2021年の「aquabike world championship」「JJSF・全日本シリーズ戦」、「RUNABOUT GP」クラスで、日本一の栄冠を手にしたのは、“砂盃肇 選手”である。彼は、1970年(昭和45年)10月生まれで、現在51歳。
今回も含めると現在5年連続で日本1の栄冠を手にしている。日本国内タイトルの獲得総数はなんと11度目だ。2018年と今年2021年にはJET SKI WORLD CUPに勝利し、2度の世界チャンピオンにも輝いている。
要するに世界最強のランナバウト・ライダーなのである。過去5年間、1度も年間タイトルを譲っておらず、来年1月に行われる世界選手権連覇に向けて闘志を燃やし続けている。
チーム・マリンメカニック所属で世界最強のマシンビルダー・今﨑真幸氏のオリジナルレースマシン「ガーコ」に乗って世界で戦うのだ。
まさに「心・技・体・マシン」の全てを手中におさめた2021年12月、「国内&世界王座」砂盃肇 選手に話を聞いた。
WJS JJSFとaquabikeのダブルタイトル獲得おめでとうございます。11度も日本チャンピオンを獲得されていますが、また今年も、砂盃選手のお話が聞けて嬉しいです。
砂盃 ありがとうございます。今さら、自分の話を聞いても、あまり面白くないでしょう。
WJS そんなことはありません。毎年、いろいろなドラマがあります。
砂盃 正直なところ、今年はタイトルを取れないと思っていました。4月にタイのレース(ジェットスキー・ワールドカップ)に行って、JJSFの開幕戦には、「ガーコ(※マリンメカニック製の世界戦略マシン)」がまだ戻って来ていなかった。それで、自前のストック艇での出場になりました。船がなかったんです。対して生駒(淳)選手はボッティ(※世界的トップライダー、ジャン・バチスト・ボッティ選手)のRXPでしょう。普通に考えて、マシンスペックが違い過ぎる。これはやられるなって思いました。
WJS それでも勝ちましたよね。砂盃選手が1位で、生駒選手が2位で、田村眞沙充選手が3位でした。
砂盃 水面が荒れてたお陰です。4回走って3回勝てましたが、荒れてたから後ろから抜くことができたんです。
WJS ストック艇でも勝てる砂盃選手がすごいです。
砂盃 しんどかったです。自分のマシンは新艇で買ったばかり。セッティングさえ決まっていない。ECUの書き換えとインペラーだけなのに対し、生駒君のマシンは、軽量ハルに大きなスーパーチャージャーですから、とても勝負にならないと思っていました。
WJS それだけマシンに差がありながら勝てたら、怖いものはなくなりますね。
砂盃 そうですね。「あれで勝てたのなら、何があってもイケるな」って気持ちになれましたよ。
WJS 「チーム・マリンメカニック」として考えたら、国内タイトルは同じマリンメカニック製のマシンに乗る田村選手でも良かったと思うのですが?
砂盃 マリンメカニックとしては、田村でも良かったと思いますが、俺は嫌です。出るからには負けるわけにはいかないし、まだ田村には負けない。
WJS JJSFの最終戦の第2ヒートは、先行する田村選手の真後ろに張り付いて、最後までプレッシャーを掛け続けていました。あのレースは、ギャラリーとして見ていたらとても面白いものでした。「天下の砂盃 肇」が、あそこまで田村選手を追い詰めても抜けなかったのですね。
砂盃 今シーズン、あそこまでエンジン回転数を上げたことはなかったです。本気でアクセルを握ったけど抜けなかった。田村は頑張りましたよね。
WJS あの日、田村選手は「ガーコ5(※RXP-Xベースの、マリンメカニック製最新モデル)」に乗っていました。レース後、砂盃選手はしきりにマシンを誉めていましたね。
砂盃 いや、今崎さん(※マリンメカニックのコンストラクター)はスゴいです。良いマシンに仕上がっています。俺が本気で走っても、抜かせないマシンでした。後ろから船の挙動を見てても、素晴らしい走りをしていましたよね。
WJS 今崎さんは、世界チャンピオンを獲得した「ガーコ3」というマシンを造り、砂盃選手も「このハルは、世界最強」と言っていました。そのガーコ3をさらに進化させたのが、「ガーコ5」です。以前、今﨑さんが「世界のライバルたちは開発を止めない。だから自分も止まれない」と言っていました。今回、なぜ砂盃選手ではなく、田村選手が「ガーコ5」に乗ったのですか?
