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世界チャンピオン艇を取り扱う「コマンダーインダストリージャパン」&マシンペイントの国内第一人者「ヒロキックスデザイン」代表・佐々木宏樹氏インタビュー (2/3)ジェットスキー(水上バイク)

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「CBX」というバイクしか愛せない男だった

WJS そのころは、何というバイクに乗っていたのですか?
佐々木 ホンダCBXです。そのころは、バイクに乗るため、バイクのためだけに働いていました。

WJS バイクに乗るといっても、サーキットで走るのではなく、公道で格好良く、速く走りたかったということですか?
佐々木 速く走りたいわけじゃなくて、『格好良く、大きな音で走りたかった』だけです。当時は、それがカッコイイと思っていましたから。

WJS それは、暴走族とは違うのですか?
佐々木 その言い方は良くないです。今の時代に「暴走族」なんていう言葉はおしゃれじゃないです。

WJS 失礼しました。CBXは、やはりオリジナルペイントをしていたのですよね?
佐々木 俺は、中学のときからバイクはCBXしか愛せない男で……。ちょっと話は戻るんですけど、中学2年のときに、ある先輩がCBXを買ったんですが、それが赤と白の2色入った純正カラーだった。でも俺は、CBXは絶対に白一色のほうがカッコイイって思っていて、白いCBXに死ぬほど乗りたかったんです。
それで、先輩に「色って、どうやって塗ればいいんですか?」って聞いたら、「ホームセンターで剥離剤買ってきて、純正の塗装を落として、白の缶スプレーで塗ればいい」って教えてもらって、早速、ホームセンターに飛んで行きました。「はくり剤」って、ひらがなでラベルに書いてあったから中学生の俺でも、すぐ見つけられました。

WJS それで白く塗ったのですか?
佐々木 でも、剥離剤の使い方が分からなかったんです。なんか変なゼリーみたいで、手で塗って伸ばした瞬間、手がジンジン、ビリビリ、ヒリヒリして大騒ぎ。すぐ水で洗い流して……。ひどい目に遭いました。

WJS 説明書は読まなかったのですか?
佐々木 そんなもん、見てません。本来、剥離剤って手で直接触っちゃダメで、刷毛で使うらしいです。それを素手でやったもんだから、火傷みたいになっちゃって。確かに塗装もベロベロって剥がれるんですけど、同時に手もベロベロって。痛い痛い、何だこれ? って、ところから始まりました。

WJS それでも塗装したのですか?
佐々木 はい、根性で。とりあえず、雑巾かなんかに沁み込ませて、純正の塗料を剥いで白の缶スプレーで塗りました。

「はくり剤を手で塗って、塗装もベロベロになったけど、手もベロベロになりました」と笑う。

説明書を読まずに始めて、手の皮がベロベロに剥けた日

WJS 作品の仕上がりはどうでしたか?
佐々木 塗りあがった瞬間は良かったんですけど、結果的には最悪でした。説明書を読んでないから、剥離剤の使い方が分かっていない。もともとの塗料を落としたら、剥離剤をきれいに洗い流さないといけなかったんです。それを知らないから、そのまま白の缶スプレーを吹いてしまった。
剥離剤と塗料が混ざった状態で塗装をしたことになるんで、2~3日で表面に錆が浮き出てきた。「何だ、これ!?」って大騒ぎですよ。それで、剥離剤の使い方や、塗装する前にペーパーを当てて、サフェーサーを塗って下処理するとか、缶スプレーで色を塗った後に、クリアーで艶を出すとかっていう技術を覚えていきました。

WJS そのころの作品は残っていないのですか?
佐々木 覚えているのが、「写ルンです」ってレンズ付きのカメラがあったでしょ。それで、自分の塗ったバイクの写真撮りまくって、仕上がった写真を見ながら「うわ! かっけえ」みたいな毎日でした。

アメリカで行われるワールドファイナルに出場する横山亜土夢(アトム)選手(13歳)からの依頼でペイントしたもの。「名前の亜土夢(アトム)から、“鉄腕アトム”、“アメリカ”、“日本”。この3つの要素を入れてほしい」というリクエストだったそうだ。

板金屋の先輩の塗装を見るまでは、俺が地元で一番の缶スプレーペインターだった

WJS 編集部のジェットをヒロキックスデザインで補修していただいたときに驚いたのが、ペイント作業は全体のごく一部で、ほとんどが下処理作業ばかりということです。昔から、そういう地味な作業をやっていたのですね。
佐々木 いや、そういうのをちゃんとやり出したのは、板金屋の先輩に塗装のイロハを教わってからです。当時、必死で仕上げたら、塗装の表面にペーパーのザラザラした目が出てツルツルじゃなかったり……。
せっかく、良い道具と良い材料で塗ってるのに何で!? って思っていたら、先輩が「120番のペーパーで下処理を仕上げるからダメだ。もっと細かなペーパーで仕上げないと」って。でも、ペーパーで削れって先輩が言ったんじゃないですか? みたいなやり取りから始りました。そういうことを繰り返して学んでいきました。

