SEA-DOO RXP-Xは、2011年のワールドファイナルで勝利して以来、現在まで、国際大会で勝ち続けている。日々進化するレース業界で、実に8年間、1度も負けていないのだ。 今回、そのRXP-Xの強さの秘密を検証する。
RXP-Xの特徴は、世界最高峰のコーナリング性能を誇る「T3ハル」にある。「T3ハル」は、他の機種と比べて、どこが優れ、何がそこまで違うのだろうか?
今までのランナバウトの下ハルは、RXT-Xのように「V字」のキールラインを、コーナリングのきっかけにしていた。しかし、T3ハルはキールラインが丸く、エッジが立っていない。この丸さが「スゴさ」の理由なのだ。
従来のエッジの立った、「V字」のキールラインは、どベタの水面では素晴らしいコーナリング性能を果たしてくれる。しかし、ラフウォーターになると、無秩序な波に引っかかって、コントロール機能を失う。RXP-Xのように、丸太のようにキールラインが丸いと、波の影響を受けにくい。
コーナリングのきっかけを作るため、従来のジェットスキーのキールラインは尖っていた。しかし、このRXP-XのT3ハルは、上の図のように、どこもかしこも全て丸い。これが、画期的な出来事なのだ。例えるなら、水面に映った月を、真上から垂直に叩き切ろうとした場合、日本刀のような鋭角なものだと、少しでも入射角がズレたら、真っ直ぐに切れず、よじれてしまう。しかし、野球のバットのような丸い形状なら、真っ直ぐに、月を叩き割ることができる。
ジェットの歴史のなかで、これほど丸いハルは過去にない。理屈では、ラフウォーターに強いと分かっていても、「四角く尖っているもの」を「丸く」することは、簡単にできることではなかった。
ハル全体が丸くなると、ラフウォーターでのコーナリング性能は上がるが、マシンが浮き上がりにくくなり、水の抵抗が増えると考えられていたからだ。
しかし、その定説を覆して、「T3ハル」はキチンと浮き上がる。結果、最高速を落とすことなく、コーナリング性能も良い。両方の良い部分を手に入れたのだ。
2年前(2016年モデル)に、両艇の最高速を計測したことがあるが、数値は同じであった。これは、「水に接している形状は違うが、接している面積は同じ」という証拠である。この「水に接している形状の違い」が、乗り味に大きく影響する。
マリンメカニック製オールカーボンボディに、推定600馬力の「RXP-X ターボチャージャー」を装着したモデルである。今回、このモンスターマシンに、試乗させていただけることになった。
中野プロから、面白いライディング理論を聞いた。「コーナーでマシンをバンクさせない」と言うのだ。RXP-Xが「世界最強のコーナリングマシン」と言われるゆえんは、船体を倒せるからなのに!?
曲がるときに船体をバンクさせることで、ビギナーでも「G」を受け止められる。だから、世界チャンピオンのようなコーナリングが、誰でもできると言われている。
中野プロ曰く「こんなにハイパワーなマシンでバンクさせれば、水にめり込んでいく」と言う。巨大な「G」がかかるので、当然の話だ。それが、タイムロスになるという。確かに、話を聞けば理解はできるが、このモンスターマシンをバンクさせずに曲がるのは、体力的にとても辛い。
しかし、中野プロのライディングを見ると、傾けないで曲がっているのがよく分かる。不謹慎にも、面白いと思ってしまった。バンクさせられることが、RXP-Xの強さの秘訣だったはずなのに……。
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