2007年に「4ストロークエンジン+スーパーチャージャー」を装着した最初のULTRAシリーズ「ULTRA 250X」が発売された。当初の馬力は250馬力で、当時の市販最高馬力であった。
その後、260馬力、300馬力、310馬力と、順を追って進化を遂げてきた。2014年にULTRA310シリーズが発売されてから、大きなモデル変更はなかったが、今回、8年ぶりのフルモデルチェンジとなった。
船体の大きな変更点は、従来モデルよりも全長が209㎜長い3,579mmになり、重量が7㎏増えて494kgになったことだ。これが、ライディングのフィーリングにどのような影響を与えるのか? と興味があった。
実際に乗ってみると、停止時の安定性が増した感じがしたくらいだった。走り自体に影響を与えていたのは、全長が長くなったことではなく、アッパーデッキ部分の改良による船体剛性の高さだった。
今回、新しい「ULTRA 310 LX」に乗った感想は、ULTRAシリーズの集大成ともいえる「完全・完成形モデル」だ。
アンダーハルもエンジンも同じなのに、乗り味は全く違う。あきらかにスピードが速くなっている。
見た目も全く変わり、高級感が増した。装着パーツの『建てつけの良さ』は、他の追随を許さない。今回、この「完成されたすごいマシン」に乗ってきた。
2022年モデルの「ULTRA 310 LX」に乗る前、メーカーから聞いていたのは、「エンジン関係も、アンダーハルも変更していない」「アッパーデッキが、リッチに大きく変わっただけ」という。
それなら、従来の「ULTRA 310 LX」と大した違いがないだろうと高を括っていた。「アンダーハルが同じで、マイナーチェンジだよね!?」と思っていたのだ。
2022年モデルの「ULTRA 310 LX」は、市販最大310馬力のラグジュアリー・スポーツモデルである。「今風のフラッグシップ」と呼ばれるモデルは、各メーカーとも、こぞって「ラグジュアリー・スポーツ」をコンセプトに打ち出している。
しかし、現在、このULTRA 310 LXに勝てるような、高級感に満ち溢れた市販艇は、他にないと言っていいだろう。
「ULTRA 310 LX」に、初めて跨った瞬間に驚いた。それは、重心の低さだ。
メーカーの説明では、ライダーの足元のデッキを、よりフラットになるよう再設計し、35mm低くしたという。さらにハンドル グリップの間隔をやや広めにして、グリップの高さを10mm低くしている。
実際に試乗してみると、それ以上に低く感じ、ドライバーズシートから見える景色が一変した。
最初に目の前に飛び込んでくるのは、「7インチ フルカラー TFT液晶 スクリーン」という高機能のスピードメーターだ。視認性が非常に良く、高級感も抜群である。さらにスマホと連動して、音楽を聴くことはもちろん、さまざまな機能が使えるのだという。
電子機器の進化は目覚ましい。この「7インチ フルカラー TFT液晶 スクリーン」と、4つのスピーカーが組み込まれた音楽システム「JET SOUND 4」はBluetooth接続でき、「ジョグダイヤル」でコントロールできる。こういった機能は、他の機種にはない特徴のひとつだ。
これらは、4輪バギーに搭載されているのと同じメーカーだと聞いた。なので、機能、性能、耐久性は折り紙付きだ。そういった知識があったら、自分でいろいろなパーツを購入してスマホと連動させれば、いろいろと便利に使える機能が増えるのでは? と真剣に思っている。
ドライバーズシートに腰を下ろし、そこから見える景色は別物だった。2022年の「ULTRA 310 LX」は、「ダイナミック・ラグジュアリー」をコンセプトに、アッパーデッキを全面的にリニューアル。従来までのダイナミックなスタイリングに、立体的なデザインを取り入れ、高級感に溢れたエクステリアに仕上げている。
従来モデルに比べて、フロント部分の高級感はハンパではない。低重心化も含めると、ペッタンコのスーパーカーのシートにいるような気分だ。
シートに座ると、さらに低いと感じられる。ライディングポジションは、ハーレーダビッドソンに跨っている感覚。低いけれども「楽に乗れる感覚」を大事にしていると感じた。
背中を丸めてレーシングマシンに乗るというイメージより、真っ直ぐ背すじを伸ばして、楽に座るという感じだ。
新しいULTRA 310LXは、「3ポジション エルゴフィット ラグジャリーシート」というシートが採用されている。これは、前後70mmの範囲内で、35mm間隔で3段階の調整ができる。
シート幅も、膝部分が80mm細くなったことで、立って乗るときにシートが干渉しない。シートの存在を意識しないので、立ち乗りのように乗れるのだ。
「ULTRA 310 LX」には、「フル(FPO)」「ミドル(MPO)」「ロー(LPO)」に加え、ビギナーライダーが操縦しやすい「スマート・ラーニング・オペレーション(SLO)」という4種類のパワーモードが用意されている。
「フル パワー オペレーション(FPO)キー」と「スマート・ラーニング・オペレーション(SLO)キー」の2種類のキーがあるが、「FPOキー」を使用しているときは、左ハンドルの「モード ボタン」で、簡単に「パワー モード」を切り替えることができる。
