フリースタイラー・藤澤正雄選手を覚えていますか?
2003年に、日本人で初めてフリースタイルの世界チャンピオンになった伝説のフリースタイラーです。
彼は、日本のフリースタイル界、最大の功労者と言っても過言ではないでしょう。彼の繰り出す、高く美しく鋭い回転のバレルロールは「藤澤バレル」と呼ばれ、誰にも真似できないものでした。あの時代、藤澤選手に憧れて、フリースタイルを始めた人は多いはずです。国内でも圧倒的な実力の持ち主でした。
現在の藤澤氏は、大ケガのためフリースタイルの世界から完全に離れているので、彼の姿を見ることはありません。
今だから、フリースタイル界に偉大な足跡を残した「藤澤正雄」という選手について、語ってみたいと思います。
フリースタイルという競技について簡単に説明すると、もともと全米ツアーのレースの昼休みに、スーパースターと呼ばれたレーサーたちが始めたギャラリーサービスでした。もちろん、今のような専用フリースタイル艇もなく、レース艇でサブマリンやウィリー、ジャックナイフなどの技を披露して観客を楽しませていたのです。
1990年代中ごろ、フリースタイルの神様と言われたリック・ロイが平水面でのバレルロールを完成させ、空中回転技が主流となりました。フリースタイルはレーサーによる余興ではなく、専門の選手による専門のカテゴリーとなりました。
しかし、カナダ出身のリック・ロイ、アメリカ出身のエリック・マローン、ブラジル出身のアレッサンダー・レンジといった、ごく一握りのスーパースターたちの演技しか、見るべきものはなかったという人もいます。
フリースタイルという採点競技の特性上、ビジュアルも重視されていました。映画俳優のトム・クルーズに似た、イケメンで長身、実力も兼ね備えたリック・ロイに人気が集まるのも頷けます。
1998年にリック・ロイが一線を退き、代わってエリック・マローンがフリースタイル界のトップに君臨しました。
エリック・マローンは、ワールドファイナルが行われるレイクハバスの住人で、過去に4度もフリースタイルの世界チャンピオンに輝いている絶対王者。ましてやアメリカ人は、アメリカ以外の選手が勝つことを良く思わなかったため、アメリカ圏の以外の選手に高得点が付くことが稀でした。日本人が世界チャンピオンを獲得するなど、誰も予想していない時代でした。
それを覆したのが、「藤澤正雄」選手です。
2003年、敵なしのエリック・マローンを倒したのが、身長164cmの小柄な日本人。
しかも、決勝では同点の首位で、プレーオフの演技でエリック・マローンを破ったのです。
快挙という以外、何ものでもありません。
当時、タイトルを獲得した藤澤選手へのインタビューを抜粋します。
WJS 今大会、5度目の世界への挑戦でしたが、ワールドファイナルに懸ける意気込みはいかがでしたか?
藤澤 普段どおり、極度の緊張もなく納得した演技です。リラックスしていました。マローンや(アレッサンダー・)レンジの演技を見なくても、今回は、勝てるだろうと思っていました。
WJS 決勝では、納得の演技ができたのに、採点はエリック・マローンと同ポイントでしたよね?
藤澤 正直に言うと、自分の演技に自信があっただけに不満でした。同点決勝で再戦して、「接戦の末、アメリカ人のマローンが勝ちました、みたいな筋書きになっているのか……」とも考えてしまいました。
WJS 同点決勝の場合、コイントスで出走順を決めます。コイントスで藤澤選手が勝ったのに、なぜ先に出走したのですか? 普通なら、後に演技したほうが有利ではないですか?
藤澤 そうですね。通常なら、相手の演技を見た後で出走するのがセオリーだけど、僕にはそんなの関係なかった。「自分の最高の演技」をするだけ。プレーオフの演技時間は、決勝の半分の1分間しかないので、決勝ときの演技を凝縮させたように、思いっきり行きました。
WJS ジャッジについては不満がありましたか?
藤澤 全くないです。フリースタイルは、ギャラリーを沸かせてナンボ、楽しませてナンボ。僕には、「採点方法に合わせた演技をする」という考えなど全くありません。審査員の方も、ギャラリーの一部だと考えています。だから、最もオーディエンスを興奮させ、楽しませ、沸かせた者が勝者だと思っています。このとき、何度、同点決勝になっても、勝つまで何度でも飛べばいいと思っていました。
同等の演技なら、アメリカ人のエリック・マローンに勝てるはずはありません。いかに、藤澤選手の演技が、他を寄せ付けなかったかが分かるというものです。
2003年に勝つまでに、4度、ワールドファイナルにチャレンジし、5回目の挑戦で世界チャンピオンに輝きました。
彼の勝利は、レース、フリースタイルを問わず、日本中のジェット乗りに夢と希望を与えてくれました。世界タイトルを獲るために超えなければならない、「アメリカ人の壁」を実力でねじ伏せ、獲得したタイトルは永遠に讃えられるべきものだと思います。その後、世界で活躍する日本人の道筋を作ったことに間違いありません。
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