普段は、「買ってやった」、「俺は客だぞ」と、ジェットショップで偉そうにふんぞり返っている私。
でも、いざジェットが壊れたら、「神様」のように感じるのがジェットショップなのです。
どんな不可抗力で壊しても、直す以上は必ず修理代が発生します……。
新しいパーツが付いて、性能が上がるのならいざ知らず、元に戻るだけで高額な修理代が請求されるのは痛すぎる。
今回、「ジェットの守護神」でもあるショップの店長に、「本当に壊れない水上バイク」について、語っていただきました。
話/鈴木雄生氏(スズキマリン店長)
WJS 今回、お話しを伺いたかったのは、スズキマリンのお客さんは、ジェットをとても大切に扱っていて、壊さないと聞いたからです。
鈴木 よく、「ジェットが壊れるうんぬん」っていうけれど、僕がお客さんに最初に言うのは、「壊れる、壊れないは、お客さん次第ですよ」って。よく「どのメーカーが壊れないんですか?」って聞かれますが、それも答えは同じ。「乗っている人が、全部左右する」っていう話をしています。
WJS 大事に乗れば、壊れないということですか?
鈴木 そういうことです。
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水洗口は閉めて走る。
熱で変形し、破損したゴムパイプ。
上:取り外した変形したゴムパイプ。
下:正常なゴムパイプ。
WJS どの機種を買うかよりも、「どうやって乗っているか」のほうが重要なのですね?
鈴木 「どのジェットが壊れないの?」っていう話に戻っちゃうんですけど、お客さんのなかで、納品して海に持って行って、ものの1時間で壊した人もいます。新艇でも何でも、1時間で壊れます。
WJS それは、何をしたのですか?
鈴木 ジェットは「浅いところでも走れる」って、勘違いしている人がいるんです。
確かに、走れるんですけど、おヘソくらいまで水深があるところでエンジンをかけるのがベストです。
膝の深さではダメ。「膝まで水があったから乗った」って言うけれど、船には船底があることを忘れている。
膝まで水があったってことは、船底はもっと下にある。大体、くるぶしくらいの深さになるんです。そこでエンジンをかけたら、石とか全部吸っちゃいます。下手をすれば、ものの1分で壊れる。納艇して1時間で戻ってくるってことは、乗った時間は、たったの5分間くらいですよ。
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WJS 初めて手にしたジェットで、それをやったら悲しいです。
鈴木 なので、「どのジェットが壊れるか」ではなく、お客さんがちゃんと壊さないようにしない限り、どのメーカーのどの機種を買っても、一瞬で壊れます。格好つけるために、浅瀬からビューっと乗って行くのを、大体の人が一度はやりたがるんですが、あれはよくないです。
WJS その光景は、よく見ますね。
鈴木 あとは、ちゃんとおヘソの深さまでジェットを持っていっているんだけど、そこですぐにエンジンをかけてスタートしないと、海の場合、ジェットは流されます。ずっと同じ場所にいるわけじゃない。
深いところまで持っていったはいいけど、乗りこみました、でもゆっくり支度して、ボックスを開けたり、何かを出してみたりってしている間に、波で流されてます。で、エンジンをかけるころには、また浅瀬に戻ってる。
そこでエンジンをかけた瞬間、ガチャガチャガチャって石が詰まる。「俺は深いところまで持って行きましたよ」って言うけど、エンジンをかけるまでの間に流されて、本当にエンジンをかけたところは浅瀬だってことに、本人は気付いていない。
WJS そんなに石を吸い込むトラブルは多いのですか?
鈴木 多いですよ。本当に大袈裟じゃなく、握りこぶしの半分くらいの大きさの石なら、吸い込みますからね。スコープゲートの穴に通る大きさなら入ります。
「何で、こんな大きい石が上がって来たの?」って信じられないと思いますが、ダイソンの掃除機じゃないですけど、ジェットの吸引力ってすごい。想像よりも、ずっとすごいってことを覚えておいたほうがいいです。
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WJS もし石を詰まらせたら、その日はもうジェットに乗れないですか? すぐには取れないのですか?
鈴木 当然ながら、その日は乗れませんね。
WJS 石を吸い込んでも、ダメージがなかったというケースはないんですか?
