素晴らしいジェットスキーが、カワサキから発表された。実は、実際に乗ってみるまでそれほどの期待はしていなかった。それは、既存モデルである「STX-15F」を一部改良した新艇と理解していたからだ。しかし、私の考えは間違っていた。私と同じように、スペックの数値だけで判断しているユーザーも多いと思うので、実際に乗った感想を正直に書こうと思う。
超ロングセラーモデル「JS STX-15F」が、実に15年ぶりにフルモデルチェンジし、「STX 160」シリーズ(「STX 160X」、「STX 160LX」)となって登場した。「フルモデルチェンジ」といっても、エンジンとアンダーハルはSTX-15Fと同じである。
今回、「STX 160X」と「STX 160LX」に試乗してきた。失礼ながら、試乗前の私の予想は「どちらかというと、名前だけのフルモデルチェンジだろう」であった。ライディングポジションを変更したことで、STX-15Fより楽に乗れるだろう。コストを抑えるため既存のパーツを使いながら、STX-15Fと違う味付けをしているのではないか、といった感じで、どちらかというと、それほど大きな期待をしていなかった。
しかし、試乗前の偏見は、すぐに改められることになる。アンカリングされて海に浮いている新しい「STX 160X」と「STX 160LX」の実物を初めて見たとき、外観の出来の良さに驚いた。メーカーが造る新艇なので当然なのだが、実物を見るまでSTX-15Fベースの改良版だとばかり思っていたのだ。
アッパーハルの形状が変わり、STX-15Fとは比べものにならないほど高級感がある。特筆すべきは、このアッパーハル。形状だけではなく、素材もSMCからFRPに変更されている。この素材も含めたアッパーハルの変更が、ニューモデル「STX 160」シリーズの乗り味の良さに大きく影響していると感じた。
STX-15Fよりは明らかに大きく見えるが、今までに見たことがないほどのコンパクトさ。しかも、素敵なデザイン。自然吸気モデルで、このサイズを好ましいと感じるのは私だけでないはずだ。
STX 160LXに乗り、アンカリングを外して後方から乗り込む。STX-15Fよりも、かなり低い位置までリボーディングステップが下がるので、足をかけやすい。さらに、シート後方のリアグリップを掴むことで、簡単に乗り込むことができる。これなら、女性や子供でも楽だと思う。ジェット遊びでは、何度も乗り降りする場面があるので、こういった心遣いは非常に嬉しい。
シートに跨ってみる。ハンドルポジションも、シートポジションもSTX-15Fよりも高い位置にある。ハンドルグリップも新しくなり、今までの丸い形ではなく、握りやすい形状に変更されている。
ライディングポジションから見える景色がリッチだ。ハンドルマウント部分と、厚みを増したようなニューデザインのフロントハッチの輝くグリーンが、いかにも「新しいカワサキ」というイメージを醸し出している。
エンジンを掛けるまでに、頭の中から「STX-15F」という概念は消え去り、全く別モノのニューモデルに切り替わっていた。
ULTRA310シリーズを含め、昨今のフラッグシップに比べれば、STX 160シリーズは少しコンパクトである。
ファーストインプレッションは「カチッとしている」だった。アッパーハルの感触が非常に好ましい。車で例えると、一昔前の日本車のようなペラペラ感が全くない。ペラペラにしているのは、衝突時に衝撃を和らげるためだと聞いたことがあるが、外車に比べてずいぶんとフニャフニャしていた。それをイメージしていたら、全く違った。高額な外車のようにカチッとしている。思わず「良くできている」とつぶやいていた。
この日の水面は大荒れだった。よく、白波が立つ水面を「ウサギが飛ぶ」というが、いたるところでウサギが飛んでいた。まずは、思いっきりアクセル全開にしてみる。感想は、いい意味で「STX-15F」だった。
これだけ水面が荒れていると、座って走るよりも立って乗ったほうがいい。コンパクトな船体が心地よい。思った通りの軌跡で走れる。ハンドルポジションが高くて加速が良い。
驚いたのは、アッパーハルの建て付けの良さだ。こういった荒れた水面で、アクセル全開で長時間走り続けると、波の衝撃でグローブボックスの蓋が開いたり、フロントハッチがガタついた異音を立てたりすることが多い。それが全然ない。これだけ荒れた水面をアクセル全開で走行しても、どこからも軋む音がしないことに感心した。普通、試乗するときは、「乗り味」や「速さ」などを確認するが、実は、走行中の船体の「きしみ、歪み、異音」というものが非常に気になるのだ。
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