今回は、ジェット推進システムを支える超難解なパーツ「インペラー」について紹介します。
インペラーとは、船などに装備され、水中で動作する推進機。これが回転することで、エンジンパワーを推進力に変換します。羽根は「ブレード」、羽根の角度を「ピッチ」と呼びます。この用語は後からいろいろと出てきますので、覚えておいてください
インペラーは、ジェットスキーに付いているポンプのインペラーハウジングの中に設置され、中央にドライブシャフトが通っています。このドライブシャフトと連携してインペラーが回転することで、後方へ水を押しやり、ジェットの推進力に変える仕組みです。
カワサキから発売されている「ニンジャ H2」というバイクは、排気量は998cc。最高速は脅威の337.064km/hに達するといわれています。対するジェットスキーのSX-Rは、排気量1,500ccで、最高速は100km/h前後です。SX-Rのほうが500ccも排気量が大きいのに、時速が約237kmも違います。これが、タイヤとインペラーの差です。
エンジン性能をロスなく推進力に換えられるタイヤと比べて、水中で使うため、インペラーはロスが多い。だから、優れたインペラーを開発し、パワーロスを少なくできればもっとジェットスキーは速くなるのです。
そこで今回、数多くのレース艇を製作し、インペラーにも精通しているマシンビルダー・藤江功一氏に、「インペラー」について教えていただいました。
WJS 今回、インペラーを取り上げているのですが、クルマやバイクで例えると、「インペラー」は「タイヤ」という認識で合っていますか?
藤江 「タイヤとホイール」にしておきましょう。そのほうが適切だと思いますし、分かりやすいと思います。
WJS 早速ですが、なぜSX-Rのほうが500ccも排気量が大きいのに、ニンジャ H2より時速が230km以上も遅いのですか?
藤江 クルマやバイクがエンジンのパワーを100%動力にできると仮定すると、ジェットスキーは30%~40%しか推進力に変換できません。70%近くロスしています。これが、「タイヤとホイール」と「インペラー」の差なのです。
WJS インペラーは、約6割~7割も無駄にしているのですか?
藤江 そうです。キャビテーションなども含めていろいろな要因がありますが、それくらいはロスしています。でもクルマにもそれは当てはまります。仮に、クルマに自転車のような細いタイヤが装着されていれば、エンジンのパワーを100%の動力に換えられません。逆に、倍以上の太いタイヤでも、道路に接する面積が大きすぎて抵抗が増し、同じように100%の動力の変換にはならないでしょう。雪道をノーマルタイヤで走ったら、クルマ本来のポテンシャルは発揮できませんよね。もっとシビアなF1のレースでは、レインタイヤの装着の有無が勝敗を決めたりします。路面の環境に合わせた最適なタイヤを装着しなければ、本来のポテンシャルは発揮できません。
WJS その話が全部、ジェットのインペラーに当てはまるというのですか?
藤江 はい。例えば、純正ノーマルのインペラーは、どのような水面でもそこそこ良く走るし耐久性も高い。だからといって、それが最高ではない。純正品より、アフターパーツメーカーのほうがインペラーのブレードが薄いので、当然、水を切り裂きやすい。水の抵抗が少なくなります。
WJS 私のSX-Rのインペラーは、藤江さんにアフターパーツメーカーのSOLAS製に交換してもらいました。1度装着したら、元の純正品に戻すのが嫌になります。加速から最高速まで、爽やかに走ってくれる。これほど乗り味が変わるなんて、夢にも思っていませんでした。
藤江 車でも、鍛造のホイールを装着すると、明らかに乗り味が軽快で爽やかになります。鍛造ホイールなしでは、運転が楽しくなくなるという人もいるくらい、体感フィーリングが変わります。さっき、インペラーは「タイヤとホイール」と言ったのはそういうことです。インペラー1つが、タイヤとホイールという2つの役割を同時に果たしているのです。
ピッチを強くすると、抵抗が増えて重いホイールを履いているような感じになります。かといって、あんまり緩いとキャビテーション(空回り)ばかりで前に進まない。これも楽しくないですよね。
WJS 良いインペラーを装着するというのは、良い鍛造ホイールを装着したみたいに速くて軽い感覚になるのですね?
藤江 それが、「乗り味の楽しさ」です。全ての機能が上がったから、爽やかに感じられたのです。もし、軽くなっても前に進まないというのなら、それは、他の人のひき波の上を走っているような感覚のはずです。キャビテーションを起こして、空回りする感じですよね。
WJS あの感覚は嫌いです。
藤江 だからインペラーというパーツは奥が深くて難しいのです。エンジンパワーによって適切な形状が変わるのですから。
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