砂盃 世界戦略艇なので、俺と田村のどちらが乗っても良かったんですが、最終戦の時点で、エンジンルームの広さなんかの問題で、ヤマハ1800ccターボエンジンが積めなかった。このときのガーコ5は、「シードゥエンジン+スーパーチャージャー」だった。だから僕がパワーのある「ガーコ3」に乗ったんです。でも、ガーコ5の「軽さとバランスの良さ」と「スタートの速さ」は分かっていました。
WJS レース後、とても嬉しそうに「ガーコ5」を誉めていましたよね。
砂盃 あれだけ俺がアクセルを握ったのに、抜くどころかロックオンすらできなかった。あのマシン、速いですよ。
JJSF最終戦「ガーコ5で”走る”田村選手」を「ガーコ3で”猛追”する砂盃選手」。
JJSF最終戦、ガーコ5に乗り、ホールトゥーフィニッシュで勝利した田村選手。
WJS 来年1月のジェットスキーワールドカップは、「ガーコ5」で戦うのですか?
砂盃 時間との戦いですね。今崎さんがヤマハターボエンジンを積んでくれても、重量や船体バランスが変わる。平水なら最高だけれど、荒れた海面ではどうなのか? いずれにせよ、これからの判断です。
WJS 世界大会で、「ガーコ3」と「ガーコ5」のどちらが走るのか楽しみです。
砂盃 こんな迷いも、海外のトップライダーを想定しての話です。国内なら、何でも勝ちますけどね。
WJS それは十分に知っています。今回は、「祝・国内戦のダブルタイトル獲得!」というインタビューのはずだったのに、話題は来年1月の世界選手権の話ばかりですね。
砂盃 1月の大会が楽しみなんですよ。世界で戦うライダー、中東のライダーとか、特にボッティ選手なんかと戦いたいです。
今年の春に世界を獲ったときより、エンジンパワーはまだ上がっています。今崎さんは、どれだけパワーを上げても常に不安がるんですよ。
WJS 世界最速のマシンを作った人が、さらにパワーアップしているのですか?
砂盃 はい。ライバルたちも頑張ってエンジン開発している。「これで大丈夫か?」って。
WJS 常に開発を止めないのですね。でも砂盃選手は、アクセルをあまり握らないんですよね?
砂盃 はい。アクセルを握るだけでは、ラップタイムは上がらない。要所要所、例えばコーナーの出口とか、「アクセルを握った効果」が最も発揮できる場所で握ります。
WJS 先ほど、「どんなマシンでも、そのポテンシャルを最大限に引き出す努力をする」と仰っていましたが、具体的にはどのようなことをしているのですか?
砂盃 例えば、自分の乗っている「ガーコ3」の足まわりは完成されています。そのため、かなり思い通りのライディングができるけれど、ノーマルのマシンでそのような走りはできない。限界を超えると、スピンしたり思い通りのライン取りができない。マシンごとに「限界値」って決まっているんです。その「最大値で走る」ということが大事。壊れたり、コースアウトしたら、結果は作れないですから。
WJS 自動車で例えるなら、「ポルシェで曲がれるスピード」と「軽自動車で曲がれるスピード」の限界値は違う。それぞれのマシンで走れる限界ギリギリで走らせるということですね?
砂盃 はい。その「限界を引き出す能力」というのが、ジェットの場合は奥深い。ジェットは、常にスコープゲートから水を吸い込ませ続けなければいけないから、アクセルワークはものすごく大事です。
アクセル全開で走ってきて、急にアクセルをオフにすれば、ポンプの中でインペラーが蓋をしているような状況になってジェットの後部が持ち上がり、急ブレーキがかかった状態になる。その状態でハンドルを切っても、マシンは全く反応しません。「ジェット噴流」が出ていないとコントロールができません。だから、アクセルワークが大事なんです。
WJS 砂盃選手は、水面をオートバイの「ロード」と「モトクロス」という表現をしますが、平水が「ロード」、ラフウォーターが「モトクロス」と考えて良いのですか?
