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日本で一番、ジェットスキーのペイントを手掛けるペインター ジェットスキー(水上バイク)

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今、国内のジェットレーサーのマシンとヘルメットの塗装を、最も多く手掛けているペインターに聞く

現在、日本人のジェットスキーレーサーから、最も多くヘルメットのペイント依頼を受けているのが、「ヒロキックスデザイン(HIROKIX DESIGN)」の佐々木宏樹氏だ。氏の作品の特徴は、デザインの多様性とクオリティの高さにある。今回、ヘルメットのペイントをするうえでの「プロの仕事」について佐々木氏に語っていただいた。

話/佐々木宏樹氏(ヒロキックスデザイン代表)

オリジナルペイントが完成するまでの苦悩

デザインが決まるまで、何時間でもヘルメットを見つめている。はたから見たら、ずいぶんとヤバい人ですよね

WJS 早速ですが、ヘルメットのデザインをするうえで、何か特別なこだわりがありますか?
佐々木 「塗装方法」と「塗料」ですね。

WJS デザインではないのですね?
佐々木 デザインは、考えすぎると辛くなって、1日中、下処理をしただけのヘルメットを見ながら、考え続けているときがあります。そんな日は、半分ノイローゼ状態ですね。

WJS その姿を、何も知らない他人が見たら、ちょっと危ない人みたいですね。
佐々木 本当ですよ。本人的には、頭の中でいく通りもデザインを描いているんですが、他人からは何時間もボケっと無地のヘルメットを見つめている人。相当、ヤバい人ですよね。

WJS 何に1番悩むのですか?
佐々木 依頼人が喜ぶデザインを考えるのは当然として、そのヘルメットを被ったとき、その人なりの雰囲気がにじみ出て、しかもその人の魅力が上るデザインにしたい。そうすると、作業が進まなくなります。

WJS 「とりあえず塗ってみよう」みたいな感じにはならないのですか?
佐々木 「とりあえず」で始めても、自分が気に入らなければ絶対やり直す。2度手間になるのは分りきっていますから。

WJS ヘルメットのペイントは大変なのですね。
佐々木 デザインという部分で、毎回、もがき苦しんでいます。仕事を認めていただけるのはすごくありがたいのですが、その反面、「もう、やりたくない」と、いつも思っています。

ペイントを待つ真っ白のヘルメット(帽体)。ここからオリジナルデザインを創造していく。

事務所の中に山と積まれたヘルメットの箱。もちろん、全部に中身が入っている。

気が付けば事務所の中には、下地処理を終えた無地のヘルメットが大量に置いてあります

WJS 良く見ると、ヒロキックスデザインの事務所の中は、無地のヘルメットだらけですね。
佐々木 だから、ノイローゼになるんです。とてもありがたいんですけど、ヤバいのが、「全部任せます」という依頼です。

WJS 全部お任せのほうが、ペイントしやすいのではないですか?
佐々木 さっきも言いましたが、「喜んでもらって、その人の魅力があがるように」って考えてると、なかなかデザインが浮かばない。ペイントの途中で、「なんか違うよな」って感じてしまう。そしたら、アイデアやイメージが浮かぶまで、そのヘルメットのペイントは中断するしかない。そんな感じでもがき苦しんでいる最中でも、別のお客さまからヘルメットペイントの依頼をいただけます。そうすると、新しい無地のヘルメットが事務所に届くんです。ただでさえヘルメットのペイントは時間がかかります。だから、せめていつでも塗れるように、下地処理だけは終わらせておくんですが、そうすると下処理を終えた無地のヘルメットが大量に存在する空間になってしまうんですよ。

WJS 完成して、依頼者の手にヘルメットが届くまでは時間がかかるけれど、新しい依頼は次々に入ってくるということですか?
佐々木 そうです。



ペイントという仕事は「材料と方法」によって出来栄えが決まる

「塗料の寿命は、長く持って5年」と言われているが、ウチのペイントは「10年経ってもビクともしない」クオリティが必要です

WJS 「下地処理」といいますが、アライやSHOEIから来た無地のヘルメットは、そのまま塗らないのですか?
佐々木 絶対に塗りません。そんなことをすれば、数年でペイントがダメになります。僕らの仕事、塗装の仕事の判断は、「やり方と材料」で決まります。

WJS 何度も佐々木さんの仕事場にお邪魔して撮影をしていますが、見ていると、塗料を塗っている時間より、塗装ができる状態に持っていくまでの時間のほうが、断然、長いですよね。
佐々木 僕もプロですから、塗料と仕事の仕方に妥協はしません。

WJS 簡単に、「ペイントの基本」を教えていただけませんか? 私はずっと、ペインターは「色を塗るだけの人」だと思っていたのですが、話を伺っていると何か違いますよね。
佐々木 その認識は、間違ってはいません。僕は、「色を塗る」のが仕事です。でも、変色したり、すぐペイントが剥がれてしまうようではダメです。「塗料の寿命は、長く持って5年」と言われていますが、ウチのペイントが5年でヘタるようだと、料金はいただけません。10年経ってもビクともしないクオリティが必要なんです。

