この写真を撮影したのは、大会最終日、12月18日。PRO RUNABOUT GPの最終レース「MOTO 3」終了直後である。
迎えるチーム員は全員“笑顔”。まるで優勝したかのような雰囲気であった。
このとき、私は、砂盃 肇選手の所属チーム「マリンメカニック」メンバーのすぐ近くで撮影をしていた。
「総合12位」と、残念な結果に終わった 今大会、砂盃選手は“優勝候補”に名前が挙がっていたにも関わらず、満足な結果を残せなかった。
「予選・4位」、「MOTO 1・7 位」、「MOTO 2・リタイア(マシントラブルでノーポイント)」、「MOTO 3・10位」で、総合12位であった。
件の写真を撮影した最終の「MOTO 3」では、砂盃選手らしいスタートを決めて見事にホールショットを獲得。
私の知る砂盃選手のレースなら、ここから誰にも抜かれることなく、世界に「日本の砂盃、ここに在り」というレースを“見せてくれる”ものだと思っていた。
しかし、レース中盤でクエートのモハメド・アルバ選手に簡単に抜かれてしまったのだ。
ちなみにこのクラスで優勝したのも、このアルバ選手である。
「こんなに簡単に、砂盃選手が抜かれるわけがない」と思っていた私の耳に飛び込んできたのは、予想外の言葉だった。
「あと、何人に抜かれるかな?」砂盃選手を見守る仲間、チーム員がそう言ったのだ。
私は驚いた。「何を言ってるんだ。世界チャンピオンの砂盃だぞ。
1人に抜かれただけでも“あり得ない”と思っているのに、このあと何人に抜かれるかだって!?」結局、このヒートでは私が見ている範囲で3台に抜かれ、4位でゴールした。
リザルトを見ると10位だったので、どこかでミスブイか何かがあったのかもしれない。
それでも、砂盃選手が3台も抜かれるなんて、想像もしなかったことだ。
目を疑ったのは、そのあとの光景である。
砂盃選手がゴールした瞬間、チーム員が砂盃選手のもとに駆け寄った。
彼らは、口々に「感動した!」「スゲーよ!」「さすが砂盃さんだ!」と、全員が目を潤ませながら称賛の言葉を口にしていたのだ。
もう、わけが分からない。砂盃選手が優勝し、それを撮影しているような錯覚さえ覚えた。
違和感を抱えたままの私は、興奮冷めやらぬチーム員の一人に話かけた。
「なんで、そんなに嬉しそうなんですか?」と。
その彼は「レース直前までマシントラブルを解消しきれていなかった。とても、優勝を狙えるような状況ではなかった」と教えてくれた。
「戦える状況の足まわりではなかった。あれでよく“3人にしか”抜かれなかった」のだと。
砂盃選手のことを「本当にすごい」と言ったのは、同じプロライダーの千木良真之氏であり、その言葉に大きく頷いたのは、同じくプロライダーの三上定裕氏であった。
今大会、頼りのマシンコンストラクター・今﨑真幸氏は、アメリカのスーパースター、ダスティン・ファージング選手のマシン修理にかかりきりで、とても砂盃艇にまで手がまわる余裕がなかったという。
そのため、チームのサポートとして参加していた三上氏、八巻氏、佐瀬氏、千木良氏、浅井氏といったメンバーで「今、出来るだけのことをやろう」と送り出していたのだ。
メンバーの想いに応えるかのように砂盃選手は、世界タイトルホルダーが集まるこのクラスで、マシントラブルを抱えたままホールショット。
ある意味、「勝利よりも、すごい走りをした」のだと、本気で感じた。
仲間全員が「シビれた!」「さすが!」というのも理解できる。
苦楽を共にし、砂盃選手のマシンが本調子でないことも知っているからこそ、彼の走りがいかに常軌を逸していたものであったか分かるのだ。
サポートとして一緒にタイにまで来ているチーム員の多くは、自腹で休暇を取ってタイに来ている。
選手だけが戦っているのではない。
彼らも、一緒に戦っているのだ。
「これ以後の話は、本誌「2023年 2月号」にて、お読み下さい」。
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