホールショット争いは覚悟していました。ただ「絶対、負けない」と思っていました。

WJS 平阪選手のマシンは、そんなに速いのですか?
佐々木 平阪さんのマシンは、僕のボートみたいに120キロ出なくていい。ただ、「110キロまでの到達を速くする」っていう造りなんです。僕も同じ考えで、ホールショットを取って、逃げ切れるだけ逃げ切ろうと。
数字ってウソをつかないんですよ。バーッと走って、何メートルで119キロ、120キロ出たよってなったら、それ以下のボートは、それよりも遅いわけじゃないですか。それが乗りやすかろうが乗りにくかろうが、関係ないんですよ。1ブイ取るためには、速くなければ取れないわけですから。

WJS 第1ヒートは、ずっと平阪選手の真後ろにいましたが、さすがに抜くのは難しかったのですか?
佐々木 平阪さんは、上手いです。良く見ています。「あっ、イケる」と思ったら、スーッと僕の前に現れます。「チクショウ!!」と、叫びながら走っていましたよ。結局、このレースで総合3位で表彰台に上がれたことで、二色の浜大会のポイントでシリーズチャンピオンが決まりました。でも、来年は逆のパターンで、自分が最初から前にいるレースをすることしか考えていないです。

WJS 来年の目標は「打倒・平阪選手」ですね。
佐々木 来年は、シリーズチャンピオンなんて考えていないので、平阪選手のまえでホールショット争いに勝てれば3位でも4位でも構いません。

WJS 2連覇は考えていないのですか?
佐々木 僕、竹野下正治選手のヘルメットも塗ってるから知ってるんですけど、ここ10年くらいで、スキークラスの「全日本チャンピオン」を2回取った人って、竹さん(竹野下選手)と倉橋(秀幸)選手だけでしょう? 勝つのが、そんな簡単なもんじゃないのも分かっている。
チャンピオンより、「平阪さんにホールショットを獲らせない」ことが目標です。それができたら、俺はもう2度とタイトルを獲れなくても本望です。


今年、ホールショット連発。この活躍を見れば、間違いなく次も連覇を狙ってくるだろう。トータルで考えると、来季の優勝候補筆頭に間違いない。

「運」を味方につけて勝つ。そして、「運」が悪いときは静観する

WJS 結局、最終戦の淡路島大会の前に、シリーズチャンピオンが決まったのですよね?
佐々木 はい。最終戦の淡路島は、エントリーさえすればチャンピオンでした。だから、今年は「運」が良かった。風は、僕に向かって吹いていたんです。

WJS タイトルが決定して、結果に関係ないなら、淡路島大会も出ても良かったのではないですか?
佐々木 シリーズチャンピオンは決まったんですが、そのころ風向きが急に変わって、運がなくなったんです。プライベートでも事故を起こしたり、嫌なことがたくさん起きました。「今、レース出ても良いことないわ」ってやめたんです。実は、大阪のレースのときも平阪さんとぶつかった少し先が岸壁で、あのまま落水したら死んでたかも……。そんなことが頭をよぎりました。運がよかったんです。

WJS 「運」を引き寄せた一年だったわけですね。
佐々木 はい。自分自身、練習を一生懸命やりましたし、今までやったこともないけど、一生懸命やっているライダーに貢献したいと思い「下のクラスに、賞の提供」を申し出るとか。「人のため」みたいなことをやりました。そしたら、モツもやるって言ってくれたので、嬉しかったです。

「善行」を積めば「運」が味方になってくれる(佐々木選手談)。

自分が“されたら嬉しいこと”を、若い子にしてあげたい

WJS ダスティン・モツリス選手はコマンダーの代表で、アメリカのライダーですよね? その彼が、日本のレースに協力してくれたのですか?
佐々木 彼もワールドファイナルのジュニアスターに協力しています。だから、日本の若いライダーの育成にも、協力したいと思ってくれているんです。
僕も、自分が下のクラスで走っていたときに「もらえたら嬉しいな」って思うものを渡したい。大したもんじゃありません。賞金と盾。盾も、モツとタイロン(モツリス選手の弟で、トップライダー)の写真とサインです。

WJS 若手のライダーからすれば、世界のトップライダーから祝ってもらえたら嬉しいですよね。
佐々木 僕だったら、すごく嬉しい。だから、若い子にあげたかった。例えば、湯島楓とか釘崎勇真とかって、親が一生懸命に見えるけど、実は彼らも頑張ってるんです。そういう子たちに何かしてやりたい。
それをモツに言うと「お前はいくら出すんだ?」って聞かれたんです。正直に、「自分の小遣いからだから、100ドルくらいしか出せない」って言ったら、「じゃあ、3人分の300ドルは俺が出す」って言ってくれた。最初は1位にだけ出そうと思っていたんだけれど、モツリスも出してくれるから1位・2位・3位と、3人に出せるようになったんです。
そのときモツに「ビデオレターも」ってお願いしたら、ふたつ返事でOKしてくれた。やっぱり、世界チャンピオンからビデオレターを貰ったら嬉しいじゃないですか。若いライダーが憧れる世界のトップライダーから、「世界選手権大会で待ってるよ!」って言われたら、頑張りますよね。
それから、「MVP賞」。これは、別に勝ってなくてもいいんです。その日、一番頑張った人、輝いた人に贈る賞です。銚子大会のときは、MVP賞は金子真珠ちゃんに渡しました。彼女、レースの結果がダメで、表彰式の前にすごく泣いてた。でも、ヒート2で男性ライダーをごぼう抜きにして、とてもいい走りを見せたんです。だから、「今日は、この子だな」って。
佐藤颯志が1位、金子真珠が2位とMVP賞、田中エミが3位。みんなが喜んでくれたんで、これは1年続けようと思いました。


