毎年、新しいモデルが発表されるたびに、今までにないテクノロジーを搭載してきたBRP社。2021年ニューモデルの目玉は、「RXP-X 300」である。
BRP社というメーカーは、新しい機種を投入するときは、見た目だけの変更や、チャラいドレスアップでお茶を濁すようなことはしない。過去にも、釣り専用の「FISH PRO」や、究極のファンライドが楽しめる「SPARK TRIXX」が発売されていることからも分かるように、開発コンセプトに対して一切の妥協はない。
この「RXP-X 300」は、2021年の目玉だ。3人乗りランナバウト全盛のこの時代に、わざわざ1人乗りモデルを「ニューモデル」として造り上げてきた。
世界中のPWC関係者の注目を集めているモデルに、妥協などあるはずがない。かなり「尖った」ニューモデルになっていることだろう。
今回、メーカーから発表された資料をもとに、本誌が信頼するマシン製作に詳しい有識者の意見を聞きながら、「RXP-X 300」について編集部独自の見解を述べたいと思う。
2021年モデルの「RXP-X 300」の最大の改良ポイントは、『極限まで進化させた「T3-R」ハル』である。従来の「T3ハル」を改良し、パフォーマンスを上げてきたという。
今回のモデルチェンジでは、エンジン、ポンプといった運動性能を求めるためのパーツに変更はない。ハルを始めとする船体関連の変更のみである。
「RXP-X」に関するエピソードといえば、2011年の世界大会だろう。
「2012年発売のニューモデル・RXP-X 260」を駆り、当時、無名のイギリス人ライダー、ジェームス・ブッシェルが驚異的なコーナリングを見せつけて、勝利を飾った。それ以降、ランナバウトクラスのスターティンググリッドは「RXP-X」一色になったという歴史がある。それほど、RXP-Xで採用されていた「T3ハル」の旋回性能は群を抜いていたのだ。
その定評のある「T3ハル」が、2021年モデルで「T3-Rハル」となって登場した。このT3-Rハルは、従来のT3ハルよりも進化しているという。
今回、シードゥが行った「エンジン出力を上げず、ハルを進化させることでトータルで戦闘能力を上げる」というやり方は、レースの世界では最もスタンダードな方法だ。
マシンレギュレーションで、最大排気量が定められているということが最大の要因ではあるが、エンジン出力を生かせられるマシンでないと意味がないからだ。だから、動力性よりも船体性能が上がったほうが、結果的にはラップタイムが上がる。
分かりやすい例を挙げるとすれば、仕様の違う2台のクルマがあって、1台は最高速度300kmのクルマが、時速180kmで曲がれるタイヤを履いている。もう1台は、最高時速200kmのクルマが、時速200kmでも曲がれるタイヤを履いていたとする。
この2台で競走したとき、コースによっては最高速が100kmも遅い「最高時速200kmのクルマ」が勝つことがあるのは、誰でも理解できるだろう。
このクルマを例に「T3-Rハル」とは、最高時速200kmのクルマが時速200kmでも曲がれるタイヤを履き、さらにシャーシやボディの軽量化によって、最高速を250kmくらいにまで上げた感じだと、編集部では理解している。
「T3-Rハル」は、ハル形状だけで船体のパフォーマンスを各段に上げている。
詳しくは各パーツで解説するが、エンジンと燃料タンクのレイアウトを見直すことで、重心を5cm前方に変更。船底の中ほどに、サメのエラのような「シャークギル」という凹凸が造られている。さらに1人乗り設定ということは、確実にレース志向のユーザーのためのマシンといえよう。
普通、「レースで勝つために作り上げた、究極の船体形状」は、形の複雑さや求められる精度などから、量産は難しい。しかし今回、シードゥはその複雑な形状の船体の量産に成功したのだ。
新しい「RXP-X 300」は、PWCの新たなる時代の到来を予見させるものである。
インプレッションはワールドカップチャンピオンでもあるAnthony RadeticとErminio Iantoscaの2人が、New RXP-X 300を徹底解説しています。厳しいレース界で戦う彼らの評価は? 見ると、このRXP-X 300の性能が良く分かります。
動画は全部で3種類。字幕なので、聞き逃すこともありません。
船体形状は、従来から抜群のコーナリング性能で定評のあるV型ハルの切れ込みをさらに鋭角にした「ディープV型」を採用。これにより、より正確なトラッキングができるという。
2段階形状となったV型ハルは、低速時には安定性を、高速時には波を切って走ってくれる。
