最初にクルマの話で恐縮だが、現在、クルマの業界では「スポーツマフラー」が絶滅の危機に瀕している。それは、騒音規制がさらに強化されるからだ。騒音規制は、今後発売されるクルマだけでなく、販売中の車種にまで適用される可能性もあるという。ちなみに、なぜマフラーを交換するかといえば、排気効率がアップして見た目も格好よくなるうえ、スポーティな音まで手に入るからである。
近年、国際社会では騒音規制の基準が引き上げられている。規制値は、乗用車やトラック、バスなど、車種ごとに細かく区分けされており、その基準を満すことが、日本で販売するための前提条件となっている。
不正マフラーへの改造禁止を徹底するため、国際基準で決められた「フェーズ2」と呼ばれる規制値を新車の義務としている。その基準を満たさないと国内での販売が認められない。それが今年10月からは『フェーズ3』へ引き上げられ、さらに厳格化される。フェーズ3が導入されれば、廃止を余儀なくされるクルマが続出する可能性もある。
ここで言われている『フェーズ』がどれくらいの音かといえば、『フェーズ1』は72~75dB、『フェーズ2』が70~74dB、『フェーズ3』は68~72dBである。日常の音で例えると、
・静かな図書館が40dB
・一般的な会話が60dB
・掃除機の音が70dB
・飛行機の機内が80dB
といわれている。
つまり、フェーズ3が適用されたら家庭の掃除機並みの音にしなければならないということだ。
サーキットに行って、F1などのレーシングカーが奏でるエキゾーストノートを聞くと胸が高鳴る。かなり大きな音にも関わらず、それを不快に思う人はいないだろう。
F1などのレーシングカーの音が大きいのには理由がある。簡単にいえば、速く走るためだ。エンジンを高性能化するには、吸排気系のチューンやターボのブーストアップや、排気量アップで吸入空気量を増やしたうえで、燃焼効率を向上させるのが基本となっている。チューニングした結果、爆発力が増せば当然音も大きくなる。
そのために消音器(マフラー)が必要となるのだが、消音性能の良いマフラーは大きい。レーシングカーの場合、軽量化は最重要課題であり、マフラーのためのスペースは最小・軽量にしたい。最小のマフラーサイズでレギュレーションギリギリの音量に抑えるため、必然的に音量は規定範囲内で最大となってしまうのだ。
もっとも、レーシングカーといえども音量は無制限ではない。JAF公認レースでは、最大音量は測定距離3mのときに120dB以下など、カテゴリーによって細かく騒音レベルが決められている。
水上バイクのレース艇もレーシングカーと全く同じで、レギュレーションの範囲内でエンジンを高性能化するため、必然的にエンジン音も大きくなる。しかし、これも無制限に大きくなるわけでなく、「騒音値は15m離れた場所で計測86db以下とする」とレギュレーションで決められている。
ここで間違ってほしくないのは、レース艇の音が大きいのは確固たる理由があり、ルールを守った音量レベルである。
しかし、エンジンチューンもしていないノーマルの水上バイクで、音だけ大きくしているのは無意味であり、迷惑以外の何ものでもない。
お金をかけて「格好悪くしているだけ」という自覚を持ってほしい。
水上バイクがクルマよりもタチが悪いのは、「性能の向上」が目的ではなく、「爆音が出せるから」という理由だけで、排気部分を交換するケースが大半を占めるからだ。 クルマと違って「マフラー部分が見えにくい」ので、ドレスアップパーツとして交換することはほとんどない。
排気系を改造すると燃焼効率が上がり、エンジンパワーも上がる。 その場合、「水上バイクの改造」にあたるので、JCIによる「臨時検査」が必要となる。「出力特性が変わる改造」に関しては、「本来、許可を与えた水上バイク」と「違うもの」という判断をされるからだ。「新たな出力に対応できるのか?」という観点から、エンジン、船体ともに、非常に厳しい検査が行われる。
問題は「改造した水上バイクが、摘発されているのか?」という部分であろう。 法律では、臨時検査を受けずに航行した場合、船舶安全法第18条(第1項第9号)による罰則が適用の対象となり、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科せられる。
しかし、船体の改造に対する法律はあるが、「水上バイクの騒音」に対しては、特に罰則は設けられていない。
一応、水上バイク業界の自主規制として、20m離れての加速騒音測定値「74db(デパートの売場程度)以下」にすることが決められている程度だ。
ただでさえ世間から良く思われていない「水上バイクのイメージ」に、「爆音」が加わればもう最悪だ。全く関係ない他人に不快な音を無理やり聞かせるという行為に対しては、問答無用で警察にしょっ引いてほしいと個人的には思っている。
これから本格的なマリンシーズンとなると、マナーの悪い水上バイクユーザーがクローズアップされる。もともと海水浴などビーチに人出が多くなる季節だけにその“傍若無人”ぶりも人目に付きやすい。
先日も、琵琶湖で撮影しているときに、何台かの水上バイクが走っているのが目に入った。そのなかの1台が、どうもマフラーをカミナリ族仕様にしていたらしく、ずっと爆音を轟かせて走り回っていた。
専門誌の私がうるさいと思ったくらいだから、水上バイクに免疫のない人たちは、余計にそう思ったことだろう。
その場にいた全員を敵に回した一番の原因は、「たった1台」の水上バイクの爆音だった。少し離れた水面には、マナーを守って遊ぶ常識的な水上バイクユーザーが何人にいたにも関わらず、その日、その浜辺にいた人たちは、みんな一斉に「水上バイクが嫌い」になったはずである。
クルマの社会でかなり厳しい騒音規制が定められるなか、水上バイクの爆音が放置されているのは非常に問題である。
今、社会的なテーマになっている「脱炭素化問題」は、地球温暖化対策がメインテーマだが、排気ガスやクルマの騒音を想起する人も多いだろう。 クリーンで静かなクルマ社会の到来を、歓迎しない人はいないからだ。
それは、水の上でも同じである。爆音で他人に不快な思いをさせて良いわけがない。
船体の改造に対する法律はあるが、「音」に対しての明確な規定がない。水上バイクの騒音や危険運転については、厳しい罰則化を望む。真剣に「悪質水上バイク」撲滅のための法律や条例などを作ってほしいと考えている。 悪いだけの「水上バイクのイメージ」を変えたいのだ。
爆音水上バイクを見たら、スマホで録画。 ナンパしに海水浴場に来たら、スマホで録画。 この悪質水上バイク問題について明石市では刑事告発に踏み切ることで、「抑止力にしたい」と公言している。
水上バイクも、クルマ社会と同じようなシステムにする。世の中がそういう流れにしていく必要があるだろう。
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