WJS コマンダーファミリーがレースを盛り上げてくれましたね。
佐々木 そうなれるように頑張りたいです。コロナ次第なんですが、来年は、モツリスが「日本のレースに来てくれる」って言ってくれているので。

WJS モツリス選手は、レーサーとしても一流ですが、人格的にも素晴らしい人ですね。
佐々木 彼、南アフリカ共和国出身者で、チームカワサキにいたんです。アメリカ人って、よその国の人間を格下に見てる部分あるでしょう。多分、若いときに相当嫌な思いをしたと思うんです。
だから、日本人の僕にも本当に親切にしてくれます。一緒にいるスティーブもそうです。僕は、彼らに恩返しがしたいんです。


「コマンダーファミリー」の一員として「レースを盛り上げたい」と、行動している。

憧れのライダーに勝ったことで”何か”が変わった!

WJS 最後に、今年の勝因は何だったと思いますか?
佐々木 「山本陽平に勝ったこと」だけは、俺の一年を変えました、本当に。
それと、去年はコロナでレースには出なかったんですが、レース会場に行って、ずっと人を見ていました。そのとき「この人、速いし、上手いのに、何で勝てないんだろう」って。
これって絶対に「行い(おこなう)」だろうって。そういう人を見てから、その人たちのやってないことをやってみようと思った。それが何かいい方向にいったのかな。あとは「神頼み」。今年は、「マシン」と「運」のおかげです。

WJS でも運だけでタイトルは取れませんよ。
佐々木 いや、同じチームの伊東憲太郎は、ライダーとして僕より優れています。でも彼には「運」がなかった。

WJS 確かに、伊東選手の練習を見ていると速いですね。
佐々木 そうなんです。海老原祥吾もそうです。あんなに速いのに「運」がない。だから、全然怖くないんです。僕より「運」がないから。

WJS 来年も、「運」のいい佐々木選手の走りをぜひとも見たいです。
佐々木 自分が、精一杯走るだけです。
このチャンピオンのトロフィー、開幕戦で返すんですけど、そうするとここに僕の名前が入るんです。その次が誰になるのかもすごく気になりますけど、この「3人目」になるのはデカいですよね。これが、毎年毎年、受け継がれるっていうのはいいですよね。


錚々たるライダーが、名を連ねている。来年は、ここに佐々木選手の名前が刻まれるのだ。

「2度目とない」と言うが、絶対に連覇を狙っているように感じられる。

「ろくでなしブルース」の主人公のような風貌だが、頭の中身はクレーバーで冷静

連覇の可能性は十二分にあるし、虎視眈々と「狙って」いる

「僕が勝てるわけないでしょう」。これは、佐々木宏樹選手の口癖でもある。
しかし、3年前に彼が「コマンダーGP1」を購入したときから、全日本チャンピオンを狙っていたと思っている。第2戦の会場となった調子は、彼のホームゲレンデである。「この“負け癖が染みついたコース”だけは、絶対に無理」と公言し、表彰台に上がったら「ホームなのでイケると思った」と言っていた。

今の私には、彼の「無理」は「自信がある」と言っているようにしか聞こえない。佐々木選手は、地元・湘南から往復6時間以上もかけて、ほぼ毎週、練習のための銚子の海に通っている。「実際のレースコースで練習しないと身にならない」と判断しているからだ。
これは、「自信の裏付け」でもあるのだろう。「実戦形式で練習を続けていれば勝てる」という自負があるのだ。

優れたレーサーほど、レース前に頭に描く「シミュレーション」は実戦に近いものである。今季の佐々木選手は、ホールショット争いの1ブイに突入する場面で、「誰と、どう競り合うか」までもイメージ通りにできたのだと思う。
レース終了後、「運」が良かったと発言するのも、「イメージ通りに走れた」と言っているのと同じなのである。

「来年、連覇は考えていない」と言っているが、今年、チャンピオンを獲得したことで、「経験」だけでなく「したたかな自信」も手にした。来年の佐々木宏樹選手は、侮れない存在である。

プロクラス3年目で頂点に立った。余談だが、この日着ていたスウェットは、お嬢様からのプレゼントだそうだ。家族思いの佐々木選手である。

常に場を華やかに盛り上げてくれる佐々木選手だが、その言葉のひとつひとつは、非常に熟考して出されたものだ。

今年で、強烈な自信を得た佐々木選手。来年も、彼の「風」が吹くのが楽しみだ。


【関連記事】
コマンダー インダストリー ジャパン(KOMMANDER Industry Japan) 2020年モデル【オフィシャル動画】
世界最速マシン KOMMANDER(コマンダー)」とは【動画付き】
レーサー達の冬 冬がチャンピオンを育てる! 2021年、真冬の銚子は熱かった Winter Master
2021 ヤマハ(YAMAHA) ニュースタンドアップ「Super Jet」 4ストロークエンジン搭載の新しいマリンジェット登場
2021 水上バイク国内全モデルラインナップ
2021年 BRP SEA-DOO(シードゥ)ニューモデル 国内全モデルラインナップ
2021年 ヤマハ マリンジェット ニューモデル
2021年 カワサキ ジェットスキー ニューモデル


ジェットスキー中古艇情報

月間アクセスランキング