何といっても特徴的なのが、船体の中ほどに作られた「シャークギル(サメのエラ)」と呼ばれる凹凸である。この凹凸は、水ではなく「空気の整流」を行うものだという。
走行時、船底が少し浮くため、下に空気が流れるような状態でハルの脇に乱流が発生する。このシャークギルが空気の流れを整えることにより、コントロール性が向上し、高速での旋回時の安定性が向上するという。
恐らく、この部分が最も「メーカーの快挙」と呼ぶべきものだと考えている。従来の船体にはないものだけに、どれくらいの効果が体感できるのか、試乗が楽しみな部分だ。
スポンソンの形状も変更し、予測可能なタイトターンが可能となった。
インペラーはポリッシュ加工(金属鏡面研磨仕上げ)を施し、加速性能が向上にひと役買っている。
コントロール性能と加速性能が向上した。
従来までの「RXP-X 300」の船体重量は384kg、新しくなった2021年モデルの「RXP-X 300」は354kgと、30kgも軽量化している。エンジンに変更はなくても、船体重量を軽くすることで、パワーウェイトレシオが向上している。
エンジンと燃料タンクのレイアウトを見直すことで、重心を前方に約50mm移動した。これにより、高波や荒波での挙動が向上。さらに、ステアリングレスポンスも向上している。
ハルのアップグレード、インペラーのポリッシュ加工、重量の軽減によるパワーウェイトレシオの改善(10%)によって、従来よりも加速性能がアップ。
0-60マイル加速(0-100km加速)では、従来モデルが3.9秒に対して、新モデルが3.6秒と、7%改善されている。
また、高速コーナーの予測が困難であったため、従来のハルではコーナーの手前で減速してから旋回する「スローイン・ファストアウト」する必要だった。しかし新型ハルは、高速コーナーの予測ができるので、スロットル全開でコーナーを曲がれるようになった。
船体性能と足回りが新しくなったことで、アクセルを開けたまま曲がりやすくなっているのだ。
腰を支える背もたれである。前後方向に約13cm(5インチ)調節可能。ライダーの体形、体格に合わせてアジャストすることができる。
基本的に「RXP-X 300」は1人乗りだが、オプションのシートを取り付けることで2人乗り登録も可能。ただし、途中から定員の変更はできないので、最初に船検登録するときに、定員1名か2名か選ぶことになる。
GTX LIMITED 300やRXT-X 300など、3人乗りのは装備されていたオーディオシステムが、RXP-X 300にも取り付けられることになった。好きな場所で、好きな音楽を聴けるようになった。
船体が新しくなったことでリアデッキが広くなり、リンクアタッチメントが取り付けられた。ガソリンタンクやクーラーボックスなど、今までRXP-X 300では持って行きにくかった荷物が積めるようになっている。
「ハンドルマウント」と「ハンドルバー」のユニットである。
標準装備しているハンドルバーも、従来モデルよりも位置が下がり、より握りやすくコントロール性が向上している。
これを、オプションの「アジャスタブルライザー」に変更することで、主に立ち乗り姿勢で乗る人に最適なポジションにすることができる。高さの調節が可能で、標準プラス16mm~最大92mmまで変更することができる。
現在のところ、メーカーの発表とオフィシャル動画からしかその乗り味は推察できないが、試乗できる機会があったら、ぜひとも、一度乗ってほしいモデルである。
2021年モデルのシードゥニューモデルの国内導入モデルや価格は、9月18日に発表される予定となっている。
全長 | 3,318mm |
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全幅 | 1,250mm |
全高 | 1,110mm |
エンジン | Rotax Engine 1630 ACE-300 Supercharged with external intercooler |
最大馬力 | 300hp |
排気量 | 1,630cc |
乾燥重量 | 354kg |
燃料容量 | 70 ℓ |
カラー | Midnight Purple(ミッドナイトパープル) Millenium Yellow(ミレニアムイエロー) |
定員 | 1名 (アクセサリーのタンデムシートを装着し、登録することで、定員を2名とすることが可能) |
価格 | 2,390,000円(ミッドナイトパープル) 2,360,000円(ミレニアムイエロー) |
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