この特集は、スキークラスの世界最高峰「PRO SKI GPクラス」では、今、どのようなマシンが覇権を争っているのか紹介する。
現代のジェットスキーは、「マーケットシェア」という観点からいえば、完全に「ランナバウト」の時代である。しかし、主要な国際レースでは、昔から変わらず花形のメインレースは「スキークラス」だ。「乗るのも見るのも、スタンドアップが最強で最高」という証拠である。
昨年(2019年)のプロスキークラスは、「カワサキSX-R」vs「アフターパーツメーカーのコンプリートマシン」というマシン対決となった。ただし、アフターパーツメーカーでこの最高峰の舞台に上がっているのは、「ブレットレーシング(BULLETT Racing)」と「コマンダー(KOMMANDER)」の2メーカーだけだ。
マシンの全長
SX-R:2,655mm
アフターパーツメーカー:2,463.8mmまで
アフターパーツメーカーのほうが、202mm短くしなければならない。これは、レーシングマシン専用設計で軽量化されたアフターパーツメーカーのハルに何らかの規制をかけないと、SX-Rと同等の戦闘能力とはいえないからだ。
このため、「安定性はSX-R、俊敏性はアフターパーツメーカーが強い」という特徴がある。
水面が荒れたらSX-Rのモディファイ艇が勝ち、波のない平水面ならアフターパーツメーカーが勝つ。これが、レースを見ていた結論である。それぞれのマシンの特徴を、以下に簡単に記してみた。
現在、もっとも多くのライダーが乗っているのが、この「SX-R」である。しかし、レース業界の常識で、「SX-Rより、アフターパーツメーカーの軽量船体のほうが戦闘能力が高い」という考え方がある。事実、少し想像すれば分かることだが、アフターパーツメーカーの軽量ハルと純正品のSX-Rが同じポテンシャルなら、わざわざ高いお金を払ってまでアフターパーツメーカーのコンプリート艇を購入する必要はない。「レースに特化したマシン」のアドバンテージが欲しいから、そちらを選んでいるのだ。
だが、「もうSX-Rでは勝てないのか?」といわれたら、そんなことはない。2018年のジェットスキーワールドカップで勝ったのは「SX-R」を駆るマーリン・ラファエロ選手である。彼は2019年のワールドファイナルで3位、ジェットスキーワールドカップで2位と、安定してその強さを見せている。
SX-Rは、船体が大きいことから、安定性には定評がある。荒れた水面でのアドバンテージが高いのだ。スキークラスは複数のヒートを走って合計ポイントが争われる。全てのヒートでドベタの平水なんてありえない。レースの水面は、毎回違う。気象状況は誰にも分からない。「神のみぞ知る世界」なのだ。
どんな水面でも相応のポテンシャルを発揮するマシンとなれば、わざわざアフターパーツメーカーのコンプリートマシンを購入する必要性はないと感じている人も多いだろう。総合的な戦闘能力の高さを評価して「SX-R」で参戦するライダーが最も多いのもうなずける。
2015年~2017年まで、3年連続でスキークラスの世界チャンピオンを獲得したジェレミー・ポレットが駆るマシンがブレット製のコンプリート艇である。このマシンのメリットは、とにかくスタートで前に出られること。スタートで先頭に立てたら、荒れていない水面を走れる。これは、アフターパーツメーカー製のマシンにとって、最大のアドバンテージとなる。
デメリットは、コマンダーと比べて少し安定感に劣る点だ。だから水面が荒れたとき、最もライダーの負担が大きい。しかし、俊敏さはナンバーワンだ。そういった点でも、乗る選手に高いライディングスキルが要求されるマシンでもある。
2019年ジェレミー・ポレット選手がジェットスキーワールドカップで優勝。ワールドファイナルで2位。ケヴィン・ライテラー選手が4位になった。2人とも、どちらが勝ってもおかしくないレベルの選手である。この2人のような世界的ライダーが乗って、はじめて最高のポテンシャルを発揮できるマシンだと思われる。
レース会場で、現在、最も数が多いアフターパーツメーカー製のマシンがコマンダーGP1である。理由は、「速くて乗りやすい」うえに、ブレットV4ほど乗り手を選ばないからだ。オールマイティに速いマシンといえるだろう。
ワールドファイナルでは、コレ・クレーマー選手がコマンダーGP1に乗り、圧巻の勝利を手にした。彼はジェットスキーワールドカップには出場しなかったが、同じくコマンダーGP1に乗るマーティン・マニ選手が3位になった。
2018年は、コマンダー GP1に「ヤマハ1,050cc、4ストローク3気筒TR-1」に、ターボチャージャーを装着したエンジンが搭載されていたが、2019年になると、ほとんどの選手がカワサキ1,500ccエンジンと搭載していた。これは、レギュレーションの変更と、ターボチャージャーより壊れにくいと考えられるNAエンジンのほうが、何かと都合がよいという判断からであろう。平水面でもラフウォーターでも戦えるコマンダーGP1の人気は、当分、衰えないだろう。
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