写真の「ヤマハ MJ-EX Deluxe」は、比較的、船体サイズの小さなジェットスキーです。もう少し大きなヤマハVXシリーズや、カワサキSTX-15Fでも、低速で簡単にひっくり返ることがあります。
例えば、桟橋に着岸しようと2人乗りのジェットスキーでゆっくりと近づいてきたとします。そのとき、操船者が急にハンドルを切って、荷重が一点に集中したときに“コロン”と簡単にひっくり返ってしまいます。
知識のある人なら、すぐにエンジンを切って裏返っているジェットスキーを起こしますが、本当に初心者の人たちは、投げ出された水中で、ひたすら笑い転げています。そんな光景を、何度も目にしたことがあります。もちろん、エンジンは完全に水が入っていました。危うく水没寸前になって、大騒ぎで引き揚げた経験もあります。
でも、このフロートがあれば、どんなジェットスキーでもこんなふうにひっくり返ったりしません。ジェットスキーというものは、基本的にファントゥライド。いわゆる「走る喜び」をテーマに設計されています。停止時や低速走行時に安定感を重要視している機種は少ないなかで、このエアーフロートの登場は朗報です。
これは、ジェット業界の老舗アフターパーツサプライヤー、ホットプロダクツジャパンより発売されている「膨張式ジェットエアーフロート(以下、エアーフロート)」。ゴムボートの外枠のようなチューブで、ジェットスキーの外周を覆う画期的なパーツです。
エアーフロートを装着すると、エンジンをかけずに浮いているときや低速走行時に、抜群の安定性を発揮します。適応機種であるヤマハMJ-EX Deluxe(以下、EX)は、軽量コンパクトな船体が特徴。あえて不安定さを強調することで、スポーツライディングを可能としているモデルです。
例えば、このジェットスキーで釣りをしようと思ったら、停止時、かなり不安定な思いをします。しかし、このエアーフロートを装着するだけで、デッキの上に立ってもバランスを崩さないほど安定するのです。安定感という意味では、フラッグシップと同等か、それ以上だと思います。
タンデム(2人乗り)走行が、非常に快適になるという利点もあります。例えば、エアーフロートを装着していない機種で、RiDE機能を使ってバックするとき、アクセルを強く握ってハンドルを左右に切るといった雑なハンドリングを行うと、後部デッキが水に沈み、その反動で簡単に転覆します。
しかし、エアーフロートを装着していると、無理やり転覆させようと頑張っても、ひっくり返すことができませんでした。これも、考え抜かれたフロート形状によるものです。
このエアーフロート付きのEX Deluxeで最も驚いた部分が、「運動性能を阻害しない」ことです。理由は簡単。ジェットスキーが浮き上がり、フロートが水に干渉しないからです。これには驚きました。
安定性や快適性は、見た目からある程度判断できます。しかし、「安定=(イコール)抵抗」だから、運動性能は著しく劣るだろうと予想していました。ところが、エアーフロート付きでアクセル全開で走り回って感じたのは、「純正ノーマル艇と変わらない」です。これには、本当に驚きました。
私の体感速度を証明するため最高速を測ってみると、エアーフロートを付けていてもいなくても、最高速は同じ時速78kmでした。コーナリング性能も全く変わりがありません。スピードが上がり、ジェットが滑走状態になると、エアーフロートは全く水面に干渉しなくなる。だから、抵抗にならないのです。
ちなみに、この撮影をした日の水面は、白波が立つほど、非常に荒れていました。それでも、快適に走ることができます。現在、対応機種はEX Deluxeのみですが、今後、装着できる機種が順次増える予定だそうです。
実際に試乗してみると、見た目よりエアーフロートの重さは感じられません。考えてみれば、フロートの中身はただの空気だから、軽いのは当然です。こういった「チューブ」状のものは、どうしても「トーイングチューブ」を想像して、水の抵抗で重くなると思っていました。
エアーフロート付きのEXが「軽くて軽快に走る」という事実に、少し戸惑っている自分にあきれてしまいました。
撮影の途中、「転覆しても、すぐに復元できるよ」と言われました。意味が分からず、私は「はっ?」と、聞き返しました。すると、エアーフロートに足をかけ、無理やり横転させてくれたのです。驚く私に対し、さらに「1人で復元できるんです」と、軽々と元に戻してくれました。
「あれだけ安定しているエアーフロート付きのEXを、1人で復元できるのは、ものすごいことなんですよ」と言い、「これは、フロートの大きさと形状が素晴らしいからできるんです」と言われました。確かに、大きな浮き輪が付いているようなものです。普通なら、水の抵抗で元通りにするのも大変なはずですが、そんなことは全くないようでした。
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