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今から30年近く前、ジェットレース界に一大勢力を築いた「ASM」というチーム 松井義和氏インタビュー 2/2 ジェットスキー(水上バイク)

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アメリカの高額なパーツを使わずに、同じか、それ以上のパワーを出したかった

WJS ばっちりセッティングすると、燃焼効率が上がってパワーが上りますが、同時に焼き付きやすくもなると聞いたことがありますが?
松井 そうです。ある程度、絞っていきますから。メーカーの新艇は釣り鐘式っていう構造で、安全性を保っている。しかし、釣り鐘式は高回転が回らない。だからプラグ穴を5mmくらい落としてあげる。溶接してプラグ穴の位置を変えることで、燃焼効率も上げ、高回転を可能にしました。

WJS それがASMのヘッドですか?
松井 そうです。PJSとかアメリカの高額なパーツを使わずに、同じか、それ以上のパワーを出したかった。オリジナルのヘッドを製作して、シリンダー内部の効率化を可能にしました。2サイクルエンジンの命って、「ヘッド」なんです。この精度を上げるのが1番効率があがる。形状を変えたヘッドを装着することで、理想の燃焼室に変化します。

WJS 当時、PJSと同じような形状のパーツはたくさん出てきましたが、松井さんのヘッドのような形はないですよね。
松井 僕のは、ノーマルのヘッドを外して、そこにアルゴン溶接して、旋盤で削っているだけ。穴を開けて、オイルを垂らして何ccだからOKという感じです。これは、昔からクルマのチューニングであった方法。個体差はないようにしているけど、すべてハンドメイドだからね。装着してコンプレッションを計測してOKというような作りでした。

WJS 松井さんのところへ行って「ヘッドをください」って言われたら、「お前のエンジンからヘッド外して持って来い」って言うのですか?
松井 そうです。それに肉盛りして、旋盤で粗削りする。熱処理をしないとアルミはフニャフニャになるので焼き入れして、それからキレイに仕上げて、ってやっていました。
石田 決勝に残るマシンは、大抵、松井さんのヘッドが付いていましたよ。

ASMのヘッド。「形状を変えたヘッドを装着することで、理想の燃焼室に変化する」と松井氏。

ノーマルのヘッドにアルゴン溶接をして、全て手作業で加工していった「ASMのヘッド」

WJS ヘッドは何個くらい作ったのですか?
松井 100か200かな。

WJS ちなみに、当時、PJSのヘッドはいくらくらいで売っていたのですか?
石田 4万~5万円くらい。

WJS 松井さんのヘッドはいくらですか?
松井 2万か3万円。

WJS ヘッドを削るのは、全部、手作業ですか?
松井 肉盛りまではやってられないから、途中からアルゴン屋さんに出して、モリモリにしてもらっていました。

WJS アルゴン溶接に出したら、いくら払うのですか?
松井 2万円くらい。

WJS 松井さんの儲けは全くないですよね?
松井 ないけど、自分でやるとすごく時間がかかるから仕方がない。それに、自分の好きな形の燃焼室ができるからそれで良いんです。

WJS そうして、ひとつひとつ手作業で造ったヘッドが、速さの秘密だったのですね。
松井 JJSBAの最初のころ、ヘッドを「めくって見せろ」って言われたことがあります。言われたとおりに見せて、「俺は絶対に違反はしない。だから他の人を調べた方が良いよ」って言ったんです。それからはヘッドを開けろって言われたことがない。
石田 チーム全員のマシンが速いから、疑われたんですよ。
松井 違反して勝つんだったら誰でも勝てる。そんなことするぐらいなら練習しなさいって、チーム員にはいつも言ってましたから。

WJS ASM製のヘッドを使うことで速くなるが分かっているのに、なぜメーカーはそうしなかったのですかね?
松井 耐久性の問題です。僕は、1年は持つようにした。もっとパワーは上がるけど、ひと月しか持たないというエンジンも作れます。でも、メーカー製が1年しかもたないんじゃダメでしょ。