「フル(FPO)モード」なら、エンジン出力が制限されず、業界最大馬力エンジンのポテンシャルをフルに体感できる。
「ミドル(MPO)モード」では、FPOモードの約80%に、「ローLPOモード」は、約60%に出力を制限できる。エンジン始動時の初期設定は、初心者にも扱いやすい「MPOモード」となっている。
新しい「ULTRA 310 LX」の乗り味をひと言でいえば「カッチリしている」だった。素晴らしく加速がいい。以前のULTRA 310と、エンジンもアンダーハルも同じなのに、速く感じる。
最速の「フルパワー オペレーション(FPO)モード」にしたときの、中低速からトップスピードに至るまでの加速はハンパじゃない。何度も体が後方に引っ張られる強烈なGを感じ、そのたびにハンドルにしがみついて耐えた。
アクセルを開けると、「ドッカーン!」という加速感に体中からアドレナリンが出まくった。これだけのパワーで、ライダーを振り回すジェットは他に知らない。
マシンのポテンシャルに、ライダーが合わせる。超ド級の加速に驚かされる。すごいパワーだと、改めて感じた。
驚いたのは、エクステリアの完成度だ。これだけ立体的な造形デザインで、収納スペースのパーツも増えている。この馬力で荒れた水面をぶっ飛ばしたら、フロントハッチに新しく装備された「イージー アクセス ストレージ」という収納スペースの扉が開いて、外れてもおかしくないのだが、その気配すらなかった。完璧な完成度である。
他メーカーの悪口を言うつもりはないが、波の衝撃で飛び上がり、ジェットが空中から着水したときに「ギュッ」という軋んだ音がするフラッグシップもある。しかし、このULTRA 310LXは、高く飛び上がっても、着水時に全く軋みを感じない。
通常、これだけ立体的なデザインを持った外観で、ラフウォターのなかアクセル全開で走れば、衝撃のたびに「ギュッ」っという音とともに、マシンが軋んでもおかしくはない。だが、軋みもなければ、異音もないのだ。
シートの下には、エンジンを保護するような「蓋」のようなカバーが装着されている。これも、「軋まない」要因のひとつであろう。見た目だけでなく、乗っても高級感は増すばかりだった。
今回「ULTRA 310 LX」に試乗して感じたのは、イタリアンなスーパーカーではなく、「アメリカン・マッスルカー」である。見た目がフェラーリやランボルギーニのようなヨーロピアン風で、乗り味は「ドカーン!」とマッスルパワー全開。世界中で大人気の「ニュー・コルベット」が頭に浮かんだ。
「ULTRAハル」は、ラフウォターの中でも波を潰して走っていく「すごくて重い」ハルである。どんな大きな波でも、アクセルを開け続けることができれば、真っ直ぐに走り切ってくれる。ただし、ライダーがしがみついてさえいられれば、であるが。
新しい「ULTRA 310 LX」は面白い。フロントに取り付けられた、世界初の「アクセントライト」も高級感があって良い。ライトはバンパーに組み込まれているので、走行中にガタツキや破損の心配が全くない。
試乗前は、アンダーハルやエンジンに変更がないので大して変わり映えもない、次に新しいモデルが出るまでの “繋ぎ” だと思っていた。
しかし、実物を見て、試乗して確信した。「ULTRA 310 LX」は、カワサキが本気で作ったフラッグシップモデルである。
ULTRA 310シリーズといえば、「市販最大の310馬力」というイメージが強い。それだけ馬力が大きければ、どれだけ「速い」のかと思うことだろう。しかしジェットの場合、「大馬力=スピード」ではない。実際、310馬力より小さな出力でも速い艇は他にもある。
「ULTRAの真骨頂」は、その「波切り性能」にあると思っている。他の機種に比べて、ULTRAハルはどんな水面でも、どんな速度域でも、常に安定して走れる。特に、荒れた海面ではその真価を発揮する。
波間を走るとき、必ずしも正面から波に入るとは限らない。例えば、斜め前から波に入ったり、斜め後ろから入って波を飛び越えることもある。このとき、他のジェットで波を斜めに突っ切ると、船体が大きく傾いて不安定になりやすい。
しかしULTRAハルは、波を切り裂くようにして走る。しかも、船体の傾きは最小限。荒れた海上でも、グイグイ前に進んでくれるのだ。
全長 | 3,579mm |
---|---|
全幅 | 1,194mm |
全高 | 1,240mm |
整備質量 | 494kg |
エンジン | 4ストローク・4気筒/DOHC16バルブ(SC) |
排気量 | 1,498㎤ |
最大馬力 | 221kW(300PS)/8,000rpm [US表示:228kW(310PS)/8,000rpm] |
燃料容量 | 80ℓ(無鉛プレミアムガソリン) |
カラー | エボニー×ゴールド |
定員 | 3名 |
価格 | 266万2000円 |
前モデルとの違い
全長 +「209 mm」
全高 -「15 mm」
重量 +「7 kg」
燃料容量 +「2 ℓ」
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