「悪質・危険な水上バイク」撲滅のため、兵庫県が新しい条例作りを進めている。それは大歓迎だが「機能する条例にして欲しい」という嘆きをマリン関係者から聞いている。これは、兵庫県が取り組んでいる「水上バイクに関する新しい条例」についての話である。
現在、「悪質・危険な水上バイク」撲滅のため、兵庫県が中心となって関係する各団体とともに、「水上オートバイによる危険行為等の対策検討会議(以下、検討会議)」を設置し、新しい条例の作成に着手している。
検討会議の設立目的は「悪質・危険な水上バイク撲滅」と、「優良ユーザーを増やす」こと、そして他のマリンレジャーとも「安全安心に楽しめる兵庫の海をつくる」ことだそうだ。
※検討会議のメンバーは、国、兵庫県、神戸市、民間団体(ジェットショップ、マリーナ等のマリン事業関係者)兵庫県警察本部である。
検討会議は、現在3回目が開催されたところである。
第1回 2021年11月9日
第2回 同年12月20日
第3回 2022年1月20日
本誌もマリン事業者も「悪質・危険な水上バイク撲滅」は、「待ったなし」で解決すべき、業界を挙げての最優先課題だと認識している。
検討会議の検討事項については下記のとおりであるが、今回の記事は、この会議に参加しているマリン事業者が危惧している点である。
それは、この検討会議に参加しているマリン事業者の意見が「会議に取り入れられない」ということだ。
条例案の中に「水上バイクは、遊泳者から100m以内は徐行しなければならない」というものがある。
この場合の「遊泳者」とは、「遊泳区域以外の場所で、水に浮いている人」のことだ。
実際に水上バイクに乗ったことのある人なら理解できるだろうが、「走行中に100m先で浮いている人の“頭”」なんて見えるわけがない。
今回の兵庫県の条例は、「海の真ん中で泳いでいる人がいれば、その人から100m以内は徐行しなければならない」という内容だ。見えずに50mまで近づいてしまったら「条例違反」となる。波が高ければ、10m先にいても見えない。
「遊泳者がいたら徐行する」「近づかないで遊泳者の危険を避ける」のは当然だ。しかし、目視も出来ないのに、「100m以内は徐行しなければならない」と定めるのは無理がある。
検討会議に参加しているマリン関係者は、「守れない条例は作らないで、守れる常識的な内容にして、全員一丸となって守らせましょう」と言っているが、「聞き入れてもらえない可能性が高い」と言う。
対策検討会議の設立目的が「悪質・危険な水上バイク」撲滅と、優良ユーザーを増やすこと、そして他のマリンレジャーとも「安全安心に楽しめる兵庫の海をつくる」ことだというなら、「守れない条例」を作っても意味はない。
条例の本来の趣旨は「危険な水上バイクから、県民(市民)を守る」である。 しかし、今回の条例改正では、一般の人から見えやすい位置で「水上バイクは徐行か、航行禁止」という選択肢しかない。
この会議に参加しているマリン関係者が、兵庫県の担当者に「他のマリン関係者の意見を取りまとめて『守れない条例』にしないように意見書を提出する」とお願いしたところ、「反対意見を取りまとめた意見書を提出しても、時間的に反映できません」と言われたそうである。
もうひとつ、納得ができないのが「兵庫県全域の海で、岸から100mを徐行区域とする」という内容だ。少し考えれば理解できるが、誰もいない、危険が認識されない場所で徐行をする意味はどこにあるのだろうか?