日曜日にレースがあると、壊れたジェットが月曜日の朝には松井さんのショップの前で溢れかえっていた。朝一番の仕事がジェットをどかすことだったという。そうしないと、本業のクルマの仕事ができなかった。

「ウチのは高価だよ」と他のショップであしらわれて、「もういい自分で作る」って火が付いた

WJS お話を伺っていると、普通のレースチームと、ASMは違いますね。
松井 このチームを始める前、アメリカのコンプリートマシンを売っているレースショップを見に行ったことがあります。そのとき、何かを質問したら、そのお店の人に言われたの「ウチのマシンは高いよ」って。それでカチンときた。「もういい自分で作る」って。

WJS 当時、PJSのエンジンルームといえば、誰もが憧れていましたが、松井さんにとっては、それほど大したことはなかったのですか?
松井 見た目の美しさは大したものですが、理論通りの改造だと思います。ノーマルの排気を良くしたいと思えば、PJSはあの高いチャンバーを付けることになるけど、僕はノーマルの中をくり抜いて排気を伸ばし、ノーズ缶が長いのでプラズマカッターで中をくり抜いて半分にして、ってやってると、エンジン効率は同じように上がります。見た目はノーマル、中身の排気効率はPJSと同じものが安く作れるんです。

WJS となると、PJSの良い部分はどこですか?
松井 ライダーだね。ジェフ(・ジェイコブス)がすごい。アメリカでジェフを見て、あんな背が大きいのに、よくJS 550に乗れるなって思いました。

WJS 彼の走りをアメリカで見たことがありますが、まさに体の一部のようでした。
松井 ウチのチームリーダーの石田君は、体の一部ではなかった(笑)。走っていく姿は強引なんだけどね……。
石田 俺、優しさが出ちゃうんですよ(笑)。

WJS 松井さんが速いマシンを造って、石田さんがホールショットを獲得する。でも、追い抜かれたりしたら、もう少し体にやさしいマシンにしようとは思わなかったのですか?
松井 思いません。まずはホールショット。
石田 あのころ、1年間だけPJRAっていう団体ができて、山中湖でレースがあったんです。僕は、松井さんに作ってもらった、すごく速いエンジンが2基ありました。だけど、僕は気が優しくて、ホールショットが獲れませんでした。僕のマシンが速いことが分かっていたんでしょうね。スターティンググリッドでは、(クリス・)マックルゲージ選手と金森稔選手に挟まれました。
松井 あのレースは、行けると思ったんです。
石田 いや、俺が優しいからイケないんです。今でも後悔しています。行けば良かったって。
松井 そうだよ(笑)。あれは、よく覚えています。別のヒートでも、最初にホールショットで飛び出して5周目ぐらいトップで「そのまま、そのまま」って、祈る気持ちでいました。
石田 あのころ、ヘルニアで手術しなければいけないって医者に言われてて、「ガラスの腰」だったんです。腰に爆弾を抱えていたから、後半がキツくてキツくて……。

WJS マックルゲージ選手と金森選手と一緒に走るのなら、松井さんも気合を入れてマシンを造ったんじゃないですか?
石田 そうですね。当時は750SXが出てきたころだったんですけど、みんなは550モデファイから乗り換えようとはしなかった。まだ、レースパーツがないからね。でも松井さんは、「絶対、750のほうが速いから乗り換えろ」って、僕は750に乗り換えた。550のライドプレートを切って溶接して、独自のパーツを作ってもらいました。だからマシンは速かったです。
松井 だから、ホールショットで出て欲しかった。

WJS それだけ大きなチームだったのに、どうして解散してしまったのですか?
石田 僕のところに子供が生まれて、ジェットのレースができなくなりチームを辞めたんです。そうしたら、まとめる人がいなくなってしまいました。人数が多いといろいろな考えの人がいますから、まとめるのは本当に大変なんです。
松井 それで解散しました。それが1996年ごろ。僕にすれば、ジェットは趣味でしたし、ずいぶん楽しませていただきました。


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