WJS 色を塗るだけなら簡単。でも、強さであったり、長く輝き続けるペイントとなると、ていねいな下地処理と、高価なペイント塗料が必要不可欠ということですね?
佐々木 はい。例えば「安い材料でいいから塗ってくれ。代金も安くしてくれ」って言われて仕上げたとします。で、5年後に色褪せたら、それを見て他人は言いますよね、「アイツの仕事だ」って。それは絶対に嫌です。「仕事の仕上がり」、それが一番の信用だと思っています。


ペーパーを使って、表面にものすごく細かい傷がある状態にする。その傷にサーフェイサーが染み渡っていくことで剥がれ難くなります。この下処理の技術が、僕の売りです

WJS ペイント自体は簡単なのですか?
佐々木 「塗装」を、ものすごく大まかに分けると、下地(サーフェイサー)、色(ペイント)、トップ(カバー)でできています。それぞれの工程が、「薄い布」だと仮定します。

WJS サーフェイサーという布の上に、ペイントという布が乗り、その上にカバーという透明な膜のような布が重なっている状態ですか?
佐々木 そうです。だから、布が貼り付きやすいように、ヘルメットの表面を整えてあげなければならない。ツルツルすぎても剥がれてしまうし、ザラザラでは問題外。表面に凸凹ができてしまう。ペーパーを使って、表面にものすごく細かい傷がある状態にしてあげます。そのごく細かい傷にサーフェイサーが染み渡っていくことで剥がれ難くなります。これがいわゆる下処理です。この下処理の技術が、僕の売りなんです。

WJS 同じサーフェイサーという塗料でも、他の業者が使っているものと、ヒロキックスデザインが使用しているもので、それほど違いがあるのですか?
佐々木 はい。値段で言ってしまうと、一般的なものと比べて、ウチのは約4倍です。

WJS 何がそんなに違うのですか?
佐々木 塗料の主な成分はシンナーです。これが、時間が経つと揮発します。塗料によっては、ひと月で約1/10の厚さになります。具体的にいえば、1cmの厚さで塗った塗料が、1カ月後には1mmになるということです。だから、「カバー」の透明な塗料を1cmの厚さに塗って保護したつもりでも、ひと月後には厚さ1mmの膜に変わってしまう。もし10年間、塗装を劣化させないために1cmの厚みが必要だとしたら、ひと月ごとに1cmの塗装を10回行わなければならないということです。

WJS 佐々木さんの使っている高価な材料なら、それほど蒸発はしないのですか?
佐々木 はい。50%は蒸発しないで残ります。

WJS だから10年経っても劣化しないと言えるのですね。
佐々木 はい。そういう素材を使っていますので。

WJS それを「プロの仕事」と言うのですね。
佐々木 いくら仕上り直後の出来栄えが美しくても、5年後に劣化していたのではダメだと思っています。


ジェットのレースで使うヘルメットのバイザーは、世の中で最も過酷な使われ方をしている

WJS だから、特別な材料を使う必要があるのですね?
佐々木 以前、アグレッシブな走りで、僕が尊敬している山本陽平プロに「ヘルメットを塗らせてください」と頼んだところ、「カスタムペイントは、バイザーの塗装が剥がれるからやらない」と言われたことがあります。ジェットのレースで使うヘルメットのバイザーって、世の中で最も過酷な使われ方をしているんです。

WJS モトクロスバイクのほうが過酷ではないのですか?
佐々木 いやいや、ジェットは時速100kmで、いきなり水に放り出される。そのとき、バイザーはしなって折れ曲がっているんです。その角度は、90度を超えているかもしれないけど、バイザーは割れません。もし、バイクで時速100kmで地面に叩きつけられたら、確実にバイザーは割れます。バイザーが90度以上折れ曲がっても、ペイントが無事でいるためには、同じようにしなやかに衝撃を受け止めてくれる軟度のある塗料が必要なのです。

バイザー自体は、こんなに曲がる。時速100kmを超えるスピードで水に叩きつけられたら、普通のペイントでは割れてしまう。それを受け止めるしなやかさが塗装にも求められる。

WJS だから、以前の山本プロは、メーカーの純正品ヘルメットしか被らなかったのですね。でも、今は佐々木さんがペイントしたものを被っていますよね?
佐々木 はい。何十種類ものバイザーと塗料を用意して、実際に塗ってテストを繰り返して、ようやく今の材料と技術を習得しました。バイザーと帽体(ヘルメットの本体)の色は同じですが、サーフェイサーとトップの塗料は違います。
WJS 見た目のクオリティはもちろん、「これがプロの仕事」と誇りを持てる耐久性も重要なのですね。


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