砂盃 そうです。オンロード、いわゆるサーキットで走った場合、「マシンの性能差」は絶対です。最高速が200km/hと100km/hの2台が競走したら、よほどのことがない限り、200km/hが勝ちます。しかし、モトクロスとなると話は別です。
そもそも路面が悪すぎて、時速100km以上は必要ないコースで、200km/h出るマシンを用意しても無意味。デコボコの路面で、「いかに速くマシンを走らせることができるか」という「人の技術」が問われるからです。ジェットは、「ロード」と「モトクロス」の両方の要素があります。
WJS だから、遅いマシンでも諦めないのですね。スタート時に平水でも、レースが始まれば水面は荒れます。性能だけでは、勝てない部分が多いのですね。
砂盃 だからこそ楽しい。いくら今崎さんのスーパーマシンを持っていても、あの「600馬力のパワー」を発揮できなければ意味がありません。
WJS スーパーマシンであろうが、ノーマルのマシンであろうが、そのポテンシャルを最大限に引き出すのは難しいということですね。
砂盃 はい。なかなかできないですよね。みんな、マシンに乗ってはいますが、「最大限にポテンシャルを引き出しているか?」というと、そうではない。
WJS ということは、我々レジャーユーザーでも、ポテンシャルを引き出せたら、エキサイティングに走れるようになれるのですね?
砂盃 いやいや、レジャーユースの方に「無茶をしろ」って言っているのではありません。ジェットの仕組みを理解して、少しずつそれを操れるように練習すれば、「今より、格段に安全に、自分の思い通りに操れるようになりますよ」ということです。それができたら、もっとジェットが楽しくなりますよ。
WJS 話は変わりますが、レース中に前を走るライダーを「抜くとき」というのは、どんな感じなのですか?
砂盃 レース中盤以降、前を走っているライダーが苦しくなってきたなっていうのは、後ろから見ていると良く分かるんです。走りが「とっ散らかって」くる。そうすると抜けますよ。
抜く場所は全部違いますが、「いっぱい、いっぱい」のライダーなら、それより速く走れば抜けます。自分も相手も「とっ散らかって」いても、冷静に状況判断ができれば抜けると思います。
前を走っているライダーが苦しくなってライディングが乱れてきたら、自然に抜ける。
砂盃 正直なところ、体力は「15分+1周走れる分」があれば、あとはどうでもいい。これが耐久レースだったら話は別ですが、クローズドレースの世界選手権なら、それ以上いらない。そのレースの体力だけは持っていないと話になりませんが、むしろクレバーに状況判断ができるほうが大切です。「脳の指令通り走れる技術」。何度も言いますが、「マシンのポテンシャルを引き出す能力」のほうが大事です。
WJS 最後に、1月のジェットスキーワールドカップに向けてひと言お願いします。
砂盃 チームのみんなと、応援してくれる全ての人々と一緒に、世界戦で頑張ってきます。いつも応援、ありがとうございます。
2022年モデルのカラーリング。写真は「ガーコ3」だが、「ガーコ5」も同じカラーリングだと、デザインしたサクセス&スピード グラフィック 社の佐瀬氏は言う。見分け方はフード中央に描かれた「ガーコ3」の部分の文字だけだ。アンダーハルが「ガーコ5」の方が短いというが、肉眼で見分けられる自信はない。
砂盃肇(いさはい・はじめ)
【Profile】
1970年10月30日生まれ。群馬県出身。
【主な戦歴】
2003年 JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
2004年 JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
2005年 JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
2010年 JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
ワールドファイナル・GPランナバウトクラス 総合2位
2011年 JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
2013年 JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
2017年 JPBA AQUABIKE JAPAN CUP GPランナバウトクラス年間チャンピオン
2018年 JET SKI WORLD CUP GPランナバウトクラス世界チャンピオン
JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
JPBA AQUABIKE JAPAN CUP GPランナバウトクラス年間チャンピオン
2019年 JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
JPBA AQUABIKE JAPAN CUP GPランナバウトクラス年間チャンピオン
2020年 JJSFプロランナバウトGPクラス年間チャンピオン
2021年 JET SKI WORLD CUP GPランナバウトクラス世界チャンピオン
JJSFプロランナバウトクラス年間チャンピオン
JPBA AQUABIKE JAPAN CUP GPランナバウトクラス年間チャンピオン
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