WJS でも、そういう技術を中学生で身につけていたのはすごいと思います。
佐々木 いやいや、中学生の自分にそんな脳ミソがあるわけないです。そのころは、ひたすら剥離剤と缶スプレーのみで勝負してました。っていうか、これで完成だと思ってました。板金屋でワインレッドに塗った、先輩のバイクを見るまではね。

「最も思い入れが薄いのが、自身のヘルメットデザイン」と佐々木氏。デザインコンセプトを聞くと、「昔からこの絵が好きで、自分の乗っていたバイクのタンクにも描いていた」と言うだけだった。

人生を清算し、今までの生活から足を洗い、パチプロになるべくトラックに乗っていた日々

WJS それからずっと、ペイント関係の仕事をしていたのですか?
佐々木 いや、それから21歳のころにいろいろあって、一切、塗らなくなったんです。バイクとか、今までのことから全て離れて、生き方も含めて自分が変わりたくなった。一切合切捨てて、ゼロにしようって思って。

WJS 人生を変えるというと、今までやってきたことを全部やめたのですか?
佐々木 はい。そのころは、仕事から帰ってきてからも暇でした。パチンコが趣味で、できたらパチンコで飯が食えるようになれば良いなって、漠然と思って生きてましたね。

WJS そのときは、何の仕事をしていたのですか?
佐々木 トラックに乗っていました。将来、パチンコで生計を立てようと思ってたから、パチンコで勝つ技術を手に入れるために、ダンプに乗ってるみたいな感じです。

WJS すごいですね。それで、パチンコで生計が立てられるようになったのですか?
佐々木 食べていけるんだったら、昼間に働かないですよ(笑)。

WJS いつからペイントの仕事に戻ったのですか?
佐々木 26歳のとき、久しぶりに当時の友達に頼まれてバイクの塗装をしたんです。「バイク、塗ってくれ」っていうから軽い気持ちで引き受けて塗ったら、それが口コミで広がっちゃって火が付いちゃった。

自身がペイントしたヘルメットを、愛おしそうな目で見る。本当に塗装に愛着とプライドを持っていると感じる瞬間だ。

彼女もビックリ! シンナーの臭いしかしない6畳2間のアパート

WJS ペイント依頼が増えたのですか?
佐々木 はい。後輩から知り合いまで、「塗ってくれ、塗ってくれ」って。

WJS 仕事が終わって、パチンコにも行かず塗っていたんですね?
佐々木 塗装が忙し過ぎて、仕事にも行けなくなりました。でも塗装のほうが楽しいし、仕事も嘘ついてサボるようになっちゃって……。「今日中に、これ塗らねえと」っていう生活になっちゃったんです。

WJS 塗装はどこでしていたのですか?
佐々木 当時、2DKのアパートに住んでいたんですけど、部屋中に取り外したバイクの外装が置いてありました。表で塗って、風呂場に白熱電球の投光器をいっぱい置いて、今でいうと乾燥室みたいなものを作っていました。塗ったパーツが早く乾くから。

WJS お風呂に入るときは、どうしていたのですか?
佐々木 風呂に入るときは、全部片づけてました。台所なんて、ラメだらけですよ。

WJS シンナーの臭いが部屋中に充満していそうですね。
佐々木 彼女を初めて部屋に連れて来たとき、「ここ何?」って言われました。そりゃ言われますよね。2DK、6畳2間のアパートにバイクが3台も入っているんですから(笑)。台所には塗料がベタベタ垂れてるし、風呂場は部品だらけ。台所、和室、洋室に各1台づつバイクが置いてあるわけですからね。

WJS バイクを外に出したらよかったのでは?
佐々木 塗りモノなんで、盗まれるとマズいんです。

WJS 寝る場所は、どうしていたのですか?
佐々木 ちゃんと洋室に布団とテレビがあって、寝る場所もありました。バイクは壁沿いに置いていた。寝ながら見るバイクは「オブジェ」です(笑)。

ヒロキックスデザインの社屋の壁面に描かれた看板。ラメ塗装を得意としているが、ポップなイラストも秀逸だ。

次へ(3/3) 「時計はロレックス、塗装はヒロキックス」

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