上の写真は、アメリカでの取材の際に訪れた、ジェットスキーのアフターパーツメーカー「ブレット レーシング」の隣にあるビンテージカーショップのオーナーの車だ。
いかにも「アメリカ」という雰囲気のクールな車に見とれて、思わずシャッターを押していた私。夢中で写真を撮っていると、腕に派手なタトゥーを入れ、赤いTシャツ姿のスキンヘッドの兄ちゃんが、「ナニゴト!」と飛び出してきた。
「日本でジェットスキーの専門誌を作っているワールドジェットスポーツマガジンと申します。隣のブレット レーシングに取材に来たところ、この素敵な車を見つけたので思わず写真を撮っていました」と、つたない英語で説明した。すると、Mr.スキンヘッド氏に「ウェルカムだ! 中もドンドン撮らんかい!」と、エラく歓迎された。
この車は、これからどんどん仕上げていって、最終的には「一度見たら二度と忘れられない超クールな車になる」と言っていた。
Mr.スキンヘッド氏の名前はビルといい、古い自動車に最新のパーツを組み込んで、自分の好きなようにカスタムして売るのを生業にしているそうだ。
ビル氏のファクトリーは、映画のワイルドスピードに出てくる麻薬の密売件整備工場のような雰囲気だ。オシャレでちょっと怪しい雰囲気にワクワクした。
ファクトリーに入ると、「コレに乗るのか!」と、少し腰が引けてしまうような「クルマ」が転がっていた。後部には落書きのようなグラフィックが施され、フロントグリルは全部錆びている。そして、エンジンが剥き出しで飛び出している。
これは、超人気クラシックカー『フィアット500シムカ』。ビル氏の私物で、「宝物」だという。エンジンはむき出しで、フロントグリルは全部錆びている。懇切丁寧にクルマの説明をしてくれる彼のドヤ顔と笑顔を前に、戸惑いとたじろぎを隠せない私であった。この感覚、私にはなかなか理解できない……。
建物内には、もう少しでこの車の兄弟になると思われる、サナギか幼虫のような骨組みのアメ車が数台、置かれているのが見えた。
思わず、「このクルマは動くのか?」と尋ねてしまった。するとビル氏はニヤッと笑いながら、フロントガラスのない窓から太い腕を車内に突っ込んでキーを捻った。
次の瞬間、耳を塞ぎたくなるほどの爆音エンジンサウンドが、ファクトリー中に響き渡った。慌てて、ていねいにお願いしてエンジンを止めてもらった。
この車が、あの音で走るのか……? 「こいつ、馬鹿だ」と、確信した。これが走ったら、近所迷惑以外の何モノでもない……。
その一方で、アメリカ人というのは、本当に素敵なクルマが好きなんだなと、感心した。あんな音で街中を走ったら、撃たれても文句は言えない。しかし、ビル氏の自慢げなドヤ顔からは、撃たれる心配なんて微塵も感じられない。このクルマが、素敵だと思われている何よりの証拠だ。
読者の皆さま、この車に乗れますか? 素敵なだけじゃない。耳を塞ぎたくなる爆音付きですよ。
アメリカの遊びの文化の成熟さには、つくづく驚かされる。
帰り際、「俺、本に出るのか?」と、何度もビル氏に聞かれて困った……。
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