「転がる石には苔が生えぬ」ということわざがある。
このことわざ、面白いことに全く真逆の解釈があるのだ。
ひとつは「職業や住まいを転々と変える人は金がたまらず、友人もできない」という意味。
そしてもうひとつは、「常に活動的な人は新鮮である」だ。
最初の解釈では、「苔が生えない」のは悪いことだという。
2つ目の解釈では、苔が生えないのは、「活動的で新鮮」だから良いことだという。
ひとつのことわざが、相反する意味を持っているのだ。
上の写真を見て、あなたはどう思うだろうか? デッキマットから、「苔」どころか「木」が生えているのだ。
このジェットスキー(以下、ジェット)は、1997年製のヤマハMJ-1200GPだ。今から、22年前の2ストローク2人乗りのランナバウトである。
この1200GPは、鎌倉にあるプロジェットショップ「SPLASH TOYS 鎌倉(スプラッシュ トイズ)」に放置されていたものだ。
かなり以前にオーバーホールの依頼で持ち込まれたが、そのとき店長の城戸さんはオーバーホールに反対したそうだ。理由は、「修理代が高額になる」から。
古い2ストーロークエンジンの場合、エンジンをバラさないと交換部品が分からないから、トータルでいくらかかるか分からない。交換する部品によっては、部品代だけで30万円前後になる。それに工賃がプラスされるので、トータル50万円を超える修理になる可能性がある。
「それなら、違う中古艇を買ったほうがいいですよ」と、アドバイスしたそうだ。
しかし、そのユーザーは「どうしてもこのマシンが良いので、やってくれ」と言うので、オーバーホールをしたのだという。ちなみに、ヤマハとカワサキは、メーカーが古い部品の在庫を“頑張って”置いてくれているので、販売が終了したモデルでも、意外と純正パーツが入手できるという。
結局、その純正ノーマルの1200GPは、部品代だけで40万円もかかり、工賃をプラスして合計60万円になった。しかし、その持ち主と全く連絡が取れなくなり、作業前に手付として預かっていた20万円と、オーバーホールを終えたジェットがショップに残ってしまったということだ。
仕方がないので、それ以降、ショップ裏手の屋外でジェットカバーをかけて、ずっと置きっぱなしにしていた。いつの間にかカバーの一部が風でめくれ上がり、デッキに木が生えていたそうである。
ある日、「小さなジェットを欲しい」というお客さんに、この1200GPを見せた。エンジンをかけると快調にかかったので、「すぐに買います!」と、現状渡しで20万円で売ったそうだ。
そのお客さんは、デッキに生えていた木や草を取り除き、キレイに洗ってワックスをかけて乗っていた。エンジンは新しいパーツでオーバーホールしてあるので、極めて調子が良い。
そのお客さんは3人乗りのMJ-VX HOも持っているのに、この1200GPにばかり乗っているそうだ。
しばらくして、店長に「キレイに塗装したい」と持って来た。そこで、お客さんの希望を取り入れたデザインを描き、塗装を依頼して、下の写真のように美しく生まれ変わったのだ。
今回、このステキにレストアされた2ストローク2人乗りのMJ-1200GPに試乗させてもらった。
そこで編集部は確信的なジェットの「本質」に気が付いた。20年以上も前のジェットを、2020年に乗ったからこそ、言える事実がある。楽しく、分かりやすく紹介するため、ただ今、鋭意制作中。詳細は、10月10日公開のワールドジェットスポーツ11月号にてお届けする。