兵庫県明石市では2022年3月30日より、悪質な水上バイクに対する「懲役刑」を盛り込んだ「明石市水上オートバイ等の安全な利用の促進に関する条例」が公布・施行された。市町村が、懲役刑を条例に盛り込むのは全国初となる。
大蔵海岸や林崎・松江海岸など4カ所に設ける「遊泳者安全区域」での危険行為を想定したもので、これらの区域ではブイで二重に囲んで遊泳者の安全を確保する。
このブイを突破したうえで急旋回や暴走行為など、危険行為をした者を「刑事告発」の対象とする。これに違反すると「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」となる。
現在、市内には13台の高性能監視カメラを設置し、海岸の安全を見守っている。
明石市の泉房穂市長は『強いメッセージ性のある情報を発進しなければ、「明石市民を守れない」。発した情報が、受け手の側に伝わらなければ何も言っていないのと同じ』と、本誌インタビューでも語っている。
少し話はズレるが、「陸地(道路交通法)と違い、海上(小型船舶操縦者法など)での法整備は十分とは言えない」と言う。
クルマの無免許運転は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」に対し、水上バイクでは「30万円以下の罰金」しかない。
飲酒運転についても同じく、陸上では「酒気帯びでも3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に対し、水上バイクの場合、東京都の条例で「酒気帯び操縦禁止違反 30万円以下の罰金」というのはあるが、法律としての罰則規定はない。
このように、陸上と水上では、罰則規定に大きな隔たりがある。明石市では「時代遅れの海のルールを、現状に適合させる必要がある」と判断した。
今回、『刑事告発』『懲役刑』を条例に盛り込むことについては「行き過ぎではないか」という声も上がったというが、「このくらい強いインパクトがないと、抑止力にならない」と、泉市長と語っている。
市は警察ではないので、悪質・危険な水上バイクを“取り締まる”ことはできない。だからこそ、悪質水上バイクに対してだけでなく、取り締まる側の国に対しても、『放置すべき問題ではない』『対応してほしい』というメッセージを同時に発信しているのだ。
実際問題として、水上バイクで「危険な走行」をしても法的な規制がないのなら、いくら罰則規定を作っても抑止力にはならない。
クルマやバイクと違い、水上バイクの新艇登録台数は年間3000台弱だ。この全員が危険な走行をするわけではないので、やろうと思えばすぐに検挙できる数だと思う。この部分は、警察や海上保安庁の敏速な対応を期待するものである。
マスコミを巻き込んでの「アナウンス効果」を効果的に使い、スマホで撮影されても「殺人未遂で起訴される」という意識が浸透すれば、「悪質水上バイク」はなくせるはずだ。
日本における水上バイクのイメージは「無法者」「最悪」と、インターネットのコメントで数多く書かれているように良いものではない。しかし、アメリカやヨーロッパをはじめ海外では、水上バイクに対して悪いイメージは持たれていない。
マリンスポーツの盛んなアメリカでは、水上バイクは「水辺遊びのエース級」のアイテムとして完全に定着している。日本の著名人のなかでも、海外の水辺に居を構えている人の水上バイク所有率は高い。
水上バイクの魅力は、その機動性にもある。アメリカでは、海水浴場の近くにいる水上バイクは、「何かがあったら、真っ先にレスキューしてくれる」という信頼感が強い。
日本でも、普通のまともな水上バイクユーザーなら、助けを求める人がいたら「人命救助」を最優先するはずだ。いつでも「誰かを助けたい」と考えている水上バイクユーザーが多いのに、これだけ嫌われて「水上バイクなんて、いなくなれば良い」と言われている方が異常な状態だと思っている。
海外に取材に行っても、水上バイクが嫌われているという姿は見たことがない。日本のように、浜辺をブンブン走り回り「自己顕示」が目的のユーザーがいないからだ。それぞれの遊び方で、水上バイクを楽しんでいる。
もちろん、免許制度がない外国では、子供も操縦しているが、マナー良く乗っている。当然だが、子供を危険から守る、子供は社会の宝物という意識がキチンと教育されているからだ。それをうらましくも思うし、マナーの良い「普通のユーザー」だけになったら、自然とそう思われるようになるはずだ。
今回の明石市の条例がきっかけとなり、悪質・危険な水上バイクを日本全国から一掃できるのが望ましい。欧米のように「水上バイクがいるから、この水辺で安心して遊べる」と、早くなってほしいものである。
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