鈴木 ありますよ。すぐに気付いてエンジンを止めた人、もしくは危ないと思って、エンジンを寸前に止めた人。
それは、本当に入口で石が止まっているんで、取ってあげれば、多分、大丈夫です。だけど、石を吸い込んだことを分からずに、エンジンをブンとまわしちゃったら、プロペラの隙間から奥まで行っちゃう。
そうすると、後ろのベーンガイドにあるフィンと、プロペラの間に石が挟まる。それは重大な故障で、後ろのプロペラが曲がる、もしくは、ポンプケースのフィンが割れちゃう。そうなったら再起不能で取り替えなきゃダメだということですね。
WJS それは、ポンプごと交換ですか?
鈴木 ポンプごとです。ポンプ、プロペラ、全部です。
WJS 修理代も、かなり高くつきそうですね?
鈴木 全部揃えていくんで、10万円以上になります。
それを、ものの1分でやっちゃう。もったいないじゃないですか。しかも、修理に時間がかかる。
「その日に修理してほしい」って言われても無理です。置いてってもらって、「その日は乗れませんよ」って。だから気を付けてねって、口が酸っぱくなるほど言って納品してるんですけどね。まあ、これくらいは大丈夫っていう気持ちが、どこかにあるんでしょうね。
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WJS 他に多いトラブルは何ですか?
鈴木 次によく起きる事故が、アンカリングしているロープを巻き込むこと。
自分が外したロープを自分で巻き込むって、こんな情けないことはないですよ。
WJS あれも大変なんですか?
鈴木 大ごとです。絡んじゃったものは、絶対に取れない。カッターかなにかで、カットしていくしかないです。
ほんのちょっとだったらすぐに取れるけど、食いこんで締まっちゃっていたら取れないです。カッターを持ってて、時間をかけてやればなんとかなる場合もありますが、できない人はショップに持ってくるじゃないですか。ショップだって忙しい時期だったら、すぐにはできない。
「今日は置いてってもらって、今度やるからね」っていう話になるわけです。
それも、気を付けていればならなかったこと。一生懸命気を付けていたけどなっちゃったのは事故だからしょうがない。
でも、いい加減にやっててそうなったのは、俺は事故とは認めないし、「自分が悪いんでしょ」ってことになっちゃうんですよ。船は、浮かんでいるとき波に揺られて動いている。これを、まず頭に入れていないんです。だいたいの事故は、そこで起きていますね。
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WJS それで、「何もしてないよ」っていうわけですね? それが多いトラブルですか?
鈴木 ちょっと慣れてくるとやるのが、バナナボートとかビスケットとかの、引っ張りモノのロープを巻き込むこと。
落ちた人を迎えに行くときはロープを避けながら来るんだけど、そこで「危なかったな」とかって喋っているうちにロープはどんどん流されてジェットの下に来ている。
そこでエンジンかけたときにガチャって巻き込む。船やロープが、波で動くことを想像していないんですよ。
WJS 浅瀬でエンジンをかけたり、ロープの巻きこみは、注意すれば防げる事故ですね?
鈴木 そうです。それは、「全部、自分のせいでしょ」って、俺、言ってるんですよ。もったいない。あとで後悔するじゃないですか。
WJS スズキマリンで買って、ちゃんと最初に説明されたことを守って遊んでいる人は、そうそう壊れないわけですね?
鈴木 壊れないし、そういう初歩的なミスを1回もやったことない人は、いっぱいいますよ。
WJS 鈴木さんとしては、気を付けていれば避けられるトラブルを、なるべく起こしてほしくないわけですよね?
鈴木 そうなんです。例えば、「海から見る景色はこうだったんだ」とか、静かなとき、波のしぶきの音を聞きながら、キラキラしたところをジェットでサーっと走っていくのは気持ちいいじゃないですか。こういう余韻に浸れるんだっていうのを、いっぱい味わってもらいたい。
WJS だから、うるさいくらいにジェットの取り扱いについて説明するわけですね?
鈴木 それをするには、大事に乗ってもらわないといけない。で、お金もなるべくかからないようにする。壊さなければ、当然、お金はかからないですからね。
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