昨年の夏、明石市で起きた「水上バイクによる危険走行」の映像が繰り返し何度も放映され、世間の注目を集めた。その後、淡路島では死亡事故まで起きてしまい、「水上バイクのイメージ」は、非常に悪いものとして定着している。
『2019年7月21日(日)午後2時10分ごろ、明石市内の海水浴場で遊泳中の子供2名が沖合へ流され、遊泳区域明示用ロープに掴まって助けを求めていた。
子供はそれぞれの父親に救出されたが、同じく救助に向かっていた30歳男性が溺水しているのを、ゴムボートに乗った垂井寛大さん、杉橋仁さんの2名と、水上バイクを運転する萬山良一さんが発見し、救助した。
3名の迅速な救助活動によって、傷病者は心肺停止状態に至ることなく軽症であった』と、当時、報道されている。
萬山さんは、水上バイクの元プロフリースタイラーで、現在は明石市の海岸でジェットショップ「日の出マリン」の店長をしている。
救助した日は、午前中は無風で穏やかであったが、昼過ぎから天候が急変し、強風が吹きはじめた。海が荒れて危険な状態になったので、午前中に水上バイクで出航したお客さんを心配して捜索に出かけたのだという。
すると、海水浴場を囲むように作られた堤防の上から、萬山さんに向かって数人の人が大声で「助けて」と叫んでいた。大声で「ドコ?」と叫ぶと、海水浴場の中でゴムボートに乗った人が手を上げて、萬山さんを呼んでいるのが見えた。
見るとゴムボートに乗った男性2人が、溺れている男性の両脇に手を差し入れて、沈まないように懸命に支えていたのだ。しかし、波で男性の顔は半分以上海水に浸かったり、浮いたりを繰り返し、見るからに危険な状況なのは瞬時に判断できたという。
しかし、海水浴シーズンの7月のこと、遊泳区域にはフェンスが設けられている。さらに沖合には、直径60cmくらいの樽型のコンクリートブイが等間隔で並んでおり、ブイ間には太い鉄製のケーブルが柵のように張られている。鉄製ケーブルは、水の上20~30cmの高さにあるので、普通は水上バイクでは乗り越えられない。
しかし、救助するにはこのケーブルを乗り越えて、遊泳区域に入らなければならない。どこか越えられるところはないかと探すと、ケーブルとケーブルのジョイント部分だけは、いくらか低くなっていた。
そうはいってもジョイント部は鉄製である。「船底が割れても構わない」と決断した萬山さんは、無理矢理、水上バイクで乗り越えた。船底を削るガリガリという音が聞こえてくる。幸い沈没はしなかったが、後で見たら船底には無数の傷とクラックが入っていたそうだ。
なんとか遊泳区域内に入り、溺れている男性を支えているゴムボートの後ろから近づいた。 「水上バイクの後部デッキに乗れますか?」と聞くと、溺れている男性が「両腕が痙攣していて、全く力が入らない」と言う。 それならばと、強引にライフジャケットを掴んで、無理矢理水上バイクに引き上げ、そのまま砂浜まで運んでいった。
しかし、その時に砂浜にいた人から「怒鳴られて、絡まれた」そうだ。 その人たちは溺れていた男性の友人で、萬山さんのことを「ひき逃げの犯人」と誤解して、怒鳴り込んできたという。
「ここは水上バイクの侵入禁止だ。何を勝手に入ってきてんねん」と詰め寄られ、「お前が轢いたんか」と責められた萬山さん。海面が荒れていたため、砂浜からは何があったか全く見えていない。
自分の水上バイクの船底が割れるほどのダメージを負いながら、懸命にレスキューした挙句の「ひき逃げ扱い」。さすがに、萬山さんも頭に血が上ったという。
幸い周囲の人が「この人が助けてくれたんだぞ。失礼なことを言うな!」と言ってくれたので、その場は穏便に収まったという。
本当は、そのまま立ち去ろうと考えていた。海の男として、「人命救助は最優先する」のは当然のことだと考えていたし、褒められたくて助けたわけではないからだ。
しかし、ショップの近所の海水浴場なので、つまらぬ誤解をされても困る。海水浴場側に、砂浜で起きたやりとりと、水上バイクで海水浴場に侵入した理由だけは説明しておいたという。結果的に、これで萬山さんが男性を助けたのだと分かり、消防局から表彰されることになったのである。
もともと、当たり前のことをしたと思っていた萬山さんは、最初に消防局から連絡が来たとき、「溺水者の友人から訴えられた」と考えたそうだ。それも悲しい話である。
水上バイクに対する「言いがかり」のような誤解も、萬山さんが「訴えられたかも」と思ったことも、近年の「水上バイク=悪」のイメージによるものだと痛感した。
水上バイクは、乗る人によってライディングスキルは全く変わる乗り物である。特に萬山さんはプロライダーだ。大荒れの海でも、水上バイクを扱う技術は尋常ではなく高い。
この日助けられた男性は、萬山さんが近くにいて本当に良かったと思う。普通の水上バイクユーザーでも、溺れている人がいたら同じようにレスキューに向かうと思うが、彼ほどのライディングテクニックで救助ができる人は本当に少数だからだ。
水上バイクは、非常に「二面性」のある乗り物である。あるときは「海の暴走族」で「ならず者」。世間から「なくなってしまえばいい」とまで言われる。そしてあるときは、「正義の味方」として人の命を救う。悪の部分も、善の部分も全部、水上バイクに乗る「人間」が行っている。
しかし近年、水上バイクは「悪の部分」だけが取り上げられるケースが非常に多い。
確かに、一部にはマナーの悪い悪質な水上バイクユーザーが存在している。世の中の多くの人が、苦々しく思っているのも理解できる。私も苦々しく思っている1人だ。
それだけに、こういった「善の活動」をしている人も多いことを一般にも理解してもらい、水上バイク全員が「悪」ではないことを知ってほしいと思っている。
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