今のところ、兵庫県の条例に対する罰則規定はない。マリン関係者が聞いたところ、「基本的には徐行だけれど、罰則規定がないのでいいでしょう」と言われたらしい。
そうなると、「行政側として、対策は講じました」と言うための条例としか思えなくなってしまう。現実問題として、岸の近くで危険走行をする水上バイクも海水浴客も「真夏にしかいない」からだ。
現在検討されている条例案のなかに、「優良ユーザーの拡大」がある。
「水上オートバイ ひょうご 安全安心 マリーナショップ」認証制度と言って、「兵庫県独自ルールを遵守するように、ユーザーに対して指導啓発する」ことを要件にしたもので、水上バイクの上下架等を行うマリーナやジェットショップに対し、「認証マリーナ」を作ろうというのである。
これは、あくまで編集部の想像であるが、第3回目の会議の対策案のなかに、「この徐行区域を設定することが、安全性や健全な海域利用の継続等の観点からかえって適当でない場合等は、認証マリーナ等が地域ごとの当該地域において、ローカルルールを設定することも可能とする。」と書かれている。そしてなぜか、『認証マリーナ等が地域ごとの』という部分に二重線が引かれて消されていた。
憶測だが、「二重線が引かれる前の案」を見たマリン関係者は、自分のマリーナ(ショップ)が認証店となれば、独自のローカルルールを設定でき「100mルール」に縛られることなく、自分の「優良なお客さん」を遊ばせてあげられると考えたのではないだろうか。
それなら、「100m以内徐行」という決まりができても問題ない。検討会議で出された案に反対する理由がなくなるわけだ。しかし、実際はマリン関係者が望んだ箇所は削除されている。
公平な行政が、そんな「騙し」のようなことをするはすがないと思うが、甘い言葉に惑わされて、条例が適用されたあとに、『そんな特例はありません』と言われなければよいのだが……と心配している。
兵庫県は「沿岸100mは徐行」の参考事例として、「天野橋立自主規制ルール」を参考にしていると公言している。
「天野橋立自主規制ルール」とは、【天野橋立周辺の沿岸100m以内は、時速8キロで航行】と定められたルールのことである。
このルールとは、日本三景のひとつ、「天橋立」で、住民などの迷惑を無視して走り回る、無謀運転の水上バイクについての苦情が相次ぎ、苦肉の策で定められたものである。
天野橋立に来る観光客を目当てに近づく水上バイクに対しての対策である。だから【天野橋立周辺の沿岸100m以内は、時速8キロで航行】なのである。コレを兵庫県全域の沿岸に広げようとしているわけだ。
「天野橋立」のように、このような規制は、問題となるはずの「特定の場所で」行うべき対応なのだ。全部に徐行というのは事実上、水上バイクの締め出しで、他のマリンレジャーとも「安全安心に楽しめる兵庫の海をつくる」という対策会議の基本理念から考えても違和感しか感じない。
本誌に危惧を話すマリン関係者の話では、アメリカ カリフォルニア州の 「USコーストガード」という州の条例にもかなりの影響を受けていると言う。しかし、悲しい話だが 「USコーストガード」の内容は沿岸から100フィートなのだ。100フィートはメートルに換算すると「約30m」なのだ。単位を間違えて参考にしている、聞く耳を持たないと嘆いている。太陽が燦燦と降り注ぐカリフォルニア州のビーチで岸から「約30m」は徐行という条文は納得できる。日本の何倍も広いアメリカでさえ30m。
水上バイクに乗って、岸から100mを徐行することを考えてみて下さい。徐行で100mはかなり長い距離に感じるはずです。まして誰も居ない、真冬の危険のない無人のビーチでこのルールをキチンと守る人がどれだけいるのか?とても疑問に感じます。反対しても「罰則規定がない」からと言われているらしいのです。
必要なのは、誰もが守れるルール、守る必要性を感じさせないルールなどは"いらない"と心底思います。悪質、危険な水上バイク撲滅のため「守れない条例は作らないで、守れる常識的な内容にして、全員一丸となって守らせましょう」そうあるべきです。
この問題にいち早く取り組み、悪質水上バイク対策を取り始めた明石市では、遊泳者に近づいて危険な走行をした人に対し、「懲役刑」に処すると明言している。抑止力のない条例より、このほうがよっぽど「危険走行撲滅」に繋がると思う。
「マリンスポーツを締め出すのではなく、共存していける環境作りを目指す」と、明石市長の泉氏は語っている。やみくもに、全ての水上バイクを禁止するのではなく、「危険な行為を行う水上バイク」に対してのみ、処罰を行うものである。
泉市長は、水上バイク問題を多角的に見るため、昨年、自らも水上バイクの免許を取得している。このような人が陣頭指揮を執る施策は、優良な水上バイクユーザーにとって、歓迎すべきものとなるだろう。
明石市では昨年9月に業界関係者を集めて1回目の「悪質・危険な水上バイク」に関する対策会議を開催している。同じ問題を抱えている兵庫県は、なぜ明石市と連携しないのだろうか? 同じ県内同士で知恵を出し合うほうが、よほど建設的だと思うが、そのあたりは全く繋がりがないというのもおかしな話だ。
繰り返しになるが、検討会議の目的は「悪質・危険な水上バイク撲滅」と、優良ユーザーを増やすこと、そして他のマリンレジャーとも「安全安心に楽しめる兵庫の海をつくる」ことである。
そのための条例案に「どう頑張っても、ユーザーが遵守できない項目」があったら何の意味もない。不測の事態が起きた場合に「県は沿岸100mは徐行、遊泳者がいたら100mは徐行と条例で定めている」と、世間に言うためのものにしかならない。
兵庫県と検討会議の有識者の方々にぜひともお願いしたい。国民が守れる、本来の趣旨に基づいた「悪質・危険な水上バイク撲滅」と、「優良ユーザーを増やす」ことに繋がる法律を作っていただけることを切に願うものである。兵庫県と検討会議の有識者の方々にぜひともお願いしたい。国民が守れる、本来の趣旨に基づいた「悪質・危険な水上バイク撲滅」と、「優良ユーザーを増やす」ことに繋がる法律を作っていただけることを切に願うものである。
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